2010年1月24日

環境問題の新・常識シリーズ 第5弾
「地球温暖化編・COP15の総括」
~WWFジャパンの気候変動プログラム・リーダー、
山岸尚之さんをお迎えして~

山岸尚之さん


今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、山岸尚之さんです。

 WWFジャパンの気候変動プログラム・リーダーである山岸尚之さんは、昨年12月にデンマーク・コペンハーゲンで開催された「国連 気候変動枠組み条約・第15回締約国会議(通称:COP15)」に日本政府の代表団の1人として参加されました。今回は、そのCOP15の総括と今後の展望などをうかがいます。

 

残念な結果に終わったCOP15

●今週のゲストは、WWFジャパンの気候変動プログラム・リーダー、山岸尚之さんです。ご無沙汰しております。

「ご無沙汰しております。」

●まずは、昨年12月にデンマークのコペンハーゲンで開催された「COP15」ですが、結果はどうだったんですか?

「今回の結果について、一言で言えば、残念でしたね。通常、僕たちのようなNGOは、どんな結果が出ても、次に繋がるように、ポジティヴなところを見つけようとするんですね。今回も、次に繋がるようなところはあったんですが、それ以上に、今までのCOPの会議の結果と比較しても、残念な度合いが大きかったですね。」

●今回のCOP15というのは、初めて温暖化防止に向けて、交わされた約束である「京都議定書」の期間が2013年で終わるので、それ以降どうするか、その枠組みを決めるという目的で、開催されたじゃないですか。京都議定書によって、温暖化防止に向けて前進したと思っていただけに、今回の結果を、みんなすごく期待したと思うんですね。でも、結果的には大外れだったということですか?

「それに関しての評価は難しいんですけど、今おっしゃったように、今回、何を決めなきゃいけなかったかというと、京都議定書というものは、2012年までの目標しか決めていなかったから、2013年以降、国際社会が温暖化に対して、どうやって対処するのか、その枠組みを決めましょうということだったんですね。その結果として、コペンハーゲン協定というものが作られましたが、これはコンセンサスで作られたものではなくて、一部の国々だけで合意されたんです。それに対して、COP全体としては、このコペンハーゲン協定について、留意しましょうということになりました。ちょっとややこしいですが、結果自体もちょっと曖昧で、成果としても曖昧な形で決着がついてしまったというのが、今回の結果なんですね。」

●今回の会議で、一番ネックだったことって、何だったんですか?

「個人的な考えですが、大きく分けて、2種類の難しかった点があります。1つは、“予想通り難しかった点”で、もう1つは“予想以上に難しかった点”です。“予想通り難しかった点”というのは、先進国側の主張として『そもそも温暖化を引き起こしたのは先進国だから、先進国が温暖化対策をリードしていかないといけないというのは分かる。だけど、世界的な状況を見ると、中国が排出量世界一になって、その他の国々、例えば、インドもすごく排出量が増えてきているわけだから、途上国も対策を取っていただかないと、温暖化自体が防げないじゃないか。だから、途上国も対策を取ってほしい』っていうのがあったんですね。
 それに対して、途上国側は『そういうことを言われても、先進国として、温暖化対策を十分にやっていないじゃないか。その状態で、なぜ私たちにそれだけキツく言うんだ! 私たちは、ようやく経済成長が波に乗り始めている状態で、まだまだ貧困や格差がたくさんある。これから経済成長をして、貧困や格差で苦しんでいる人たちを豊かにして、国として全体的に発展していかないといけないんだ。それなのに、なぜ先進国がきちんとできていないことを、私たちがやらないといけないのか?』っていう主張があって、こういう根本的な対立があったんですね。
 ましてやアメリカは、オバマ大統領になってから、温暖化対策を積極的にするようになりましたけど、それまでは、ほとんど何もやっていなかったわけですからね。そういう状況がある中で、『何で私たちがやらないといけないのか』っていう途上国側の不満もあったんですね。そういう、根本的な対立構造というのがあったので、今回の会議で、前向きな決定を出すことが困難だということが、元々予想されていたんですね。これが1つ目の難しさ。

