2011年10月15日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、松澤等さんです。
極限の場所でアイロンがけをする、エクストリーム・アイロニング・ジャパンの代表、松澤等さんは、これまでに富士山の山頂など、常識では考えられない場所でアイロンがけを行なってらっしゃいます。
なぜ野外でアイロンをかけるのか、アイロンをかけるという行為から何を感じ取っているのかなどのお話をうかがいます。
※まずは“エクストリーム・アイロニング”とは何か、素朴な疑問をぶつけてみました。
「簡単に言うと“野外でスポーツ的な感覚で行なうアイロンがけ”のことですね。」
●“野外でスポーツ的な感覚で行なうアイロンがけ”ですか。今私の中には「?」がいっぱい出ています(笑)。まずアイロンって室内でかけることが多いと思いますが、野外だと、どういったところでかけるんですか?
「エクストリーム・アイロニングの基本となるフィールドは山です。しかも山頂ですね。登山をもう少し楽しむ一つのツールとしてアイロンを持っていくという感覚ですね。アイロンとアイロン台を山まで持っていって、それを持って山を登ります。 みなさん、山頂に着いたら、達成感がありますよね。僕らはそこでアイロンがけをすることによって、山を登った達成感だけじゃなく、シワを伸ばす達成感といったものも加わってくるんですよね。普通に山を登るよりも、一段階上の達成感が得られるというのが、エクストリーム・アイロニングの基本的な考え方です。」
●ということは、二重にも三重にも達成感があるということですね?
「私たちはそう考えています。」
●自分でアイロンとアイロン台を持っていくということですが、山以外のフィールドでもそうなんですか?
「そうですね。基本的にスポーツという感覚で行なうので、山であれば、ロープウェイやケーブルカーがあったりしますけど、そういった乗り物に乗って山頂に行って、アイロンをかけるのではスポーツ性がないので、私たちはアイロンをかけるに至るまでの工程もすごく大事にしています。なので、山であれば、アイロンセットは重くてかさばるんですけど、それでも持って、自分の足で登っていきます。 自分に負荷をかけることによって、山頂でのアイロンがけがもっと気持ちよくなるんですよね。それがエクストリーム・アイロニングのスポーツ性です。また、他のスポーツにも取り入れたりすることもあるんですね。例えば、サーフィンをしながらアイロンをかけたりします。」
●サーフィンをしながらアイロンをかけるって、想像ができないんですけど、どういう風にするんですか?
「ロングボードの前方にアイロンとアイロン台をセットした状態で沖に出ます。アイロンはあらかじめ温めておくか、サーブボードの上でバーナーを使って温めます。その状態でサーフィンをして、波に乗りながら、対象物にアイロンをかけるんです。
なぜ、こういうことをするかというと、サーフィンに限ったことではないんですが、日常的に行なわれているスポーツをやっていると、段々と単調化してくるんですよね。それにアイロンがけという行為を入れるだけで、ものすごく難しくなって、全く別のスポーツになったりするんですよ!
私はサーフィンを20年やっているんですけど、アイロンがけを入れると立てないぐらい難しくなるんですが、そういうことを克服して、アイロンがけをすることによって、同じスポーツでも新しい発見があったり、難しくなったものを乗り越える楽しさがあったりしつつ、シワを伸ばす気持ちよさもあるんですよね。なので、色々なスポーツに取り入れたりしています。」
※松澤さんが野外のアイロンがけにハマってしまったキッカケは一体何だったんでしょうか?
「海外にいたときに、あるテレビ番組のニュースで、山の上でアイロンがけをしている人のシーンがあって、それを見たんですよ。そのときは『なんだろう?』と思ったんですけど、そのシーンがすごく印象に残っていて、後に自分がやることになりました(笑)」
●(笑)。その「なんだろう?」と思ってから実際にやるまでには、色々な過程があったかと思いますが、やることになったキッカケって何だったんですか?
「僕も、当時はやると思っていませんでした。そのシーンを見たとき『バカじゃないの?』と思っていましたからね。ただ、山の上でアイロンがけをしていた人は、その映像を見た限りでは、ふざけてやっていたんですよ。僕はその頃から、家事としてのアイロンがけが好きで、日常的にやっていたし、登山の経験も積んできていたので、『バカらしいけど、僕の方がうまくできるな』といった印象があったんですよね。
それで、日本に帰ってきて、ある山に行ったときに『おふざけで写真でも撮ろうかな』といった感覚で、アイロンを山に持ち込んだんですよ。電源を持っていかなかったので、山頂で冷たいままのアイロンでアイロンがけをしたら、鳥肌が立つような気持ちよさがあったんですね。そこで『もし電源をちゃんと取って、ちゃんとしたアイロンがけをやったら、すごい効果があるんじゃないかな』と思って、少しずつやり始めて、今に至るといった感じですね。」
●鳥肌が立つような面白さって、日常ではなかなか経験できないですよね! それほど印象的な体験だったんですね。
「山頂だと、シワを伸ばす達成感が体中でひしひしと伝わってくるような感じがしました。最初はバカにしていたので、自分でもビックリしました。」
●そこからエクストリーム・アイロニングにハマり、エクストリーム・アイロニング・ジャパンを立ち上げて活動を始めて、現在に至るんですよね。今までどんなところでアイロンがけをしてきたんですか?
