2010年5月16日
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、上田一生さんです。
~ペンギン会議・研究員、上田一生さんをゲストに迎えて~ |
(注1)※「ペンギン会議」とは、動物園や水族館のペンギン飼育担当者を中心に、一般のペンギン・ファンも参加できる全国ネットワークのNGOで、「ペンギンの飼育環境の改善」や「野生ペンギンの保全」などを目的に、ペンギンの研究や情報交換、海外施設や研究所、保護団体との交流ほか、年一回の全国大会を開催するなど、ペンギンに関する幅広い活動を行なっています。 |
●今回のゲストは、ペンギン会議・研究員、上田一生さんです。よろしくお願いします。
「こちらこそよろしくお願いします。」
●上田さんはペンギン会議の研究員ですが、なぜ、ペンギンに興味をもったんですか?
「岩波新書から出版した本のあとがきに『高校時代にいた、ある友達に『鳥のことをよく知っている』と日頃自慢をしていたんですが、ある日、上野動物園に行ったときに、色々な鳥の説明をしていたら、ペンギン・プールの前にきたときに、ペンギンのことを質問されたんですが、全然答えられなかったんです。それが悔しくて、本を取り寄せて勉強を始めたんです』と書いたんですが、事実を知っている人にバラされまして(笑)、実は、その友達というのは、私の家内なんです。」
●そうだったんですか!
「はい。ある日、家内と2人で上野の美術展にデートに行きまして、その帰りに動物園に寄ったら、あとがきで書いたことが起きたんですね。私としては、彼女の前で恥をかいて、ありもしないプライドが傷ついたんですね。それが悔しくて『本を読んで学ぼう』と思ったのが、きっかけです。」
●上田さんがペンギンに詳しくなるきっかけは、奥様だったんですね。
「そうなんです。実は、家内の方が、早くペンギンにのめりこんでいたんですね。昔、色々なペンギンのイラストが入った文房具がありまして、それを家内は集めていました。だから、元々興味があったんだと思うんですが、その上野動物園で質問してきたときも、突っ込んだ質問だったんですよ(笑)。だから、全然答えられなかったという感じですね。」
●それがきっかけで、奥様とご結婚されたということですね?
「それがきっかけで、うまくいったかどうかは分からないです(笑)」
●(笑)。ペンギンには詳しくなるし、奥様もゲットするし、いいことばかりですね(笑)。
「はい(笑)。家内に『ペンギンを好きになったのは、君からうつされたんだよ』と言うと、『えー!? 私はうつした覚えはない』と怒るんですね。」
●そうなんですか(笑)。元々、ペンギン以外の鳥には興味があったんですか?
「そうですね。バード・ウォッチャーでした。元々は、小学生のころに、蛾を採取していました。皆さんは、蝶と蛾では、蝶の方が好きだと思うんですが、私はへそ曲がりな性格なので、蛾の方が好きなんですね。蛾にも、綺麗な蛾がいるんですよ。それに魅せられまして、夜な夜な、小学生が捕虫網を持って、近所をうろついていたんですね。やがて、蛾の幼虫を食べる鳥に興味をもつようになって、野鳥を追いかけるようになりました。最初は、日本にもいる、コサギという、白い小さな鳥を観察していたんですね。そこからどんどん興味が広がって、他の日本の野鳥を調べるようになりました。」
●色々な野鳥と比べて、ペンギンはどんな感じですか?
「変わっていますね。鳥類は世界中に約9600種類いると言われているんですけど、どの種類も分かっていないことが多いんですよ。例えば、スズメとかカラスなど、人間との関係が深い害鳥は、昔から駆除をしたり追い払ったりしますので、生態もある程度調べられたりしていますが、それでも分からないことがたくさんあるんですね。実はペンギンには謎がたくさんありまして、9600種類いる中のわずか18種類なんですけど、全ての鳥類の中でも、非常に多くの本や研究をされている鳥なんですよ。それにも関わらず、謎が非常に多いんです。私が調べ始めた頃の最大の謎は、ペンギンは生涯の7割以上を海で過ごすんですね。陸に上がってくるときは、羽毛の生え変わり時期と、子育てのときだけなんです。ペンギンは海に出てしまうと、何をやっているか分からないんですよ。なので、最初から7割が謎の鳥だったんです。つい最近になってやっと、海での行動が少し解明されてきたんですけど、まだ謎が多いです。そういうところがとても魅力的ですね。」
●ペンギンというと、寒いところで子育てをしている中で、寒さに耐えながら卵を温めるということが印象にあるんですけど、ペンギンって、我慢強いんですか?
