2010年6月13日
「DREAMS」大脇崇さんが伝えたい、世界の子どもたちの“夢”と“笑顔”
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、大脇崇さんです。
写真家の「大脇崇(おおわき・たかし)」さんは先日、世界中を旅して、子どもたちの夢と笑顔を集めた1冊の本「DREAMS~おとなになったら、なんになりたい?」を出版しました。
今夜は、そんな大脇さんに、子どもたちの夢や旅のお話などをうかがいます。
写真を撮るときのテーマは『JOY OF LIFE』
●今回のゲストは、写真家の大脇崇さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●大脇さんは先日、世界を旅しながら、子どもたちの笑顔をたくさん撮り、それをまとめたフォトブック「DREAMS~おとなになったら、なんになりたい?」を、サンクチュアリ出版より出されました。このフォトブックなんですが、テーマは“DREAMS”なんですか?
「そうです。“DREAMS”、夢を集めた本です。僕は文章を書くより、写真を撮ることをメインで活動をしてきたので、写真がたくさん入っているんですけど、今回は1人で旅をしたので、そのときに出会った子どもたちの様子を、文章と一緒に入れています。」
●本の構成が1人1ページになっているんですけど、この本には、何人の子どもたちの夢が詰まっているんですか?
「編集するときに数えたら、1460人の子どもたちの写真が集まっていました。」
●そんなにいるんですか!?
「はい。そこから2割ぐらい選びまして、300人ぐらいの子どもが、写真とともに載っています。」
●それだけの人数を撮るとなると、日数や旅した国の数など、多くなってきますよね?
「大体、55ヶ国を3年ぐらいかけて周りました。」
●そもそも、子どもたちの夢にスポットを当てて、本を出そうと思ったんですか?
「サンクチュアリ出版の編集部の方と打ち合わせをしているときに、『今の日本の若い子たちにとって、光が見えない世の中で、夢をもっていない感じだけど、他の国の子どもたちは、同じような状況でも、夢を抱いているんじゃないか?』という話をしていて、『じゃあ、実際に聞いてみよう』ということになりました。僕は元々、子どもが好きだし、旅で人と出会っていくのも好きなので、予算は厳しかったですけど、始めました。」
●実際はどうでしたか? 海外の子どもたちは夢をたくさん持っていましたか?
「そうですね。もちろん最初は、恥ずかしがって、なかなか心を開いてくれない子もいましたし、元気な子もいたんですけど、内には夢や想いを秘めていて、それを語ってくれるときは非常にいい表情をしてくれましたね。僕は普段、写真を撮っているときは、あまり会話をせず、遠くで眺めているんだけなんですけど、今回の企画は“子どもたちの夢を聞く”ことだから、話しかけないといけないので、時間はかかるんですけど、その分、子どもたちとコミュニケーションが取れたというのは、財産になりましたね。」
●でも、海外ですから、言葉が通じなかったりして、子どもたちとコミュニケーションを取ることって大変ですよね?
「英語が話せる子どもは問題なかったんですけど、英語が話せない子どもに対しては、宿泊先の従業員とか、タクシーの運転手に『こんにちは』とか『名前は何ですか?』とか『大きくなったら、何になりたいですか?』など、見開きノート2ページ分、事前に現地の基本的な言葉を聞いて、勉強しておいて、出会った子どもたちに、それを聞くと、なりたいものを絵とか文字で書いてくれるんですね。そういう風にして、夢を聞いてきました。」
●コミュニケーションの仕方って、国によって違ったりするんですか?
「そうですね。イスラム教を信仰している国だと、基本的に女の子は、オープンにしてはいけないので、かなり逃げられました(笑)。先進国は、子どもをプロテクトする親が多いので、まずは親に了解を得ないといけないですね。途上国、特にアフリカだと、外国人が珍しいのか、子どもたちが寄ってくるので、すごい騒ぎになりましたね(笑)。その場、その場で色々と面白いです(笑)」
●(笑)。大脇さんにとって、“笑顔”というのは、以前から写真を撮るときのテーマだったんですか?
