2011年10月29日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、須田郡司さんです。
国内外の大きな石「巨石」を取り続ける写真家、人呼んで“巨石ハンター”の須田郡司さんは、世界の聖なる石を訪ね歩いた後、日本国内の巨石をめぐる旅も行ない、石や人、風土の関係を探っています。
今回はそんな須田さんに、大きな石からどんなことを感じ取っているのかなど、色々お話をうかがいます。
※まず、巨石を撮るようになったキッカケからうかがいました。
「元々は、石そのものより、石がある場所、いわゆる“聖なる場所”というところに魅かれていて、山岳信仰の霊場を巡っていると、岩とか石がたくさんあるんですね。最初は、聖なる場所に魅かれていて、それを巡っていたんですけど、徐々にそこにある岩や石が気になり始めました。そこで『聖なる場所と石は、非常に関係しているんじゃないか』と思って、段々とそこにある石や岩に焦点を当てて、各地を巡るようになりました。そこから“巨石”というものに魅かれて、追いかけるようになりました。」
●それまでは何気なく見ていた、聖なる場所にある石ですけど、そういった目で改めて巨石を見て、どう思ったんですか?
「そういうところを周っていると、石そのものに興味が出てきたので、石の周りにある人工的な建物などに違和感を覚えるようになってきました。石や岩そのものが、古くから畏敬の念を持っていて、それに対して人々が手を合わせたりするということがあったんじゃないかなと思うんですね。
でも、月日が経つにつれて、人々が様々な宗教を信仰していくと、大きな石の前に大きな建物ができてしまったんですね。それによって、石そのものが背後に回ってしまって、見えなくなってしまったような場所が結構あるんです。それによって、石や岩が持っているアニミズム的なものが一番古い信仰の形じゃないかと徐々に気づき始めたんですね。そこから、神社やお寺に行ったら、建物の後ろに回ってみるようになって、石と出会うというケースが多くなりました。」
●石を見ることによって、周りも見えてきたということですか?
「そうですね。石だけじゃなくて、その石がある地形や建物など、周りの自然環境が複合的に作られているような印象もありましたね。」
●「なんでこんなところにこんな大きな石があるんだろう?」って思うような石をテレビなどで見たりするんですけど、なぜなんでしょうね?
「なぜなのか、私もはっきりとは分からないんですが、そういった巨石がそこにあって、なぜか分からない存在感があって、場所によっては、人間との関わりの中で物語が生まれたり、宗教的な施設が近くにできたりして、ある意味で巨石は我々人間を圧倒する存在であるのと同時に、人間に対してのメッセージを発してくれているんじゃないかという感じがするんですね。」
●確かにそうですよね。ありえないところに石があったら、そこから色々なストーリーが生まれてきますよね。
「そうですね。何かの形に似ている石って世界中にもたくさんあるんですけど、その石には名前が付きますよね。特に日本の場合は、動物に例えたり、お地蔵さんに例えたりしている岩がたくさんありますが、そういう風に名前を付けることによって、より愛着を持って、それが段々と大きな物語を生んでいくといった、民俗学的な変化というものもあるような気がしますね。」
●先ほど、巨石は私たちにメッセージを発してくれているんじゃないかと話していただきましたけど、須田さんは、巨石からどういったことを感じましたか?
「私はここ18年近く、巨石をテーマに各地を周っているんですが、石って、石がある場所との関係性がすごくあるような気がします。日本には北海道から沖縄まで、幅広い様々な地形があって、色々な文化がありますよね。それと同じように、日本語にも色々な方言があるように、石にも多様性をもった石が存在していると思います。そして、そのメッセージというのは、石そのものが私に直接言葉を発しているわけではなく、そこにいることによって、石がメッセージのようなものを発しているような感覚がありますね。」
※今まで出会った石の中で、印象に残っている石について話していただきました。
「例えば、日本で、特に関東圏で一番印象に残っている石は、茨城県の日立市というところに、竪破山(たつわれさん)という山があります。そこにある太刀割石(たちわれいし)というものがあるんですが、それは本当に不思議な石ですね。」
●どんな石ですか?
「花崗岩なんですけど、自然に岩が割れてしまうような、侵食された地形にあるんですね。その岩が、真っ二つに割れたような状態で、片方は立っていて、もう片方は横に倒れているんです。まさにナイフでスイカをキレイに切った感じですね。」
●不思議ですね! でも、なんでそんな形に割れたんでしょうか?
「周囲が15メートルぐらいある、非常に大きな岩なんですけど、この太刀割石は、古くから岩倉という、神が降臨する岩として守られてきた岩なんです。その岩は、水戸黄門で有名な水戸光圀公が命名したんですが、なぜその名前を付けたかというと、八幡太郎義家という人が、その山に登って、ある日夢に現れた黒坂の神様からいただいた大きな太刀で、その石を切ったという伝承があるからなんですね。」
●その岩は、歴史の中に登場するぐらいの岩なんですね。日本の伝統の中には、石への信仰といったような文化があるということですが、日本では“全てのモノに神様が宿っている”という八百万の神の考えがありますけど、これは世界ではどうなんですか? 石を信仰している国って他にもあるんですか?
