『いただきます ここは、発酵の楽園』
〜微生物さん、ありがとう!〜
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、映画監督・オオタヴィンさんです。
オオタ監督は1960年、愛知県生まれ。映像作家。2017年公開の前作『いただきます みそをつくるこどもたち』は、自主上映という形式ながら、4万人を超えるかたがたがご覧になっています。
その続編ともいえる作品が、2020年1月24日から一般公開されている『いただきます ここは、発酵の楽園』! この映画には、畑保育を行なっている山梨の「みいづ保育園」の園児たち、「奇跡のりんご」で知られる青森のりんご農家・木村秋則(あきのり)さん、無農薬・無化学肥料栽培の「大地といのちの会」を結成し、長崎で活動されている「菌ちゃん先生」こと、吉田俊道(としみち)さんほかが登場します。
「奇跡のりんご」で知られる木村秋則さん
実はオオタ監督、撮影も編集も選曲も全部ひとりで取り組み、この映画を完成させたんです!一体どんな思いが今回の作品につまっているのか、じっくりお話をうかがいます。
〔写真協力:イーハトーヴスタジオ〕
除菌よりも共生
※この映画の主人公は“微生物”といってもいいくらいなんですが、昔と比べて、微生物の見方が変わってきたそうですよ。
「今は微生物の研究が進んでいてですね、地動説と天動説ぐらい、180度、今は微生物の認識が変わろうとしているんですね。それは、DNA解析の技術でわかってきたんですけれど、要するに、微生物とか細菌っていうと敵だと思っていて、“殺さなきゃ!!”ってみんな思っているじゃないですか。
実は真逆で、腸内フローラっていうのが典型的なんですけど、腸の中の免疫作用は微生物が作っているんですけど、これは腸だけじゃなくてですね、人間の体のあらゆるところで、人間の細胞のだいたい数倍、人によっては9倍ぐらいの微生物がいる。一緒に棲んで生きていて、体のある作用を請け負っているんですね。
だからもう、ありとあらゆるところに微生物がいて、それが地球の営みの一番ベースの部分を支えている。私たち人間の、免疫も含めたいろいろな作用を、微生物が体の中でやってくれているんです。
その中で、一部の病原体だけを目の敵にするあまり、皆殺しにしていたっていうのが、ここ何十年かの話なんですよ」
●そもそも、どうしてオオタさんは微生物に焦点を当てようと思われたんですか?
「前作の映画の題材が“味噌”っていう、すごく親しみやすい日本の調味料というか、それよりももっとレベルの高い、健康を最も保証してくれるものなんですけれども、そこから微生物のことをいろいろ調べ出したら、今お話ししたようなこともわかってきて……。
もうひとつ、今ラジオを聴いてくださっている人の中にお母さんもいらっしゃったとしたら、お母さんの子宮の中に子供がいた時っていうのは、全くの無菌状態なんですね、子宮の中って安全に保たれているので。それで出産するまでの間に、億に近い微生物がお母さんの産道を通って子供に付着して、子供をバリアみたいに守って外界に出てくるんですよ。
だから、赤ちゃんが地球上で初めて会って、自分を守ってくれる存在って、実は微生物なんです。それに包まれて出てくるんです、人間ってね! で、その時の包まれた微生物っていうのは、その人の人生をずっと守り続けてくれる存在になって、親指の先にもだいたい1億個の微生物がいますし、腸内フローラだけじゃなくて、口の中にも口内フローラっていうのがあって、億単位の微生物が外界からの病原菌を守ってくれているということが、調べていくとだんだんわかってきました。それで、“これは何だか、面白い話だなぁ……!”と思ったんですね」
●“除菌”っていう言葉もあったりとか、ちょっと潔癖のようになっている流れも今、世の中にあるのかなって思ったりもするんですけど……。
「当然、味噌を作るときに、映画の中でもあえて手を洗っているシーンを入れているんですけど、もちろん手は洗って雑菌はある程度落とすんですけれども、それが行き過ぎちゃっているんですね」
●過剰になっているのかなという印象がありますよね。
「ちょっとね、除菌メーカーの思い込ませとかもあったりね……(笑)。
以前はそうだったんですよ。そういう事実が判明する前は、やっぱりなるべく病原体とか雑菌は殺しましょうよっていうのは当たり前だったんですけど、もうここ数年は、劇的に微生物に対する認識とか、体の中の作用はわかってきました。
なので、これからはいよいよ、“除菌”と言うよりは、“共生”していくっていう方向になってくるんじゃないかなと思うんですね」
●なるほど〜!
ファイトケミカル!?
