2011年5月28日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、石川賢治さんです。
満月のわずかな光だけで写真を撮る月光写真家・石川賢治さんは、26年前から月光写真に取り組んでいます。そんな独自の世界を創り続ける石川さんを、現在開催中の写真展会場に訪ねて、神秘的な月光写真についてお話をうかがってきました。
※石川さんが取り続けている月光写真ですが、29.5日に一回訪れる満月の、それも太陽光の46万5千分の1しかない、わずかな光だけで撮っていらっしゃいます。そこで石川さんに、月光写真を撮るようになったキッカケをうかがいました。
「もう26年前のことなんですけど、そのときはコマーシャル・カメラマンをやっていました。1984年に、ある航空会社の30秒CMを一本作るということで、ハワイ4島を回っていたんです。その中の、カウアイ島にいたときに、月が満月だったんですね。その頃はちょうどロサンゼルスオリンピックがやっていたんですが、それが終わって、寝る前に散歩をしようと思って、外に出たんですね。
近くに海があるのを知っていたので、裏から原っぱに出て、月明かりの中を懐中電灯も持たずに行ったんですけど、月明かりだけでも十分に明るいんですよ。街灯や照明など、電気がないところにいると、月光ってすごく明るいんですよね。月の光を頼りに海まで歩いていったら、途中に真っ暗な林があったんです。その先から波の音が聞こえるので、林をくぐりぬけて、砂浜まで出ると、月光で照らされた砂浜が浮かび上がるように明るかったんです。それを見て、なんだか嬉しくなってきて、波打ち際に座って、夜の風景を見ていたんですね。海と水平線と、形のいい雲がいくつか浮かんでいて、星も出ていて、『明るいな』と思って見ていたら、目の前を鳥が一羽、海面スレスレに横切ったんです。そのときに『もしかしたら、これってカメラで撮ったら写るんじゃないか?』と思ったのがキッカケなんです。」
●その後に、実際に撮ってみたんですか?
「そのときは、ハワイ4島を回る大変な仕事だったので、時間に余裕がなかったんです。数ヶ月後、サイパンの友達を訪ねて、『もしかしたら、鳥も飛んでいたし、あれだけ明るいから、すごくいい写真が撮れるかもしれない。すぐに写るカメラがあるから、それでテストをしよう』ということで、ジャングルに入っていって、ジンジャーの蕾を選びました。ジンジャーって、感光しやすい白い蕾で、先がピンクで、茎がグリーンなんです。それを遊び半分で撮ってみたんです。
当時、写真史150年目だったんですけど、これまで月光写真って存在していなかったし、月の光だけで写真が撮るということは、非常識だったんですね。でも『あれだけ明るいんだから、影だけでも撮れればいい』と思って、試しに撮ってみて、すぐに写真として見られるカメラを使っていたので、見てみたら、偶然にも太陽と全く同じ発色で写っていたんです。白い蕾の先がピンクで、茎がグリーンで、星も写っていて、ジャングルの真っ黒な影もあったんです。それを見て、月が一瞬にして太陽の光を反射して、蕾を照らしているような気がして、色々なことを含めて、すごく衝撃を受けたんですね。
その興奮が治まったときに、『ライフワークが見つかった』と思って、始めたんですけど、今年で27年目になります。」
●確かに、月は太陽の光を反射して、地上を照らしているので、元々は同じ光ですよね。
「そうなんですよ。なので、最初に写真を見たときの衝撃って、“宇宙時間”を体感したような気持ちになったんですね。それを一枚の写真にしたいという想いで、未だにそれを追いかけています。」
●今回、写真展で初めて写真を見させていただいたんですけど、見ていて思ったのは、東京にいると、“月明かりが明るい”って感じることが少ないんですね。やっぱり、ハワイとかサイパンなどにいると、月明かりが明るいと感じるのかなって思いました。
「月明かりって、極少の光なので、街灯があったり、コンビニも24時間営業だから明るいですよね。例えば東京近郊でも、都心を写真に入れてしまうと、空が明るくて、真っ白になってしまうんです。そうなると、街灯がないところを探してしまうので、自然と大自然の中に連れていかれるんですよね。今は大変な時期で、都心も少し暗くなっていますけど、やっぱり、闇がないと月光が存在しなくなるんですよね。ただ、大自然の中では、先ほど言ったように明るいんです。」
※太陽光の46万5千分の1しかない、わずかな光だけで撮る月光写真を、いったいどんな感じで撮影しているのでしょうか。
「危険なところは、昼間にロケハンを大雑把にしますけど、太陽の光で見たものと、月光で見たものとでは、見え方が全然違うんですよね。例えば、花をジャングルの中で探していると、昼間だったら、木陰に咲いている花とかでも見えるんですけど、夜は、月光が当たらないところになると真っ暗になってしまうんです。なので、昼間に探していても、夜になって月光が当たっていないと、全く見えないということもあるので、花は月が出てから探しますね。ただ、大自然の中ってどうしても危ないので、歩いていく道は昼間にチェックしておきます。」
●実際に、被写体を見つけたら、すぐシャッターを押すんですか?
