2011年9月24日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、栗岩薫さんです。
国立科学博物館の研究員である栗岩薫さんは“海に潜って、銛で魚を突く海洋生物学者”として生物学界ではかなりユニークな研究者として注目されています。今回はそんな栗岩さんに、なぜ銛をもって潜るようになったのか、そして研究対象である魚“アカハタ”のことなどうかがいます。
※栗岩さんは“海に潜って、銛で魚を突く海洋生物学者”として注目されていますが、そんな栗岩さんに、銛で魚を突くようになったきっかけから話していただきました。
「大学のときに入っていたサークルが、海に潜って、銛で魚を突いて捕って、それを食べて、キャンプをしながら全国をまわるということをずっとやっていたんですね。4年生になって研究室に入って、大学院に進むということになって、研究のテーマや研究対象の魚の種類を選ぶことになったんですが、“銛で突いて捕れる魚”をテーマに選んでいきました。」
●研究が先ではなくて、そっちが先だったんですね。栗岩さんの現在の研究対象は何ですか?
「“アカハタ”というハタの仲間ですね。」
●どういった魚なんですか?
「大体30~40センチぐらいの大きさで、すごく美味しい魚なんですね。本州の中部から沖縄の方にいる生息しています。」
●色は、“アカハタ”という名前なだけに、赤いんですか?
「そうですね。赤いですね。」
●なぜ、アカハタを研究対象にしようと思ったんですか?
「今在籍している国立科学博物館に来たときに、研究テーマを新しくして、色々研究をしていこうとしたときに、他の魚も考えていたんですけど、銛で突けるような魚がいなかったんですよね。」
●やっぱりそれは重要視しているんですね(笑)。
「(笑)。そのときのボスから『これはどう?』って言われた魚を自分なりに資料などで調べてみたら、テーマとしては面白かったんですね。そこで、調査として捕ったりしようとしたんですけど、全然気が乗らなかったんですよ。
ある学会で、大きなテーマがあって、研究者数人がいくつかのグループに分かれて、それに沿った研究をするということで、先輩と後輩と一緒に呑みながら、話をしていたんですね。そのときに、面白い結果が得られそうな魚を、ビールを呑みながら図鑑を見て、紙に書いていったんです。その中から銛で捕れそうなものをさらにピックアップしていって、それを“カッコいい順”に並べていったんです(笑)。」
●(笑)。それは見た目ですか?
「トータルですね。トータルでカッコいいというのは、“銛で突きたくなるような魚かどうか”なんです。突けるけれど、突くときに気が乗ってこないようなものは外してましたね(笑)。」
●ある程度、突き応えがありそうなものを選んでたんですね(笑)。
「そうですね(笑)。その1位がアカハタだったんです。そして、実際に捕りにいって、アカハタを集めて、調べてみたら『これは面白い結果になるんじゃないか』と思えるような調査結果が出たんですね。そこから、研究を進めていったという感じですね。」
※栗岩さんはアカハタという魚を研究してらっしゃいますが、どの辺の海をフィールドにしているのかお聞きしました。
「元々は、日本でアカハタが生息している海の全部に行ってました。具体的にいうと、房総半島以南の太平洋側と東シナ海側だったんですけど、ここ3年ぐらいは小笠原をメインにしていて、先日、小笠原が世界遺産登録されましたけど、そのときもちょうど小笠原に調査で行ってました。」
●実はこの番組でも、小笠原と電話で連絡を取ったりして、すごく注目している場所なんですけど、小笠原の海って、どんな海なんですか?
「小笠原は独特ですね。日本の海はそれぞれで特徴があるんですけど、小笠原の場合は一度も大陸と繋がったことがない海洋島で、緯度は母島と沖縄が同じぐらいで、父島と喜界島が同じぐらいなんですね。ですが、沖縄と小笠原では、環境が全然違うんですね。もちろん、海の中も違います。沖縄は大陸棚の上にあって、黒潮の近くなので、サンゴが非常に発達しています。
それに対して小笠原は、海洋島なので、島から離れると、急激に深くなるんですね。そのため、サンゴがサンゴ礁という形を作ることができないんですよ。当然、住んでいる魚も違ってきます 。」
●栗岩さんが研究しているアカハタは、小笠原にもいるんですよね。本州にいるアカハタと小笠原にいるアカハタって違いがあるんですか?
