2010年7月18日
古見きゅうさんがこれまで感じてきた“海の中の素晴らしさ”とは
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、古見きゅうさんです。
水中写真家の古見きゅうさんは、和歌山県・串本でダイビング・ガイドとして活動した後、水中写真家として独立。現在では東京を拠点に国内外の海をフィールドに活動されています。今回はそんな古見さんから、最新の写真集のことや、海の魅力などうかがいます。
古見さんの、ダイビングを始めたきっかけとは?
●今回のゲストは、水中写真家の古見きゅうさんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●古見さんは現在、水中写真家として活動されていますが、水中写真家になろうと思ったきっかけって何だったんですか?
「きっかけは、高校生ぐらいのときに、家で海水魚を飼っていたんですね。僕は魚が好きなので、生で見ることができたらいいじゃないですか。『ダイビングを始めて、インストラクターになって、海で毎日仕事ができたら、魚を毎日見ることができるから、こんなにいい仕事はないな』と思って、ダイビングを始めたんです。」
●その後、写真も撮ってみようかなって思って、水中写真家になったんですね?
「そうです。」
●それまで海で魚を見るという経験がなかったんですか?
「子どもの頃に、親と一緒に新潟の海水浴場に行って、泳ぎながら魚を見ていたんですが、日本海の魚って色が付いていない魚が多かったんですね。でも、たまにすごく派手な熱帯魚みたいな魚がいて『すげー!』って思っていたぐらいです。」
●古見さんは、和歌山県・串本町でダイビングのインストラクターになったということなんですが、出身地とか関係なく、そこで取得したんですか?
「そうですね。インストラクターになるために、高校卒業後、ダイビングの専門学校に行ったんです。そこで2年間勉強して、インストラクターになって、仕事で串本に行ったという感じですね。」
●仕事で行った串本の海の魅力にとりつかれたって感じですか?
「そうなんですよね。『本州に、こんなにいい海があるんだ』という感じで、衝撃を受けました。」
●それはどんな海だったんですか?
「例えば沖縄みたいな熱帯の海って、きれいなサンゴが広がって、熱帯魚がたくさんいるというイメージがあるじゃないですか。水槽で飼う魚って、そういうところで生息している魚が多いんですね。串本って、厳密にいえばサンゴ礁ではないんですが、サンゴが一面に広がっていて、カラフルな魚がいっぱいいて『こんなすごいところがあるんだ!』って思って、即決で串本の海を選びましたね。」
●他にも、潜ってみて印象的だった海ってありますか?
「ダイビングを始めた頃のあこがれは、沖縄だったんですね。僕が水中写真家になって、沖縄の石垣島に行ったりするんですが、理屈抜きでいいですよね。大きなマンタから、小さくて可愛い魚がいっぱいいて、サンゴもあって、水は青い。日本はすごいんだって、つくづく思いますね。」
●実は私もダイビングをするんですけど、私のダイビング仲間でもよく「海外の海もキレイだけど、沖縄の海は格別」っていう話をしています。
「だと思います。」
●沖縄って今、サンゴのことが話題になっていて、映画化もされたりしていますが、沖縄のサンゴを実際に見ているんですか?
「そうですね。沖縄も、沖縄本島から慶良間があったり、八重山諸島があったりするんですが、その土地によって、景観やサンゴの生え方、見られる魚や動きが違うんですが、色々見た上でトータルしても『沖縄っていいな』って思えるんですよね。」
古見さんにとって、魚と出会うことが“貴重な出会い”
●古見さんの水中写真家としての集大成といえる写真集「WA!」が、現在、小学館から発売されていますが、タイトルが面白いなって思ったんですけど、このタイトルには何か意味があるんですか?
