怪しくて不思議な植物の世界
今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンのゲストは、植物先生! 菅原久夫(すがわら・ひさお)さんです。
菅原さんは1943年、宮城県生まれ。横浜国立大学卒業後、生物の先生として約30年間、教鞭をとり、そのかたわら、植物研究のために国内外のフィールドに出かけ、特に富士山の植物調査や研究はライフワークとなっている、まさに“植物先生”! これまでに植物関連の本をたくさん出版されていますが、そんな菅原さんの一番新しい本が『だれかに話したくなる あやしい植物図鑑』なんです!
今回は、植物が身につけた凄い力や、富士山の植物についてお話いただきます。
完成された姿!?
※長年、植物の調査・研究をされている菅原さんは、植物のどんな点が凄いと感じているのでしょうか?
「植物は動かない。動けないのかもしれないんですね。でも私がやっぱり素晴らしいなと思うのは、この現在の地球上にいっぱいある、水と二酸化炭素、あとは嬉しいことに太陽の光もいっぱいあるわけですね。ですから、これだけで生きていけるっていうのは、考えてみると本当に凄いことだと思います。誰ともケンカしなくてもいいですし、追いかけて食べなくてもいいですし、本当に凄いなというふうに思います。
この地球という星で、長い時間をかけて進化して、ひとつの生き方を獲得したのが植物たち。それはやはり、自分たちの生き方を長い時間をかけてつくってきた、ひとつの“完成された姿”だろうと思いますね。そういう意味では、植物っていうのは全ての生物が生きる土台を作ってくれていますので、凄いなと思います。
もうひとつ感じるのはですね、地球という星にはいろいろな環境があるわけです。もちろん、赤道付近の熱帯で雨が多くて、植物の生活に物凄く適したところもある。でも、緯度が高くなって、北極や南極に向かっていくに従って、今度は高い山があったり、海があったり、それから砂漠があったり、雨がほとんど降らないような場所とか、降水量も全然違ってしまいます。そういうあらゆる環境に植物たちは生きる場所を見つけて、そこで適応して生きている。
多分、最初は熱帯の温かい、環境のいいところで植物はスタートしました。一番最初は“木”だったんですけどね、それが環境が厳しくなるにつれて、木だけでは生きていけなくなって、草になり、それから一年草の植物になり……っていうふうにして、あらゆる環境に適応していった。ですから、高い山でも氷に覆われていない限り、生きる場所を獲得して生活している。地球のあらゆる環境に適応している。そこでたくましく生きている。これがやっぱり植物の素晴らしさだろうなというふうに思います。
植物は動けない代わりに、どうやって花を咲かせようか(工夫します)。動けるのは2回だけなんですね。花粉を飛ばしたりしてタネを作らないといけない。それから、作ったタネは自分の下に落としたくないんですね。自分の下に落としちゃいますと、親と子供でケンカしちゃいますので、出来たら遠くへ運んでもらいたい。それには風を利用したり水を利用したり、鳥や動物を利用したり……地球のすべてのものを利用するんです。
それから、タネが出来たら、それもやはり地球のすべてのものを利用しながら子孫を残すということをやっている。動けないけれども、生きるすべをきちんと獲得しているんですね。そして、きちんと時間もコントロールして発芽して花を咲かせて、そして花が咲いている時には昆虫もいっぱい来てくれて……ということを、やはり(植物は)やったんですね。
植物は脳っていうものはなくても、ちゃんと生きる術を持っている。それは適応とか進化と言っているんですけれども、そういうものを獲得しながら今日まで生きている。ですから、そういう意味ではやはり凄いなというふうに感じますね」
昆虫の口をふさぐ!?
