脳が小さくなっていく!? AI時代の自然淘汰!?
〜人間の進化を考察〜
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、生物学者・更科功(さらしな・いさお)さんです。
更科さんは1961年、東京都生まれ。東京大学・教養学部を卒業後、民間企業を経て、東京大学大学院・理学系研究科を修了。専門は分子古生物学。2012年出版の『化石の分子生物学』で、第29回講談社科学出版賞を受賞。また、昨年出版した本『若い読者に贈る 美しい生物学講義 感動する生命のはなし』が、とても面白いと評判になっています!
そんな更科さんに、今回は主に、人間の進化についてお話いただきます。
分子古生物学とは?
※まずは、更科さんの専門である分子古生物学について。一体どんな学問なのでしょうか。
「化石の中のDNAやタンパク質を“分子”と言っているんですけど、もともとは古生物学っていうのは、化石を研究する学問です。
化石っていうのは、普通は骨の形で、昔の生物はこういう生活をしていたんだろう、こういう形をしていたんだろうと、骨の形からそういうことを類推するんですね。でも、化石の中にはDNAもタンパク質も入っているので、それを抽出すれば、そこから情報が得られるわけです。
しかも、DNAやタンパク質はどんどん進化とともに変わっていきますけど、化石の中に入っているDNAやタンパク質は過去のまま止まっているので、だから過去を直接観ることができる。
そういうことで、形だけではなくて分子にも情報が入っているので、それで過去を直接観るっていうのが分子古生物学なんですけど……でも、実際にやってみると、なかなか言うほどわからないというか、言うほど上手くいかないものなんですけど(笑)。まぁ一応、そういう感じですね」
やり過ぎたから、花粉症!?
※続いて、これからの季節、多くの人が悩まされる「花粉症」について解説していただきました。
「外から来た病原体から、私たちの体を守るための仕組みが免疫です。特に、私たち哺乳類は抗体という、非常に優れた免疫システムを持っていて、そのおかげで、ほとんど全ての病原体に対処することが出来るんですね。まぁ、“体の中の警察”みたいなものですね。
でも問題があって、それは、どこまで捕まえるかっていう問題ですね。免疫も、どこまで攻撃するかっていうのがあって、花粉は、本来は別にそこまで攻撃しなくてもいいものなんでしょうけど、でも外から来たものだし、私たちの体に由来するものではないので、攻撃してもいいんだけど……し過ぎちゃっているんですね。
本当の病原体だったら、確かにちょっとでも目に入ったら涙で流さなきゃいけない。ちょっとでも体に入ったら、少しでも外に出したいから、くしゃみをしたり、鼻水として出したり、とにかくどんなことをしてもいいから体の外に出す。でも、花粉はそこまでしなくてもいいんでしょうけど……まぁ、ちょっとやり過ぎちゃうんですね。
多分、それは実は、はっきりとはわからないんですけど、ひとつの説は……確定ではなくて反論もあるんですけど、綺麗な環境で育つと、ちょっと(花粉が)来ただけで過敏に反応してしまうとか、アレルギーが増えてきているのは、やっぱり全体的には生活環境が綺麗になってきたからっていうのも、説のひとつとして言われていますね」
人間の脳は小さくなる!?
※続いては、生物や人間の進化について。このお話は、ちょっとドキッとするかも知れませんよ!?
「生物も最初は全部、複雑じゃなかったわけですね。最初は単純な生物しかいなかったわけで、“複雑になる”って言っても、人間はたまたま脳が大きくなりましたけど、別に他のところが優れているわけじゃない。
鳥なら鳥で、肺が非常に優れているから息が切れない。トカゲならトカゲで、物凄く陸上生活に適応していて、水をちょっとしか飲まなくても生きていけるんですね。私たちは水をたくさん飲まないと生きていけないので、まだ陸上生活にあまり適応していないんですね。
だから、変な話ですけど、人間にしろ犬にしろ、オシッコをシャーっとする。あれは凄くもったいない話で、トカゲがオシッコをシャーっとするのを見たことがないと思いますけど、トカゲはほとんど尿を出しませんからね。そういう意味では、まだまだ人間は、陸上生活ではトカゲには敵わない」
●人間って、まだまだ進化するんですか?