「そうですね。僕の中で、写真を撮るときのテーマで“JOY OF LIFE”という言葉がありまして、“生きる喜び”を表現できればいいなという想いがあるんですね。そう思うと、やっぱり子どもの写真って、元気で、ポジティブで、前向きな表情のものが多くなっていきますね。だけど、この本には、照れている男の子とか、恥ずかしがっている女の子の写真も入っているので、色々な子どもの表情を楽しんでもらえればと思います。」
大脇さんの旅のスタイルとは?
●大脇さんは、海外で写真を撮ることが多いんですか?
「そうですね。写真って、コミュニケーション・ツールの1つで『写真を撮らせてください』と頼むことで、なんとなくコミュニケーションを取るきっかけが生まれますよね。だけど、日本人同士だと、言語が一緒だから、直接話せるので、あまりカメラを必要としないのかもしれないです。言葉が通じないからこそ、想いを画に留めておきたいという思いがあります。」
●確かに旅行に行って、言葉が通じない海外の方でも「シャッターを押してください」というのは、言いやすいですよね(笑)。カメラが1個あると、コミュニケーションが取りやすかったりしますよね(笑)。
「そうですね(笑)。今回、子どもたちを、ポラロイドのカメラで撮ってあげて、写真を渡したんですけど、本当に喜んでくれますね。」
●確かにコミュニケーション・ツールにはなりますけど、海外で写真を撮るというのは、先進国はそれほど心配はないですけど、危ない場所があったりと、結構大変だったんじゃないですか?
「1回、ブラジルのリオデジャネイロで、貧困の子どもたちの写真を撮っていたら、ドラッグ・ディーラーの人にピストルを向けられたことはありますね(笑)。でも、どちらかというと、先進国の方が肖像権などを気にする人が多いので、気を使いますね。」
●逆に、途上国の方が、カメラを向けたら、すぐに応じてくれるんですね?
「大体は応じてくれます。でも、ペルーでおばさんに石を投げられたりしたことがありましたね(笑)」
●何で投げられたんですか?(笑)
「僕が観光客のような格好だと、相手も気づいて、興味本位で撮ってほしくないんだと思います。だから、最初はカメラなしでコミュニケーションを取って、仲良くなったら、大らかに迎えてくれます。その辺を気をつけないといけないですね。」
●観光客気分だと、現地の人は抵抗があるということですけど、大脇さんはどういったスタイルで、旅をしているんですか?
「旅をしているときは、なるべく汚い格好をしていますね(笑)。普通にTシャツ・ジーンズ・ジャケットという感じで、その街いる学生のような格好をして、デジタルカメラとかパソコンとか、あまり高価な物を持っていかないですね。今回の旅も、目立たない小さいカメラとバックパックで周っていました。」
●バックパッカーのような感じで、カメラとか荷物を全部バックパックに詰めて、旅をしているということなんですね?
ちょっと意外でした。写真を撮る人って、機材をいっぱい持って、アシスタントの方を連れているのかと思ったんですけど、割とラフな感じで旅をしているんですね。
「やっぱり、向こうも構えないようにしたいので、プロに見られない方がいいですよね。あまりオーラは出さないようにしています。今回の本も、すごく自由にさせていただいたので、僕がホームステイさせていただいた家族など、時間を共有できた写真も選んでいるので、僕のプライベートが半分ぐらい出ているような、あまり仕事という意識はなかったですね。」
●逆に、そういう意識が、子どもたちのリラックスした表情が撮れたりすると思います。
「そうだといいですね。」
●以前、ホームステイしていたところに、またお邪魔をして、写真を撮っていたんですか?
「いや、道を歩いていて、テレビの“田舎に泊まろう”みたいな感じで、出会った人に『家に行っていい?』って聞いたりしていましたね。予算がなくて、ホテルに泊まるのをできるだけ避けていたというのもあるんですけど、家に泊めていただけると、そこの食生活も分かるし、子どもたちの家の表情も見えるんです。だから、その土地の人の生活を知るには、家に泊めてもらうのが1番だと思って、いつもアタックしていました(笑)」
●(笑)。それも大変そうな気がします。
「たまに、泊まった家で、その人たちを信用していたら、自分の荷物がなくなっていたとか、そういうこともありますが、本当、みなさん優しくしてくれました。僕の本には、よく“スペシャルサンクス”というページがあって、旅のときにお世話になった方の名前を載せています。」
●細かい字で、たくさんの方の名前を書いていますね!
