2011年10月8日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、角幡唯介さんです。
今回のゲストは、2010年12月以来、二回目のご出演となるノンフィクション・ライターの角幡唯介さんです。前回は「第8回開高健ノンフィクション賞」を受賞したデビュー作「空白の五マイル~チベット、世界最大のツアンポー峡谷」をテーマにお話をうかがいましたが、今回は新刊「雪男は向こうからやって来た」というノンフィクションを元に雪男の存在に迫っていきます。2008年に日本からヒマラヤに派遣された雪男捜索隊のメンバーだった角幡さんは、果たして雪男を目撃したのでしょうか。
※角幡さんの新刊「雪男は向こうからやって来た」は、雪男と呼ばれる未確認生物とそれを追う人たちのノンフィクションです。角幡さんが参加した2008年の雪男捜索隊は、イエティ・プロジェクト・ジャパンの高橋好輝さんを隊長に、ベテランの登山家やカメラマンが参加。総勢7名でヒマラヤに遠征し、 40日間に渡って捜索したそうです。まずは、どんな方法で探したのか、お聞きしました。
「具体的にいうと、テントを建ててキャンプをしますよね。今回はベースキャンプとは別に三ヶ所にテントを建てたんですけど、そこに篭って、ひたすら双眼鏡で山の斜面を眺めていました(笑)」
●(笑)。意外とシンプルな方法なんですね。
「なので、やっている間は全然面白くないんですよね(笑)。ずっと山の斜面を眺めていました。天気が悪くなると見れないので、そういうときはテントの中に入って、本を読んだり寝たりするような毎日でした。」
●そういうときって、どのようなことを考えて待っているんですか?
「ずっと双眼鏡で山の斜面を眺めているんですけど、ずっと見ていると、目の錯覚なのか、岩とか雪などが動いているように見えるんですよ。『あれ?動いているんじゃないか?』と思ってずっと見ているんですけど、次第に『あ、動いていないや』と思うんですね。そういうことが何度もありました。」
●ということは、みなさんは一喜一憂しながら観察されていたんですね。
「そういうのは心の中で思っているだけで、口には出さないです(笑)。自分で『動いているかな?』と思って、ずっと確認をしているんですけど、やっぱり動いていないことが分かるんですよね。それを何度も繰り返していました。」
●その2008年の雪男捜索隊では、成果は得られたんですか?
「チームの中にカメラマンの方がいたんですけど、その人が、ベースキャンプから上の方にあるキャンプに上がってくるときに、18センチぐらいの小さな足あとを見つけたんですね。写真で見たんですけど、よく分からなかったんですが、カメラマンさん曰く『サルみたいな足あと』だということでした。隊長も『恐らく雪男だろう』ということで、それがフランスのAFP通信に報道されて、新聞にも掲載されました。」
●足あとの写真を撮影することはできたんですね。私は、雪男の足あとってもう少し大きいものを想像していたんですけど、実際は、そのぐらいの大きさだったんですね。
「みなさんの中では、雪男って大きくて太っていて、白い毛が生えているといったイメージがあると思うんですね。僕も捜索隊に参加する前は、そういったファンタジーの世界にいる生き物といったイメージを持っていたんですが、現地では、人間の子供ぐらいの背丈で、足あとは18センチぐらいの、それほど大きくはないんじゃないかと言われているみたいです。」
●角幡さんの本の中にも出てくるんですが、恐らく、私たちがイメージしている大きな雪男の足あとというのは、私もどこかで見たことがあるんですが、1951年の11月にイギリスの探検家のエリック・シプトンが撮影した、長さ30センチ、幅13センチの足あとの写真があるんですけど、その写真で、多分雪男の全体の大きさなどを想像していたんですが、その写真は実際には違ったのでしょうか?
「違っていたかどうかはっきり言えないですが、ヒマラヤで“イエティ”と呼ばれている謎の生き物は、大きいものと小さいものの二種類がいると言われていまして、僕らが探しにいっていたダウラギリ山の生き物は、小さい方のタイプじゃないかと隊長は考えていたみたいです。大きい方のイエティは、恐らくクマじゃないかと言われています。そのシプトンが撮影した足あとが本物かどうかは分からないですが、僕らがさがしていたものはそれほど大きなものじゃないですね。」
※これまで多くの登山家が遭遇しているといわれている「雪男」を、実は女性で初めてエベレストの登頂に成功した登山家、田部井淳子さんも目撃していたんです。
「田部井さんは、シシャパンマというチベットの山で、僕らが行ったところとは違うんですけど、『見た』と仰っていましたね。かなりリアリティのある話をしてくれました。」
●どんな風に話してくれたんですか?
「子供のようなキラキラした目で、『私は信じているのよ!』って、すごく楽しそうに話してくれましたね。」
●それを聞いて、角幡さんはどう思ったんですか?
「田部井さんが雪男を見たということを、僕はずっと知らなかったですし、本人もそれほど話していなかったみたいですね。なので、実際に話を聞きにいく前は『ちゃんと聞けるのかな?』と思っていたんですけど、すごく楽しく話してくれたので、『何かを見たんだろうな』と思いました。」
●確かに見たから、そこまで熱く語ったんですよね。そして、さらに驚いたのが、ルバング島で元日本兵の小野田寛郎さんを発見した冒険家・鈴木紀夫さんも、雪男を捜索されていて、何度もヒマラヤに行っていたんですよね。
「そうですね。鈴木さんは、僕らが捜索した場所と同じところで探していたんですね。小野田さんをルバング島から連れ帰った翌年にヒマラヤに行って、雪男の捜索を始めました。彼は、その最初の捜索で雪男らしい姿を発見して以来、完全に信じてしまい、ヒマラヤに六回行ったんですね。同じところに何度も行って、最後は雪崩で亡くなってしまいました。」
●雪男の捜索の途中で亡くなってしまったんですね。何度も行くというのは、それだけ熱い思いがあったのかなと思ったんですけど、角幡さんは鈴木さんの奥様とお母様にお会いして、お話を伺ったということを本の中にも書いていますけど、奥様とお母様はどういう風に話していたんですか?