※続いて、誰もが知っているお馴染みの野草について、こんなお話をしてくださいました。
「タンポポを取って綿毛を飛ばしたりして遊んだりしたことがあると思います。タンポポはキク科の植物なんですけど、タネを一番上の方まで上げますが、面白いのが、花が咲いている時には低いんですよね。それで、あとは寝ちゃうんです。そして、熟してくると花茎をずっと高いところまで伸ばしていって、そこでタネが綺麗なパラシュートを作って、それで風で飛んでいく。ですから、花の時期と果実を飛ばす時期では、ちゃんと時間をずらしているんですね。
そして、あともうひとつ。みなさんタンポポを取った経験があると思いますけど、ちぎると白い汁を必ず出します。これはタンポポの特徴なんですけど、その汁は空気に触れますとすぐにベタベタした粘液を出します。これは自然のゴムなんですね。ゴムタンポポっていう植物もキク科であるんですけども、そういう粘性を出すんです。
それは多分、昆虫に食べられたくないんですね。ですから、昆虫の口をゴムで固めちゃおうっていう、そういう作戦ですね」
*さらに、ちょっと苦味のある、あの野菜が身につけた、とっても凄い生き残り作戦についても教えてくれましたよ!
「ゴーヤなんていうのは、多分みなさん今年も食べられたと思うんですけど、食べるときはちょっと苦味があって緑色だったり青い。でも、熟してくると黄色くなるんですね。最後にはですね、その果実が割れて、そして中から真っ赤なタネを出します。多分、みなさんは気がつかないと思います。青いうちに食べちゃうと白いタネしか見られないんですけども、熟したやつは真っ赤な綺麗な色になります。そのまま食べても甘くて、タネだけ捨てれば大丈夫です。
これも、なぜだろうって考えるんですけれど、多分、青いうちは動物に食べられたくない。タネが熟していないですから。タネが熟したら、食べてもらいたい。黄色くなって熟してきて、そうすると鳥や動物が“いよいよ食べられるな、食べごろだな”と見ていて、そして割れると中から真っ赤なタネが出てくる。そしたら、食べてもいいですよっていうサインなんですね。そうすると鳥などはそれを食べてあちこちにばらまいてくれる。
ですから、私たちは苦いのが美味しいと思って食べているんでしょうけども、植物はまだ熟していないうちに食べられちゃうと困るんで、野生の動物にとってのサインとしては、やっぱり赤くなったタネ。そしてそれを食べてもらって、分布を広げてもらうんですね」
<紅葉のメカニズム>
今回は植物たちの不思議な生態についてお話をうかがっていますが、植物といえば、落葉広葉樹が秋から冬にかけて紅葉し、葉を落とすメカニズムも不思議ですよね。
千葉県は日本国内でも特に紅葉が遅いことで知られ、有名な養老渓谷(ようろうけいこく)で11月末から12月初めにかけてが見頃と、「日本一遅い紅葉が楽しめるスポット」のひとつとして人気があります。
紅葉でいちばん不思議なこと、それはなぜ赤くなるものと、黄色くなるもの、そして、茶色になるものがあるのか……? ちなみに、黄色くなるのは「黄葉(こうよう、または、おうよう)」、茶色くなるのは「褐葉(かつよう)」と呼ぶそうですが、全部ひっくるめて紅葉と言うことが多いですよね。 実は、その色の違いはズバリ! 葉に含まれる色素の違いなんだそうです。紅葉する前の葉は、葉緑素「クロロフィル」のため緑色に見えますが、秋になり日照時間が短くなると、クロロフィルが分解されます。その分解の過程で「アントシアニン」という色素が作られる木は葉が赤くなり、「カロテノイド」という色素が作られる木は葉が黄色くなります。また、タンニン性の物質がほかの物質と結びついて、褐色の色素が作られる木は茶色くなる、ということのようです。
そして、光合成が十分にできない冬を前に葉を落とすことで、無駄な水分や養分が消費されるのを防ぐんです。厳しい冬を乗り越えるための植物の知恵、凄すぎます!
今年も紅葉が美しいシーズンになりますが、植物が生きるための知恵に思いを巡らせながら見るのもいいかもしれませんね!
富士山で生まれた植物!
