2011年1月30日
都会の中にある貴重な森「PLATINUM FOREST」の魅力と、 そこから見えてくる自然のよさ
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、川口和之さんです。
写真家の川口和之さんは、大都会・東京に残された貴重な森を写真に収めるという活動をしていらっしゃいます。今回はそんな川口さんに、東京の森についてのお話などうかがいます。
日々変化しているのが、東京という街の魅力
●今回のゲストは、写真家の川口和之さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●川口さんは、2011年2月11日からコニカミノルタプラザで、大都会の中にある貴重な森を撮影した写真が展示される写真展「PLATINUM FOREST(プラチナフォレスト)」を開催します。今回はその“PLATINUM FOREST”のことや、川口さんが撮影する写真のことについて、色々とお話をうかがっていこうと思います。まずお聞きしたいのが、今回の写真展のタイトルにもなっている“PLATINUM FOREST”ですが、これはどういったものなんですか?
「これは私の造語なんですけど、目黒に“しろかねの森”と呼ばれているところがありまして、国立科学博物館の関連施設である、自然教育園というところがあります。そこに、白金長者が室町時代に建設した豪族の館があったことから“しろかねの森”と昔から呼ばれていました。そこから、今の白金という地名に由来しているんですけど、その“白金”と“PLATINUM”をかけたのと、そこ以外にも、山手線の内側には、非常に貴重な森がたくさんあって、その“貴重な”と“PLATINUM”もかけて、“PLATINUM FOREST”という名前にしました。」
●この言葉には、2つの意味があるんですね。でも、川口さんはどうして、山手線の内側にある貴重な森を撮ろうと思ったんですか?
「元々は、自然を相手に撮影をしているわけではなくて、街の写真を撮ってきました。特に東京は街の変化が激しくて、例えば、私が住んでいる街のすぐそばに、200メートル四方ぐらいの広さの、戦後すぐぐらいからあるような街があったんですけど、その街がある日突然なくなるんですよ。」
●それは新しい建物を立てるために、開発されたということですか?
「そうなんです。今では、そこは40階建てぐらいの高層ビルに変わっているんですね。東京では、ほんの数ヶ月の間に一つの街が消えていくというようなことがたくさんあるんです。そのことがキッカケで、『変わっていく風景を記録していきたい』という思いから、東京の街を撮り始めました。
そんな中、しろかねの森に行くキッカケになったのは、すぐそばに庭園美術館がありまして、そこに初めて行ったときに、予想以上の深い森があることに気がついて、入ってみたら、すぐそばに首都高の道路があるんですよ。白金という、高級住宅地の真ん中にあるというロケーションにも関わらず、なぜこのような状態で残っているのか、そこにすごく興味がでてきたことがキッカケです。」
●移り変わる東京を残していきたいという思いがあったということですが、そんなにも東京の街は変化しているんですか?
「私は7年しか東京には住んでいないんですが、注意深く見ていると、その7年間でも相当変わりました。街はなくなっていたり、道が新しくできていたりしているので、すごく変化が激しいですね。その反面、全く変わっていないところもあるんです。それは自然環境を大事にしようと、国や東京都が大事に管理している部分もあったりして、そのギャップの面白さもあって、今回のようなテーマで写真を撮って、発表しようと思ったんです。」
●ギャップというところで、先ほど話していた、森の横に首都高が走っていたりしているように、そういうギャップがあるところも、東京の森の特徴の一つだったりするんですか?
「そうですね。その中で、一番変わっていないと思うのは、皇居や赤坂御所です。ただ、あそこは宮内庁が管理しているから、一切入れないし、撮影することもできないんですけど、昔から、皇室に関係している施設って、すごく大事にされていますよね。その変わりなさというのは、相当な人数の手が毎日のように加わっていて、大事に保存されているということを、そこに通い始めると実感してくるんですよ。そういう部分の面白さもありますね。」
●撮る上で、大変なところってあるんですか?
「自分が気に入った写真を撮りたいと思ったときに、写真を撮っている人なら分かると思うんですけど、季節ごとで撮った場合、翌年に同じようなロケーションで撮りたいと思うことってあるんですよ。ところが、比較的同じような風景であっても、同じような写真が撮れないですよ!」
●それはなんでですか!?
「先ほど、管理するにあたって、相当な人数の手が加わっているということを話しましたけど、それによって、植生が変わっていたり、季節的に同じような時期であっても、花の咲く時期や散る時期など、季節ごとの微妙な違いなどがあるんですよね。」
他の都会にはない緑の空間は、 管理している人々の努力のおかげ
●東京の山手線の内側にある森について、もう少しお話をうかがっていきたいんですけど、実際に、山手線の内側には、そんなに森がたくさんあるんですか?