「石を信仰しているというのは語弊があるかもしれませんが、例えば、ヨーロッパではキリスト教を信仰している人が多いですよね? そのキリスト教の中でも、いわゆる“カトリック”と呼ばれている宗派は、洞窟や岩山に教会を作ることが多いんです。なぜなら“洞窟や岩の上に聖母・マリアが現れた”といった伝説がありまして、そういう奇跡が起きる場所が岩の上や洞窟なんです。
例えば、ルルドという有名な聖地があるんですけど、ルルドも水が沸いてくる洞窟のようなところがあって、そこにマリア様が現れたといわれているので、聖地になっています。また、南米にコロンビアという国があるんですけど、コロンビアに“ラス・ラハス教会”という教会があります。これは、崖だったところにマリア様が現れたということで、色々な奇跡がたくさん起きたことで、そこにある岩を取り囲んだ形で、ラス・ラハス教会ができました。
なぜ、そういったところにマリア様が現れたか分かりませんが、私の想像ですが、岩や洞窟って、キリスト教が生まれる前からアニミズム的なものがあって、それをカトリックの人たちは、それを取り囲むようにして、聖地として認めていると思います。」
※私たちが巨石を見たいと思ったら、どこでも入って見ていいのでしょうか?
「巨石も色々なところに置かれていますので、個人で所有されている山にある岩とかは、勝手に撮影するわけにはいかないですが、基本的には大丈夫だと思います。」
●神々しいところでの心構えとかは、どうすればいいですか?
「巨石は私たち人間よりも前からそこに存在していて、それを私たち人間が後から名前を付けたり、信仰の対象としていますが、石や岩はゆっくりとした呼吸で生きている感じがするんですね。なので、決まりとかは特にありませんが、岩の前とかでゴミを捨てるとか落書きをするなどをせずに、なるべく失礼のないようにしていただきたいですね。また、巨石に上るときは靴を脱いで裸足で上がっていただくと、石と触れ合って、その石の感覚が体にも感じるんじゃないかと思います。」
●可能であれば、石に触ってみた方がいいんですか?
「そうですね。私は石に出会うと必ず触ります。それによって、石の感覚を感応することが自分の中では大切なことだと思っています。石に触れることによって、地球の記憶を少しでも感じることができるような気がするんですね。」
●巨石に触ると、地球の記憶を感じることができるんですね! 写真は撮ってもいいんですか?
「特に細かな決まりはないんですが、私は巨石の前に立つと、ムビラというアフリカの民族楽器を奏でます。そうやって、写真を撮る前に音を出すことで石とコミュニケーションを取って、それから撮影します。写真を撮るときも、できるだけ石の表情を確認します。石には顔があるんですよ! だから私は、あまり色々な角度から撮らずに、なるべく石の顔を眺めて、正面から撮るようにしています。
石と向き合って、色々な石を見つめると『こっちから撮って!』という声が聞こえるんですよ(笑)。なので、近づいてバシバシ撮影するんじゃなくて、石の前に立って、目を瞑ってもいいんですが、心で石全体を感じながら、石の声を聞くことが大事だと思います。私は“ボイス・オブ・ストーン”という言葉を使っているんですが、石がどういう気持ちで私たちを見ているのかなどを考えつつ、石に対する挨拶も兼ねて、その石の表情を、その石が撮ってほしい方向から撮るという風に撮影しています。」
●最後にお聞きしたいんですが、須田さんにとって“巨石”とは、どういった存在ですか?
「“色々な場所に多様性をもって、そこに存在している大きな石”ですね。それに色々な意味を付けるのは、人それぞれで自由だと思うんですね。なので、それが地質的に面白い石もあれば、名前も付いている岩もありますし、信仰されている岩もあります。“そこにある”ということがすごく大切なことだと思います。」
須田さんもおっしゃっていましたが、石は遥かなる昔からそこにあって、地球の移り変わりを、ずっとその場所で見てきたんですよね。そんな石に触れて、石の声“ボイス・オブ・ストーン”に耳を傾ければ、地球の記憶を感じる事が出来るかもしれないですね。ぜひ私も、機会があれば巨石を探しにいってみたいです。
祥伝社新書/定価987円
巨石ハンター・須田郡司さんの最新刊となるこの本は、巨石ハンターならではの視点で撮影された石の写真がたくさん掲載されています。撮影された石がどのような形をしていて、どのような場所にあるのかがよく分かる内容になっています。
須田さんのオフィシャル・ウェブサイトでは、これまでの出版物や個展の略歴が、フォトギャラリーのページには国内外の石の写真がたくさん載っています。気になった方は一度ご覧ください。