※それではここで、菅原さんがライフワークにしていらっしゃる富士山の植物、その特徴について解説していただきましょう。
「火山というのはやはり、富士山のひとつの大きな特徴ですね。そして植物も動物も何もなかったところに、火山砂礫(されき)や溶岩が流れたところにですね、やはり植物が入ってきて、動物が入ってきて今の森がつくられているんですね。
そういうことでは、森がつくられていく様子を見るという意味では、富士山は大変面白い。火山だからこそ見られる自然があるということが、ひとつの特徴だと思います。
そういうことで、急に太平洋側に、高い山がポツンと出たものですから、高山植物っていうのはあんまりないんですね。富士山では多分、火山が噴火して火山荒原って言う、つまり、荒れた土地ですね、砂や石ころばっかりゴロゴロしたようなところで、溶岩がある。そういうところに森はどうやって入ってくるだろうか? そういうのを見ることができます。
そういう意味では、皆さんよくご存知の青木ヶ原樹海なんていうのは864年に溶岩が流れまして、約2年間流れて何もない世界をつくったんですけれども、1100年以上経った今、森ができている。そうすると、何にもないところから森ができて、原生の自然がそこに残っている。そういう点ではまた面白いですね。
フジアザミっていう植物もあるんですね。頭の大きさが日本最大のアザミなんです。頭花(とうか)と言いますけれども、キク科で、どうもこれは富士山で生まれたらしいということです。火山がある富士山の、噴火する荒地でフジアザミという植物が、多分お母さんがいるんでしょうね、それから進化して、そのフジアザミができたんですね。
分布を調べますと、富士山が中心ですので凄く多くて、ずーっと広げていくと中部ぐらいになるとだんだん少なくなっちゃうんですね。東北地方とか、もちろん南の方には分布していません。富士山を中心にしたところにしか分布していないんです。これは富士山で生まれた植物だろうというふうに考えられています。
そういうふうにして、富士山で新しく誕生した植物も出てくる。これもひとつの富士山の特徴かなと思います。富士山は大きいので、山麓が凄く広いんですね。ここには素晴らしい森があります。ブナの森があり、溶岩の上にできた原生林があり、それから針葉樹の森など、素晴らしい森があります。ですから、私が富士山を歩いていて思うのは、皆さんは5合目まで行ってから、ただ単に上まで登っちゃうんですけど、下の森が本当に素晴らしいんで、本当の素晴らしい自然を味わって欲しいなっていうのは、強く感じますね」
植物を感じる時間
※最後に、菅原さんが感じた富士山の植物の変化について、お話いただきました。
「最近、私がちょっと興味を持っていることのひとつはですね、富士山の頂上にタネをつける植物、種子植物っていうのが(出てきたことなんです)。今まであそこは、もうすぐで氷の世界になっちゃうところだったんですね。ですから、もうほとんど植物はないだろうって考えられていました。大正の頃の研究者、武田久吉(たけだ・ひさよし)先生は、山頂には全く植物がないということをきちんと記録されています。ところが最近、増えているんですね。私が調べてみたら、8種類ぐらいの植物が出てきているんです!
ですから毎年、富士山の頂上の植物を調べたりしているんですけれども、地球の温暖化か、人間が毎年30万人ぐらい登りますので、人間の影響か……。それから、上のほうで生活するために山小屋の人たちはブルドーザーを使って荷物を運んでもらわなくちゃいけないもんですから、ブルドーザーが上がってくる。……あっ、そうするともう、人間の生活の影響を受けているなって思うんですけれども、富士山の山頂といえども、環境が少しずつ変わってきて、そして自然の様子も少しずつ変わってきているのかなっていう感じがしています。
まぁ、私たちが自然とどう付き合っていったらいいかっていうのはだいぶ難しい問題なんですけれども、植物に生かされていますので、植物のことに触れながら、植物のことを感じたりする時間を持ったりしていただきながら過ごしていただけたらな、というふうに感じますね」
INFORMATION
新刊『だれかに話したくなる
あやしい植物図鑑』
ダイヤモンド社 / 税込価格1,100円
菅原さん監修の図鑑。葉っぱで温室を作る「セイタカダイオウ」や、人に踏まれれば踏まれるほど子孫を増やす身近な野草「オオバコ」など、とにかく、あやしくて面白い植物の話がたくさん! イラストや漫画がふんだんに使われていてわかりやすく、まさにだれかに話したくなるネタが満載です! ぜひ読んでください。