2011年12月10日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、林完次さんです。
天体写真家の林完次さんは「宙の名前」などの著作で知られていますが、先頃「すごい夜空の見つけかた」という本を出されました。今回はそんな林さんに、夕暮れや月にまつわるお話や、冬の天体観測のコツなどうかがいます。
※天体写真の第一人者として活躍されている林さんには、この番組には何度かご出演いただいていますが、長澤がお会いするのは初めてだったので、まず、天体観測にハマったキッカケをお聞きしました。
「これにはいくつか要因があるんですが、一番大きいのは、僕が小学生のときに火星が大接近したんです。火星って、二年二ヵ月ごとに小さな接近をして、十五年から十七年に一度、大接近をするんですよ。ちょうど、その大接近の年に当たりまして、近づく前から、少年雑誌などでそういう情報が入ってくるんですね。僕が子供の頃って、タコのような火星人の絵が書いてあったんですよ。」
●私もその姿を見たことがあります!
「望遠鏡で見ていたら、そういう姿が見えるわけじゃないですけど、あれを見たら、『見たい!』と思って、興味が沸いてくるじゃないですか。そこからスタートしましたね。それで、せっせと小遣いを貯めたんですが、望遠鏡を買うにはお金が足りず、親に少し出してもらって、小さな望遠鏡を手に入れたんですよ。それで見たのがキッカケだったと思いますね。
でも実はその前に、キャラメルのオマケで、海賊船の船長が見るような、手で引っ張ると三段ぐらいに伸びる小さな望遠鏡をもらった事があったんですね。それをもらってから、しばらくは見ていたんですが、「中はどうなっているんだろう?」と思って、分解して中を見てみたんですよ。」
●どうなっていたんですか?
「先と覗く方にレンズがついているだけで、は空洞だったんです(笑)」
●何も入ってなかったんですね(笑)。
「対物レンズと接眼レンズだけだったんですよ。それを壊してしまったから、望遠鏡がなかったので、火星が接近してくるときは、すごく見たかったんですよね。」
●実際は、見られたんですね?
「見られたんですけど、赤くてボーっとしたものが見えるだけなんですよ。」
●では、そこまで感動はしなかったんですか?
「感動はしなかったですね。むしろ、火星より、その望遠鏡で月を見たら、月のクレーターがたくさん見えたし、土星を見たら輪っかが見えたり、木星を見たら縞模様が見えるといった感じで、そっちの方に興味を抱いたんですよ。そこから、本格的に星が好きになりましたね。“見えるものを見る”より、“見えないものを見る方”が、すごく楽しいんですよね。」
●その頃から星に興味をもって、写真とかも撮ったりしていたんですか?
「写真は小学生の時に、兄から『カメラを使っていいよ』と言われていたので、最初は遠足の時に撮っていたりしていたんですよ。でも、ある時、夕方に西の空を見たら、細い三日月が出ていたので『これを撮ってみよう』と思って撮ったんですけど、全然写っていないんですよ。
今のデジカメみたいに、結果がすぐには分からないので、写真屋さんに持っていって、現像をして初めて分かるんですけど、それを見て、兄が『露出が不足している。シャッターの絞りをもっと開けなくてはいけないよ』とアドバイスをしてくれたんですが、何を言っているんだか全然分からなかったんですよ(笑)。
それから、そういう仕組を自分なりに勉強して、二度目か三度目には綺麗に撮れたんですよ。そのとき、夕方でも綺麗に撮れることを知って、それからのめり込んでいきましたね。子供の頃は都内でも、今よりもうちょっと星が見えたんですよ。」
●被写体になる月や星の知識は、どのようにして学んだんですか?
