地球史に残る快挙! チバニアン!!
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、国立極地研究所・菅沼悠介(すがぬま・ゆうすけ)さんです。
先月、千葉の名前が世界的に認知される出来事がありましたね! それは、チバニアン! ラテン語で「千葉時代」を意味します。
千葉県市原市にある、とても特徴のある地層、それを「チバニアン」と呼ぶと、国際地質科学連合が認めました。46億年に及ぶ地球の歴史に日本の地名が刻まれるのは、今回が初めて! 画期的なことなんです。
そんなチバニアンの立役者である菅沼さんは、1977年、長野県生まれ。茨城大学・理学部卒業。東京大学大学院などを経て、現職は国立極地研究所の准教授。専門分野は、地質学や古地磁気学。南極地域観測隊に過去5回参加。チバニアンの誕生を推進した研究グループの中心メンバーです。
実は、この番組はいち早くチバニアンに注目! 4年前に菅沼さんにご出演いただき、お話をうかがっていました。
今回は菅沼さんに、改めて、一体チバニアンという地質の何が凄いのか、そこから何がわかるのかなどお話いただきます。
世界中の教科書に載るチバニアン!
※実は、チバニアンの決定までは、およそ2年半かかったそうです。決まった! という知らせを受けた時、どんな気持ちだったのでしょうか。
「決まった時はもう、“やった!”というよりかは、ホッとしたというか、ようやくゴールにたどり着けて、心の底からホッとしたというのが正直なところですね。
今後ですけども、やはりチバニアンっていう日本由来の名前が、世界中の教科書に載ったりとかして、高校生ぐらいからの教科書だと思いますけれども、世界の人々に使ってもらえるというのはとても嬉しいですし、自分が科学者として携わった仕事がそうやって後世に残るのは凄く嬉しいことです。
僕がこの研究に携わってからは、もう少し長い時間がかかっているんですけど、申請自体が始まったのが2017年6月ということで、2年半ぐらいです。決定までに4段階の審査があるんです。最初の1段階目で候補地をひとつに絞るということで、最初はイタリアの2箇所と日本の1箇所の候補地だったんですけれども、投票でひとつを選ぶということで、まず千葉が選ばれました。実際はここが一番大変なところでしたね。
そのあと、3段階の審査があるんですけど、それは千葉の地層が科学的に素晴らしいかとか、データが正しいかとか、そういったことを審査されて、最終的に2年半かかって決まったということです」
77万年の歴史が見られる!
※それでは改めて、チバニアンと呼ばれることになった地質の特徴を解説していただきましょう。
「チバニアンというのは約77万年前〜13万年前の時代を示す名前で、千葉の地層自体はその77万年前の、そのひとつ前の時代との境界の地層なんです。なので、千葉で全部、13万年前までの地層が見られるわけじゃないんですよ。
チバニアンという意味では、先ほど言ったように77万年前から13万年前の地層全てをチバニアンと呼ぶので、それは世界中にいっぱいあります。ただ、その時代の境界をきちっと示している地層は限られているということですね。
境界自体を我々はGSSPって言うんです。そういう世界で地質年代という、時代の境界を決めるのに最もふさわしい場所をGSSPと呼んで決めていくんですね。それを決めると、ついでと言ってはなんですけど、その次に続く時代の名前をつけられる、ということになっています。それがチバニアンという名前です。
チバニアンというか、市原市にある、千葉セクションと我々は呼んでいますけど、その地層は海で溜まった泥の地層です。だいたい77万年前後に溜まった地層で、それが今、陸にあるというのはとても凄く、珍しいことなんですね。
地質学的に言うと、比較的短い70〜80万年という時代で、激しく隆起して地上まで来たということで、この境界の地層が地上に見えるということ自体が非常に珍しいということになります。
