2009年12月6日
女性写真家・野川かさねさんが山で見つけた自分の表現
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、写真家の野川かさねさんです。
山の虜になった新進気鋭の女性フォトグラファー、野川かさねさんは今年、「山と鹿」という冊子タイプの写真集を出版されました。そんな野川さんから山やキャンプなどのお話をうかがいます。
野川さんは“妄想登山”で勉強している!?(笑)
●はじめまして、よろしくお願いします。野川さんは、山を撮ることがライフワークだとお聞きしたのですが、写真家になったきっかけも山だったんですか?
「山を撮り始める前からカメラマンさんのアシスタントをしていたんですけど、いざ自分で撮ることになった時に、山がいいんじゃないかと急に思いまして、それで撮り始めました。」
●そうだったんですね。この番組でも、写真家の方はたくさん出演していただいているんですが、女性の写真家ってあまり記憶にないんですよ。
「いっぱいいるんですけども、山を撮っている女性は結構珍しがられますね。」
●自然を撮るというのは、体力勝負だったり、自然の中に分け入っていかないといけなかったりで、過酷だと思うんですが、どうして山だったんですか?
「小さい頃に自然と共に過ごしていたという記憶ははっきり言ってないんですね。自分で写真を撮っている時に、街の中にある自然の物、例えば木だったり空だったりとか、そういうものを撮ることが好きだなって自分の写真を見て思ったんです。最初はそれを満たすために植物園に行ったりして、色んな木々を撮っていたりしていたんですが、『あ、これってもしかして山に行ったらもっと色んなものが撮れるんじゃないか』って急に思ったんですよね。」
●じゃあ、それまで山登りをするということはなかったんですか?
「全くなかったですね。小学生以来、登ったことがなかったです。」
●それも遠足とかでですよね?(笑)
「そうです、はい(笑)」
●最初に入った山だったり、最初に撮った山の写真のことって覚えていますか?
「覚えています。最初に行った山は丹沢山だったんですけど、知り合いもいなくて1人で行ったんですけど、その時は鹿がいっぱいいて、鹿の写真を撮っていて、その写真は『山と鹿』という写真集にも入っているんですが、『あ、これだ!』と思って、それからは山のことしか考えられなくなりました(笑)」
●(笑)。でも、そういうのってありますよね。自然って小さい頃から触れていたという意識があまりなくても、海なのか、森なのか、川なのか、草原なのか分からないけど、何かと触れた瞬間に『ここに入るとホッとする、リラックスする』というか、自分に合っていると思えるフィールドってありますよね。
「私の場合は写真を撮るという目的で行ったので、ただ気持ちいいだけではなくて、『この山の新しいものを撮るぞ!』という気持ちで行ったんですけど、あとからどんどん山も好きになって、山にいるのが大好きになったんですね。これはいいスパイラルだと思うんですけど、それでどんどんハマっていって、今ではもうみんなが笑うぐらい山に行ってます(笑)」
●(笑)。でも、そういうきっかけで写真を撮ったり山に入るようになると、被写体を山の中で探すためにも山のことを知らないといけないじゃないですか。どういう植物があってどういう生きものがいるのかって勉強しないといけないんじゃないですか?
「しますね。山に関する本を読んだりしています。最初の頃ってよく分からないから、行ける回数とか行ける場所が限られるじゃないですか。なので、色々な山の本を読みあさりながら、妄想登山をしてるんですよね(笑)。行った気分になりながら勉強するという感じですね。」
●(笑)。妄想登山はどのぐらいしているんですか?
「妄想登山は半年ぐらいですね。小さい山も楽しいんですが、本当はもっともっと大きな山に行きたいのに、行けなかったので、半年ぐらい写真集を見て妄想登山をしていましたね(笑)」
山と出会って表現にブレがなくなった
●今では山が大好きで、妄想登山から始まり、実際に山に入って登山をするぐらいになった野川さんですが、1番の目的はやはり山で写真を撮ることですよね?
「そうですね。」
●今、私の手元にも『山と鹿』という写真集があるんですが、野川さんが山で見たものをすごく素直に撮っていて、一見スナップ写真と感じるぐらい切り取ってあって、見ているとなんか自分も一緒にその場にいるような感覚になるんですよね。まばたきすると、そのシーンがパッと目の前にあるような雰囲気の写真だなって思ったんですけど、「これを撮りたい!」という風にある程度決めて行くんですか?