「僕が子供の頃、渋谷にプラネタリウムができたんですよ。今は無くなってしまったんですが、当時はよく行きました。解説者が喋るのも全部覚えちゃいまして、私が解説者の脇に座って、小さな声で何度か言った事があるんですけれど、すごくやりにくそうにしていたので、『もう喋るのはよそう』と思うくらいに、覚えちゃいました。それくらい通いましたね。
それから、もう少し年齢が上がってからですけど、渋谷のプラネタリウムを見た帰りに、神田の古本屋街に寄って、天文書の古書をあさって、古書をずいぶんと読みましたね。」
※林さんの新刊「すごい夜空の見つけかた」の中にも、素敵な月の写真がたくさん載っていますが、林さんはどんな月が好きなのでしょうか。
「全部好きですが、特に、新月から光り始めた、細い三日月が好きですね。三日月を見ると、光り輝いている脇に、ぼんやりと薄く、丸い月が見えてくるんですよね。どうして見えるかというと、月は地球の周りを回っていますが、あれは太陽の光で光っているじゃないですか。その太陽の光が地球を照らしているんですけど、その地球を照らした光が、鏡の役目をして、今度は月の方に行くんですね。そういう風に、地球が受けた太陽の光で光っているので“地球照”というんです。」
●そんな月があるなんて知らなかったです。
「是非見てください。三日月の頃によく見えます。以前、子供に月の話をしたんですけど、月って三日月とか半月、満月といった色々な形をするじゃないですか。その話をしたときに『月って何個あるんですか?』って質問されたことがあるんですよ。」
●確かに同じものですけど、全然違う形をしてますよね。
「だから、中には一個じゃなくて、何個もあるものだと思っていた子供がいたんですね。だけど、地球照を見れば、『これは丸い月で、一個なんだ』という事が分かるんですよね。」
●月の呼び方で“ブルームーン”というものがあるじゃないですか。聞いたときは、すごく素敵だなと思ったんですけど、これはどんなものなんですか?
「“ブルームーン”って聞くと、“青い月”というイメージがあると思いますけど、これは“一ヶ月の間に満月が二回あるときの事”を言うんですよ。」
●そうなんですか。青くないんですか?
「はい。実は、12ヶ月のうちで2月を除くと、みんな30日と31日じゃないですか。月の満ち欠けの周期って、約29.5日なんですよ。なので、2月を除いた他の月ならば、そういう月の可能性があるんですよね。最近では、2010年の1月と3月にありました。何日か覚えていませんが、最初の月の事を“ファーストムーン”と言って、二度目に見える月のことを“ブルームーン”というんです。」
●そうなんですね! 私はてっきり、青い月だと思っていました。
「でも、実は、1800年代に、インドネシアで火山が噴火したんですよ。その時に火山灰が空高く舞い上がって、そこから見ると、月が青く見えた時があったんだそうです。でも、英語で言うと“once in a blue moon”というぐらい、滅多にないことなんですよ。」
●一般的に言われている“ブルームーン”は、一ヶ月に二回見えることなんですね?
「はい。満月が一ヶ月の間に二回見られる時のことをいいます。ちなみに、赤い月もあるんですよ。」
●そうなんですか!?
「“ストロベリームーン”というんですけど、今の時期、満月を見ると、軌道の関係で頭の上の方に見えるんですよ。夏の満月って、すごく低いんですよ。真南にきたときでも、地上から30メートルくらいの高さしかないんですよね。地球の周りには大気が取り巻いていますよね? なので、低ければ低いほど、大気の厚い層を通して、月を見ることになるんですね。
夕日が赤く見えたりする理由は、太陽の赤い光が散弾するから、その影響で、青い光だけが届くんです。なので、夕日が赤く見えるわけなんですが、それと同じように、月も高度が低いと赤く見えるんです。
夏至の頃、日本では梅雨の時期で、雨がよく降るので、大気中には水分も多いですよね。それもあって、余計に赤く見えるんです。なので、日本では梅雨の時期を挟んだ前後に、すごく赤く見えますよ。」
●では、ブルームーンはなかなか見えないですけど、ストロベリームーンは注意していれば、見ることができますか?