市原市に限らず、房総半島の地質というのは、かなり昔からいろいろな人たちが研究されていて、1940年ぐらいから、もう論文がいっぱい出ているんですね。あの千葉セクションの場所も、1990年ぐらいにはあそこに地磁気逆転の痕跡があるということも、先人の先生がもうすでに発見されていて、我々はそういう、ある程度データが揃ったところで今回、GSSPというのに申請するために、もう1段階上のレベルのデータを集めたというのが正しい説明かなと思います」
<地質年代とは>
さて、地質年代とは何か、ここでおさらいしておきましょう。
地球誕生から46億年の歴史のうち、人類が知るのはほんのわずかな部分で、ほとんどの部分は地層に残る化石や土の成分から、生命の誕生や絶滅など、時代ごとの特徴的な出来事を突き止めて区分けします。これが『地質年代』。
そして、地球の磁場=地磁気の向きの逆転という壮大な出来事も、そのひとつ。その明確な痕跡が日本の、しかも千葉の地層の中に残されていたというのが、価値のあることなんですね。
そんな地質年代ですが、46億年をざっくり4つに分けると、『先カンブリア時代』、『古生代』、『中生代』、そして現在に至る『新生代』となり、それぞれがさらに細分化されています。
一番長いのが、地球誕生からおよそ40億年間も続いた先カンブリア時代で、ドロドロのマグマが冷えて海ができ、生物が生まれ、その光合成により酸素が生成されるようになりました。
次の古生代は、およそ5億4000万年前から2億5000万年前までで、生物が多様化して魚の祖先が現れたり、陸上で植物が育ったり、両生類も登場。
続く中生代は6500万年前までの時代で、恐竜が誕生、繁栄する一方、哺乳類も登場しました。
そして恐竜の絶滅とともに、中生代から新生代へと時代が変わり、私たち人類の祖先がようやく誕生、現在へと続きます。
チバニアンは、新生代の中のおよそ77万年前から13万年前の時代で、これまでは名前が決まっておらず、便宜的に『中期更新世』と呼ばれていました。
年代名は、代表的な地層がある地名に「イアン」や「アン」を付けるのが原則で、これに従うと「チバン」や「チバーン」となるところを、申請チームが「分かりやすく、千葉の語感も残すように」と配慮して『チバニアン』と命名したそうですよ。
最大の謎、地磁気の逆転!
※先ほど「チバニアン」の地質の説明をしていただきましたが、最大の特徴といえるのが、地磁気の逆転、つまりN極とS極が逆転した痕跡があること! 一体どうしてわかるのでしょうか。
「まず、なぜわかるのかっていうところですけれども、海で溜まった地層には小さな磁石が含まれていて、その磁石が地球磁場の方向を向いて堆積して、地層中に保存されるので、昔の地磁気の向きがわかるという仕組みです。
なので、地磁気の向きが今と逆ならば、その磁石の向きも逆ということで、石を持って帰って、その石の磁性を測ってあげると、昔の地磁気の向きがわかるんです。
それで、なぜ逆転したのかというと、実はもう……まぁ、一言で言うと、わからない。それが一番の謎。地球科学においても、最も大きな謎のひとつですけれども、今ではスーパーコンピューターを使って地磁気の発生を再現したりだとか、いろんな研究をしていますけれども、究極的にどうして逆転したのかっていうのは、まぁ、わからないというのが、正しいかなと思います。
逆転自体は、実は地球の歴史で珍しくなくて、平均的には100万年に5回ぐらいは、最近の数百万年の間に起きています。なので、地磁気は放っておくと勝手に逆転してしまうということは、我々はもうすでにわかっているんですね。
それに何らかのきっかけがもしかして必要なのか、もう完全にきっかけはなくて、勝手に逆転しているだけなのかというところが、我々が研究している謎の部分ですね。
