2010年10月31日
フリーダイバー・平井美鈴さんが感じる フリーダイビングの魅力と、今の海の環境
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、平井美鈴さんです。
フリーダイバーの「平井美鈴」さんは、今年7月に沖縄で開催されたフリーダイビング世界選手権に日本代表として出場し、見事金メダルに輝いた、女子フリーダイビングの第一人者です。
今夜はそんな平井美鈴さんにフリーダイビングの魅力や、海を守る活動のことなどうかがいます。
フリーダイビングは、海の生物と同じになれる
●今回のゲストは、フリーダイバーの平井美鈴さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●平井さんは、今年7月に沖縄で行なわれたアジア初の大会「フリーダイビング世界選手権・女子チーム団体戦」で優勝されました。おめでとうございます!
「ありがとうございます! 本当に嬉しいです!」
●優勝したときの気持ちはどうでしたか?
「もう大泣きしていて、気持ちなんてないですね(笑)」
●そうだったんですか(笑)。
「色々な気持ちが溢れてきて、一言では言えないんですけど、「みんなよく頑張ったね!」とか「自分自身よく頑張った!」とか、ここまでずっと支えてくれた周りの人の応援に応えられてよかったという気持ちが入り乱れて、涙と共に溢れてきましたね(笑)」
●そんな平井さんですが、私はダイビングをするんですけど、タンクを背負ってダイビングをするので、フリーダイビングって未知の世界なんですね。なので、色々と教えてください。早速ですが、フリーダイビングにはどのような種目があるんですか?
「まず、海で行なう種目とプールで行なう種目の2つがあります。海の種目は、フィンを履いて、縦に潜っていく“コンスタント・ウィズ・フィン”と、フィンを履かないで素潜りをする種目もあります。両方ともロープを垂らして、ロープ沿いに縦に潜っていくんですが、ロープに触ってはいけないんですね。あと“フリーマージョン”という種目があるんですけど、これは手でロープを手繰って潜っていくんです。こういった種目があります。」
●同じフリーダイビングでも、かなり違うんですね。
「そうですね。種目は結構ありますね。ジャック・マイヨールさんがモデルになった“グラン・ブルー”という映画で行なわれている種目は“ノーリミット”という種目で、重りに捕まって下まで行って、風船を下で膨らませて、その風船の浮力で上がってくるという種目もあります。この種目は装備などの費用がかかるので、通常の大会では行なわれていないですね。」
●私がダイビングをするときは、タンクを背負って潜っていくんですけど、タンクを背負っていくので呼吸ができるんですが、潜る前に息を吸って、息を止めて潜るというのは、苦しくないんですか?
「私も以前はそうだったんですが、みんな“息を止める=苦しい”と思うんですね。だけど、誰でも息を止めていても苦しくない時間ってあるんです。今こうして喋っている間も、息を吸わず、むしろ吐き出していますよね。でも、苦しいって感じないじゃないですか。それと同じで、息を吸って、止めて、苦しくない時間というのを力を抜いて水の中で味わいながらリラックスするというのが、フリーダイビングの根本なんですね。 海の中で力を抜いて、目を閉じたり、浮力を感じたりすることだけでも、素潜りを楽しんでいると思えるし、それもフリーダイビングだと思います。」
●私が潜るとき、周りの魚とか、カメなどの、海の生き物との触れ合いを楽しむんですけど、フリーダイビングの場合はどうなんですか?
「競技の最中は触れ合うことはないんですが、海の中で行なう種目なので、色々なものに遭遇しますね。エジプトのシャルム・エル・シェイクの海で大会があったときは、表面・中層・ボトムのそれぞれに、様々な生き物がいまして、そこで練習をしたり、大会をしたりするんですけど、深く潜っても魚がすぐ近くで見えるんですよ。なぜかというと、そこでは漁が禁止されているので、魚が生き物を怖がらないみたいで、潜って、1番下でターンをしようとしたら、タイみたいな大きな魚が何匹が揃って、こっちを見ているんですね。目があったときに『あ、今海でフリーダイビングをしていたんだよな』って気付いたりするということもありました。あと、遊びではイルカと泳いだり、カメと泳いだり、クジラを見にいったりと、暇を見つけて遊びにいきますね。」
●タンクがないことによって、魚がビックリしなかったり、魚と近くなれたりするんですか?