「アカハタって、アフリカの東海岸から東部太平洋のところまで、ハタの仲間の中で一番分布域が広い種類なんですね。日本はアカハタにとって北限になるんですけど、一つの種類で分布域が広ければ、種内での色々な遺伝子型・形態型が出てくるんです。
遺伝子に関しては、誰も研究をしていなくて、僕が始めたんですけど、日本・台湾・ベトナム・マレーシア・インドネシアのアカハタを見たんですが、その中で、日本だけ三つの遺伝子型が出てきました。まだ西部太平洋域しか調査していないんですが、全部一つの型しか出てこないんですね。残りの二つは日本だけに出てくる型で、その中の一つは小笠原にしか出てこない型なんです。小笠原にしか出てこない型は、多分マリアナの方と共通している型じゃないかなと思って、今解析をしているところです。ちなみに、その三つの遺伝子型は、形態的に区別ができないんですよ。」
●そうなんですか!? 見た目は同じなんですね。
「そうですね。見た目は同じですね。形態的に関しては、遺伝子型とは別に、岩礁域とサンゴ礁域といった感じで、別な形態型が出てくるんですね。本州や伊豆諸島にいる岩礁域は、アカハタは赤みが強くて、かなり大きくなるんですね。40センチぐらいから、50センチぐらいになるものもいます。それに対して、サンゴ礁のアカハタは、オレンジ色っぽかったり白っぽかったりして、あまり大きくならないんですね。でも、それは遺伝子型とは関係がなくて、環境要因で決まってくるみたいなんです。」
●環境要因で決まってくるということですが、環境によって、種類が増えてきているということですか?
「種類というのは語弊がありますけど、“同じ種類の中に”違ったタイプが出てきています。」
●なぜ、色々なタイプが出てきたんですか?
「他のハタの中で、一つの種類に地域差が出てくるのってあまりいないんですよね。なぜだか、こういったことはアカハタだけに出ているんですよね。」
●その理由は、分かっていないんですね。
「そうですね。今調査をしているところです。」
※栗岩さんは生物の研究者として、こんなことにこだわってらっしゃいます。
「“現場に出ること”ですね。現場というのは、“フィールドに出る”ということです。分野によっては、マウスなどのモデル生物を使って、実験室の中で完結する研究ももちろんあります。それはそれで面白いんですが、生き物が好きでこの世界にいる人がたくさんいるんですね。これは僕だけじゃないんですけど、フィールドに出ることができるから、やっていけるんですよね。
一年間で見てみると、フィールドに出ている日数と、実験室にいる日数を比べたら、断然、実験室にいる方が多いんです。それは仕方のないことなんですけど、フィールドに出ることがあるから、やっていけるんですよね。フィールドに出ることは、“本質を見る”という意味でも大事なことなので、やっぱり、フィールドに出ることは一番大事なことだと思いますね。
極端な例ですけど、ニワトリの研究をしているのに、サンプルを全部送ってもらっているから、ニワトリがどういう生物か分からない人がいたりするんですよね(笑)。」
●(笑)。やっぱり、フィールドに出ないと分からないことが多いということですね。栗岩さんが研究材料を捕ろうとしているときは、どのようなことを感じているんですか?
「基本的には何も考えずに魚を探しているんですが、たまに海の中とか外を見ると、素晴らしい景観があるんですよね。そういう場に出くわしたときに、月並みですけど『自然ってすごいな』って思いますね。また、荒れている海とかを見ると『人間は敵わないな』って思いますね。」
●フィールドに出ているからこそ、感じられることなんですね。
「そうですね。」
実は以前、栗岩さんが実際に銛で魚を突いている姿を映像で見せていただいたことがあったんですが、素潜りで潜って、巧みな銛さばきで魚を突いている姿は、まるで漁師さんのようで、こんな風に活動されている研究者の方もいらっしゃるんだと、とても衝撃を受けました。
でも、そういった栗岩さんの研究方法は、生き物を知る上でとても重要な“生き物が住んでいる環境を自分自身で見て、体感できる”、とても素晴らしい方法だったんですね。是非、今後も栗岩さんらしいこのスタイルで研究を進めていただきたいと思います。
毎日新聞社/定価1,680円
国立科学博物館の研究員である栗岩薫さんの最新刊となるこの本は、副題に“遊びも研究も刺してなんぼである”というように、海中に潜って魚を突いてきた栗岩さんの抱腹絶倒のエッセイ集となっています。
栗岩さんの活動や研究に興味を持った方は、是非、栗岩さんのホームページをご覧ください。銛で突いた魚の写真や研究レポートなどが分かりやすく掲載されています。