自然/環境にまつわるインタビューや雑学、写真など、番組で放送した内容を随時更新していますのでぜひお楽しみ下さい

2020年1月18日

カリッカリッ! サクサク! 美味しい!
〜昆虫食の可能性

 今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、昆虫食研究の第一人者! 立教大学文学部・教授の野中健一(のなか・けんいち)さんです。

 野中先生は1964年、愛知県生まれ。名古屋大学卒業後、アフリカのカラハリ砂漠やインドネシアなどでフィールドワークの経験を積み、2007年から立教大学の教授に。日本の昆虫食研究の第一人者として活躍されています。
 実は、野中先生は小尾さんの恩師! 学生時代、小尾さんは野中先生のゼミを取っていました。先生が持って来た、調理された昆虫を食べた経験もあるとか……!? 今回も番組内で食レポ、やっちゃいます!
 今回の放送で、昆虫食のイメージが変わると思いますよ♪

ようやく時代が追い付いた!?

※野中先生の専門は「民族昆虫学」。一体どんな学問なのでしょうか。

「世界では、昆虫は食べ物として結構多くの地域の人々にこれまで食べられてきました。世界では2000種くらい食べられているっていう報告もあるんですけども、食べる昆虫の種類、食べかた、採りかたっていうのは各地域の人たちによって違います。
 “どうして違うんだろう? どうしてこういう虫を選ぶんだろう? どういう工夫をするんだろう?”ということを、民族の文化として調べていくというのが、この民族昆虫学です。自然への関わりかたへの強さだとか、持っている知識の豊かさを明らかにしていく学問です」

●2000種類ってすごい数ですね!

「そうですね。ただ昆虫の種類っていうのは世界でも最大の種数で、それに比べたら極々わずかなんで、食べてる人っていうのはその中で美味しいもの、役に立つものを選んでるので、その選びかたっていうことは人類にとって大きな資産になるかなと考えてます」

●昔から昆虫を食べる文化っていうのはあったんですもんね。

「そうですね。“ところにより”っていう限定はつきますけども、日本でもイナゴはほぼ全国的に食べられてきていますし、もう少し細かく見ると“食べなかった”というところもあるんですけど、広く食べられてきた代表的な昆虫の一つですね」

●今、大手量販店とかで昆虫食コーナーがあったりとか、テレビとかでもよく昆虫食が取り上げられたりとか、すごくメジャーになってきているのかなって印象があるんですけど……。

「ようやく時代が追いついてきたかなとは思ってしまいますけども(笑)、やはり古くから食べられてきた、自然の中から採ってくるっていう食材で、世界で食べられてきたっていうところに、“今まで食べていなかった人たちも、ついにその価値に気づいたのか!”という思いです」

昆虫食に挑戦!

※さあ、それでは、先生が持ってきてくださった昆虫をいただきます!!

●ゼミでも虫を食べさせられた……食べさせられたって言ったらアレですけど(笑)!

「“ムシハラ”と言われてしまいます(笑)」

●キャーキャー言いながら食べたのを覚えているんですけども(笑)、きょうもスタジオに持って来てくださったんですよね! ズラリと今、昆虫食が並んでいますけれども! 幼虫ですか、これは……ちょっと、お皿を持つだけでなんかドキドキしちゃうんですけど! この黒と茶色の……。

「グラデーションが綺麗ですね」

●人差し指くらいはありますけれど、これは何の幼虫ですか?

「これは、南アフリカでよく食べられている“モパニムシ”というものです。モパニ蛾(が)と言われている蛾の幼虫なんですけど、木の葉っぱを食べているので、それを現地の人たちが、主に女性ですけども、手で一匹ずつ摘まみ取って、内蔵は食べないのでしごき出して、それを塩茹でして、さらに天日で何日間か干して作ったものです」


モパニムシの天日干し、見た目はぎょっとしますが、スナック風でカリカリ!

●これ食べられるんですか? (笑)

「そのままスナック、おやつやおつまみになるんですけども、現地の人たちはこれをさらにシチューのように煮たり、油で炒めたりして食べてます」

●ちょっと食べるの緊張しますけど、せっかくなので、いただきます!

「ぜひどうぞ!」

●ちょっと持つのも緊張しちゃうけど(笑)……。あ、香ばしい香りがしますね! いただいます……。

(カリッ、カリッ)

●……あっ、サクサク! おいしいですね! 本当に、お菓子感覚でいただけるというか。

「パリパリ食べられますね。中の黄色い部分が肉です。虫の肉があるんですよ」

●なんだろう……感覚的にはスルメイカ噛んでるような、おいしい!

「結構、出汁のような味がしてきて好まれていますね」

●そして、ご飯とクラッカーを用意していただきましたけど、これは何ですか?

「こちらがヘボ(クロスズメバチの幼虫)ですけども、クラッカーにクリームチーズを乗せて、その上にヘボをトッピングしたものですね」


ヘボ(クロスズメバチ)のロースト、高級品!

●すごくお洒落な感じになってますね!