「本当、たくさんの人にお世話になりました。」
●これだけの人にお世話になったからこそ、撮れた写真がたくさんあるんですね。
「そうですね。」
想像力がある限り、誰でも夢や希望は持てる
●今回、子どもたちの笑顔がすごく印象的だったんですけど、今も戦争中の国があったりと、色々な国があると思うんですね。大脇さんが実際に行ってみて、現実はどうでしたか?
「今回、イラク、アフガニスタンには行っていないんですけど、イスラエルのエルサレムの旧市街で、パレスチナ側の人の家にお邪魔したとき、イスラエル政府が、無理な立ち退き要請をして、勝手に家を壊したりすると、どうしても敵対心のようなものが出てきますね。絵を描いてもらっても、イスラエル兵がパレスチナ人を殺している絵を描いていて『憎しみは消えないんだな』って思うんですけど、例えば、先日、地震のあったハイチのような、物理的に貧しい国は、食べ物が乏しくて、大人・子ども関係なく、みんなお腹が空いている感じなんですけど、悲壮感みたいなものはないんです。そこは人間のたくましいところで、十分に食べることができなくても、生きる強さや明るさみたいなものは持っていて、『人間は強い生き物だな』と、すごく勉強になりました。逆に、モノがたくさんある日本やヨーロッパの人の方が、表情がよくなかったりしますね。アフリカの人って、芋を練ったものが夕飯で、栄養もそれほどないと思うんですけど、家族はすごく絆が強いし、暗さはないので、経済的な豊かさ・貧しさというのは、幸せとはあまり関係ないのかなと、色々な国を見てきて思ったことですね。」
●そのお話を聞くと、この本も、貧しさに関係なく、子どもたちは夢を持っているんだなと感じたんですね。夢というのは、どんな人にも平等に与えられていると思います。
「まさにその通りだと思います。想像力がある限り、人間は誰でも夢や希望を持てますので、この本でそういうことが伝わればいいなと思います。」
●今の日本の子どもたちって、夢を持っていないと感じるんですが、それはどうしてなんでしょうか?
「親がモノをたくさん与えても、子どもはその中から選択をするというのが得意じゃないような気がするんですよね。想像力って何もないところから生まれてくるものだと思うんです。今の子どもたちって、情報をたくさん手に入れられるので、選択をたくさんしていかないといけなくなるので、大変だなって思います。だけど、5月5日に、名古屋で書店イベントに全国の子どもたち70人ぐらい来ていただいて、夢を聞いたんですね。みんな、自分が思っていたより、楽しい夢を抱いていました。日本の子どもたちって、大人が思っているより、夢を持っているのかもしれないですね。その部分を、今年から来年にかけて、日本の子どもたちの夢を聞いていけたらと思います。」
大脇さんの夢とは?
●大脇さんの夢って何ですか?
「戦場で、今起こっている人間の悲劇を写真にしているジャーナリストの方みたいに、世の中には色々な写真家がいて、それはそれですごく素晴らしいお仕事だと思うんですけど、僕は、次の世代を担う子どもたちが見て、生きる支えになるような写真を撮っていけたらと思っています。人間の優しさだったり、他人を想うことや、家族の絆とか、そういうことが、今の情報化社会の中で薄れていって、みんな孤独感を感じていたりするので、そういう写真を残していきたいと思っています。」
●そういった絆とかって、目に見えないものじゃないですか。それを写真にするというのは、すごく難しいと思うんですが、どうなんですか?
「家族に溶け込んでいくと見えてくるのかもしれないですね。親が子どもを想うことだったり、子どもが妹や弟を想う気持ちなど、そういうことって、長い時間一緒に過ごすほど、見る機会が増えるので、これからも溶け込んでいって、そういう瞬間を写真に撮っていけたらと思います。」
●これからもいっぱい溶け込んで、素敵な写真をたくさん撮り続けてください。今回のゲストは、写真家の大脇崇さんでした。ありがとうございました。
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