「一番印象深い場所は富士山の山頂とか、海の中でやったというと、みなさんにまた色々と誤解を招いてしまうんですが、新江ノ島水族館にある相模湾大水槽の中とか、相模湾の海底、西表島や石垣島の山頂、イタリアのフィレンツェでもアイロンがけをしたことがありますね(笑)」
●あのキレイな景色の中でやったことがあるんですね(笑)。
「そうですね。あのキレイな景色の中、アイロンセットを持って走って、自分に負荷をかけた上で、ミケランジェロ広場という、フィレンツェの街を見下ろすことができるところがあるんですが、そこの人がいない端のところで、アイロンをかけました。」
●実は私、ダイビングをするので、海の中でアイロンをかけるということにすごく興味があるんですけど、タンクを背負って潜るんですか?
「タンクを背負って潜るときもありますし、フリーダイビングで潜るときもあるんですが、ゆっくりアイロンがけをする場合は、やっぱりタンクを背負わないとダメですね。水中なので、当然アイロンの電源は取れないですし、やっている自分も訳が分からなくなってきます(笑)。
水中のアイロンがけの面白いところは、アイロンがけをし終わった後に、シャツを畳むんですけど、水中でシャツを畳むのって、ものすごく難しいんですよ。なので、水中でのアイロンがけは、アイロンがけをしたときの達成感よりも、終わった後のシャツをちゃんと畳み終えたときの達成感の方が気持ちよかったですね。」
●あと、気になるのが、電源のことなんですけど、アイロンは生きた状態で使用されているんですよね。電源はどうしているんですか?
「以前は、発電機を毎回山に持ち込んでいたんですけど、あれは重くて、少なからず排気ガスを出すし、環境によろしくない上に、うるさいんですよね。なので、今は直火です。山でお湯を沸かすときにバーナーを使いますよね? そういった小型のバーナーを持ち込んで、直火でも耐えられるアイロンを乗せて、アイロンに熱を溜めさせて、それでアイロンをかけるんです。」
●冷めたら、また温めるといったことを繰り返すんですか?
「基本的に山頂では、シャツといった一つの対象物にしかアイロンをかけないので、一回温めてしまえば大丈夫ですね。」
●そうなんですね。直火でもアイロンは長時間温かくなるなんて知らなかったです。
「でも、それは昔のアイロンでの話です。今のアイロンは精密機械なので、直火だと壊れてしまいます。なので、昔、炭を入れて使っていたアイロンとかが、アンティーク・ショップに行けば売っているんですよ。そういうアイロンを私たちは選んで使っています。」
●アイロンをかけるシャツは、どうしているんですか?
「山のときは、僕たちはドライフィットのシャツではなく、あえてコットンのシャツを着て山に登ります。山頂に着いたら、環境に優しい洗剤を水で薄めて、汗をかいたシャツにそれをかけて軽く絞って、それにアイロンをかけて、またそのシャツを着て下山します。」
●それをまた着るんですね!
「それが一番理にかなっていると思います。」
●着心地はどうですか?
「パリっとしているので、最高にいいですね!」
●それは気持ちよさそうですね!
※究極の場所でアイロンがけをする松澤さんですが、どこでもアイロンがけをしてもいいのか、聞いてみました。
「場所にもよりますね。例えば、エクストリーム・アイロニングは山の上でやることが多いんですが、山頂って、ほこらがあったり、鳥居があったりして、神聖な場所だったりするんですね。なので、基本的にどこでもアイロンがけをしてもいいというわけではありません。僕たちは自分たちの判断で『ここは許可が必要だ』と思ったところは必ず許可を取ります。
“エクストリーム”という言葉は“究極”という意味があるんですが、動画投稿サイトなどでやっている映像を見ると、無謀なアイロンがけをしている人が多いんですよ。なので、“究極”と“無謀”を履き違えないように、スポーツという意識を持ってやるのであれば、ある程度のモラルとマナーは必要なんですよね。『この場所では、勝手にやっちゃいけないな』というところでは許可を取ったり、時には、やらないということも大事かなと思います。」
●山まで行かなくても、家のベランダで軽くやってみたりとかするだけでも楽しさは得られるんですか?
