自然/環境にまつわるインタビューや雑学、写真など、番組で放送した内容を随時更新していますのでぜひお楽しみ下さい

2019年11月23日

自然豊かな里山を次の世代へ
〜「第3回 里山と生きるフォーラム」取材レポート

 今週のベイエフエム/ ザ・フリントストーンは、「第3回 里山と生きるフォーラム」の取材レポートです。

 このフォーラムでは、「かけがえのない、日本の自然豊かな里山を、次の世代につないでいくために」というテーマのもと、里山や地域を大事にしながら、それぞれの分野で頑張っている方々が集いました。
 シンポジウムに登場した顔ぶれは、基調講演も行なった水族館プロデューサー・中村元(はじめ)さん。安心安全な食べ物を通して生産者と消費者をつなぐ「食といのちを守る会」代表・青木紀代美(きよみ)さん。千葉県大網白里市で地域に根ざした不動産管理を行なっている「大里綜合管理」の社長・野老真理子(ところ・まりこ)さん。そして、埼玉県入間郡(いるまぐん)で産業廃棄物の中間処理業を営む「石坂産業」の社長で、「里山と生きる協会」の会長・石坂典子(のりこ)さんです。石坂産業は、東京ドーム4個分ほどの広さがあり、その敷地の8割は手入れの行き届いた里山! 石坂さんは産廃業者のイメージを一新した人として、国内外から注目されています。
 今回は、そんなシンポジウムを通して、かけがえのない里山について考えていきます。

かけがえのない資産“里山”

※まずは、今回のフォーラムのプロデューサーで、「里山と生きる協会」の発起人のひとりでもある、経営デザイナー・中島セイジさんに、里山と生きる協会についてお話いただきました。


(左から)フォーラムのプロデューサー「中島セイジ」さん、
石坂産業の「石坂典子」さん、水族館プロデューサー「中村元」さん、
食といのちを守る会の「青木紀代美」さん、大里綜合管理の「野老真理子」さん

中島さん「四季ある日本にとって、里山とはまさに“かけがえのない資産”と言えると思うんですね。そして、日本ならではの文化や感性を生み出した礎が、まさに里山ということなんですね。
 私たちは3年前に、この“里山と生きる協会”をつくり上げたわけなんですが、これは石坂産業の石坂典子さん、そして里山と関わるいろんな経営者や人たち、その発起人たちが手を合わせて“次の時代に、この里山をどう受け継いでいくのか。そこをテーマにした協会をつくろう!”ということでつくりました。

 やっぱり今の時代というのは、いろんな先端技術がたくさんある。だからこそ、その先端技術だけに捉われることなく、日本の文化であり、この価値観をしっかり次の時代につないでいく。そのためには、里山はかけがえのない存在だということで(協会を)発足したし、そこを基軸にしてこれからも展開していこうと思っているわけです」

文化と歴史のエリア

※フォーラムの始めに「里山と生きる協会」の会長・石坂典子さんから、里山についてこんなお話がありました。


「里山と生きる協会」の会長「石坂典子」さん

石坂さん「皆さん、きょうは“里山”というキーワードで参加してくださっているので、“もう十分、里山のことは知っているよ”という方もいらっしゃるかなと思うんですけれども、おさらいしますね。
 今、日本の国土の面積の7割は森になっているわけですよね。そのうちの実は4割ぐらいが里山、いわゆる人の手によって育まれてきた場所になっています。ところが、この4割が、最近どうなっているかというと、ちょうど私が生まれた頃から……というのは言い過ぎかもしれないんですけど、どんどん時代が変わりまして、もう里山に手をつけることがなくなってしまったんですね。
 結果、どうなってきているかというと、管理されない、人の手が入らない里山は、どんどん崩壊。生物多様性が崩壊し、たくさんの環境問題へと発展しているわけです。ちょうど私どもの会社の、農業に守られてきた森が、どんどん都心に勤められる方が増えてしまって、結果として管理されなくなる。そうすると、植生が変わり、動植物が変わってきて、崩壊してしまった。そこは不法投棄がされるような場になっていった。