「元々、違うタイトルを考えていたんですが、タイトルを変えることになったんですね。写真集のテーマが“○○と○○がコミュニケーションを取っている”ような写真ばかりを集めて作っていたので、それにちなんだタイトルじゃないとおかしいじゃないですか。そこで“○と○○が繋がって、それが連鎖して繋がっていったら輪になる”ということに気づきまして、最初は『サークル』にしようとしたんですが、ちょっと違うなぁって思ったんですね。」
●サークル活動っぽいですよね(笑)。
「そうなんですよ(笑)。『いっそのこと、“わ”でいいんじゃないのか?』っていう感じになったんですが、『だったら、“WA”にして、“!”を付けよう』ということになったんです。“WA”だったら、例えば、平和の“WA”だったり、輪っかの“WA”だったりと、色々な意味を込められるじゃないですか。なので、このタイトルになりました。」
●先ほど、コミュニケーションって言いましたけど、写真集を見ると、お魚たちが実際にコミュニケーションをしているかのように、ふき出しがあるんですね。私も海に潜ると「このお魚、絶対に喋っているよな」っていうシーンを見かけるんですよね。もしかしたら、このお魚たちも、人間と同じようにコミュニケーションを取っているんじゃないかと思うときがあるんですけど、古見さんはどう感じていますか?
「僕もそう思います。僕らは生き物の世界って、弱肉強食の厳しい世界だと認識していますけど、彼らにとっては、決して厳しい世界ではないんじゃないかって思うんですね。例えば、隣のおじさんに、朝の挨拶をしたり、スーパーのおばさんに聞いたりするように、僕らと同じような生活があると思うんですね。そういうことを、少しでも表現できればと思って、作った写真集です。」
●「これは、コミュニケーションを取っているな」っていう場面に出くわしたエピソードってありますか?
「この写真集に入っている写真が全部そうなんですけど、明らかに違うお魚同士が、一定の距離を取って向き合っていたんですね。同じ魚だったら、例えば、求愛だったりして、ある程度考えられるじゃないですか。でも、違う魚が、なぜか、コミュニケーションを取っているかのように、顔を近づけたり、面白い動きをしているんですね。これを僕の中で『小さなミラクル』と呼んでいるんですけど、それを客観的に見てみると、意外といっぱいあるんですよね。」
●私もダイビングをするんですけど、水族館とか、食べる前に見たりして、陸地で魚を見ることってあるじゃないですか。水中に潜って見る魚と全然違いますよね!
「全然違いますよね。」
●あれって何でしょうかね?
「彼らにとってみれば、海の中にいるのが1番幸せで、普通な時間じゃないですか。お魚のそういう幸せそうなところを見ると、いいですよね。」
●写真集を見て思ったのは、ダイビングをすると、イルカとかウミガメとか、そういう大きな生き物に目がいってしまうじゃないですか。この写真集には、ウミガメの写真もあるんですけど、エビとか、割と小さな生き物にスポットを当てているのが印象的でした。
「そうなんですよね。僕がダイビングを始めたきっかけが魚だったので、必然的に小さな魚を探してしまうんですよ。キレイだったり、見つけにくかったりするんですけど、そういうものに出会えたときって、すごく嬉しいんですよね。」
●本当そうですよね。同じ種類の魚は、色々なところで見られますけど、すごく広い海の中で、すごく小さな個体を見つけるのって、すごい確率じゃないですか。そういう巡り合いも、写真の中に詰まっていて、ステキです。
「ありがとうございます(笑)。同じ瞬間って二度もないじゃないですか。この広い海の中で、小さな生き物と僕が出会う確率って、奇跡的なタイミングだと思うんですね。写真集を作っていて改めて『これっていい出会いだったんだよな』って思うんですよね。だから、僕にとっては、特別にこの瞬間っていうわけではなくて、全ての出会いが貴重な出会いだったんですよね。」
古見さんが感じる、海の変化とは?
●水中写真を録っているときに、海の変化を感じることってありますか?
「近年だと、地球温暖化という言葉が1番伝わりやすいのかなって思うんですけど、海の中も温暖化の影響を受けて、少しずつ変化してきているのを感じますね。」
●例えば、お魚が減っていたりしているんですか?
「例えば、僕が住んでいた串本町では、沖縄でしかなかったようなサンゴが、串本周辺で増えてきたり、これまで見られなかったお魚が流れ着いたりしていましたね。」
●海がどんどん温かくなってきているということですか?
「その傾向はあると思います。」
●昔は見られた魚が、今では見られなくなったっていうことはありますか?
「それはもちろんありますね。例えば、串本町でいうと、春になると、サンゴの群落の脇に海草が生えてきて、サンゴと海草が共存している姿があったんですけど、今では、その海草が生えなくなってきているんですね。10年前は温帯の象徴の海草と、熱帯の象徴のサンゴを同時に見ることができたんですが、今では、海草がどんどんなくなってきて、熱帯の部分が強くなってきているのを感じますね。」
●以前、ゲスト出演していただいた方が「砂浜が減ってきている」と言っていたんですが、それを感じることってありますか?
