2011年8月13日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、油井昌由樹さんです。
この番組「ザ・フリントストーン」がこの地球に誕生したのが、今から20年ほど前の1992年4月。そこから週1回の放送を積み重ね、今回の放送で、めでたく1000回放送を迎えることができました。 これも偏に、番組を聴いてくださっているリスナーのみなさん、そして素敵なお話を聴かせてくださるゲストの方々のおかげだと思っています。
そんな1000回放送記念の今回お迎えしたゲストは、この番組との縁も深い夕陽評論家の「油井昌由樹」さんです。油井さんには番組内のコラムを96年4月から約12年にわたって担当していただき、夕陽やアウトドア、そしてライフ・スタイルについて話していただきました。
今回はアウトドアの先駆者として、日本に海外のアウトドア文化を持ちこみ、雑誌などでその素晴らしさを発信してきた油井さんに、日本のアウトドアの歴史を振り返っていただきます。もちろん夕陽にまつわる面白い話もあります。
※今回は1000回放送記念ということで、こんなトークから始まりました。
●おかげさまで、この番組が今回で1000回放送を迎えました。
「すごいですよねー。今どき大変ですよね!?」
●これは偏に、油井さんを始め、本当にたくさんのゲストの方々、そして前任DJのエイミーさんのおかげだと思っています。さて、油井さんは1972年、西麻布にアウトドアグッズを輸入販売するショップ「SPORTSTRAIN」をオープンさせました。これが今から40年近く前のことになりますよね。
「そうですね。来年が40周年になりますね。住所と電話番号が40年変わっていないっていうのが、俺の周りにいないんですよね(笑)。」
●(笑)。やはり、40年前というと、世間でのアウトドアの位置づけはどんな感じだったんですか?
「アウトドアという言葉自体に馴染みがなくて、表に“アウトドア・ライフ・ショップ”って書いてあったんだけど、『これは何ですか?』っていう質問は日常茶飯事だったね。『アウトドアって何ですか?』って聞かれたら『うーん、ドアの外』って返してましたね(笑)。」
●確かにそうですよね(笑)。
「でも、本当にそういう時代でしたよ。ただ、キャンプは昔からみんなやっていたんですけど、日本でキャンプに類するものって、登山者が途中でビバークするキャンプなど、目的がキャンプじゃなく、何かをしにいくときに一泊する必要があってするんですよね。釣りをする人が、起きたらすぐ湖の淵にいるという状況のためにするんですね。でも、俺はそうじゃなくて、キャンプそのものが、とてつもなく素晴らしいだろうと思っていたんですね。
1960年代から70年ぐらいまでのキャンプ道具って、山道具が中心で、60年代の終わりに、今なら誰でも知っているTHE NORTH FACEなどのアメリカのアウトドアメーカーができたばかりで、そういう息吹も一緒に持ち込んできたつもりだったんですよね。1972年に、そういった道具を使ったまま、世界一周から帰ってきたこともあって、日本に持ち込んできたら、あまりにもみんなが欲しがるんですよね! アメリカではいくらでもあるのに、日本には全然入ってきていなくて、ただ単に自分の道具として使っていたら、2個あれば1個持っていっちゃうぐらい、みんな欲しがったんですよ! だから、最初は輸入して販売するなんて思いにもよらなかったですね。」
●40年前から今に至るまでに、どういう変遷を経て、アウトドアが定着していったのかを聞かせていただけますか?
「大きく分けると、ブームとしては2回来ています。1回目のブームは、SPORTSTRAINが突然売れ出したときですね。70年代の終わり頃に、とにかく売れまくったんですよ! それが第一次ブームといっていいと思います。
このときは、未だにやっているようなコアな人たちが買っていったんですけど、その後、ヨーロッパ系のファッションをして、夜にディスコに行っていたような人たちが、結婚をして子供を育てるようになると、子供を連れてそういうところで遊ぶとなるとすごくお金がかかるっていうこともあって、『キャンプっていいんじゃない?』っていう流れになってきたんですよ。それが80年代の終わり頃にありましたね。」
●最初のブームのときよりも、2回目の方が一般的に広まったということですか?
