2011年2月27日
今週のベイエフエム/ザ・フリントストーンのゲストは、西田賢司さんです。
子供の頃から虫が大好きだった、探検昆虫学者の西田賢司さんは、日本の学校になじめず、中学校を卒業後、15歳のときに、単身アメリカに渡ります。そして大学で生物学を専攻。卒業後、昆虫学を学びに、中米のコスタリカ大学の大学院に進み、現在もコスタリカを拠点に、昆虫の生態研究などに力を注いでらっしゃいます。ちなみに、これまでに発見した新種は500種以上だそうです。
この度、西田さんは2010年のモンベル・チャレンジ・アウォードを受賞されました。その授賞式が行なわれた翌日に、都内でお話をうかがうことが出来ましたので、今回はそのときの模様をお送りします。
●今回のゲストは、探検昆虫学者の西田賢司さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●“探検昆虫学者”って、どのようなお仕事をされているんですか?
「外部の国から、ハワイに外来植物が入ってきて、ハワイの森などに影響を与えていくんですが、僕の場合は、そういう植物を抑えるために、ハワイから依頼されて、元々生えている植物のところに行って、植物を抑える役割を持つ昆虫を探すという仕事をしています。そういうことをする人を“探検昆虫学者”といいます。」
●新種の昆虫は探さないんですか?
「虫を探しているときに見つけたものが新種の場合もあるので、見つけたときは新種なのか新種じゃないのかは分からないです。とにかく、植物を抑える役割を持つ昆虫を捕まえて、飼育して、観察して、レポートなどにまとめて発表します。」
●今まで、昆虫学者は聞いたことがあったんですけど、“探検”昆虫学者は初めて聞きました。“探検”が付くのは、何か意味があるんですか?
「まだ発見されていない昆虫を含め、冒険とまではいかなくても、昆虫を探し当てることを目的にしているので、“探検”という言葉が付いています。」
●現在は、活動と生活の拠点をコスタリカに置かれているそうですが、コスタリカという国はどんな国なんですか?
「コスタリカは軍隊を持たない国で、“エコツーリズム発祥の地”と言われているぐらい、自然保護が進んでいる国です。」
●自然保護が進んでいるということは、昆虫もたくさんいるんですか?
「そうですね。自然の破壊が進んでいないから、昆虫を探すにはいい場所ですね。」
●国土的には小さいんですか?
「小さいですね。」
●その中で昆虫が多いということは、密度が濃いんでしょうか?
「密度が濃いのもそうですが、雨が多かったり、その影響で緑が多かったり、熱帯地域だから、年間通じて気温が高いから、色々なものが育つということなど、色々な要因が重なった結果ですね。」
●コスタリカの普段の気象は、どのような状態なんですか?
「標高が高いところは年中寒くて、海沿いのような、標高が低いところは年中暑いです。そして、その中間のところは年中涼しいという、一日で全てを移動すれば、四季が一日で楽しめる場所です。」
●西田さんは、元々昆虫が好きだったんですか?
「元々好きだったみたいですね(笑)」
●(笑)。日本にいた頃から好きだったんですか?
「どうやら、1歳になる前ぐらいから、隣に住んでいた叔父の畑に勝手に行って、虫や小さな生き物と触れ合っていたみたいです。覚えてないので、なんでそうなったかは分からないんですが、その頃から虫との付き合いは始まっていましたね。」
●小さい頃から好きだった虫を、コスタリカでたくさんの種類と出会ったときには、どういった気分でしたか?
「コスタリカに行った最初の頃は、目に付くもの全てが新鮮だったんですけど、二年ぐらい経つと『またこれか』と思うようになりましたね(笑)。それらが普通だと分かってくると、日本人にとっては珍しい昆虫も、慣れてしまった僕からしてみると、それ以上に珍しい昆虫を探してしまうんですね。だから、今ではよっぽどのことじゃないと感動しないようになってしまいました。」
●それぐらい、たくさんの種類の昆虫がいるということですよね。
「だから、まだ僕が感動やビックリするような昆虫がいるはずだし、変わった昆虫もいるはずなので、果てしない世界があると思っています。」
●西田さんが行なっている調査・研究についてお聞きしたいんですが、調査はどのように行なっているんですか?
「昆虫を調査には、まず現場まで行って、そこにあるあらゆる植物を見ていきます。そのときには、もちろん外部からハワイに入り込んでいる植物も見つけないといけないんですが、虫を見つけたら観察したり、写真を撮ったり、網で捕まえたり、ビンで捕まえたりして、植物と一緒に生きたまま持ち帰ります。そして家で仕分けをして、飼育をしていきます。その結果をデータ化していきます。」
●なぜ植物と一緒に持ち帰るんですか?