 それを私どもは企業として、地域にどんな貢献ができるかなと、そんなことを考えながら始めたのが、“里山再生”。そういうことに取り組ませていただいたんです。
 ただ、昔のような里山の守り方は、今は出来ない。じゃあ、今の日本の国土の4割、失われつつある生物多様性の里山を、私たちはこれからどうやって利活用していくのか。そんなことを、きょうはたくさんの登壇者の方たち、実際に活動されている方たちのお話を聞いていただきながら、みなさんの地域、みなさんの企業の責任、またそれぞれの地域の方たちの活動の一環として再度、この里山を復活させることは出来ないか、ということを考えていきたいんですね。

 本当に里山は、日本の最も誇れる、いわゆる文化と歴史のエリアだと思うんですよね。そういったものを、どうやって保全活動しながら地域社会と密接に関わっていくのかっていうのは、ひとつの大きなテーマかなと思うんです。
 私どものエリアは、農業用の里山管理は出来ないものですから、今はたくさんの子供たちに“学びの場”として、“環境教育フィールド”として展開しています。いろんな使い方があるんじゃないかと思うんですよね。いろんな里山の再生の仕方があるんじゃないかなと思うんです。そんなところを、みなさんの意見も聞きながら、私どもももっと勉強していきたいと思いますし、逆に日本全国あらゆる里山がより一層、また地域の特性となることを私は願っています」

自然が保たれてきた理由

※今回の基調講演は、水族館プロデューサー・中村元さん。中村さんは北海道・北見の「山の水族館」「サンシャイン水族館」「新江ノ島水族館」など、地域やその場所の特性を活かし、集客に結びつける水族館作りで定評があります。そんな中村さんの講演から、里山についてのお話です。


水族館プロデューサー「中村元」さん

中村さん「日本の里山が荒れるようになったことって、今までに2回あるそうです。もうダメじゃないかという、日本のこの森に囲まれた国土に、ハゲ山がいっぱい出来てきたことが、2回ある。
 1回目は、神社仏閣がいっぱい中国から伝来してきた時。真似をして神社を造らなくちゃいけなくなった。その時に、木、要るわな。木がそのまま要るわけじゃなくって、いろんなもの、例えば瓦を焼いたりとか、何かを鋳造したりする時に、焚(く)べる木が要るんです。焚べる木は、里山の木。そして大きな木は、森の木。それでブワァーーーーっと減ってエラいことになったんで、徳川家の誰かが“もう伐採したら、あかん!”ってことに決めたらしいのね。“伐採したら、あかん!”ってトップの人が言えるっていうのは、よかったですね。

 次のダメな時っていうのは、明治維新の時です。この時はやっぱり、火力にするための木が必要だったんですね。だから、よそからの文明が入ってきた時に、日本の里山だとか、あるいは森だとかは危機に瀕するんです。その時に、危機に瀕しただけで本当になくならずに、今も残っている。何度も何度も危機に瀕しているのに残っているのは、なぜか。山の神様だとか、妖怪だと思うんです。

 山と対話が出来なかったら、海と対話が出来なかったら、川と対話が出来なかったら多分、それを何とか取り戻そうっていう気持ちにはならなかったでしょう。経済的なことだけ考えて、あるいは利便性だけを考えて、今の利益だけを考えてやっていたら、そんなものは利用し尽くしたほうが得なんですよ。でも、利用し尽くせなかったっていうところに、僕は多分、日本人の心に持っているものがあるんじゃないかな、っていうふうに思うんです。

 最初の話に戻ります。日本が唯一、先進国で多神教の国です。だから、たくさんの自然が残っています。なぜ、多神教だと自然が残るのか。多神教のことを、アニミズムと呼びますね。アニマです。アニマっていうのは、動物という意味です。動物だとか生き物のことです。生き物の全てを中心に考える、それがアニミズムです。精霊主義とも言います。生き物には霊が宿っている、だからそれにいろんな力がある。