「そうですね。私が岩波新書から出版した本の帯に、編集者が『ペンギンは健気だ』というキャッチコピーをつけてくださって、私もそのキャッチコピーはすごく気にいっています。確かにペンギンは我慢強いです。今言っていただいた、情景というのは、おそらく、数年前に、僕の友人である、フランス人映画監督のリュック・ジャケが『皇帝ペンギン』という映画を作りまして、世界中で大ヒットをしましたけど、その一場面から連想されるのではないかと思いますね。コウテイペンギンというのは、真冬の南極で子育てをします。ブリザードに晒されながらも、卵や雛を守り続けているのは、全部オスなんです。」
●そうなんですか!? メスだと思っていました。
「実は、メスのペンギンは、最初に氷の上に上がってきたオスのペンギンと、つがいになって、卵を産みます。大きな卵なので、メスのペンギンは体力を消耗しているので、その卵をオスのペンギンに預けて、食べ物を採りに、すぐ海に戻ってしまうんですね。オスのペンギンは、卵を預かると、一生懸命抱いて、雛がかえって、しばらく育つまでメスのペンギンを待ち続けます。ようやくメスのペンギンが帰ってくると、ひなをメスのペンギンに託して、そこで初めて、海に食べ物を探しにいくんですね。その期間は、約3ヶ月です。オスのペンギンは、最初に氷の上に上がってから、メスのペンギンに雛を託して、海に食べ物を探しにいくまで、何も食べないで、ずっと氷の上で卵と雛を守るんですね。考えられないでしょ?(笑)」
●考えられないです(笑)。是非、世の中のご主人にも聞かせたいですね(笑)。
「(笑)。大変なリスクですよね。現実として、ブリザードでオスのペンギンは死ぬんですよ。なので、コウテイペンギンは、オスとメスのバランスが変わっていまして、オスの方が死亡率が高いので、メスの方が、数としては若干多いんです。非常に過酷な子育てに耐えるオスのペンギンですね。」
●それ以外に、ペンギンの面白い生態ってあるんですか?
「どのぐらい潜れるのかということが、ずっと謎だったんです。19世紀終わり頃の探検家が、南極のコウテイペンギンを捕まえまして、解剖したところ、胃の中から3キロ以上の石が出てきたんです。それが全て、南極の陸上では発見できない、海底からしか取り上げられないような石だったんですね。そこで探検家は『鉱物標本だ』ということで、喜んで持ち帰ったんですが、後に『なぜ、海底の石をペンギンが飲んでいるのか。そんな深くまで潜っているのか』ということが、大きな議論になりました。今では、データロガーと呼ばれている、小型の情報集積機器が発達していまして、それをペンギンの体につけて、ペンギンを放すと、ペンギンが自由に泳いで、海の中の情報を持ってきてくれるんです。それによりますと、大体、水深600メートルぐらい潜るんですね。」
●600メートルですか!?
「不思議だと思いませんか? 通常、深海と呼ばれるのは、300メートル以上の深さなんですけど、なぜそう呼ばれるかというと、一つは大陸棚との関係があるんですが、もう一つは、その深さになると光が届かないんですね。でも、600メートルですよ? その2倍の深さを潜っているということは『どうやってペンギンはエサを捕まえているんだろう?』って思いますよね?」
●確かにそうですね。
「これは大きな謎なんです。ただ、別の、光を感知するデータロガーがありまして、色々な種類のデータロガーをペンギンにつけて調べたところ、実は、光が届いているということが分かりました。これは、日々の海水の状態によって、常に600メートルの深海に光が届いているわけではないですが、600メートルの深海も、真っ暗ではなかったんです。」
●なぜ、ペンギンは石を飲むんですか?