「そうですね。例えば、インド洋にモルディブという小さい島国があるんですけど、いつも撮影で使っていたサンドバンクが、どんどん見えなくなってきているんですね。それまでは、辺り一面に砂だまりが広がっていたんですけど、年々水かさが増していて、サンドバンクが減ってきているのを感じますね。」
●私もダイビングをするので、常々感じていることがあるんですけど、ダイビングをする上で、マナーとか、そういうことに対して、これから気をつけていかないといけないなって思っているんですけど、古見さんはどう思っていますか?
「マナーって、人の解釈によるので、非常に難しいことだと思うんですが、なるべくゴミを出さないとか、出したゴミはしっかりと処理をして帰るとか、生物に触らないとか、そういう一般的なことを気をつけていってほしいですね。僕は生き物が好きなので、生き物にダメージを与えないような潜り方をしたいと常に思っているんですね。例えば、レギュレーターという、空気を吸う装置が岩やサンゴに引っかからないように、留めて潜ったりして、小さい気配りでいいと思うので、そういうことを意識することによって、結果として、いい方向に変わっていくと思いますね。」
海のよさを感じたら、陸のよさも感じるようになった
●もし、半魚人になれたら、ずっと海の中にいますか?
「いや、人間がいいですね(笑)」
●(笑)。でも、エラ呼吸ができるようになったら、どうしますか?
「たまには陸にいたいですね(笑)」
●そうですよね(笑)。でも、海と陸、甲乙つけ難いと思いますが、どっちが好きですか?
「ずっと海にいたら、ビールが飲めなくなりますからね。でも、僕は普通の人よりもはるかに多く海と接しているので、海のよさ、素晴らしさをより感じることができるじゃないですか。だから、逆に陸のよさも感じるようになりましたね。なので、水際にいれたら1番いいですね(笑)」
●波打ち際でビールを飲む感じがいいんですね(笑)。
「そうですね(笑)」
●先ほど、海に行くようになってから、陸のよさも感じたと話していましたけど、陸上のよさって、どういったところですか?
「まず、海にもありますが、季節があるじゃないですか。海と接するようになって、美しいものを美しいといえる職業にも就いたので、辺りの景色をいつも見るようになったんですね。僕は昔から桜があまり好きじゃなかったんですが、あるタイミングから『すごくキレイだな』とか『今日の雲って、すごくいい形しているよな』って、微妙なところに気付き始めたんですね。それは、僕が海に入り始めたことがきっかけになっていると思うんですが、海に入ることによって、季節の変わり方を感じたり、太陽の傾きによって、空の色がどんどん変わってきたりすることに気付くようになりましたね。」
●今後、「こういうことをしてみたい」ということがあれば、教えてください。
「今動いていることでいうと、この写真集のシリーズでポストカードブックを作っているところなんですね。」
●この「WA!」という写真集ですが、どんな人に見てほしいですか?
「小さな子供がいるご家族で見て楽しんでいただいたり、ふき出しのところに自分のメッセージを書いてプレゼントしたりして、一人で楽しむだけじゃなくて、誰かと共有できるものであればいいなと思いますね。」
●やっぱり写真集って、古見さんが見てきた美しい景色を、私たちも共有できるというのが、大きな魅力の一つだと思うんですね。古見さんが今まで見てきた海の中で、是非見てほしいっていうところがあれば教えてください。
「例えば僕が撮ってきた可愛いお魚とかの写真が、本という形になって、色々な人に見てもらえたら、それで嬉しいんですよね。それを見た人が、そのお魚たちを好きになってくれたら、“海を守りたい”って思えるじゃないですか。そういうことが理想かなって思いますね。だから、海を守ることを訴えるのが先ではなくて、海を好きになってくれたら嬉しいなって思いますね。写真集やポストカードブックをきっかけにして、海に近づくきっかけになればいいなと思います。実際に『この写真集を見て、ダイビングを始めました』とか『ダイビングを始めてみたくなりました』という声が聞こえてきたりするので、それはすごく嬉しいですよね。」
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