 “いや、そんな力ないよ”・・・そうでしょうか? 化学のほうがあるでしょうか? 機械のほうが力があるでしょうか? 経済のほうが力があるでしょうか? いや、僕は違うと思います。なぜなら、先ほど言ったように、今まで日本に自然破壊の波がガァーーーって起ころうとした時に、その時の為政者か、あるいはその時の学者が食い止めることが出来たからです。食い止めることが出来たっていうことは、我々の心の中に“これはマズい!”“ヨーロッパの一部のように山や森が全部なくなって丸裸になったら、後世になったら困るんだ!”っていうことがわかっていたからです! それを伝えたいというふうに思っています」

里山資本主義

※次に、千葉県大網白里市で地域に根ざした不動産管理を行ない、周辺の住民と硬い絆で繋がっている、大里綜合管理の社長・野老真理子さんです。野老さんはベストセラー『里山資本主義』の著者・藻谷浩介(もたに・こうすけ)さんのアドバイスも参考にしながら活動されているそうです。

野老さん「藻谷先生から教わって、里山っていうのは“里山資本主義”、つまり小さな経済圏を守り、そこを回していくことなんです。
 日本全体としての経済圏というところで、私ども不動産業や建築業というところでは、大きな不動産業としてのしっかりとしたマネージメントをして、黒字にしていくっていうことは大事なことだと思っています。
 けれども、もうひとつ。朝、お弁当を作ってきて、それを300円で売って、10円の利益を出すっていうようなことを、我が社の社員さんたちはひとりひとつずつ会社を持っていて、いろんなことをやってくれているんですね。そうやって、今あるものを加工して誰かのお役に立って喜ばれてお金を貯めていく、っていう訓練を今はしています。

 両輪使いじゃなきゃいけないと思っていまして、里山資本主義だけでは会社は潰れてしまう。でも、資本主義だけでは小さな里山が潰れてしまう……っていうところで、このバランスをとりながらやれるのは、経営者しかいないと思っています。経営者っていうのは、マネージメントシステム。税金をもらって生きていくわけではない私たち起業家が、しっかりとその場に立って、課題を“我が課題”として、どうやってマネージメントしていくかっていうところで、私としては、本当に小さな街の、小さな不動産会社としてやってきて26年なんですけども、しっかりと自分の役割だと思って、そこを大事にしてきました」

暮らしを見直す!

※続いて、産業廃棄物の中間処理業を営む石坂典子さんから、こんなお話がありました。

石坂さん「“産廃処理会社が、そもそも里山を守って一体何になるんだ?”と、こういうふうによく聞かれることがあるんですね。実は、地域社会のいわゆる“助け”っていう意味合いもありますけれども、私はもっと深いところでお伝えしたいことが、やっぱりあるんです。
 きょうは若い人たちもいて、サスティナブルという言葉がようやく日本国内でも聞かれるようになってきましたが、そもそも今までの私たちの生活は一方通行じゃなかったですか? そこを今、もう一度振り返りませんか? そんなことを私としてはお伝えしたいなと思って活動しているんですね。

 なぜならば、私どもの会社には建設系の、いわゆる建物を壊したあとの廃棄物がたくさん来るんですよね。たくさん来るんですけれども、みなさん“料金を安くして欲しい”“廃棄物をより安く処理して欲しい”そういう要求をされることがあるんです。どちらかというと、川下産業とも言われます。
 そういう中で今、社会は何を変えようとしているか。ゴミの問題も含めて、生物多様性の崩壊も含めて、やっぱりもう一度、ものづくりを見直していく、そういう転機に立った時代だと私は思っているんですね。その時に、廃棄物から見える社会の問題っていうのはたくさんあるっていうことをお伝えしたいんです。
 里山も実は循環している。廃棄物も埋め立ててしまったら、それが全て地下水に影響し、そして微生物に影響し、そして私たちの食べ物にも影響する。そういったものを食べ育つ……。
 人もすべて、要は生態系の一部なんだっていうことを今一度考えながら、廃棄物の観点でも見てもらいたい。そして、里山というものから学んで欲しい。こういう想いがあって、活動しているんです。こんなことも、(石坂産業に)来られる人たちにはお伝えしていきたいなと思ってやっているんですね。