「そんなには決めていかないですね。山という大きなテーマがあって、その時の自分が気になるもの、例えば山の中でも鹿が気になる時とか、最近だったら鳥の巣というテーマがあるんですけど、冬になると木の葉っぱが散って、そうすると鳥が作った巣が見えるときがあって、その写真を撮りたいなというような、小さいテーマは色々あります。でも、それだけを求めて行くということはあまりしないで、山全体に入っていって、色々なものを見て、色々なものを撮っていくという感じですね。その小さいテーマは、他のものよりも見る時間を多くするとか、ちょっと注意して見てみようというぐらいのものですね。」
●例えば丹沢山は丹沢山という感じで、あくまで登った山の中の自然を撮る、その山を撮るという感じなんですね。
「そうですね。私が山の写真を撮ることを始めた時に、その妄想登山のついでに、今までどんな山岳写真というものがあるんだろうと思って、いっぱい写真集を見て勉強したんですね(笑)。その時の写真はほとんど、ドーンとした山の姿を写したものばかりで、確かにそういう写真も素敵で、『おぉ、雄大な自然だな』っていうのを感じたんですね。でも、丹沢山とか小さい山とか実際に何回か行っていたので、『私が見た山とはちょっと違うかな?』とか、『私が撮りたい山の写真ってこういうのじゃないかもしれない』という風に思って、大きいドーンとした山の写真じゃなくて、実際歩いて自分が出会ったものを撮っていくというような、そういう小さいものが積み重なって、“山”という全体を見せられるような写真を撮りたいなというものがあったんですよね。」
●野川さんの視点で捉えた山の写真は、きっとそこに生きている生きもの達が、その場所だからそういう姿をしているのかなとか、そういう表情をしているのかなというのを感じとれるような写真だなって思うんですけど、実際に山に入って山の写真を撮り始めてから、写真家として1歩引いたところで見たときに、「自分って変わったな」って思われますか?
「変わったというのは分からないんですが、山に入って“出会えた”って思えたんですよ。『あ、これは私がずっと撮り続けていくものなんだ』って。写真家として、そういうものに出会えて幸せだなって感じなんですよね。
山の写真を撮り始めてから発表する機会を多くもらえるようになって、色々な人に見ていただいて、色々な反応があるのですが、今まで自分の中で『新しい世界を見せたい』とか、『自分が感じている世界はこうあるんだ』というような、自分が感じているものをうまく写真にしていくというのが写真家のお仕事だと思っていたんですけど、山というものに会えて、『私はこう思っているんだよ』っていうものが1番表現しやすい場を山というもので見つけられたんですよね。
そのことによって私自身も、今後、山だけじゃなく他の被写体も撮るかもしれないんですけど、山というものがあるから、自分自身にブレがなくなったというか、これがあるから他のところにも広がって、ブレなく撮れるというのが山で、迷いがなくなったというのもあると思うんですよね。あ、これなんだって。」
外で料理して食べる"外ごはん"のススメ?
●山でずっと写真を撮っていらっしゃる野川さん。今ではテントを担いでキャンプもよくされるということですけど、「女子キャンプ隊」というものを耳にしまして、これは女の子たちでキャンプをするということなんですよね?
「キャンプ隊というほどのものではないんですけど、山だけじゃなくて外で遊ぶことが好きな女友達が自分の周りに結構いまして、その子たちと女だけでキャンプというのがすごく楽しみなんですよね(笑)」
●(笑)。これ、実は私も理想としていることなんですよ。ザ・フリントストーンでキャンプに行くと、大体おじさまとか僕ちゃんたちがいっぱいいるので・・・(笑)。
「それも楽しいじゃないですか(笑)」
●それはそれで楽しいですし、力仕事は任せられたり、「薪、拾ってこーい!」とか頼めるので(笑)、そういう意味では楽なんですけど、女子だけでキャンプをしたら、きっと後片付けもすごくスムーズですよね。
「そうですね。女子の方が働き者です(笑)」
●(笑)。「変なところに気を使わなくてもいいし、楽しいんじゃないかな?」って思っているんですけど、女子キャンプの1番の特徴でもあると思うのは、クッキングですよね。
「そうですね。」
●ザ・フリントストーンでもアウトドア・クッキングの色々な本とか、実際にシェルパ斉藤さんとか田中ケンさんとかが本を出されていて、私たちもご馳走になっているんですけども、やっぱり男子の作るアウトドア料理と女子の作るお料理は違うんじゃないですか?
「見た目がまず違います(笑)」
●(笑)。野川さんのお友達に実際に料理関係のお仕事をされている方がいらっしゃるそうですね。
「その女子軍団の1人に料理研究家の方がいまして、その子が料理番としていつもやってくれるんですけど、その子が主に玄米菜食の料理を作る子なので、私たちのキャンプ料理は野菜中心で、お肉はあっても鶏肉なので、とてもヘルシーで、いくら食べても大丈夫っていう感じですね。」
●いいですね。野菜だったら現地調達できますもんね。
「できますね。道の駅とかで買って、新鮮なものを食べてっていう感じですね。」
●実は来年、野川さんはそのお友達と共著という形で『つながる外ごはん』というご本を出版されますけど、アウトドア・クッキングじゃないですよね。外ごはんっていうのが男子と女子の違いなんでしょうね(笑)。
「そうですね(笑)」
●『つながる外ごはん』の「つながる」というのは、どういう意味なんですか?