※映画に出演されているかたの中でも、特に印象的だったのが「大地といのちの会」の「菌ちゃん先生」こと、吉田俊道さん! 一体どんな人なんでしょうか。
「大地といのちの会」の吉田俊道さん
「かなりオーガニック界では有名な、とっても面白い人ですね(笑)! もう、講演会を全国で100回ぐらい、いろいろな所でされていて、僕も行きましたけどずっと爆笑で(笑)。“農業界のきみまろさん”と言われている人ですね。
実際に、自分で長崎でそういう有機農業をやりながら、子供たちと一緒に保育園とか小学校に、微生物を非常に活かした学校菜園とか保育園の菜園を作るという活動をずーっとされている人なんですね。
そのベースは、基本は農薬と化学肥料を使わないで、その代わり雑草に棲んでいる微生物を畑で増やしていくとか、漬物のようなものを作って、それを畑にすき込んでいくことで、畑の土を微生物だらけにしていくと、もう化学肥料が要らなくなる。そうして育った植物っていうのは、ものすごく強いんですね。
強い植物になってくるとですね、虫が食べられなくなるんです。“有機野菜は虫が食べるほど美味しくて、元気!”って誤解されていると思うんですが、これは吉田さんに限らず、有機農業の非常にレベルの高い人みなさん共通でおっしゃるのは、すごく元気な野菜を作っていくと、果物でもそうなんですけど、植物の中に、自分の身を守る力が強くなるので、虫が食べられなくなるんです!
だから映画の中でも、700〜800個ぐらいのキャベツ畑があるんですけど、普通は防虫ネットっていう、虫が来ないようなネットをするんですね。全くそれがなくて、700〜800個のうち、本当に10個ぐらいしか虫に食べられていないんです。というのも、あれ、虫は食べられないんです、(野菜が)元気過ぎて! ファイトケミカルという物質を作り出すので。
実は、そのファイトケミカルがいっぱい入っている野菜を食べるっていうのが、本当のオーガニックなんですね。オーガニックって言うと、なんとなく農薬がかかっていない程度のもので、“こんなに値段高いの!?”って思っちゃうじゃないですか。実はね、農薬がかかっている、かかっていない以前に、中身が全く違うわけですよね」
<腸内フローラ>
先ごろ、腸内細菌に関する、こんなニュースがありました。
国立研究開発法人の「医薬基盤・健康・栄養研究所」が、生活習慣と腸内細菌の関係を調べるため、健康な人から腸内細菌を集めたデータベースを拡大する方針を決定。現在のおよそ1200人分から、5年間で5000人規模に増やす方針で、実現すれば世界最大級になります。
人の腸の中には多種多様な細菌がいて、その数は1000種類以上とも言われています。
オオタ監督のお話にも出てきた「腸内フローラ」は、顕微鏡で腸の中を覗くと、細菌がグループを作って棲みついていて、その様子が「フローラ=花畑」のように見えることから、そう呼ばれるようになったそうです。
腸内フローラの状態は人によって大きく違い、細菌の活動から生み出される物質が健康に大きな影響を及ぼしているという報告が世界で相次いでいます。
腸内細菌の種類は、食生活などの生活習慣や環境によって大きく変わるとされ、研究所がこれまでに集めたデータからは、1週間あたりの排便の回数が多い人や、いろいろな野菜を食べている人は腸内細菌の種類が多いことが分かっています。
一方、お腹の調子が悪い人は腸内細菌の種類が少ないとされていて、個人差はありますが、細菌の多様性を高めることで、体調を改善できるかもしれません。
研究所は、「日本人のデータを多く集めて特徴を明らかにし、病気の予防にも役立てたい」としています。
ちなみに、1月26日は「腸内フローラの日」だそうです。2と6で「フローラ」ということで、乳酸菌関連のサプリメントや健康食品などを展開しているカゴメ株式会社が記念日に制定したんだとか。
新しい年が始まって、新年会などのイベントもひと段落するこの時期、自分の腸内フローラについて、ちょっと気にしてみませんか。
泥んこになろう!
※映画には、元気いっぱいの園児たちが登場します。この保育園は、隣にある自然農業の畑やたんぼで「畑保育」を実践、園児たちが農作業を手伝っていて、泥んこになっているんです! これがとってもいいことみたいですよ。
「土は、“泥がついて汚いから手を洗いなさい!”みたいなふうにちょっと思われていますけど、実は泥まみれになっている子供のほうが免疫力が高くって。この時期はインフルエンザ(が流行り)ですよね〜。この、長崎にある保育園なんかは、吉田さんと一緒に野菜を作って、それを毎日給食で食べているんで、ほとんどインフルエンザがないんです、毎年!」
●実際に映画の中にも、土や微生物に触れていることで、園児たちも病気で休む子たちが減ってきたっていうデータも出てきましたけど、それもやはり微生物の効能っていうことですか?
「そうですね、微生物と一緒に作った野菜の力っていうんですかね」
●微生物ってすごいですね!!