「その通りですね。素潜りで魚の群れの中に入っていって、岩に捕まってじっとしていると、一旦離れていった魚たちがまた戻ってくるんです。それが、そこの一員になったような感じになるんですよね。」
●それは素敵ですね!
「そういう、“私が魚を見ている”のではなくて“魚と同じ方向を向いて、そこにとどまっている”のがすごく好きで、同じ生物になったような一体感があるんですよね。空気が出ないからなのかもしれないですが、タンクの場合と素潜りの場合は違う感じがすると思います。」
●平井さんがダイビングをしているときの写真を何枚か拝見したんですけど、平井さんが海の中に潜っている姿って、人魚みたいです。
「そうですか!? ありがとうございます(笑)。それを目指したいですね。昔は“イルカと一緒に泳げるようになる”というのが目標だったんですけど、イルカに限らず、魚とか海の中で、自由自在に潜ったり泳いだりすることができたらいいなと思っていたので、そういう風に言っていただけると嬉しいですね。」
浮上中は気合い!
●潜る前には、どのようなことを考えているんですか?
「潜る直前になるにつれて、心が静かになっていくんですけど、それより少し前ぐらいには不安や緊張は感じますね。『改めて思うと、74メートルって深いよな』とか『これからあんなに深いところまで行くんだ』とか思ったりしますし、海にでたときは『あ~気持ち悪いなぁ』って思ったりもしますね。でも、ウォーミング・アップをしたりして、何本か練習で潜ったりするんですけど、そういうことをしている内に、そういう気持ちもなくなっていきますね。
いいときはすごくいいんですよ。海が穏やかで、温かくて、気持ちもポジティヴなときは、朝から静まり返った湖のように、気持ちよく本番に挑めるんですけど、やっぱり自然が相手なので、例えば波がすごく高い日だったり、流れがすごかったり、寒かったりと色々あるじゃないですか。私は人間なので『私ってまだまだだな』と思うんですけど、やっぱり『怖いな』とか思っちゃいますよね。」
●平井さんはそんなことないと思っていたんですけど、やっぱりそういう気持ちってあるんですね。
「ありますよ。」
●行きのときは無になって行きますけど、帰りって安心しちゃうんですか?
「浮上中ですか? 浮上中は気合いですね! 私の場合は気合いですね。なぜかというと、行きのときは、いっぱい酸素を体の中に入れて、頭の中を静かにして、ゆるやかに落ちていくので、瞑想に近い状態なんです。ですが、一番深くまで行って帰ってくるときは、自分の上に乗っかっている水の量が多いじゃないですか。だから、何もしていないと沈んでいくんです。だから、それを押しのけて帰っていくので、加速をしないといけないし、加速をして上に上がっていくときは酸素を使うので、帰り道は酸素が1番少なくて、1番危険なゾーンなんですね。だから意識をしっかりと持って『大丈夫! 大丈夫!』と明るい気持ちを保ちながら、フィン・キックをして上がってきます。」
●意外と帰りの方が大変なんですね。
「私にとっては、帰りの方がスポーツ的な感じがしますね(笑)」
●(笑)。実際に、帰っているときに気を失う方っているんですか?
「大会では見かけますね。私はまだないんですけど、過酷だなって思います。」
●最後まで気が抜けないスポーツなんですね。
「そうですね。本当その通りですね。」
潜水反射があれば“海の中にずっといられる”?
●潜っているときの体の感覚は、どういう状態になっているんですか?
「潜れば潜るほど、水圧が高くなるんですね。なので、体が圧迫されていきます。空気も、潜れば潜るほど小さくなっていって、肺などの人間の体の中にある空洞が小さくなっていくんですよ。それを補うために、横隔膜が引きあがっていって、お腹がペチャンコになる感じがするんですね。」
●よくカップラーメンを圧迫するとつぶれちゃいますよね。
「そうですよね。ああいう感じで、体がつぶれていく感じがしますね。」
●それを守るために、自分の体の中で変化とかするんですか?