もし逆転をしたら、ということですけれども、逆転の時は、地磁気の向きが変わるだけじゃなくて、地磁気の強さが弱くなります。千葉のデータからすると3万年ぐらいの間、地磁気の強さが弱くなって、一番弱いところで逆転をしているみたいです。だから、逆にいうと逆転に向かうまでに1万年以上かけて地磁気が弱くなっていきます。
それで、だいたい今の5分の1から10分の1まで地磁気の強さが弱くなって逆転すると思うんです。そこまで地磁気の強さが弱くなると、宇宙空間に張り出している地磁気のバリアが弱くなって、宇宙からの影響を受けやすくなります。
具体的にいうと、人工衛星とか、電波を使った通信とかが大きく影響を受けますし、さらにはもしかすると送電線とか、地上の電気を通しているものにも影響があるのかもしれないです。
ただこれは、今の地磁気の強さでは、そういうことにはならないので、もしこのまま、いつか地磁気が弱くなった時にそういうことが心配である、ということですね。
千葉のデータを見ると、少なくとも5000年とか、そのぐらいの時間をかけて地磁気がどんどん弱くなっていきます。
実は、地磁気の強さの観測が始まって過去200年、ずーっと地磁気は弱くなっていまして、10%ぐらい、この200年で減っているんです。このままいけば、あと1500〜2000年ぐらいかければ地磁気はかなり弱くなって、もしかすると逆転モードに向かうかもしれないですね。逆に言うと、まだそのくらいの時間がかかるということです」
南極とチバニアン
※菅沼さんは南極の調査・研究も行なってらっしゃいます。南極とチバニアンに、なにか共通することはあるのでしょうか。
「まず、時代がだいたい同じです。南極では、南極の氷のサンプルを採ったりとか、我々で地層を調べたりとかして、だいたい100万年ぐらい過去までの気候変動なんかを調べています。
それで、千葉の地層はちょうど77万年前の間氷期ということで、時代もそもそも一緒ですし、極域の環境と千葉のような中緯度の環境を比較することで、地球全体の環境変動を復元できたり、地磁気のこともそうですけれども、地磁気の振る舞いを調べたりもできるので、そういう意味では、共通というよりかは両方を使うことで、ひとつの問題に取り組めるという感じかなと思います。
地磁気の謎自体も研究として面白いので取り組んでいますけれども、一番重視しているのは環境変動、気候変動の研究です。特に、地球温暖化によって南極の氷がこの後どういうふうに溶けて、海面が上昇して、どういう気候の変動が起きるのかっていうのを普段、調べているんです。
千葉の地層って面白いのは、少し前の間氷期の地層なんですけど、とても気候変動のパターンが今の間氷期と似ていて、地球温暖化の影響がない、地球本来の間氷期のリズムを持っているんですね。
なので今、我々が直面している人的な二酸化炭素の濃度の上昇による気候変動がありますけれども、それがなかった場合の地球本来の気候変動のリズムを、千葉の地層から知ることが出来るんです。
そうすると、どの部分が人為的なものなのか、どの部分が地球本来のリズムなのかっていう区分が出来るので、そういう意味で千葉の地層に凄く注目していて、だから千葉の地層を調べることで、将来予測に少しでも貢献できるようなデータが取れるんじゃないかなというふうに考えています」
※では最後に、菅沼さんから子供たちへメッセージです。
「子供たちには、ぜひ一度見に行ってもらって、何の変哲も無い地層なんですけれども、そこの地層がいろんなことを我々に教えてくれるということを知ってもらいたいですね。地磁気の逆転っていう現象があるとか、昔の温暖期の気候から将来がわかるとか、そういったことを感じて興味を持ってくれたらいいなと思います」
INFORMATION
チバニアン情報
実は、実際に地層が見られる場所に、昨年2019年、市原市が簡易の施設ではありますが、『チバニアンビジターセンター』を設置しました!
地磁気逆転の仕組みと地層の関係、周辺で見られる化石など、その魅力を分かりやすく解説した展示と映像の放映を行なっています。ガイド・ツアーもありますよ。
詳しくは市原市のホームページをご覧ください。