「間違いなく得られますね。僕は基本的に家でも外でアイロンをかけるんです。それはベランダだったり庭だったりするんですけど、日の光を浴びつつ、小鳥のさえずりを聞きながら、アイロンの蒸気に乗って洗濯石鹸の甘い香りが漂ってくるので、外だと五感で楽しめるアイロンがけができるんですよね。しかも、洗濯物って外で干すじゃないですか。だから、取り込むときに、その場でアイロンをかけて、畳んで、家の中に入れるという流れは、順番的にも理にかなっていると思うんですね。
アイロンがけが嫌だという人にオススメしたいんですが、ベランダとか庭など、外の環境で一度アイロンがけをしてみてほしいですね。雨が降っていたら、窓際でもいいので、やってみると、いつもと違うアイロンがけになって、アイロンがけが楽しめるキッカケの一つになるんじゃないかと思います。」
●改めて伺いたいんですけど、エクストリーム・アイロニングの醍醐味は、どういったところですか?
「僕たちはアイロンがけという行為で、シャツやハンカチなどのシワを伸ばしているんですが、結局は、“心のシワを伸ばしている”といった感じですかね。」
●確かに、普通にアイロンがけをしていても、シャツがピシッとなると、心もピシッとなりますよね。
「凛とするんですよね。それは日常のアイロンがけでも味わえると思います。あと、世の中の男性に一つ言いたいのが、もっとアイロンがけをしていただきたいですね。靴とかを自分で手入れする男性がすごく多いんですけど、それなら自分のシャツも自分でアイロンがけをしてほしいですね。そうすれば、凛とした気持ちになるし、心のシワも伸びるんじゃないかと思います。」
●自然の中でするアイロンがけのよさって、どういったところにありますか?
「“自然との一体感が得られる”というところですかね。山頂でアイロンがけをすると、アドレナリンが爆発的に出てくるような気持ちよさもあるんですが、その後は、アイロンがけを通じて、自分の高揚した気持ちを山に納めるような感覚があったりするんですよ。なので、外でアイロンがけをしていると、自然との一体感が得られることって結構あるんですよね。野点に近い感覚があるかもしれないです。例えば、昔、戦国武将が戦の前に野で茶を立てて、一時の平静を楽しむというような感覚があるんじゃないかなと思いますね。アイロンがけという行為を自然環境の中でやることによって、気持ちが落ち着くような感じがしますね。すごくおごそかな言い方をすると、“禅”的な感覚も少なからずある気がします。」
●是非とも、その気持ちをたくさんの方に体験していただきたいですね。
「そうですね。でも、まずは日常のアイロンがけをしっかりとやっていただいて、そこから山などでやってみたい方は徐々にやっていただければと思います。」
●最後に伺いたいんですが、松澤さんにとって、エクストリーム・アイロニングとは、なんですか?
「あまり考えたことはないんですけど、“人生における踏み絵”ですかね。エクストリーム・アイロニングを見て、『つまらない』と思って、自分の中で弾いてしまったら、そこから何も広がらなかったと思うんですが、エクストリーム・アイロニングを知って『バカバカしい』と思いながらも、実際にやってみたら、これだけ世界が広がったので、僕にとっては、自分の人生における踏み絵だったのかなという感じがしています。」
●エクストリーム・アイロニングによって、人生が変わったということですね。
「良く変わったのか悪く変わったのかは、今でも分からないですが、ちょっと変わったような気がします。」
実は松澤さんに今後の目標もお伺いしたんですが、まずはアフリカ大陸最高峰の”キリマンジャロ”、続いて南極大陸最高峰の”ビンソンマシフ”の 頂上でアイロンがけを行ないたいそうです。そして最終的には、世界最高峰のエベレストの頂上でアイロンがけをしたいんだとか! まさにエクストリームな目標ですよね。もちろん、かなり厳しい挑戦になると思いますが、達成できたら恐らく世界初! これは今後も松澤さんから目が離せません!
ちなみに、エクストリーム・アイロニングは競技としても行なわれていて、過去2回ドイツで世界大会が開催されています。次回の開催はまだ未定なんですが、ロンドンオリンピックに合わせて、テムズ川の畔で大会が計画されているそうです。もし開催されれば、松澤さんは日本代表として出場されるそうなので、こちらも応援していきたいですね。
早川書房/定価1,470円
松澤さんが2年前に出版した本。松澤さんの半生やアイロニングの方法などを、写真を交えつつ書いています。
10月22日(土)に、鎌ヶ谷市立図書館にて、松澤さんの講演「エクストリーム・アイロニングから学んだこと」が開催されます。松澤さんならではのお話がたくさん聞けると思いますので、是非ご参加ください。
◎日時:10月22日(土)の午後1時半~3時半まで
◎場所:鎌ヶ谷市立図書館・本館3階・集会室
◎定員:50名(先着順)
◎申し込み/お問い合わせ:鎌ヶ谷市立図書館
松澤さんの活動などについては、エクストリーム・アイロニング・ジャパンの公式サイトをご覧ください。これまでの活動内容やトレーニングしている写真、愛用しているアイロンや台の写真なども掲載されているので、見ているだけで楽しめるサイトです。