「つぶれるために必要なものが、横隔膜の柔軟性や胸郭の柔軟性などの、体の中の柔らかさなんです。その部分の柔らかさがないと、肺を痛めてしまうんですね。その部分は、ストレッチなどで柔らかくしていますね。」
●心拍数が下がったりするんですか?
「しますね。素潜りをするときには、なるべく気持ちをリラックスさせて、心拍数を落とした方が、酸素の消費量が少なくなるんですよ。なので、素潜りをする直前は、なるべく体の力を抜いて、心拍数が落ちた状態にしておくのが理想的です。呼吸法で心拍数を落とすことができますね。潜る前は緊張してドキドキしているので、その呼吸法で心拍数を落として、コントロールしていきます。ですが、いざスタートして、素潜りで海にどんどん潜っていくと、人間の体って、より息をもたせようとするんですね。それを“潜水反射”というんですけど、ペンギンとかアザラシとかイルカとかが持っているのと同じ反射なんです。人間の体が海の中にどんどん深く潜っていくと、潜水反射の作用で、心拍数が落ちる反射が起きるんですね。両手・両足の血が、どんどん体の中心に集まっていくという、血流の変化も起きたりします。」
●それって不思議ですね。色々と不思議なことが体の中で起きるんですね。上がってくるときはどうなんですか?
「酸素が減った状態で、しっかり運動をして浮上してこないといけないので、私の感覚では潜水反射は全然感じないんですね(笑)」
●それはもうひたすら上がろうと必死なんですね(笑)。
「息を止めて、神社の階段を上っていくような気持ちですね(笑)」
●苦しそうです(笑)。先ほど潜水反射のことを話していただきましたけど、潜水反射が起きることによって「もしかして、私このままずっと海の中にいられるんじゃないか?」と思ったことってありますか?
「それはありますね。潜っていくときって、息苦しさを全く感じなくて、むしろ気持ちいいんですよね。心も静かだし、穏やかな気持ちで、力も抜けているときに反射が起きて、心拍数が減って、酸素が長く続くような体の反応が起こると、宇宙に浮いているような感じがします。」
●それって不思議な感覚ですね。
「そうですね。力も抜けて、自分が水の中に溶けて一緒になった感じがするときもあるんですね。そういう感覚につながるのかなと思いますね。潜れば潜るほど、世界が神秘的になっていくのを実感していますね。音も、浅いところだと、パチパチとか、ボートのエンジン音ような人工的な音とかが聞こえてくるんですけど、そういう音も段々聞こえなくなってきて、私1人だけのように感じるところなんですよね。」
●周りは真っ暗ですよね?
「潜る海によって変わってきますね。潜った場所は神奈川県の真鶴沖だったんですけど、結構濁っているんですよ。私もそのとき『海の中は真っ暗なのかな?』って思っていたら、意外と砂地が見えたんですね。うすぐらい緑の世界の中で、ぼんやりと砂地が見えたときは『見えるんだ!』って思いましたね。
これが沖縄で100メートルぐらい潜ったことのある方に聞くと『100メートルはまだ明るいよ』って言いますね。また、今年の4月に行ってきた、バハマのブルーホールだと、潜る場所が、筒状の長いホールになっているんです。幅が狭いので、50メートルぐらい潜ると、目を開けていると閉じているか分からないぐらい、真っ暗闇なんですよね。1回怖くて上がってしまったことがありますね。」
●そんなに真っ暗なんですね。
「そうですね。そういうところに行くと、70メートルや80メートルの世界は真の真っ暗闇ですね。そこで競技をしたりするんですけど、1番下にボトムプレートという、ロープの先端に付いているプレートがあるんですね。そこにはライトが付いていて、そこにある札をもぎ取って帰ってくるんですけど、ライトが下の方でぼんやりと光っていると、宇宙船に静かに降り立って、到着して、札を取ったという感じがしました。」
どこかで海を意識しているような生活になった
●フリーダイビングで、色々な海に潜ったことがあると思うんですけど、「ここがすごくよかった」という海があれば教えていただけますか?