「奥さんは、雪男を捜索することの一番の理解者だったと思います。色々な資料を見せてくれましたし、鈴木さんが雪男を最初に見たという、すごく小さな写真を貸してくれました。奥さんも『何かを見たんじゃないか』と仰っていましたね。お母さんは心配していたと思います。『できれば、もう止めてほしいな』という思いで鈴木さんを見ていたと思います。」
※角幡さんは雪男捜索隊にも参加していますが、ご自身は昔から「雪男」に興味はあったのでしょうか。
「僕が捜索隊に参加することが決まるまで、雪男や未知な生物のことに対して、あまり興味がなかったんですが、決まってから色々な人から話を聞いていくうちに、彼らも元々は僕と同じだったんじゃなかったのかなという気がしたんですね。だけど、彼らは何かを見て、存在を信じるようになったので、『もしかしたら、自分もヒマラヤに行って同じ場所に捜索をしたら、何かを見てしまうんじゃないか?』と思いました。
彼らが見た何かが雪男かどうかって、僕にとってはそれほど大きな問題ではなかったんですね。むしろ、自分が何かを見て、『それを雪男だと信じてしまったら、どういう感じがするんだろう?』という好奇心の方が強かったですね。恐らく、鈴木さんや隊長の高橋さんもそういう体験をしたかと思うので、そういう興味がすごくありましたね。」
●その興味が高まって、2008年の雪男捜索隊への参加の後、角幡さんは一人で山に残って、雪男の捜索を継続したんですよね。
「そうですね。」
●それは、そういった理由から、一人で残ったんですか?
「先ほど、カメラマンの方が足あとを見つけたと話しましたけど、その足あとって僕らは見ていないんですよ。カメラマンの方が撮影した写真を見ただけですし、それらしい足あとの写真はたくさんあるし、隊長の高橋さんも見てきているんですね。なので、今回足あとが見つかったときも『あ、そうなんだ』ぐらいで、僕らの中ではそれほど大きな話題にはならなかったんですね。だから、何かを発見したといった感じが僕の中になくて、『せっかく来たんだから、そういう体験をしてみたい』という気持ちがあったので、そのまま一人残って捜索を続けました。」
●一人残って捜索を続けて、どうしたか?
「山登りなどと違って、キャンプ地に一人で体も動かさないで見ているだけなので、話し相手もいないので、精神的にきつかったですね。頭の中で色々なことを考えて、独り言を喋ったりしてしまいましたね(笑)」
●(笑)。結局は、最後まで見れなかったんですか?
「雪男の姿は見れませんでした。」
●それ以外に、何か感じたこととかありましたか?
「雪の上に付いていた足あとはいくつか見たんですけど、それを見たときは『もしかして、雪男じゃないか!?』と思って、確認しにいったりしましたね。」
●その後の様子は本を読んでからのお楽しみということですね! 角幡さんは、雪男の捜索から3年経っていますが、改めてお聞きします。雪男はいると思いますか?
「それは答えにくい質問ですね。色々な説明の仕方があるんですよ。確かに現地に行ってみたら、足あとがたくさんあるんですが、ほとんどは動物の足あとだったりするんですね。なので、先ほど話した田部井さんの一件を始め、今までの目撃情報が全部動物の見間違いだという説明をすることが可能なんですね。ただ、鈴木さんが見た生物の話もそうですし、隊長の高橋さんが過去に見た足あととか見た話を聞いたりしていると、簡単には結論を出せない部分がたくさんあるんですね。なので、いるとも言えないし、いないとも言えないので、難しいですよね。」
●ただ、私としては、人間がまだまだ知らないものがたくさんある方が面白いと思うんですよね。角幡さんが以前この番組に出演していただいたときもそうでしたが、“未知なる世界”というのが角幡さんの冒険のキーワードになっているのかなと思いました。
「そうですね。未知の部分がなくなってしまうと、僕の仕事がなくなってしまいます(笑)。僕が前回書いた本のような未知と、今回の未知とでは、ちょっと違ったものではあるんですけど、そういう“何があるのか分からない”ということは面白いですよね。」
●地球には、私たちがまだまだ分かっていないことがたくさんありますよね!
「そうだと思います。」
(この他の角幡唯介さんのインタビューもご覧下さい)
実は、私も角幡さんの著書を読む前までは半信半疑だったんですが、著名な登山家の方々も目撃されているというお話など伺って、雪男はいるのではないかと、今では思い始めています。なにより、まだまだ人間が簡単に入り込めない険しい山々や辺境の地には、私たちが知らない世界があると思うと、なんだかロマンがあっていいですよね!
集英社/定価1,680円
雪男がいるのかどうか気になる方はぜひ、ノンフィクション・ライターの角幡唯介さんの新刊「雪男は向こうからやって来た」を読んでください。巻頭には2008年の捜索でカメラマンが録った、雪男かもしれない足跡の写真や、ネパールの寺院に保管されている雪男の頭の皮の写真など、気になる写真も掲載されています。また、田部井淳子さんや鈴木紀夫さんのご家族へのインタビューの模様など、読み応えのある優れたノンフィクションです。
角幡さんは「ホトケの顔も三度まで」というタイトルのブログもやっています。角幡さんの近況から、最近感じたことなど、まめに更新されていますので、是非チェックしてください!