「うーん……まぁ進化が止まることはないので、することはする……というか、絶対にすると思います。 でも、私たちはホモ・サピエンス、つまり“人”っていう種ですけど、例えばこの1万年間は、脳が小さくなるふうに進化しているので、1万年前の我々のほうが脳が大きかった。
まぁ、それが何でなのかは、よくわからないですけれども、そもそも脳がずっと大きくなってきたわけではなくて、大きくなったり小さくなったりしたのかもしれませんし、脳の大きさでいったら、絶滅してしまったネアンデルタール人のほうが私たちより大きかったわけですし……。
特に、この1万年間で小さくなってきた理由は、わからないんですけど、もしかしたら“文字が出来た”っていうことがあるかもしれなくて」
●へぇ〜!
「それも半分は想像ですけどね。私たちはメモを取ったりしますよね。でも、頭がいい人ってメモを取らなくても全部覚えちゃっていたりしますよね。メモがなければ、記憶力のいい人が有利です。でも、メモがあったら書けばいいんですから、記憶力がよくても悪くても、あんまり有利不利はなくなりますよね。そしたら無理に脳が大きい必要はないので、小さくても済むはずなんですね。
これは半分想像ですけど、でもこれが正しければ、コンピューターやAIが出てくれば出てくるほど、どんどん人間は脳が小さくなっていって、もしかしたらどんどん小顔になっていくかもしれない……“かもしれない”ですけどね(笑)」
●便利になればなるほど、どんどん脳は小さくなっていく“かもしれない”!
AI時代の自然淘汰とは!?
※最後に、更科さんが今、一番興味のあることは何かをお聞きしました。
「進化と言えば進化なんですけど、何で生物が生まれたか、みたいなことで、割と難しいことがいろいろ言われていて、それはそれでいろいろ正しいのかもしれないけど、やっぱり本質は“自然淘汰が働くこと”が生物だと、私は思っているんですね。
“自然淘汰”っていうのが非常に興味があるんです。例えばAIにしても、シンギュラリティっていうことが言われていて、通常はAIが自分より賢いAIをつくり出した時がシンギュラリティって言われることが多いんです。そうするとどんどん優れたAIが出てきて、人間なんか敵わなくなっちゃう、みたいな……。
でもシンギュラリティは、AIが自分より賢いAIをつくり出した時ではなくて、“AIが2つのAIをつくり出した時”だと思うんですね。2つAIをつくり出すと、優れたほうが何らかの意味で残るので、自然選択が働き出しちゃう。
生物もただの物質だったと思うんですよね。でもある時、自然選択が働き出しちゃったから、どんどん複雑になって生物になっていったと思うんで、AIもそういう意味で、仮にAIに自然選択が働き始めたら、まぁ……人間はおしまいかなぁみたいな(笑)。
生命のシンギュラリティは、無生物から生命になった時だと思うんです。自然淘汰と自然選択は同じ意味ですけど、その自然淘汰にとても興味がありますね。それは凄く危険なものでもあるし、素晴らしいものでもあるし」
*更科さんの本によれば、シンギュラリティとは、「AI(人工知能)が、自分の能力を超える人工知能を自分でつくれるようになる時点」のこと。
INFORMATION
新刊『若い読者に贈る 美しい生物学講義 感動する生命のはなし』
ダイヤモンド社 / 税込価格1,760円
「ぜひ生物学に興味をもって欲しい」という更科さんの想いがつまった一冊。難しいと思いがちな生物学に関することが、わかりやすく書かれています。目次に並んでいる項目がどれも面白いので、興味があるページから読むのもおすすめ。イラストレーター・はしゃさんが描いたイラストも、とても可愛く、見ているだけで楽しくなります! 詳しくはダイヤモンド社のサイトをご覧ください。