 もう1つの“予想以上の難しさ”というのが、先ほどお話しした、コペンハーゲン協定というものが、今回の最終的な成果として、採択できなかったんですね。なぜ採択できなかったかというと、コペンハーゲン協定が作られたプロセスに対して、一部の国が不満を持ったんです。なぜかというと、協定を作ったプロセス自体が、“一部の国々の間で議論をした”と見られてしまったんですね。これについて『国連というのは、約190ヶ国が参加していて、参加している国全てが1国につき1票を持っていて、みんな平等なはず。確かに、190ヶ国全てがいっぺんに交渉したりするのは難しい。だとしても、協定が作られるプロセスには、全ての国が参加しないといけないはずなのに、それをないがしろにされた』と感じた国が何ヶ国かあったんですね。その国々は、会議の成果として、採択することはできないということで、最終的などんでん返しがあって、合意にならなかったんです。この点は事前に予測できなかった難しさでした。この2つの難しさが相まって、会議全体としては、残念な結果になってしまったんですね。」

 

コペンハーゲン協定を踏み石に、次に繋げていきたい

●なにはともあれ、終了したCOP15ですが、今回承認されたコペンハーゲン協定で決まったことって何ですか?

「いくつか大事なものがあるんですけど、3つぐらいポイントを挙げますと、1つ目は『先進国は目標を、途上国は行動をそれぞれ提出する』ということになりました。どういうことかというと、日本でいえば25%のような数値目標を条約事務局に提出して、協定には付表というのがありまして、そこに先進国は削減数値目標を書いて、途上国の場合は削減に向けて、どういう行動をするかを書き込むことになりました。これは、合意した国はやりましょうというぐらいで、それほど強制力はないんですけど、とりあえず、各国の目標を表にすることによって、やることがリストアップされていきますので、国際的に認知されるという効果はありますね。

山岸尚之さん

 2つ目は、『リストアップされた削減目標や削減行動の実施について、レビューをしましょう』ということになりました。先進国に対しては、国際的なレビューを受けて、途上国に対しては、2年ごとに出す国別の報告書があるんですけど、そこに削減行動の実施に関することを書いて、提出することが決まりました。あと、先進国から支援を受けて行なう削減行動は、国際的な審査を受けることになりました。自分たちでやる分については、報告書には書くけれど、国際的に何か言われるということはありません。しかし、先進国から援助してもらって、技術をもらって行なう行動については、国際的に審査されるということになりました。

 3つ目は、先進国から途上国に対しての資金援助の規定が盛り込まれています。これは、短期と中期に分かれているんですが、短期は、今年から、京都議定書の約束期間が終わる2012年までの3年間の資金援助のこと、中期は2020年までの資金援助のこと、この2つについてのことが決められました。具体的な金額として、短期は3年間で3兆円、中期は2020年の時点で、年間10兆円の資金援助を、先進国全体が、途上国に対して行なうということが決められています。この3つが大きなポイントです。他にも大事なポイントはいくつかありますけどね。」

●でも、この協定はあくまで協定だったり合意で、しかも全員が合意したわけではないですから、強制的なものではないということですよね?

「そうですね。この協定の位置づけが非常に微妙なんです。京都議定書と比較していただければ分かりやすいかと思いますが、京都議定書というのは、国際条約だから『我が国は守ります』と言った国が、もし守らなかったら、他の国はその国に対して正式に文句が言えるんですよ。だけど、コペンハーゲン協定では、正当性がどのぐらいあるかの度合いの差なんですけど、文句を言うには、厳しいかなと思います。さらに、すごく大きな違いとしては、京都議定書の場合、もし目標を守れなかった場合は、罰則があるんですけど、コペンハーゲン協定の場合は、何も書かれていないので、罰則がないんです。例えば、守れなかったとして、他の国が文句を言ったとしても、罰則を科す条文がないので、罰則を科すことができないんですね。そういう、この協定のステータスが、合意した国々の中でも『これ、どうなの?』みたいなところがあるんですよね。なので、今回のコペンハーゲン協定を考えるときに、コペンハーゲン協定が本当の意味で失敗だったかというのは、今後、この協定をどう生かしていけるかどうかにかかっていると思います。で、僕たちの立場からすれば、コペンハーゲン協定というのは、あくまで曖昧な合意なので、これを踏み石にして、次に繋げていかなきゃいけないと思っています。これが完全な失敗だったと歴史に記録されるか、それとも、次の成功のための必要な失敗だったと記録されるかは、これからにかかっていると思っているんですね。ですから、これからの流れの中で、協定を理解していかないといけないかなと、ポジティヴに考えようとしています(笑)」

 

25%削減は、経済・産業界の協力が不可欠

●COP15の合意に盛り込まれた「気温上昇2度以内」ですが、この“2度以内”という数字の根拠って何ですか?