「微生物がすごいのと、野菜がすごいっすよね! 植物がすごいっていうか……。“薬”っていう漢字は、草冠に楽って書くじゃないですか。要するに薬って、もともと植物のことだったんです。
江戸から戦前にかけては、普通に野菜を食べるとみんなオーガニックなわけじゃないですか。当然、化学肥料も農薬もないですから。それをずーっと、我々のおじいちゃんおばあちゃんぐらいまでは食べていたわけですよね。
その、普通に野菜を食べることが、薬の代わりだったんです。そこに抗酸化力とか免疫力が高いものを毎日食べていたから、だから今、おじいちゃんおばあちゃんは80歳とか90歳でも元気なんです」
●そうだったんですね……。ちょっと潔癖になり過ぎているかもしれないですね、現代の私たちは。
「もう、矯正しないと! 自分の体の中にあるものが(もともとは)たまたま泥の中にあるから、汚いと思い込んじゃっているんですけど、実は泥んこ保育園とかが結構あったりするのは、そういうことなんですよね」
●この園児たち、全身泥まみれでしたもんね(笑)!
次回作は“先生のいない学校”!?
※今回の映画では、ナレーションを女優の小雪さんが担当されています。どういういきさつでナレーションをやることになったんでしょうか。
「1作目『いただきます みそをつくるこどもたち』は、今でも自主上映が全国で続いていまして、現在までに700回ぐらいやっています。『いただきます』のホームページに行っていただいて上映情報を見ると、大抵どこかでやっていますので!
そんな状態でずっとやっているのを小雪さんが見てくださっていて、“もし続編があるんだったら、ぜひナレーションに興味があります”と言っていただいて……」
●小雪さんのほうから!?
「そうなんです。小雪さん自身も、お母さんがそういう環境で育てられていて、今もお子さんと一緒に畑をやったり、味噌を自分で作ったりということをされていらっしゃいますね」
●3人のお子さんがいらっしゃるんですもんね! じゃあ実際に小雪さん自身も、腸内細菌を育てる食事などをされているんですね。
「ものすごく詳しいですよ! 食事の内容とか、どういう料理が一番腸内細菌が多いとかっていうことまで調べて作っていらっしゃるので」
●だからこそ、あの美しさなんですね! ドキュメンタリー映画である、この『いただきます』シリーズは、今後も続いていくんでしょうか?
「基本はまず、これで完結で、今は3作目を作っているんです」
●えっ、3作目!?
「これはちょっと食事とは別で、教育なんですね」
●それは微生物とか関係なく?
「もう全く、今までの『いただきます』の食事とか微生物とか発酵とは関係なく、ですね。小学校なんですけどね」
●それはどういったコンセプトなんですか?
「よくね、1作目も2作目も、とにかく子供たちがキラキラしていて可愛いって言われるんだけど、“じゃあ、あの子たちは小学校に行くとどうなるのだろう?”っていうのがずっとあって。僕自身も小学校中学校はあんまり面白くなかったので、“いや〜……小学校に行っちゃうとみんな、どうなるんだろう?”っていうのがある中でいろいろ調べたら、すごい小学校を見つけたんですね!」
●なんですか!?
「そこはね、テストも通知表も教科書もない、もっというと先生もいない。“先生”って呼ばれないんです。みんなニックネームなんです」
●ええーっ!?
「本当に子供たちのためだけに、大人たちが楽しんで、自分たちから学ぶという環境をつくり上げた小学校があって、全国で今、5校ぐらい広がっているんですけども、これを3作目に考えているんです」
●興味深いです!!
「普通の授業の風景を撮っているだけだけれども、もう驚きの連続ですね!」
●じゃあ、それも(オオタ監督の)趣味ですね(笑)!
「完全な趣味ですね(笑)」
●監督自身が楽しんでいるんですね!
〔写真協力:イーハトーヴスタジオ〕
INFORMATION
最新作『いただきます ここは、発酵の楽園』
1月24日から、吉祥寺パルコの地下2階にある「UPLINK(アップリンク)吉祥寺」で公開されています。ぜひ映画館でご覧ください!
また、ゲストを迎えたトークイベントも予定されていますよ。 1月26日(日)は、映画の出演者である「みいづ保育園」の日原園長、 2月1日(土)は、有機栽培に取り組んでいる女優の「杉田かおる」さん、 2月9日(日)は、発酵デザイナー「小倉ヒラク」さんが登場します。
詳しくはUPLINK吉祥寺、または映画のオフィシャルサイトをご覧ください。
- UPLINK吉祥寺のHP:
https://joji.uplink.co.jp/movie/2019/3901 - 『いただきます ここは、発酵の楽園』オフィシャルHP:
https://itadakimasu2.jp