「そうですね。一気に広がったという印象を持ってますね。俺はブームって大歓迎なんですよ。どんなことでも一度やってみるっていうことはいいことだと思っていて『とにかく台所であるものでいいから持って、一回外に出てみようよ』って言ってるんですよね。
今では俺は、アウトドアという言い方を意識的にしていないんですよ。アウトドアって、今では誰でもそのイメージを持っていると思うんですけど、今のアウトドアのイメージって、俺が初期の頃にイメージしていたアウトドアとは、ちょっと変わってきているんですね。俺は、日常的に外にいることが大事だと今でも思っていて、雨が降っていたらすぐに分かる状況、言わば“オープンエアの中にいる状況”が大事だと思っているんですね。だって、宇宙と成層圏の境目って線が引けないじゃないですか。ということは繋がっているということですよね。
そういうことを屋根のないところにいると実感するんですよ。森のとば口や外れにあるちょっと広めのところにキャンプサイトを作って、焚き火をしながら空を見上げると、一面の星空があるんですよ。その星を遮っている木の茂ったシルエットがあって、それが抜けたところには宇宙がある。そういうことが言いたくて、ここ数年は“オープンエア”って言っているんです。」
●ということは、キャンプ用品を揃えてからキャンプをしなくても、空を感じることができれば、それはそれでいいということですね。
「それでいいと思いますよ。ただ、みんなには、外に24時間いるという体験をしてほしいと思います。だから、最低でも二泊三日はしてほしいですね。一日だけでも、朝起きたら森の中にいて、その森の中で寝るという日を過ごしてほしいんですよ。
日本人って、旅を一泊・二泊ぐらいで済ませちゃうでしょ? ヨーロッパの人々なんて二ヶ月ぐらいいますからね。俺は色々なところでキャンプをしてきましたけど、ヨーロッパの人たちって、ブローニュの森でもキャンプをするぐらいなので、日本でも、代々木公園で気軽にキャンプをするといったようなことになるといいですよね。」
※20代の頃、世界を放浪中にアメリカのアウトドア文化に出会った油井さんは、当時こんなことを感じたそうです。
「アメリカのキャンプの洗礼を受けた1960年代の終わりから70年代というのは、ローインパクトに対してうるさかったんですよ。アメリカのアウトドアマンの中には『ゴム製の靴で足跡も付けるな!』っていうぐらい、エキセントリックな人もいましたね。また、『ブームなんてふざけるな! 好きな人だけ来い!』みたいなことを言う人もいましたね。」
●そういったマナーも含めて、海外のアウトドア文化と日本のアウトドア文化って文化がかなり違うんですか?
「違いますね。特にアメリカの人たちって、男性も女性も子供も、みんな体力がすごいですよね。だから、慣れているかどうかは分からないけれど、スポーツに精通している人たちが割と多いから、放っておいても構わない気がして、アメリカ人とのキャンプって楽なんですよね。でも、日本は『止めておいた方がいいんじゃない?』っていう人が多いんですよ。日本は体力のこともあるから、道具も多いしね。でも、キャンプをやるアメリカの人たちって、350ccのバイクなら手でキックしてエンジンをかけちゃうような人たちだから、日本のキャンプも、そういう野性味溢れる感じになっていってほしいなって思いますね。」
●油井さんが理想とするアウトドア・ライフって、海外がやっているようなものなんですか?
「どうでしょうかね。やっぱり、日本には日本独特のものがありますからね。例えば、アメリカで月見みたいなことをやったんですけど、俺は9月にある中秋の名月みたいな満月を見ると、情緒で満たされた感じがするんですよね。でも、向こうの人たちは、そういうことを全く感じなんですよ!
だから俺は今、月見もそうですけど、区切り区切りの日本の行事を体感しているんですよね。日本のそれぞれの行事にはある種の儀式みたいなものが必ず付いているから、それを体感しているんですよ。月見のときにお団子を作ってみたり、お茶をたててみたり、そういった日本人がいいなと思うようなことってほとんどが外なんですよね。日本って、基本的に縁側があって、軒が出ていて、軒の長さって冬の日差しの入り込む位置で決まるじゃないですか。だから、そういう風によくできてるんですよ。なので、日本の家って、外みたいな部分もあるから、俺たちの中にある天然・自然と一緒に暮らしてきたDNAを開放させてあげるっていうのは、いいと思うんですよね。
やっぱり自然っていうのは、木や野に咲く花など、全部それぞれパーフェクトなんですよ。どこから見ても完成しているんですよ。それに、俺たち人間って何かを学ぼうとしても、何から学ぶかというと、どんなことでも、自然からしか学べないじゃないですか。そういうつもりで自然の中にいるというのは、豊かなことですよ。教えてもらうことだらけだから、そこに身を委ねていればいいじゃないですか。
木漏れ日とかあるじゃないですか。俺は結構年をとったし、色々なところに行ったりしないから、キャンプサイトでいい感じのところを決めたら、そこでゆっくり景色を見たりしますよね。すると、地動説で地球が自転して、太陽の位置が変わってくるから、日差しが変わってきますよね。それをよく見ていると、下草を含めた、森の葉っぱって、一回は必ず光を受けるようになっているんですよ! いっぱい重なっていると『この葉っぱは光を受けないな』って思うじゃないですか。」
●だって、たくさんありますよね!?