「植物がその虫のエサになるからです。だから、かなりの量になるんですよ。飼育が長引くと、それだけのエサを持って帰らないと、最後まで飼育ができなくなるんですね。もちろん、エサが虫の飼育の途中でなくなる場合があるんですね。そうなると、またエサを採りにいきます。」
●西田さんが昆虫の調査をしている写真を見たんですけど、大きなビニール袋を腰にぶら下げているという姿が強烈でした(笑)。
「しかも2、3個ね(笑)。虫って普通それほど大きくないじゃないですか。虫だけ採取をしていたらそんなに袋は要らないんですが、僕の場合は植物も一緒に採取するから、それだけの量になるんですね。しかも枝ごと持っていきます。葉っぱだけ採っても、すぐ萎びるので、枝の根元から折って、持ち帰ります。なので、どんどん膨らんでいくんです(笑)。その点が、他の昆虫学者さんと違うところでしょうね。その姿を見た人から“バッグマン”と呼ばれちゃいますね(笑)」
●そうですよね(笑)。虫だけだとかなりの量になると思っていました(笑)。
「(笑)。虫よりも植物で膨らんでいるんですね。だからかなり重くなります(笑)」
●(笑)。だとすると、一回の採取で、荷物を持ち帰るのは大変ですね。
「大変ですね。結構怪しまれますよ(笑)。バスで移動のとき、バス停からバス停に移動するときに、大きな袋を持って歩いていたら、反対側から歩いてくる人が僕を避けようとすることがよくありますね(笑)」
●(笑)。虫を見つけるコツってありますか?
「大体どこにでもいるんですが、コツというと、新芽とか元気よく育っている植物、よく日の当たるところにいます。だから、日が入り込むということで、意外と道沿いに生えている植物のところを見てみるのがいいんですよね。」
●なるほど。奥まったところにたくさんいるんだと思いました。
「そういったところよりも、開けているところの方が虫は多いですね。」
●先ほど、新種がたくさん見つかると話していましたけど、そこまで見つかると「やったー!」という感動は、今はそれほどないんじゃないですか?
「見つけた時点で、新種かどうかは分からないんですね。捕まえたときに『この虫は見たことがないし、変わった虫だな』と、第六感が働くときがあるんですけど、最終的に専門家に標本か写真を送って判別してもらいます。それで、新種の場合もあるし、既に名前が付いている場合もあるし、専門家でも分からない場合もあるんですね。」
●専門家でも分からないことがあるんですか!?
「解剖してみないと分からないということもありますね。人間が作ったものじゃないから、車の車種のように、モデルみたいなものが決まってないですよね。あの種類と同じかどうかという判断が難しいことがあるんですよね。特に小さい虫になると、似すぎていて、ほとんどそんな状態ですね。」
●そうなると、まだまだ分からないことばかりなんですね。
●西田さんは、自然の中で色々な昆虫の研究をされていますが、自然の変化って感じますか?
「ありますね。特に、自然保護がされていないところは、人の手がどんどん入っていって、開拓や汚染など、色々な問題があるんですけど、そこだけじゃなくて、空気や水などを伝って、保護されている国立公園などへ、間接的に影響を与えたりしていますね。温暖化や酸性雨、空気の汚染、未知のウイルスなど、何が原因なのかは分かりにくいんですが、いくら保護されていても、絶滅していく種はいるんです。」
●何かしらどこかで繋がっているということなんですね。
「そういうことですね。実際今は、人の手が加わっていない森って、もう残っていないですね。」
●コスタリカでも、ですか?
「世界中で残っていないですね。空気が自然に影響を与えているんですよね。」
●昆虫への影響もあるんですか?
「昆虫だけじゃなく、全ての生物に影響を与えていると思いますよ。」
●例えば、昆虫を研究することで、自然環境の変化を感じることもあるんですか?
「昆虫は小さいので分かりにくいかもしれないですが、自然環境の変化を感じる一番のキッカケかもしれないですね。僕は、人間にとって一番身近な存在って、昆虫だと思っています。 もしも、日本の夏場に、蚊が家に一匹も入ってこなくて、一回も刺されなかったとします。次の年も全く刺されなかったら、みんな『おかしい』と思うようになるとおもうんですね。そうなると、人間にとって嫌だと思う虫でも、『何かがおかしいんじゃないか』ということを教えてくれるんですよね。そういうことで、昆虫の変化が、人間にとって一番身近に感じることができるんじゃないかと思いますね。」
●昆虫はすごくたくさんの種類がいると思うんですけど、昆虫の種類がたくさんいることによって、生物多様性のことを気づかせてくれることってあるんですか?
