やれば出来る!
〜葛西の海を“泳げる海”にした男〜
今週のベイエフエム / ザ・フリントストーンのゲストは、「ふるさと東京を考える実行委員会」の理事長・関口雄三(せきぐち・ゆうぞう)さんです。
関口さんは1948年、江戸川区葛西生まれ。日本大学・芸術学部を卒業。その後、建築家として活躍していらっしゃいます。
2001年に任意団体として「ふるさと東京を考える実行委員会」を設立。2010年に認定NPO法人になりました。
建築家である関口さんが、なぜ東京湾の再生活動を行なっているのか……。
実は、関口さんは子供の頃、家業である海苔の養殖を手伝いながら、地元葛西の海で一日中遊び、体験を通して、海や自然から多くのことを学んだそうです。
ところが、高度成長期に東京湾がどんどん汚れ、開発の名のもとに地元の自然が消え去っていくのを目の当たりにします。
子供の頃に遊んだ海を取り戻したい、子供たちを東京湾で泳がせてあげたい、建築家の前に、人として何をするか……。そんな想いを胸に、自分にとってのふるさとの海である、東京湾の再生活動を始めたんです。そして、葛西海浜公園に海水浴場を復活させました!
今回はそんな関口さんに、東京湾への想いや、海水浴場復活プロジェクトのお話などうかがいます。
太陽の子!?
※関口さんは、東京湾をこんな風にとらえています。
「東京湾全体を語るっていうことは、東京全体を語ることなんですよ。だから、“ふるさと東京”という名前をつけて、2001年から出発しているんですね。
東京湾を見ると、今の東京の問題点がいっぱい見えてくるんです。それは、性能としてものを考えた時。例えば超高層を造るとすれば、人間は木の高さ以上にはなかなか難しいです。それからエレベーターが今、交通ラッシュになっていますよね。だから、人間の体に決していいという問題ではない。
そういう性能からみた社会の中では、今の都市の生活っていうのは非常に大変なところで、ストレスが溜まるところに来ていると思います。
地下鉄の満員電車もそうです。毎日の1時間半、これをもっと子供たちと一緒にいられるような、あるいは環境に目を向けるような……。
今、働き方改革が“生き方改革”だと私は思うんで、そういう視点を皆さんにも持って欲しいなと思っています。ですから、今年からNPO漁師を募集中なんです」
●それはどういう……?
「東京湾全体を最初は考えていたけど、足元の葛西からやろう、と。それで、1個の牡蠣が400リットルの水を1日で浄化しますし、竹を入れることによって、そこに300個の牡蠣が付くんです。みんなでやれば、凄い綺麗な海になるでしょ!
それで今、導流堤(どうりゅうてい)と導流堤の中に竹を入れているわけですよ。水が綺麗になるっていうことは、海苔も成長できるし、泳げるし、竹を入れるとその周りに魚も湧いてくるんです! そういうことを、やればできるっていうこと!
だから、SDGsって言っていますけど、持続可能な社会っていうのは、行動することでしかないんです。あたま社会じゃなくて、自分たちで海に竹を1本入れてみろ、と。そうすればわかるよ、海の冷たさとかね。
子供が潮干狩りに行くでしょ。凄い引き潮の中で、遠くまで潮干狩りに行くわけですよ。ところがいっぱい採り過ぎちゃって、満ち潮になって膝より上になったら、泳げないと溺れるんです。今は、プールで泳がないといけない。でも、プールから始めるから海で泳げないんですよ。プールでいくら泳げても、今、海で泳げます?」
●どうだろう……。
「波があったら泳げないでしょ? そういう、生き延びるというか、自然はそういうことを全部教えてくれます」
●自然を体感するっていうことが、大事ですよね!
「私たちが小さい頃は、朝から晩まで海にいたので、帰りには背中は西日で焼けてね。それを体で覚えているんですよ。“ああ、俺は太陽の子だったな”っていう、そういう気持ち。だから、いつも絵には太陽が出てくる。
そういう自然観っていうのは、もう小さい頃しか体験できないんです。今、海に行って“太陽の子だな、私は!”って感じますか?」
●感じないです(笑)。
「感じられないよね。小さい子だからできるんですよ。目一杯遊ぶから、命がけで!」
●じゃあ、まさに海苔すき体験とか、そういった体験っていうのは子供たちにとって物凄くいい体験になりますね。
「大事なことです。私たちが小さい頃は海苔すきを手伝ったんですよ。親父なんかが採っていましたから。朝の5時ごろに起きて海苔すきをやって、干してから学校に行くわけです」
●いやぁ〜、やったことないです、海苔すき体験。やってみたいです!