「色々な『つながる』の意味があって、自然と『つながる』とか、人と『つながる』とか、自分の体と『つながる』ようなごはんという意味で『つながる外ごはん』なんです。」
●簡単に作れる外ごはんのレシピってありますか?
「そうですね。私はスープが好きですね。具だくさんスープが好きです。」
●野菜をじっくりと煮込んでね。いいですねー。キャンプ場に行くと、ある程度お鍋が煮込み始めたら焚き火の上にポンと置いておけばグツグツゆっくりと煮込まれるので、体も温まりますしね。でもこれ、キャンプ場に行かなくても全然いいんじゃないですか?
「そうですね。その本自体も『外ごはん』というタイトルですので、キャンプに限定しているわけではないんですね。例えば、天気が良くて気持ちがいい日に、夕方自分の家の狭いベランダにちょっとごはんを持っていって食べるとか、この間やったのは、街の公園で鍋パーティーみたいなことをやりました。」
●町の公園で鍋パーティー!? 楽しそうですね!(笑)
「はい(笑)。あと海辺で串揚げとかやりましたね。料理研究家の子とあと編集の子と3人で『noyama』という名前で活動しているんですが、『noyama』のオススメは『外で揚げ物』なんですよね。天ぷらしたりとか、串揚げしたり、コロッケ揚げたりとかして、揚げた瞬間に食べるっていうのがまたおいしいんですよね。」
●あーいいですねー!
野川さんが思う『山の魅力』とは?
●野川さんはこれからもずっと山で写真を撮っていくと思うんですけども、野川さんにとって山の魅力って何ですか?
「それはやっぱり季節の変化とか、朝の光、昼の光、夜の光と光の変化とかが、街にいる時よりもちょっとだけ感じやすいんですよね。そういうのがすごく魅力的だなって思いますね。なので私も、色々な山に行くんですけど、同じ山に色々な季節で年に何回も通っているところもあります。」
●国内の山が多いんですか?
「そうですね。今のところ、国内の山しか行ったことがないんですよ。」
●今後、国内外含めて、行ってみたいところとかってありますか?
「まだ東北とか北海道の方の山には行っていなくて、本州とはちょっと違う気候になるし、動物とかも違うので、行ってみたいなって思っているのと、やっぱり海外の山にもチャレンジしたいなって思っています。」
●海外だと今のところ、どの辺に行ってみたいですか? 妄想登山でいいですので(笑)
「妄想でいいですか?(笑) やっぱりヒマラヤですね。あとはカナダですかね。来年はカナダかなって思ってます。」
●山の中に住んじゃおうとは思わないんですか?
「あー、思っていないですね。写真が基本なので、ずっと待ち続けて光を撮るというよりも、移動しつづけて、その中で撮れるものを撮るというスタイルなので、1ヶ所にいるというのはちょっと違うのかなって思うし、山に行って、街に帰ってくると、自分の中で色々気付く感覚とか、そういうのが今たくさん得られているから、当分は山と街とを行き来しながら付き合っていきたいなって思っています。」
●そうやって山である程度感性が磨かれて、街に戻ってきて、何かにパッとカメラを向けた時に、街中で撮るものとか変わったんじゃないかなって思うんですけど、どうですか?
「撮るものが変わったかどうかは分からないんですが、街でも『キレイだな』って思う瞬間が多くなりました。単純に『夕陽がキレイだな』っていうことが前よりも思えるようになったし、『雨だから街がモヤモヤしてるな。そういうのもキレイだな』とか『今日は雲の流れが早いな』とか、あと冬になってきたので、『影が長くなったな』とか、そういう色々な変化とか気付けるようになりましたね。子供の頃にやっていたようなことなんですけど、また改めて山に行ったことで呼び起こされて、それで街でもキレイだなって思う瞬間が増えましたね。」
●そうですね。影とかって最近・・・。
「長くなっていますよね。」
●意識してないですよねー。
「でもそういえば、小さい頃は『長い、長い』とか言って、みんなで写して遊んでたなって・・・。」
●影踏みとかしていましたよねー。でも、最近は全然自分の影すら気にもしていなかったですね。明日からちょっと影を意識してみたいなって思います。今後も野川さんが感じたものを、今は山を通して、またはそれ以外を通して私たちにもどんどん伝えていって、見せていってほしいなって思います。今日はどうもありがとうございました。
「ありがとうございました。」
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