「いや、すぐには押さないですね。カメラは市販されているものを工夫して使っているんですけど、長時間の撮影になるので、三脚とレリーズを使って撮影します。露出計というものがあるんですけど、それって、太陽や照明などのために作られているものなので、太陽光の46万5千分の1の明るさしかない月の光に対応する露出計ってないんですね。なので、大体、出たとこ勝負の勘の世界になるんですけど、僕の露出計の目安は、『自分の手相がどのぐらいハッキリ見えるか』なんですね(笑)。」
●ということは、いつも手を見て判断されているんですね(笑)。
「そうですね(笑)。『今日は手相があまりハッキリ見えないな』と思ったら、露出を少し長めにしたりしますね。」
●それだけ長時間、三脚を立てて、カメラを置いて待つということですけど、待っているときは、いつもどういうことをしているんですか?
「快晴のときはいいんですけど、雲が出ていることが多いので、雲が月の前を横切るときは、真っ暗になってしまうんですね。例えば、今日は雲の30パーセントが月の前を通り過ぎたとなると、カメラの露出を伸ばさないといけなくなるので、大体待っているときは、雲を見ていたり、空を見ていますね。だから、見上げていると首が痛くなるので、横になって見ていることがありますね(笑)。」
●(笑)。それだけ常に自然を感じながら、待っているということですなんですね。
「そうですね。『待っている時間って退屈じゃないですか?』って質問してくる方がいるんですけど、月光によって、足元の花の色から風景、水平線から地平線まで、ハッキリ見えるんです。水平線・地平線の向こうには銀河が広がっているんですよね。それから、水の音や夜にしか鳴かない鳥の声、虫の声、風の音、土の匂いや花の匂いなど、色々なものが感じられるので、全然退屈しないですし、大自然の中で撮っていると、自分が癒されるんですよね。」
●撮影する時間帯は、夜のどのぐらいが一番いいんですか?
「ジャングルの中で花を撮ろうと思うと、斜めからの光って、なかなか入ってこないんですよね。その場合は、真上から入ってくる光がいいんですけど、自分が選んだ被写体によって、時間帯が異なってきますけど、太陽が落ちて、月が出てきて、月が沈むまでですね。」
●その時間は、色々な状況に合わせて、写真を撮っていくんですね。多分、色々な要素とか、感覚的なところもあるかと思いますが、この神秘的な青を出すにはどうしたらいいのか、すごく気になるんですけど、アドバイスとかあれば、教えていただけますか?
「先ほど話したように、大自然の中に月明かりだけでいると、遠くまで見えるし、その景色を見ていると、青いんですよね。なので、あの青は、月がくれた青だと思います。」
※26年前に月光写真を撮り始めた石川さんは、世界をフィールドに独創的な写真を撮り続けてらっしゃいますが、これまでに特に印象に残っている撮影場所についてうかがいました。
「ヒマラヤの5,300メートルのところに行って撮影をしたんですけど、酸素も2分の1しかないし、高いところなので、大気が全然違うんですね。空は満点の星空だし、月を見ていても見え方が違う感じがするんですよね。そして、空の色が地上で見るより黒いんです。宇宙に近い見え方がするんですよ。普通の双眼鏡で月を見たら、月の山やクレーターがハッキリと見えて、ずっと双眼鏡で見ていると涙が出てくるぐらい、とても眩しいんですよね。そこは、大変だったこともあって、印象に残っていますね。」
●どんな風に大変だったんですか?
「酸素が少ないので、移動するだけで大変なんですね。他にも、パラオの海の海底6、7メートル潜って撮影をしようとしたんですけど、それだけ潜っても、月の光は届いているんですよ。水中ライトが必要ないぐらい、明るいんです。その世界も独特の世界があって、印象的でした。」
●今回の写真展で一番気になった写真が、“海底の波紋”というタイトルの水中写真だったんです。私はダイビングをするんですけど、深く潜れば潜るほど、太陽の光でも届かないというイメージがあったんですね。でも、月の光でもあれだけ明るくなるんだと思って、すごくビックリしました。
「月の光って、水中ライトを使わなくても作業はできるぐらい、とても明るいですよ。ただ、6、7メートルより深くなると、急に暗くなります。」
●そこが太陽の光と違うところなんですね。
「そうですね。太陽の光みたいに強くないですからね。それに、透明度が高いところじゃないと難しいですよね。」
●ちなみに、水中写真だと、三脚立てられないじゃないですか。どういう風に構えていらっしゃるんですか?