「大きく分けて、2つの説があります。砂肝ってご存知ですか?」
●はい。よく食べます(笑)。
「美味しいですよね(笑)。あれは、鳥類の胃の一つなんですね。食べたエサをすり潰す役割を持っていまして、実際に砂のような粒子が入っています。ペンギンにも、砂肝があったはずなんですね。」
●鳥ですから、ありますよね。
「ペンギンの場合、それは砂粒ではなくて、実は小石なんです。胃の中に小石を飲み込んでおいてから、魚やイカを丸飲みするんですね。それが、小石と混ざり合って、バラバラに、消化されやすくしているんです。小石が砂肝の砂の役割を果たしているということが一つ目の説。もう一つは、先ほど600メートル潜ると言いましたよね? 長澤さんはダイビングをしますか?」
●はい。します。
「僕は、この体型ですから、もしするとなれば、大変なウェートをつけないといけなくなります。ペンギンもあの体型なので、浮力がいっぱい掛かってしまうので、ウェートが必要になります。なので、少しでも胃の中に小石が入っていた方がいいだろうという説があります。この2つの説が有力で、一つ目の砂肝説は定説になっています。」
●ペンギンって、すごく賢いですね!
「おそらく、全ての野生動物・生物は、そういう仕組みになっていると思います。昔、青柳先生から『今、この世の中にいる動植物は、全て勝利者である。厳しい進化の波にさらされて、それを乗り越えて生き残っている。だから今、この世の中にいる生物に、弱い者はいない。みんなそれぞれたくましく生きている』というお話を聞いたことがあったんですけど、そういうことをすごく感じますね。ペンギンも、よく調べていくと、不合理なことはないんですね。『これは無駄じゃないか』とか『こんなことをやっていると、よくないんじゃないか』と我々は勝手に考えてしまうんですが、よく調べていくと、実は、理にかなった、体の仕組みや生活をしているんですね。」
●今、日本に何種類のペンギンがいるんですか?
「11種類いまして、2千数百羽飼育されています。その内、半分ぐらいが温帯に生息している、フンボルトペンギンです。他に、南極に生息している、コウテイペンギン・アデリーペンギンもいます。ただ、空調設備や水温を低くして、管理しないといけないということがあって、飼育するのにお金がかかるんですね。なので、南極で生活しているペンギン達を飼育・展示している動物園・水族館は、多くはありません。」
●なるほど。先ほど、日本には、2千数百羽のペンギンが飼育されていると、仰っていましたが、この数は、世界と比較して、多い方なんですか?
「はい。国別でいうと、世界一の飼育数です。これは今から十数年前に、サイアスという科学雑誌がありまして、その雑誌に『ペンギン大国・日本』という、非常に刺激的なタイトルで取り上げられました。ただ、ヨーロッパのような区切りで見ると、ヨーロッパの全土で飼育されている数と同じぐらいの数なんです。それでも多いですね。なぜ、そんなに多いかというと、日本が環境的に、温帯のペンギンが繁殖しやすいんです。特に、1番数が多いフンボルトペンギンは、ペルーとチリにもいますが、その2つの国の環境は、日本の方が多少湿気が多いだけで、ほぼ日本と同じ気候なんです。なので、フンボルトペンギンは、非常によく繁殖をするんです。」
●日本で野生のペンギンを見ることができる場所ってあるんですか?
「残念ながら、日本はもちろんのこと、北半球に野生のペンギンがいません。野生のペンギン18種類は、全て南半球にいます。ただ、例外として、ガラパゴス諸島なんですが、赤道から少し北に出ているところがありまして、そこに生息しているガラパゴスペンギンという種類がいるんですけど、これは南半球の生態系の中に生息していると考えられているんですね。北半球にも、1844年までは、南半球にいる18種類のペンギンと同じように、オオウミガラスという、飛べない海鳥がいました。オオウミガラスも、昔はペンギンと呼ばれていました。ところが、人間が捕まえて、卵を食べたりして、1844年に最後の一羽が死んでしまい、絶滅してしまいました。なので、日本を含めて北半球には、野生のペンギンは一羽もいません。」
●上田さんは、ペンギンを観測するために、南極に行ったんですよね?
「はい。そうですね。」
●南極のペンギンというと、今なら、温暖化問題とかあると思うんですけど、現状はどうなんですか?