「ちょっと洋風な感じでね、前菜としてつまめるようにしていますね」

●クラッカーの上にクリームチーズ、そしてその上にたくさんのヘボっていう! ヘボっていうのが、ハチノコなんですよね?

「そうです」


クラッカーにクリームチーズとヘボ(ハチノコ)をのせて、これが絶品!

●これはすごい映えますよー! いただきます……うん! チーズとも合うんですね!

「このヘボの味が、チーズでさらに口の中いっぱいに広がってね、美味しさが味わえると思います!」

●パーティとかで出たらすごく反響がありそうですね!


ご飯にヘボ、これも美味そう!

イナゴの佃煮、日本の伝統食

食糧問題を解決!?

※先生は、昆虫食に触れて欲しいという想いもあり、大学の授業以外にも昆虫食を食べるイベントを行なっていらっしゃいます。そこで、こんなことを感じたそうですよ。

「小尾さんも授業の中で昆虫食を“食べさせられた”んですけども(笑)、その時に昆虫食を出すと、まずは男子が手を出してみるんですよね、“食ってやるぜ!”という感じで。それで、“食べたぜ!”で終わりなんです。
 けど、女子はその後を見て、“これは食べられるよね”ってなると、味わって食べるんですよね。部位ごとの味の違いだとかを、ちゃんと噛みしめて、味わって、また食べていくっていうところで、実は女性の方がこういう食べ物に関して関心を持つし、食べ物としてこちらも提供しているので、そこからスタートっていう感じがしますね」

●そうですよね。はじめは、見た目が結構インパクトがあるので食べるの緊張しちゃうんですけど、でも実際に食べてみたら本当に美味しいですし、これはどんどんブームになっていきそうだなって気がしますけれども!

「そうすると採り過ぎとかね、養殖も今では盛んになってきているんですけど、それをどう回していくかって、また課題が出てくると思います。
 けれども、やっぱり自然との付き合いかたっていうところで、考えるきっかけになればいいかなと思っています」

●そうですよね。先生は昆虫食の研究で海外にも行かれるんですよね? どんなところへ行かれるんですか?

「最初に行ったのは韓国で、韓国は蚕(かいこ)のサナギがコンビニで売ってるくらいポピュラーなものなんですね。イナゴも食べてます。

 その後に、自然との関わり合いっていうことをより中心にして生きてる人たちを見たい! ということでアフリカのほうに行きまして、ボツアナっていう国なんですけど、そこの狩猟採集民で、“サン”って呼ばれてる人たちのところへ行って半年くらい一緒に暮らしました。
 虫も食べさせてもらいましたが、いろいろな他の野生動物や植物も食べさせてもらい、その中で昆虫ってどういう役割してるかなっていうことを調べて、そこからアフリカ南部、アフリカを中心に範囲を広げていきました。

 そして、今度は東南アジアのほうにも調査を進めていって、最近はメキシコにも行ったりと、あっちこっち虫のいるところ、食べられているところに行ってます!」

●どんな昆虫が食べられているんですか?

「昆虫といっても幅広いんですけども、いま食べていただいた幼虫の仲間ですと、蛾の幼虫もあれば、カミキリムシの幼虫もあるし、ハチノコも幼虫ですし、ハチについてもスズメバチの仲間ってすいぶん種類がありますし、今の蛾の幼虫もずいぶん種類があります。コガネムシの仲間もたくさんあるし、カメムシも世界各地で結構好まれてて、美味しいと言われてますね」

●地球上の人口が急激に増えていることですとか、あと温暖化の影響で、作物の収穫量も落ちてきてしまっていますよね。近い将来、食糧不足になるんじゃないかとも言われていますけども、先生が関わってらっしゃる、国連食糧農業機関でも食糧不足の話っていうのは出ますか?

「そうですね、2013年にFAO(国連食糧農業機関)のチームが報告書を出したんですけど、私もその会議には最初の時から関わってきたんです。

 そこで、一つは人口が増えてくる、そういう時に食糧が不足する。じゃあ、どうするかっていうことで、その代わりになるエネルギー源として、昆虫は100グラムあたりの栄養価が高いと、しかも養殖すると年に何度も養殖できるんで生産効率もいい。そして環境にも優しいということで、“推奨しよう!”という報告が出たんです。

 けれども、じゃあ食糧不足になってくるっていう時に、本当にこの虫だけで、それに代わるものになるの? その時どれだけ生産しなきゃいけないの? ってもっとよく考えてかなきゃいけないなと思います。

 一つの食糧源にはなるっていうことは確かに言えると思うんですけども、実際の量とかそれにかかるコスト、そもそも私がやっている民族昆虫学っていうのは食べることで、これは“文化”であるって考えた時に、“じゃあ、これを茶碗一杯食べなさい!”って言われた時に、どれだけの人が食べられるんだろうとは思いますね」

●確かに、実際に昆虫食を目の前にして、“わぁ、食べたい!”っていうふうにはちょっと思い辛いというか、見た目が見た目ですし、なかなか一歩が踏み出せないっていう人も多いと思うんですけども……。

「一歩踏み出しちゃえば、恐らく見た目って気にならなくなると思うんですよね。ただ、その時に“じゃあ、これを毎日食べますか?”ってなると、なかなか出来ないですよね。値段も考えた場合に大変なことになってしまうと思うので……。
 自然は多様であるので、人間も多様性っていうのをもっと享受して生きていくっていう中で、そのひとつとしてありたいなと思います」

なぜ昆虫を食べるの?