「現状を確認すると、世界の平均気温は、温暖化の原因が作りだされ始めた、産業革命の前から比較すると、0.74度ぐらい上昇しているんですね。今、排出量が全く減る傾向にないということを考えると、1度以上の上昇は避けられないだろうというのが、まず間違いない見通しなんですね。これに対して、影響面から考えたときに、研究者が色々な分野での影響を吟味して『0度~1度ぐらいの上昇だと、こういう被害がでて、1度~2度だとこう、2度~3度だとこう』という感じで、被害の度合いというものを色々な分野から見ているんですね。それで考えていくと、金銭的な被害であれば、あとで挽回することができるんですけど、例えば、生物種が絶滅しましたとか、人が死にましたっていう被害が出始めると、それは不可逆的な損失なんですね。そういう損失が特に大きくなってきて、危機的な状況になってきています。その影響が出始める“2度”というのが、ひとつの重要なラインになるというのが、大体のコンセンサスになりつつあるんですね。だから『さすがに1度の上昇はもう超えてしまうかもしれない。でも、2度を超えると、甚大な被害が発生するから、2度以内に抑えるべきじゃないか』というのが、学者の間で共有されてきています。」

●今の話だと、2度はもう限界のラインじゃないですか?

「そうですね。」

●そこのラインまで、あと1度しかないですよね。ということは、2度を超えてしまうと、あまり考えたくない状況になりますよね?

「そうですね。実際、国連の交渉では、太平洋の小さい島々で成り立っている国々、それを島嶼国(とうしょこく)というんですけど、島嶼国のグループとか、バングラデシュのような、後発開発途上国と呼ばれる、すごく貧しい国のグループっていうのは、1.5度に抑えてくれって言うんですね。なぜかというと、それらの国からすると、1.5度以上の気温になったときに予想されることを見ると、自分の国が沈んでしまうことや、国内のサイクロンの被害が甚大だということがあって、それほど人的被害が起こりうるというリスクを考えると、ちょっと辛いと言うんですね。また、温度が高くなっていくと、水不足のリスクが非常に高くなるんですね。今でさえ、水不足がかなり深刻な問題になりつつあるにも関わらず、さらに深刻になるのかという問題があるので、1.5度以内というのが、そういう国々にとってはかなりギリギリのラインだっていうことですよね。」

●日本は、25%削減という目標を掲げましたが、日本の経済界は協力できるのでしょうか?

「25%の目標については、僕が見ている範囲では、かなり否定的な意見が多いと思います。それは、自民党中心の政権だった頃に“2005年比で15%、90年比で8%”という目標を掲げたときも、『これは厳しすぎる』と言われていましたけど、これがさらに25%に上がったわけですから、『これは日本経済界は大打撃を受けるんじゃないか』と懸念している産業界の人は多いですね。総選挙の直後とかは、国民が選挙で選択しただけに、大っぴらに批判はしていなかったんですけど、徐々に批判は出てきていると思いますね。」

●いずれにしても、この25%を達成するためには、日本の経済界の協力なしでは、無理と言えますよね?

「もちろんですね。排出量の割合はどこが大きいかというと、産業の中から出ている割合が大きいですので、そういうところに対策が行なわれなかったら、排出量は減っていきません。家庭等からの排出量も、企業が作った製品を使って排出しているので、そう考えると、どこか1つの部分だけを頑張って減らせばいいという話ではないんですけど、産業界が持っている役割というのは非常に大事だと思います。今回、25%削減という目標を、単なる制約として見るか、大変なことであるからこそ、そこに勝機を見出して、新しい将来を作っていくための機会としてとらえるのか、そこで次世代の産業になれるかどうかっていう大きな境目になるという気がします。」

 

COP16に向けて、日本がすべきことは?

●山岸さん達の忙しさは、これからまだまだ続くと思いますが、COP16に向けて、どういうことを望まれますか?