「綺麗になれば、海苔も湧いてくるし、それも私どもの海苔は、浅草海苔の原種を探して、それが生きていたんで、それを培養して今はつくっていますから、唯一の浅草海苔なんです! 凄いでしょ!」
●凄い……!
「やれば出来るっていうことを子供たちに教えたいんで、海苔すき体験をしているわけです」
原初に立ち返る
※関口さんは、生き方や生活に関してこんな考えをもっていらっしゃいます。
「自然というのは、さっき言ったように、生き方を変えていくわけですね。自然に溶け込んで生活しだすと、自給自足ができるようになるかもわからない。
だからまぁ、基本的には、これは建築の論理でもあるんですけど、サバイバルでプリミティブでプライマリーの部分、原初的な部分に立ち返ってものを創造していく。全てそうだと思います。
だから、生活も本来的なところに戻していくっていうことは、凄く創造的なことなんですね。持続可能っていうのは多分、創造的破壊をしていかないといけない。生き方を変えるっていうのは、今までの価値観をちょっと変えていかないといけない。
都市もそうです。都市の姿も今のままじゃマズいですよね、一極集中っていうのは。そういうものも全部、変えていくことに繋がっていく。それは、東京湾を綺麗にするっていうことから始めるべきだと私は思います、河川も含めてね。
竹ひび(*)をやるっていうことは、山と海が繋がるんです。山が荒れ果てていて、竹やぶになっているから、それを持って来て、海で使う。それで、そこに牡蠣が付いたら、焼き牡蠣にして食べる。それで、そこでどんと焼きをやって、灰になったやつを今度はまた畑に持って行ったり……。
それで牡蠣を潰して海に撒くと、白い砂浜が100年後に出来上がる。そういう、自然を使った循環をゆっくりゆっくり、いきなり破壊はできませんから、ゆっくり時間をかけて、楽しみながら変えていくっていうのが私のやり方です」
(*)「ふるさと東京を考える実行委員会」では竹を干潟に1本1本設置する「竹ひび1人1本活動」を行なっています。竹に牡蠣がたくさんついて、水が浄化され、魚も集まり、生態系が豊かになるそうです。
<江戸前の海、東京湾>
皆さんは「東京湾」というと、どんなイメージがありますか?
「たくさんの船が行き交う海上交通の要所」とか、「江戸時代から埋め立てが続いている」とか、中には、「昔は『江戸前の魚』なんて言われたもんだけどねー」なんて、遠い目をする方もいらっしゃるかもしれませんが、いやいや、今でも魚はたくさん獲れるんです!
おなじみの魚介類だけでも、マサバやアオギス、スズキ、マアナゴのほか、アサリやハマグリといった貝類もたくさん採れますし、食卓にのぼらないものも含めると、東京湾にはおよそ200種類もの魚介類が生息しているそうです。
そもそも東京湾は、千葉県館山市の洲埼(すのさき)灯台と、神奈川県三浦市の剱埼(つるぎさき)灯台を結ぶ線の内側の海域をさします。湾内には大小60もの河川が流れ込んでいて、川が運ぶ栄養分と、太平洋からの海流の影響で、様々な生き物を育む豊かな海になっているんです。
東京湾で育った魚介類、つまり「江戸前の魚」はサイズが大きく脂がのっていて、太平洋の荒波にもまれていない分、身が柔らかいため、その特徴を活かした調理法が江戸前の料理ではよくみられます。
江戸前寿司にはどれも、魚の旨みを引き出すひと仕事が加えられていますよね。ほかにも、佃煮や天ぷらなどに代表される「江戸前の食文化」は、今では「日本の食文化」の顔として国内外で広く親しまれています。
かつての江戸前の海「江戸城の前の海」は、埋め立てによってほとんどが失われてしまいましたが、豊かな東京湾に育まれた「江戸前の魚」と、伝統の調理法を受け継いだ「食文化」は健在!
これからも大切に守り、伝えていきたいですね。
竹を1本、入れてみて!