「先ほどお話した皇居や赤坂御所以外では、大きなところだと新宿御苑だったり、一番鬱蒼としているのは明治神宮ですよね。神宮外苑一帯って、ご存知だと思いますけど、大正時代初期に日本全国から何万本という木が植樹され、人工的に作られたところですけど、人工的に作られたにも関わらず、そこに元々あったような風景を形成しているんですよね。これも、管理していく努力ってすごいと思いますし、お正月には何百万人という人が訪れるにも関わらず、変わらない姿をずっと保っているんですよ。その点も意識してみるとすごいことだし、面白いんですよね。」
●川口さんは“手を入れている森”、“管理されている森”という表現をよく使いますけど、東京に元々あった自然の森ってないんですか?
「例えば、皆さんは、しろかねの森って元々あった森だと思っているかと思うんですが、元々は白金長者の館で、そこから江戸時代には松平公の屋敷があって、明治維新後に皇室のものになって、一時期は陸軍の大学校になったりしたんですね。そういう変遷を経ているにも関わらず、森をそのまま残しているんですよ。元々は回遊式の庭園があって、その跡が残っていたりしていたんですが、今は科学博物館の所管になっているんです。都会の中であれだけ自然のままの環境を残そうとしても、そのまま何もしなければ、植生が変わっていくので、今のような姿にはならないんですね。だから、変わらないようにするための努力を、しっかりとされていると思います。」
●それは知らなかったです!
「今ではシュロの木が増えてきているんですね。都会の中心でシュロの木が群生しているというのは、食べた種を、鳥がそこに落として、それが自然に生えてきて、大きな木になっていくという感じなんですね。なおかつ、倒木の後って、日当たりがよくなるので、植生が変わるじゃないですか。そういった繰り返しを、管理している人たちが、意識的に作ろうとしているんですよね。今現在は、かなり深い森になっているので、四季折々で楽しめるので、東京の真ん中にいるとは思えないようなところが、あそこの面白い点ですね。」
●それは行かないと損ですよね!
「公園ではなく、あくまで“自然を観察するところ”という位置づけで、作られて管理されているところです。」
●「自然の中でリフレッシュしたいな」と思うと、遠くに行かないといけないと思い込んでいたんですが、こんな近くに、しっかりと手入れされた森があるのであれば、行かないと損ですよね。
「本当そうですよ。」
●東京にいると、自然がたくさんあるという実感があまりしなかったんですけど、ネットなどで見ると緑がいっぱいあったりするんですよね。
「山手線の内側に限定しても、緑の空間がたくさん見えるというのは分かると思うんですね。大きなところだと、皇居が圧倒的ですけど、他には小石川にある、東大付属植物園も大きいし、その近くにある護国寺の森とか、六義園などもありますね。
名古屋や大阪など、他の大きな街では、こういう大きな緑の空間ってなかなかないですよ。都心に、こんなに大きな手付かずの緑の空間が残されるというのは、まず見当たらないですよね。そういう意味で、山手線の内側で限定すると、非常に珍しいと思います。」
東京に住んでいる人たちの、森を守ることへの意識は高い
●大都会の自然を撮っているときに、その自然が少なくなってきているということを感じたりしますか?
「面積的に少なくなってきているかどうかというと、東京の山手線内は、ほとんど開発し尽くされているので、残っているところがこれから開発されるということはありえないと思います。例えば、新宿御苑を新宿駅西口のような高層ビル街にするというのは考えられないですし、明治神宮の森に手をつけることはないですよね。それと、小さな公園でも、戸山ハイツの周辺にあるところなど、少しでも残しているところもあったりするんですね。あと、青山墓地にある桜はすごいですよ。まぁ、あれは森ではないので、それを緑と言ってもいいのかという部分もありますけどね(笑)」
●(笑)。ということは、面積的にこれ以上少なくなることはないんですね。
「これ以上減ることはないと思います。」
●東京に住んでいる人たちの森を守ることへの意識って高いんでしょうか?
「おそらく高いと思いますよ。最近特にすごいのは、高尾山などに登る人が、昔と比べると増えてきていますし、自然を愛するという気持ちは高まってきていると思います。でも、自然に触れるためには、時間がかかりますよね。今回発表した写真は、例えば渋谷に行くついでに寄っていっても不思議ではない距離ですし、新宿だったら新宿御苑に夜に1~2時間だけでも行けば、気分がリフレッシュされると思うので、東京に住んでいる人なら誰でも簡単に行けるところばかりです。5月のゴールデンウィーク明けに行ったりすると、人は少ないし、新緑の力強い風景を至る所で見ることができますので、オススメですね。」
●都会の森を楽しむコツってありますか?