※先生は、世界の昆虫食の研究を続けていくうちに、「なぜ食べるのか」について、こんな仮説に至ったそうです。

「研究に関して言えば、この昆虫食っていうのは世界各地で調べられていて、どこでどんな種類の食べ方、どういう種類の昆虫がどのように食べられているのか、どのように捕られているのかっていうことを中心に調べてきたんです。
 けれど、調べていく中で(わかってきたのが)、世界各地で虫を食べてるっていう人たちは、それほど量を食べていないんですよね。FAOが言うような“食糧源として”っていうより、むしろスナック感覚で食べるっていうところが圧倒的に多いんです。

 その時に、じゃあ少ししか食べない、なのに何故食べるか、っていうところですね。結構、捕るのって大変ですし、ハチもずっと追っかけて行って、山の中や森の中を駆け抜けながら捕るっていう苦労がある。イモムシにしてもそうですね、捕るための努力って必要ですし……。それでも捕って食べる。何故だろう?

 それは決っして現地の人たちが、食べ物が少ないから捕ってるというわけではなくて、十分に満ち足りてる状態なんですね。そこの人たちは虫に限らず、細々とした葉っぱ一枚だとか、草を少々とか、そういう食べ方をするっていうところで、“この意味はなんだろう?”っていうのでいろいろ考えて、自分の研究仲間の人たちと話しているうちに“それは微量元素の摂取源として機能しているんじゃないか”という仮説を持ちました。

 微量元素は、やはり自然の中にあるものですから、自然から植物や動物を介してしか摂れないっていう時に、微量元素摂取源としての役割が、ある時期に欲するものを捕るってことで上手く循環しているんじゃないかっていうことで調べています」

●微量元素っていうのは何ですか?

「鉄、マンガン、カルシウムとかっていう元素のことで、少しだけ人間の生理機能を活性化するとかっていう時に必要なものですね」

最大規模のハチノコ愛好会!?

●東京地蜂クラブっていうのを野中先生はやってますよね? どんなクラブなんですか?

「東京に全国各地から集まってきていますけども、東濃地方(とうのうちほう)の人たちも、ずいぶんと東京に来ているんですね。
 その人たちが東京付知会(とうきょうつけちかい)っていうのを作ってたんですけど、その中で一緒に活動させてもらって、やっぱりヘボ食べたいなという話になってきたんです。

 その中には自分たちでヘボを東京で採った人もいたんですね。例えば、都電の早稲田駅のところでお巡りさんに立ち会ってもらって、ヘボを見つけたから巣を掘り出したとか、そういう話もあって、実は東京にも結構いるんです。
 それを食べたいなっていう人たちで、じゃあクラブを作って、自分たちでもヘボ採りをやったり、ヘボ料理をやろうということで、これをもっと普及させて故郷の味っていうものを知ってもらいたいなっていう活動を始めました。

 毎年、東京都内ではなかなかやりにくいんで、山中湖のほうに東京大学の演習林があるんですけども、そこでヘボ採りをやらせてもらっています。
 ひとつは、人を刺したりして危ないので、駆除する。そして、適切なところに移動させる。ということで、生態も守りながら、人も守りながら、味わうこともさせていただくということをやっています。
 ヘボ採りで採ってきたものを使ったり、地元のほうから取り寄せていろんなヘボ料理を作って楽しんでます!」

●そうなんですね! どんどん人数も増えてたりするんですか?

「増えてますね、全国各地にハチノコ愛好会があるんですけども、その中でも最大勢力になってます!」

●えーっ、そうなんですか!?

「それだけ東京の人たちが関心を持って、新しく若い人たちも入って来てくれていますね」

●じゃあ、これからますます昆虫食が注目されそうですね!

「そうですね!」

☆この他の野中健一さんのトークもご覧下さい

INFORMATION

新刊『フィールドワークの安全対策

 野中先生を含め3人のかたが書いた共著。本のタイトル通り、国内外での野外活動に関しての、安全管理やリスクマネジメントについて書かれています。詳しくは、古今書院のHPをご覧ください。

「東京地蜂クラブ」

 このクラブでは、定期的に地蜂を食べるイベントなどを行なっています。詳しくは全国地蜂連合会のHPをご覧ください。

 その他、野中先生について詳しくは、野中先生のブログをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「KEEPERS OF THE FLAME / CRAIG CHAQUICO」

M1. 約束の橋 / 佐野元春

M2. 希望のひかり〜スターライト / GREGORY PORTER

M3. IT'S A MIRACLE / BARRY MANILOW

M4. HONEY AND THE BEE / OWL CITY

M5. 風をあつめて / はっぴいえんど

M6. EARTH SONG / MICHAEL JACKSON

M7. THE POWER OF THE DREAM / CELINE DION

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」
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