「虫がいるから、鳥たちが生きていけたり、植物や果物が育ったりするので、それだけ重要な役割を担っているんですよね。だから、それだけ多様な虫が存在するんですね。色々な仕事をしている虫たちが、生態系のほとんどの部分で働いているので、重要な存在なんですよ。だから、生物多様性があるから、人間も生きていけると思います。
虫が嫌いっていう人が多いのは分かっています。でも、“小鳥が好き”とかあると思うんですが、その虫がいなかったら、好きな鳥もいなくなってしまいますよね。自分の好きなものがいなくなるまでになると手遅れになってしまうので、そういうところに気づいてほしいと、いつも思っています。」
●虫が地球からいなくなってしまったら、大変なことですね。
「大変ですね。僕たちは一ヶ月ももたないでしょうね。」
●それは色々な生物に影響を与えていって、最後には人間に影響してくるということですよね?
「そうですね。それだけ多様な昆虫が存在するということは、それだけの役割があるということなんです。僕たちの見えないところで、何かしているんですよね。」
●今後の活動は、どういったことを考えていますか?
「論文を書くことが基本になってくるんですけど、写真を撮ったりしているし、本を書いたりして、人とつながりを持って、自分のやっていることや発見したものを知ってもらいたいですね。そのためには、色々な形で、それを発表していかないといけないですね。そうしないと、僕だけが知っていても、僕がいなくなったら、全部無駄になってしまうので、できるだけ早いうちに発表して、みんなに知ってもらうことを心がけています。 だけど、新しいことが発見したことを僕が発表しないといけないとは思っていないですね。誰かが発表してくれるなら、僕が新しく発見したことをその人に報告をして、その人がやってくれればいいと思っています。僕にはもっとやらないといけないことがあるし、自分の名前を出そうともしていないです。科学の発展があれば、僕はそれで満足ですね。」
●共有するという意味では、またこの番組に出ていただいて、昆虫を通じて伝えたいことを話していただければと思います。あと、環境が少なくなってきているせいもあるかもしれないんですけど、最近、日本の子供たちが虫取りをしているところを見ないんですよね。
「環境もなくなっているし、変な教育を受けているせいもあるかもしれないですね。命のことを知らずして、命の大切さは理解できないと思うので、残念ですね。」
●是非、この番組を通じて、昆虫採取の楽しさ・素晴らしさを伝えていってもらいたいと思います。
「昆虫って数が多いので、採取しただけではいなくならないんですよ。自然に触れることができて、虫のことを理解できて、小さい命に触れることで、命の大切さを知ることができるのは昆虫が一番身近だし、昆虫が色々なことを教えてくれるんですよね。」
●今回、西田さんの話を聞いて、昆虫の奥深さを知ったのと、身近な生き物として、これからもっと昆虫について知っていきたいと思いました。というわけで、今回のゲストは、探検昆虫学者の西田賢司さんでした。ありがとうございました。
西田さんにお話を伺ってまず驚いたのが、コスタリカにいる昆虫の多くが新種だという事です。地球上には、まだまだ私達が知らない生き物が数多くいるんですね。
そして、昆虫の研究と聞いていたので、昆虫を標本にして研究をするのかと思っていたのですが、生きたまま捕獲し、食べている餌も持ち帰り、昆虫達がどのように生きているのかを研究するという西田さんの研究方法にもびっくりしました。でも、そういった研究方法が昆虫達の生態の解明に繋がり、さらに新しい環境保護の方法へと繋がっているんですね。
今後も、西田さんの様々な昆虫に関する研究成果が楽しみです!
西田さんのことをもっと知りたいと思った方は、西田さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。西田さんが撮った昆虫をはじめ、いろいろな生き物の写真や昆虫の動画もあるので、見ていて飽きることがありません。昆虫や生き物が大好きな西田さんらしい、サイトになっていますので、是非ご覧ください。
「モンベル・チャレンジ・アウォード」を受賞した西田さんの受賞記念イベントが、4月2日(土)に高尾山・日影沢キャンプ場で行なわれます。タイトルは「探検昆虫学者の西田賢司さんがいざなう昆虫ワールド」。
西田さんと一緒に様々な昆虫を探すプログラムとなっています。
◎開催日時:4月2日(土) 午前の部は9時20分から(小学生対象)、午後の部は13時40分から(中学生対象) ◎料金:会員・1,500円、一般料金・1,500円~3,000円 ◎お問い合わせ/申し込み:モンベル