 要は、私どもがやっている活動と、みなさんが企業活動していることで、本当に持続可能な、サスティナブルな社会をつくる時に、一体何が担えるのかっていうことを、やっぱり経営者として考えていかなくちゃいけないなと私は思っているので、里山の守り方についても、新しい守り方があってもいいんじゃないかとも思います。先代の人たちが守ってきた環境をどうやって次の人たちにつないでいくのか……

 私たちもオーガニック(な作物)を生産しています。実際、オーガニックの生産量は日本国内のわずか1%しかないと言われていますよね。そういう中で、生産するのにも非常にリスクが高いですし、なかなか高い費用では買ってもらうことも難しいです。でも、やっぱり食べるもので私たちの体は出来ていますし、全てが循環しているって考えた時に、これからの暮らし方だったり、何かの選び方やつくり方、企業運営の仕方っていうものなど、全てが含まれているっていうような気がしているんです。
 そういう意味で、里山というキーワードをもとに私たちの生活の暮らし方を今一度、見直して欲しい。そんなメッセージで参加させてもらっているんです」

次の時代に伝えていく

※最後に、今回の「里山と生きるフォーラム」のプロデューサー・中島セイジさんに、今回のフォーラムを通して伝えたい想いをうかがいました。

中島さん「今回は、第3回目の里山と生きるフォーラムということだったんですが、今回はちょっと特別なテーマというか、そういうものを持っていました。
 ひとつは当然、中村元さんという水族館プロデューサーを呼んだ理由。これはまさに、全国で里山を活かしての……地域を活かして、って言ったほうがわかりやすいですかね、そして多くの人たちを集客する。これはまさに、その里山だからこそ出来ることだっていうこともあるんですね。
 そして、もうひとつ。大里綜合管理の野老さんに来てもらった理由っていうのは、あの藻谷浩介さん、すなわち里山資本主義を発信して有名になった方なんですが、あの方が言っているのは、マネー資本主義に対しての“里山資本主義”。すなわち、マネーだけ、経済性だけじゃなくて、その地域の人間関係、地域なればこその価値観、それを残していくっていうことを言ってくれていたんですね。まさに野老さんが今、大網白里市でやっている展開は、里山資本主義を実践するものだったんです。
 今回の里山は、ただ守るだけではなくて、その文化も含めて、その人間関係も含めて、次の時代にどう伝えていくかという、そんな趣旨で開催させていただいたということです。

 そして私は、(この番組を)聴いていただいている方々に向けて、里山は、あって当たり前“ではない”です。日本だからこそ里山があり、そしてその里山の文化というものが、そこにある。これこそ日本の価値観であり、次の時代に伝えて欲しいもの。すなわち、みなさんにしっかりと、この里山を次の時代にどうつないでいくのか、その里山の価値っていうのはどこなのかっていうことを、改めて考えていただきたいと思うわけです」

INFORMATION

 「里山と生きる協会」について、詳しくはオフィシャル・サイトをご覧ください。

 また、今回のシンポジウムに登壇された方々について、詳しくはそれぞれの公式サイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「KEEPERS OF THE FLAME  /  CRAIG CHAQUICO」

M1. FREE / DONAVON FRANKENREITER feat. JACK JOHNSON

M2. ONE LOVE - PEOPLE GET READY / BOB MARLEY & THE WAILERS

M3. 緑の道 / moumoon

M4. BACK TO THE EARTH / JASON MRAZ

M5. FROM OUT OF NOWHERE / JEFF LYNNE'S ELO

M6. EARTH / LIL DICKY

M7. 子供たちの未来へ / ケツメイシ

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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