「2つの側面があります。一つは、ホッキョクグマと共に、南極のペンギンは地球温暖化の被害を受ける象徴のように思われています。確かにその側面はありまして、例えば南極で、日本の四国ぐらいの大きさの氷山が流れ出して、それがブーメランのように戻ってきて、ドーンっと岸にぶつかることがあるんですね。そういうことが起きると、南極の岸で繁殖・子育てをしている、アデリーペンギンやコウテイペンギンが、海に行けなくなってしまって、大量に死んでしまうということがあります。特に、南極で温暖化が激しいのは、南極半島という、南米大陸に向かって伸びている、エイの尻尾のような形の半島があるんですけど、そこは亜南極といって、そこが1番気温の上昇が激しいんです。そこに住んでいるペンギンたちは、今までは雪が降っていて、羽毛がその雪を弾いていたので問題なかったんですが、今度は雨が降るようになりました。雨だと、幼いペンギンの雛たちの羽毛は、まだ防水性が発達していなくて、体が冷えてしまうんですね。なので、南極半島にいる、多くの雛が死んでいます。
そういう側面から見ると、確かに南極の温暖化は、ペンギンに対して、非常に大きな災害だと思いますが、一方で、元々、南極半島に生息していた種類がいまして、代表的な種類はジェンツーペンギンというんですが、このペンギンは、暖かいところが得意なんですね。ですから、南極半島や亜南極、南極大陸が温暖化になると、そこにどんどん進出してきて、ジェンツーペンギンが増えてきています。毎年、南極全体のペンギンの数を、学者が学会を開いて報告しあっているんですが、今のところ南極にしかいない、コウテイペンギンとアデリーペンギンの数は、変化していないという、科学的な報告があります。なので、非常に多く減っている種と、徐々に増えている種があって、平均すると減っていないんです。むしろ、先ほどお話した亜南極のジェンツーペンギンは増えています。なので、今のところ、南極のペンギンが、急速に絶滅に向かうという傾向はみられません。ただ、どこかで、カタストロフ現象という、ドーンっと気温があがる現象が起きると、そのバランスが一気に崩れる可能性はあると指摘している専門家も多いです。油断はできませんね。今後、継続して観察を続けていかないといけないと思います。」
●世界的に、ペンギンを守ろうという活動って、どんなものがあるんですか?
「ペンギンが減っていないという話は、南極に限ってのことなんです。ペンギンは18種類いますが、南極でしか繁殖していないのは、コウテイペンギンとアデリーペンギンの2種類だけで、あとの16種類は、亜南極から、ガラパゴス諸島のような、温帯・熱帯地方にかけて生息しています。その中で、特に温帯にいるペンギンたちは、人間と競争することになります。巣を作る場所が、海岸のリゾートや牧場開発で奪われたり、自分たちのエサとなる小魚、例えば、南米にある“アンチョビ”はご存知ですよね? カタクチイワシといいますが、イタリアンで、ピザのトッピングとしてよくありますが、あれは、フンボルトペンギンたちの大事なエサなんですね。それを人間は大量に獲って、直接食べたり、肥料にしますよね。そういうことで、彼らにとっての食べ物が奪われてしまうんです。彼らは、住み家が奪われ、食べ物が奪われる。さらに、かつてはペンギンの卵、あるいは、ペンギン本体を食べたり、産業の一環として、ペンギン本体から脂を取るということも行なわれていました。なので、温帯で人間と生活を共にしているペンギンたちは、ずっと人間にいじめられて、資源として利用されてきたんです。直接食べたりすることはなくなりましたけど、今でもその傾向は多少あります。
人間は彼らの住み家を奪い、食べ物を奪っています。なので、温帯のペンギンたちは、ほとんど絶滅の危機に瀕しています。なので、ペンギンたちにとって、絶滅の危機は、今のところ、温暖化もそうなんですが、人間との競争に敗れつつあるんですね。しかし、それは今、ペンギンたちから生息地や食べ物を奪う時代ではなくなってきていると思いますので、人間が少し手を緩めて、温帯のペンギンたちを保護していく必要があると思います。それはなぜかというと、ペンギンたちの数が増えたり減ったりするのを調べていると、海の豊かさが分かるんです。ペンギンってものすごく大食なんですよ。なので、ペンギンたちが元気で、数が安定している、あるいは、少しでも増えているということは、その周辺の海域が非常に豊かな海であるということの証明になるんです。ところが、人間がペンギンたちをいじめたり、住み家を奪ったりし続けると、それが分からなくなってしまうんですね。ペンギンって非常に敏感な環境センサーなんです。なので、海の色々な生態系や、水温の上昇・下降などを、人間に教えてくれる仲間なんですよ。そういう仲間を大切にしていかないといけないですよね。」
YUKI'S MONOLOGUE ~ゆきちゃんのひと言~
上田さんに、いつから日本にペンギンがいるのかを伺ったところ、江戸時代の文献にすでにペンギンの事が記されており、大正時代には生きたペンギンが連れて来られていたそうです! |
上田一生さん情報
ペンギン・スタイル
|