山岸尚之さん

「COM16は、メキシコで開催されるんですけど、その会議で、本当に包括的な合意を作っていかないといけないと思います。では、そこに向かって、日本は何ができるかっていうと、2つあると思うんですね。1つは、せっかく掲げた25%削減という目標があるわけで、これを『きちんとやります。やるための政策もきちんとしますよ』ということを示すための準備をしていく、これがすごく大事です。25%削減という目標を掲げたときは『日本すごいね』って言われたんですね。途上国からも言われたんです。これはすごいことだと思うんです。でも、最近は『25%は大変そうだけど、どのぐらいできるの?』って聞かれ始めているんですね。それに対して、『日本はこれだけの政策をしていきます。だから、しっかりやります』と答えていくことが大事だと思います。

 もう1つは、先ほどお話しした、途上国の削減のことですが、途上国で削減を進めるにあたって、技術や資金ってどうしても必要なんですね。だから、日本のお金がうまく使われる仕組みを考えないといけないんですけど、日本から途上国に対して、きちんと支援していく。そして、温暖化対策を世界的に進めるにあたって、日本のお金も技術も提供するということを、対外的に宣言していくことが非常に大事です。しかも、2012年までじゃなくて、2020年まで、長期的に行なうということを、仕組みを持って、対外的に示していく。そうすると、途上国も、日本がそのように援助してくれると宣言しているわけだし、アメリカとかイギリスのような国も、しっかりやってくれるということが確定してくれば、多少、何かしてくれるんじゃないかと期待が持てるので、その点をしっかりやることが大事だと思いますね。」

●掲げる数字だけではなく、具体的に行動だったりとかプロセスで示すというのが大事だっていうことですね。

「そうですね。理屈として、それほど難しい話じゃないです。その目標を掲げたのはいいけれど、それをどうやってやるのかがよく分からなければ、信頼性は得られないので、25%という数字を掲げて『きちんとやりますよ、そのための準備もしていますよ』ということをビシッと示すことが大事だということですね。」

●これは難しい問題なので、山岸さんにはこれからも番組に来ていただきたいと思います。COP16の前にも、是非お話をうかがえればと思います。

「是非、よろしくお願いします。」

●ゆっくり休んでください(笑)。

「ありがとうございます。」

●というわけで、今週は、WWFジャパンの気候変動プログラム・リーダー、山岸尚之さんにお越しいただきました。ありがとうございました。

このほかのWWFジャパン、山岸尚之さんのインタビューもご覧ください。
このほかのシリーズ『環境問題の新・常識』もご覧ください。

AMY'S MONOLOGUE~エイミーのひと言~

 COP15が開催されている間はほとんど寝るヒマもなかったという山岸さん。会期中は早朝まだ暗い時間から夜遅くまでずっと会場にいたせいで、ほとんど太陽も浴びていなかったそうで、このままだとヴァンパイアになっちゃうのではないかと思った・・・なんて笑ってらっしゃいました。
 そんな疲れ切った山岸さんに追い討ちをかけたのが、今回の結果だったのではないでしょうか。COP15が本当に失敗だったかは、今年11月にメキシコで開催されるCOP16にかかっていると山岸さんはおっしゃっていましたが、その間にも温暖化は進んでいるのですよね。それぞれの国の立場や言い分も分からなくはないのですが、みんなが最大限妥協して地球の未来を最優先に考えないと、いずれ国益も何も無くなっちゃう・・・ということはきっとみんな分かっているはずなのに、悲しいかな、法的な拘束力がないと、大きな動きはなかなか見られないというのが現状。でも私たち一人ひとりが個人レベル、民間レベルで行動すれば、小さな動きもいずれ山となるはず。皆さんもぜひ今一度ライフ・スタイルを見直して、あなたにできることを実行してくださいね。

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 また、WWFが取り組んでいるそのほかの様々な活動も紹介されているので、ぜひチェックしてみて下さい。


WWFジャパン気候変動プログラムの小西雅子さんの新刊『地球温暖化の最前線
岩波書店/定価819円
 COP15にも参加された小西さんが、日本の取り組みも含め各国の温暖化対策をとてもわかりやすく解説している本。
 

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オープニング・テーマ曲
「ACOUSTIC HIGHWAY / CRAIG CHAQUICO」

M1.  EMERGENCY ON PLANET EARTH / JAMIROQUAI

M2.  WAITING ON THE WORLD TO CHANGE / JOHN MAYER

M3.  HEY YOU / MADONNA

ザ・フリントストーン・インフォメーション・テーマ曲
「THE CARRIAGE ROAD / JIM CHAPPELL」

M4.  HOW TO SAVE A LIFE / THE FRAY

M5.  I NEED TO WAKE UP / MELISSA ETHERIDGE

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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