「だから、ちゃんと風のことも知ってるんですよ。それはもう関心しちゃいますよね! そういうことを味わうだけで十分じゃないですか。だから、今俺自身がこうやって存在していることに感謝することが必要だと思いましたね。どんな状況であろうと、こうやって生を受けて、物事を感じられるっていうのはすごいなって思いましたね。それを思うと、そういった自然の中にいることって、いくらお金を払ったって、どうしようもないじゃないですか。その代わり、自然界を見る目を持っていないと、見れないんですよね。」
※油井さんの肩書きの“夕陽評論家”は、黒澤明監督の80年公開の映画「影武者」に大抜擢され、当時32歳ながら“ゴールデンボーイ”とマスコミでもてはやされていた頃、「紹介する時の肩書きはどうしましょうか?」と言われ、1本映画に出ただけで「俳優」と名乗るのもおこがましいので、子供の頃から大好きな夕陽を肩書きにして、“夕陽評論家”と名乗るようにしたそうです。
そして81年から世界でただひとりの夕陽評論家として活動されています。そんな油井さんとの夕陽トークです。
「俺は本当に夕陽が好きなんですよ。」
●実は私も夕陽が大好きなんですよね。夕陽って、見る場所とか、そのときの気持ちによって、違った表情を見せてくれると思うんですよね。
「一人で見るのか、二人で見るのかでも違ってくるしね(笑)。」
●好きな人と見る夕陽も、違って見えますよね(笑)。
「そのことばっかり思い出しますよね(笑)。」
●(笑)。でも、色は基本的にオレンジ色じゃないですか。
「まぁ、クレヨンで夕陽を描くとすれば、オレンジを使うと思うんですが、長年夕陽を見ていると、全色ありますね。」
●ということは、夕陽からはあまり想像できないような、青っぽいものもあるということですか?
「もちろん。グリーンフラッシャーっていうものがあるぐらいですからね。それは水平線に緑の線が引かれるんですよ。夕陽が沈んだ途端に、エメラルドグリーンが水平線を照らすんですよ! 中には、沈む寸前の夕陽に照らされたエメラルドグリーンの水平線がグニュグニュと曲がるんですよ!」
●それは見てみたいです!
「俺はグリーンフラッシャーを求めた旅をして、何回も見ているんですけど、なかなか見られないんですよね。」
●どこで見られたんですか?
「アメリカの西海岸とバヌワツ島と、ジブラルタル海峡の南側で見れましたね。あと、ポルトガルでは“緑の光線を見ると幸せになる”っていう諺があるんですよ。“緑の光線”っていうタイトルの映画もありましたしね。」
●他に、油井さんが印象的だった夕陽ってありますか?
「夕陽って、全部が世界一みたいなところがあるんですよね。だって、全部の夕陽が違うじゃないですか。この番組でもよく話していたけど、地球は誕生してから46億年で、そこから太陽と地球の関係が始まっているわけですけど、その間には必ず夕陽が必ずあるじゃないですか。ということは、一年は365日だから、×46億年で、プラス、ルートCの数だけ夕陽があって、それは全部違うじゃないですか。だから、今日の夕陽は昨日と違っていて、明日もまた違うっていうことを知っているだけでも興奮しますよね! もったいなくて、見逃せないですよね! しかもタダで見られるんですから! もちろん、高いところから見たいと思ったり、洒落たレストランで見たいとなるとタダっていうわけにはいかないですけどね。」
●油井さんオススメの首都圏の夕陽のスポットってありますか?
「内房は全部いいですよね。富士山に沈む夕陽が見られるし、目の前には東京湾が広がっているじゃないですか。そこにデカイ船が通ったりすると、結構感動するんですよね。目が無限大になっていて、忘れているところに大きな客船やタンカーが視界に入ってきたりするのって感動的なんですよね。特に双眼鏡やカメラを覗いているときに突然入ってくると、すごく感動的ですね。でも、千葉っていうと、みんなは朝日を連想するんですよね。」
●そうですね。初日の出を見にいったりしますよね。
「だけど、俺はどちらかというと、内房寄りですかね。」
●夕陽が沈むところですね。夕陽を見ると『今日も一日無事に終わったな』っていう気持ちになりますよね。
「朝日って、どうしてもお願いしたくなりますよね(笑)。」
●そうですよね(笑)。ちょっと拝みたくなりますよね。
「夕陽は、『ありがとうございました』っていう気持ちになりますよね。そこがすごくいいですよね。もちろん朝日も好きですよ(笑)」
(この他の油井昌由樹さんのインタビューもご覧下さい)
実は、私は今回初めて油井さんにお逢いしたのですが、とっても素敵で、しかも気さくな方で、本当に感動しました。次回は、ぜひ一緒に夕陽を見ながら、もっと色々なお話を聞かせていただきたいです。
夕陽評論家・油井昌由樹さんが、西麻布で営んでいるお店「SPORTSTRAIN」からU STREAMを通じての4時間ほどの生中継。お店に来た知り合いや通りかかった人を、いきなりゲストにして、油井さんとトークを展開する予測不能の面白番組。これまで、松任谷由実さんやテリー伊藤さんもゲストとして登場されたそうです。
◎放送日時:毎週火曜日夕方6時、または7時から
また、油井さんは俳優としても活動中。現在、大林宣彦監督の映画「この空の花~長岡花火物語」の撮影を行なっています。公開日程は未定です。
その他、油井さんの日々の活動などは、オフィシャル・サイトをご覧ください。