「はい! その時期に満月になったら、是非ご覧になって下さい。すごく赤いですよ。」
※空気が澄んでいるこの時期は、星を見るにはとてもいい季節ですが、そこで天体観測のコツをお聞きしました。
「まずは、空を見る事ですね。分かっていても、実際に行動に移さないっていう人が結構いるんですよ。なので、まずは自宅で、その日晴れていたら、部屋の電気を消して、窓をそっと開けて、外の空気をちょっと吸いながら見上げてみてください。」
●それだけでいいんですか?
「住んでいる側に街灯があったり、ネオンがたくさんあるようなところに住んでいたりする人がいるかと思いますが、しばらくすると、夜の暗さに目が慣れてきます。そうすると、意外と見えてくるようになります。街灯の光が側にあった場合は、戸の影に隠れるといった工夫をすると、思ったより見えてくるんですよね。 窓のある方向から、今自分が見ている時刻を見ると、『今自分が見ている星がなんなのかな?』ってちょっと想像するじゃないですか。そこからスタートですね。」
●その時には、図鑑とか見ながら見たほうがいいんですか?
「そうですね。星座を探すときに一番便利なのは、“星座早見盤”というものですね。二枚の円盤が重なったもので、上の円盤には、楕円形の窓が書いてあって、そこに写っている星空が、現在の星空というものなんですけど、その時の日付と時刻を合わせると、その時の星空が出てきます。そこで、そのときの時刻と早見表から調べればすぐに分かります。」
●星座早見盤を使えば、今日の空がすぐに分かるという事ですね。
「そういうのがあると、手助けになります。」
●私も星が好きでよく見るんですけど、何がなんだかよく分かっていないので、一つ分かると面白そうですね。
「僕も、いつもそういうことを聞かれて、お話するんですが、星座の数ってたくさんありますけど、日本で見られる星座の数って、約60個ぐらいなんですよ。今は冬なので、“オリオン座”を覚えていただきたいですね。冬なら“オリオン座”で、春なら“おうま座の北斗七星”といった感じで、季節で一個覚えていただければいいと思います。
オリオン座なら、年が明けてからの方が、より南の空に見えてくるんですけど、一等星が二つもあるんですね。“ベテルギウス”というものと“リゲル”というものなんですが、ベテルギウスは赤っぽくて、リゲルは青白い星なんです。そのすぐの下のランクは二等星なんですけれど、二等星が五つもあるんですよ。豪華絢爛な星座なので、“空の王者”って呼ばれています。これは、見ればすぐに分かる星座が一つあるので、それを一つ覚えれば、他の星座も簡単に見つけられます。」
●では、最後にお伺いします。林さんにとって“すごい夜空”とは、どういった空ですか?
「僕は以前、央自動車道も開通していない時に八ヶ岳の麓に行ったんですけど、大気がすごく澄んでいたんですよ。そうしたら、あそこにはカラマツの林がたくさんあるんですけど、カラマツの林の上に星が溢れんばかりに輝いたんです。そのときは友人と一緒に行ったんですけど、友人が星空の中に立っていたんですよ。それで、移動する時の様子が星の明かりだけで分かるんですよね。
それって、考えたら素晴らしいことじゃないですか。でもそういう星空って、最近あんまり見ないですね。なので、僕が経験した中で、これが一番すごい星空じゃないかなって思っています。」
(この他の林完次さんのインタビューもご覧下さい)
“すごい夜空”というと、人里離れた山奥で、高倍率の望遠鏡を使って眺めなければ見られないものかと思っていましたが、林さんもおっしゃっていたように、都会でも灯りを消して空を見上げれば、充分天体観測を楽しめるんですね。
ちなみに、林さん注目の来年の天体ショーは、5月21日の「金環食」。太陽と地球の間に月が入り、月が太陽からはみ出し、まるで金色の指輪のように見えるそうなので、私も観測にチャレンジしてみようと思います。
草思社/定価1,890円
天体写真家・林完次さんの最新刊となるこの本は、「夕暮れ」・「月夜」・「星空」の三章に分け、素敵な写真と解説が掲載されています。「金環食」や「皆既月食」の赤い月の写真も載っていますので、ぜひチェックしてください。