「いや、三脚は立てますね。」
●水中に三脚を立てるんですか!?
「はい。三脚に重りを付けて、海底に立てます。僕は水中で、宇宙遊泳みたいに漂って撮影をします。」
●他に好きな場所ってありますか?
「島は好きですね。30ヶ国近く撮影で行っているんですけど、島って、自然が残っているし、面白いですよね。あと、ペルーとかグアテマラ、インカの遺跡なども撮っているんですけど、そういうところも面白いですね。」
●インカの遺跡も、月光が当たると、違った表情を見せるんですか?
「そうですね。インカは700年前に忽然と消えてしまった都市なんですけど、消えるまでは、人が住んでいた宗教都市で、大きなピラミッドがあったり、石の祭壇があったり、階段などが残っていますけど、人が千何百年間上り下りを繰り返したので、擦り減っているんですよ。それを月光で見ると、時空を超えて、その時代にいるかのように生々しく見えてくるんですよね。それから、生贄を供えた場所とかあるので、一人でいると、不気味で怖いですね。大自然の中にいるのは平気なんですけど、それとは違うパワーがあるようで怖いですね。」
●やはり、自然の中で撮る写真なので、奇跡的に撮れたミラクル・ショットがあるんじゃないかなって思うんですけど、もし、そういう写真があれば教えていただけますか?
「全部ミラクル・ショットだと思いますね。月光写真とは違うんですけど、不思議なことがありまして、それはグアテマラのティカルという遺跡にいたときに、第5神殿であるピラミッドが、熱帯雨林の中にあって、先端が突き出ていたんです。
その神殿の周りは360度熱帯雨林で、その奥には第1神殿、第2神殿があって、同じように先端が突き出ていたんですね。それを撮影していたんですが、突然、地平線の方に明かりが見えたんです。撮影場所に行くまで、すごく怖かったので、友達5人とレンジャーの方と一緒に行っていたんですけど、その現地の言葉を話せる人がいたので『ここって、飛行機は飛ぶのですか?』とレンジャーの方に聞いたら、『いや、こんなところをこんな時間には飛ばない』っていうんですね。周辺に街は全くないんです。光だけが見えているんです。その光は大きくて、明るいオレンジ色の光で、光っている間はみんな黙って見ていたんですね。
消えた後に『みんな見た!?』って確かめあいました。僕の感覚では1分ぐらい光っていて消えたんですけど、人によっては3、4分光っていたと言っていたりして、それぞれ違うんですよ。まさに“未確認発光物体”ですね。」
●結局、何だったのか分からなかったんですか?
「未だに何だったのか分からないですね。それを収めた写真が、今やっている写真展に展示しています。」
●改めてうかがいたいんですけど、月光写真の魅力って、どんなところですか?
「“非日常の世界”というところが、面白いところの一つですよね。それと、太陽の光で撮った写真と、月光で撮った写真とでは、表情が全く違うんですね。例えば、夜の花だと、暑い季節に見ると、昼間より元気だし、月光は熱がないので、夜露に濡れた花が非常に艶かしかったりして、昼間に撮った写真とは全く違う写真になるところが面白いですね。」
石川さんのおっしゃっていた“闇がないと月光は存在しない”という言葉が印象的でした。確かに、都会にいると街灯が明るいので、月の明るさを意識する機会が少ないですよね。でも、石川さんの写真を見せて頂いて、月明かりはこんなに明るくて、かつ神秘的な色だという事を、強く感じる事ができました。興味がある方は、ぜひ写真展に行ってみて下さい!
満月のわずかな光だけで写真を撮る月光写真家・石川賢治さんが「今回は“海”をテーマに写真を選びました。それにマヤの遺跡と花、そしてハワイの方を撮った写真。それらでまとめました」と語る今回の写真展。オレンジ色の未確認発光物体が写った写真や、一晩にしか咲かない月下美人の写真などが展示されていますので、ぜひご自分の目で確かめてください。
◎会場:調布市文化会館・たづくり1階・展示室(京王線・調布駅から徒歩3分)
◎開催期間:6月19日まで
◎開館時間:午前10時から午後6時まで
◎入場:無料
また、6月5日(日)には、調布市文化会館・たづくり8階の映像シアターで、石川さんのスライド&トーク・ショーも開催されます
◎開催時間:午後3時から4時半まで
◎入場:無料
◎定員:先着100名
◎お問い合わせ:調布市文化・コミュニティ振興財団
TEL:042-441-6150
写真展や写真集、作品については、石川賢治さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。これまでの活動や詳しいプロフィール、さらには石川さんがこれまで撮影してきた作品をオリジナルプリントとして購入することができます。気になる方は是非ご覧ください。