※東京湾の再生のために、私たちができることは何でしょう。
「行動することです。(竹を海の中に)1本入れること! 海に出る前に、竹を仕込むために切りに行かないといけない。楽しいですよ! 終わった後、みんなでバーベキューをして飯を食ったり、竹の枝払いをしたり……。それが春から始まりますね。そういうことを行動していってくれれば、子供さんも連れて来れますもんね」
●家族みんなで楽しめるイベントとして、いいですね!
「そうそう! それとあとは、稚貝を撒きます。(今、手元に)ハマグリがあるでしょ。二枚貝は全部、水を綺麗にしてくれますから、撒くとそういう貝が大きくなります。そういう活動から、今度は逆に、子供が大きくなったら潮干狩りをしてもらう。潮干狩りをやると、土の中に酸素が入るんです。そうするとその中に、微生物が湧いてくる。つまり、魚のエサが湧いてくる。ゴカイとか、いろんなものが湧いてきます」
自分がやらないと!
※最後に、葛西海浜公園・西なぎさで行なっている、海水浴場復活プロジェクトについてうかがいました。
「まず、足下からやる。自分のふるさとに海水浴場を造ろう。それをマネしてくれれば、世界に発信できる。やればできるというのが自分の信念なんで。
それで仲間が集まってきて、その考えに賛成するって言って、今では300人ぐらいの体制ですかね。90歳ぐらいの人も海に来てくれたり!
それでビーチクリーンをやったり、さっき言ったような竹ひびをやったり、それからハマグリを撒いたり、いろんなことをやって水質の浄化を、まずはそのエリアだけ、西なぎさの導流堤の中だけ、まず綺麗にしようとしました。
そしたら物凄くい、見違えるように綺麗になって! 東京都も下水道をちゃんと完備するようになったし、私たちの意気込みを感じてくれたんでしょう。
そういうふうに、官も民もなく、みんなで力を合わせればできるんですね。最初はひとりから。誰かがやってくれるって、行政がやってくれるもんじゃないです。自分がやらないと人は動かないから。国もそうです。だから、ひとりから始める。
それを思った若い人たちも、年齢を重ねた人たちも、みんなでやるという風土をつくっていくということが、大事だと思います。
それで、まずは西なぎさでそれをやって、水質が稲毛の海と同じくらいになった。“これは泳げるだろう!”と。それで東京都などに行って、そういう話をしました。一緒に竹ひびの実験もやってくれた。ただ、“ここまで綺麗になったら、もういいだろう”と。
彼らの立場としては、行政から一歩離れればまた別なんでしょうけれど、何かあったらやっぱり責任問題が出てくる。“じゃあ、俺が責任とる! だから黙っていてくれ! 俺のふるさとだから、俺がやるよ!”。
それで、最初は1日だけ。それが2日になり、次の週も、その次の週もやった。みんな子供たちは大喜びで、それを見ていた行政のほうも、“じゃあ、来年は試験的に1週間やりましょう”という話になって、それが今では夏休み中! 海水浴場復活につながったんですね」
●今年の夏も海水浴場は……?
「やります、43日間! オリンピックですからね! 今回は私どもは海水浴場とともに、その前から里海まつりっていうのをやっているんですよ。“里海”という言葉を使って、昔から、海水浴場ができなくても、海で遊ぶことはできるじゃないかということで、スイカ割りをやったり、昔の漁具でアサリやハマグリを採ったり、それから生物解説をしたり、挙げ句の果てにはベカ舟を作っちゃいまして、それに子供たちを乗せているわけです。沖合まで連れていったり……。
いろんなことを里海まつりではやっています。それから、海で泳ぎ方を教える人たちが来てくれて……。それで今度は近くにカヌー・スラロームがあるので、カヌーのオリンピック選手が今年の夏は来てくれる予定です」
☆この他の関口雄三さんのトークもご覧下さい。
INFORMATION
現在、海苔やワカメの養殖を行なうNPO漁師さんを募集中です。また、水質浄化のための「竹ひび1人1本活動」の参加者も募集しています。
いずれも詳しくは「ふるさと東京を考える実行委員会」のサイトをご覧ください。
- ふるさと東京を考える実行委員会のHP:
http://www.furusato-tokyo.org/furusato%20tokyo%201.html