「1番気に入っているのは沖縄の海ですね。」
●日本の海なんですか! 意外です。海外の海かと思っていました。
「海外の海ってあまりにも素晴らしすぎて、非日常的な感じがするんですよ。バハマのブルーホールとか、エジプトの海とかって、“素潜り天国”といわれるぐらい、フリーダイビングがしやすい海なんですね。とても美しいし、生き物も豊富で、天国のような感じなので、私は好きなんですけど、それに比べて、波の荒い沖縄の海は、毎回船酔いをするんですけど、ホームに帰ってきたような、落ち着きがありますね。沖縄の海ならではの、ちょっと濃い青色も好きですね。あと、私のおじいちゃんは沖縄の漁師さんだったんですね。」
●では、前から沖縄と縁があったんですね。
「ありますね。」
●ということは、海とも昔から縁があったんですね。
「たどっていけば、そうですね。私は海と縁遠いところで生まれて、海と関係ないところで育ってきたんですけど、今では海を見ると『潜ってみたらどうなんだろう?』とか考えちゃいますね(笑)。あと、日頃の考え方も変わってきたりしていますね。」
●どんな風に変わったんですか?
「どこかで海を意識しているような生活になってきました。“海を守りたい”という気持ちも芽生えてきましたね。“海を守りたい”という気持ちは、突然でてきたわけではないんですね。フリーダイビングを始めて、色々な海に行って、キレイな海をたくさん見ることができるんですけど、そうではない海も見てきたんです。カメとかがいるキレイな海だけど、傍にビニールが浮いていたり、プラスチックが流れついているビーチを見たんですね。それがすごくショックを受けたことがありました。海を好きになってきたと同時に、そういう部分が気になってきましたね。」
●海を守る活動をしているんですよね。
「そうですね。まだ立ち上げたばかりで、これからの話なんですけど、NPO法人で『エバーラスティング・ネイチャー』という、ウミガメの保全活動をしている団体があるんですね。そことパートナー・シップを組みまして、海の環境保全のPR活動を共にしていく“マリン・アクション”というプロジェクトを、今年7月に立ち上げました。そのNPO法人は“ELNA(エルナ)”と呼ばれているんですが、私はフリーダイビングを通して、ELNAの活動を世の中の人にPRして、もっとみんなで海を守る意識を広げていこうという活動をしていきたいです。ELNAは、私のフリーダイビング活動を応援していただくということをしていただいています。
ELNAは、アジアや小笠原諸島にある“カメセンター”での活動や、色々なところでウミガメを守る活動をしているんですね。千葉では、館山でウミガメが、ストランディングという死んだウミガメが打ちあがっているそうなんですね。それを調査しにいって、それがどういう種類で、死因は何だったのかなど、個体調査をして記録する活動をしているんです。ELNAの活動を1度見にいったことがあったんですけど、ウミガメの亡骸を、最初はサイズを測るところから、最終的にはお腹を切り開いて『このカメは何歳ぐらいで、どういうことが起きてここに打ち上げられたのか』ということを調べて、データとして保存しているんですね。やっぱり、胃の中を開くと、プラスチックが見つかったりするんですね。それを傍で見ていて、ショックを受けました。
ニュースとかでは、そういうことを見ていたんですけど、実際に目の前にいる大きなウミガメのお腹の中から、私たちの生活からでたゴミがでてきたりするとショックでした。それで、今すぐ何ができるのかというと、なかなか思いつかないんですけど、こういう保全活動をしているということを知ってもらうことと、私たちはゴミを出さないとか、遊びにいったついでに、下にある見つけたゴミを拾って帰ってくるなどの意識を広げていくということから始めていきたいと思っています。」
●なるほど。というわけで、今回のゲストは、フリーダイバーの平井美鈴さんでした。ありがとうございました。
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