「漠然と歩き回るのではなくて、時々立ち止まったり、上を向いてみたり、しゃがみこんだりして、興味のあるものを観察してもらいたいですね。単に歩いているだけだったら、そういった楽しさを見つけることはできないですよね。よく観察することによって、色々な生物を発見することができるんですよね。」
●どんな生物がいるんですか?
「やっぱり昆虫が多いですね。あとは鳥も多いですね。山手線の中にカワセミがいるなんて、ほとんどの人が知らないと思いますよ。」
●実は、先日、バード・ウォッチングをしに、葛西臨海公園に行ってきたんですけど、山手線の中でもカワセミのような美しい鳥を見ることができるんですね!
「そうですね。」
●是非、見たいんですけど、どこに行けばいいですか?
「小石川にある、東大付属植物園にいますね。あと、しろかねの森にサギなど、結構大きな鳥がいます。」
●そうなんですか! それはいい情報をいただきました(笑)。先ほど紹介してくれた場所以外に、川口さんがオススメする場所ってありますか?
「すごく規模が小さいんですけど、五反田からすぐ近くにある“池田山公園”というところがあるんですね。家ばかりが立ち並ぶ住宅街の中に、ポツンとあるんですよ。でも、割と大きな規模の公園で、しかも高低差がすごくあって、その高低差を生かした回遊式の庭があるんです。その公園には木が多いので、その真ん中にいると、周りに住んでいる人たちの生活感が全く感じられないという、すごく不思議な空間ですね。」
●一歩足を踏み入れると、別世界が広がっているんですね。
「東大付属植物園の場合は、奥に入っていくと、まるで山の中にいるような風景を見ることができるんですよ。明治以前からあるような巨木や、日本に最初に入ってきたメタセコイアなど、100~200年単位の木がたくさんあって、そういった風景って、山の中に入ってもなかなか見ることができないんです。山は完全に管理されていないんですよね。昔の里山だったら、住民の方が毎日のように手を加えて、その環境を保護していましたけど、今の山はそこまで手が加わっていないんですよ。逆に、都心にあるこういった施設の方が、自然らしさを保つために手が入れているという面白さがありますね。」
自分の写真を見ることが、自然に触れるキッカケになってほしい
●今後も、大都会の自然を撮り続けていきますか?
「そうですね。今やっている“街を撮る”という活動と平行して、せっかく写真展という形で発表するので、これからも変化していかないのか、それとも変化していくのかということを見届けたいという思いがありますし、別に撮影しなくても、自然の中にいるだけで、気分が落ち着きますし、不思議な力をもらうことができますので、そういった意味でも撮り続けていきたいし、通い続けたいなと思います。」
●趣味と実益を兼ねていこうということですね。実は今回、写真展に展示する予定の写真を何点か持ってきていただいているんですけど、先ほど拝見させていただきました。どれも「本当に山手線の内側にある森なの?」と思うような、自然豊かな写真ばかりでした。
「これらは、一切嘘をつかず、その場を忠実に記録しているんですが、モノの見方によって、違った風に見えるということを出そうとしていることが分かっていただければと思っています。ある程度、大きくして展示する予定ですが、細かく見ていただくと、色々なものが発見できると思うんですね。例えば、小さな虫が発見できたりするんですよね。眺めるだけではなくて、写真自体を隅から隅まで観察してもらうように見ていただいたら、新宿ですけど『自分は今、森の中にいるんじゃないか』というような気分になっていただけると思います。」
●川口さんの写真を見ると、奥行き感があって、私も本当に森の中にいるような気分になりました。そして、写真の中で四季の移ろいもありましたけど、東京の森も、四季の移ろいは美しいんですか?
「一番いい季節って秋なんですね。色彩が豊富になってきますし、太陽が傾いてきて、光の差し方が変わってきますので、陰影が付いて、奥行きがあるように立体的に見えてくるので、そういった部分を意識して眺めると、それだけでも楽しめると思います。今回の写真を見ていただいて『こんな風景があればいいな』という気持ちで、新宿御苑や、しろかねの森に行っていただければ、『ここは、あの写真展で見た風景だな』って思うのではないかと思います。」
●そういう楽しみ方もあるんですね。私も是非、写真展に行かせていただきたいと思います! というわけで、今回のゲストは、写真家の川口和之さんでした。ありがとうございました。
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