2012年1月7日

WWFジャパン・小西雅子さんが見届けた
地球温暖化対策の今後を左右するCOP17の結果

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、WWFジャパン・小西雅子さんです。

小西雅子さん

 WWFジャパンの気候変動・エネルギー・プロジェクト・リーダーの小西雅子さんは2011年12月に南アフリカのダーバンで開催された「気候変動枠組み条約・第17回締約国会議」(通称・COP17)に参加され、今回の会議の動向を現地でつぶさに見てこられました。
 今回はそんな小西さんに、紛糾したCOP17の結果をふまえ、現場にいたからこそ知っている出来事などをお話いただきます。

難航を極めたCOP17

※まず、今回の国際会議で話し合われた大きな議題についてお聞きしました。

「COP17は、以前から行なわれている、国連の気候変動に関する会議なんですが、今回の会議で、日本国内で一番注目を集めたのは、京都議定書の第一約束期間が2012年で終わりますので、“今後どうやって温暖化対策を続けていくのか”ということだと思います。また、全世界共通の話題としては、2013年以降に“京都議定書に続く新しい法的枠組みが合意できるかどうか”という、この二点に絞られたんじゃないかと思います。」

●かなり重要な会議だったと思うんですけど、その会場では、実際はかなり難航したそうですが、どうでしたか?

「これは2005年から話し合ってきていたものの、結局決まらずに、ずっと先送りしてきた問題なんですね。なぜなら、地球温暖化の問題というのは、産業革命以降、CO2の排出をずっと続けてきた先進国の責任という部分が多いです。それに対して、途上国が『これからも開発する権利があるんだから、まずは先進国から排出削減すべき』という、非常に強い要求があるんですね。
 しかしながら、途上国といっても、1990年の京都議定書が決まった時より、中国とかブラジルなど急速に発達している途上国があって、それらがCO2の排出量を大幅に伸ばしているんですね。国別の排出量でも、中国がアメリカを抜いて一位になっているので、それらを踏まえて、先進国側としては『急速に発展している途上国も含めて、排出削減をキチッとやらないと、次は世界全体での枠組みに合意しない』と言っているんですね。
 結局、先進国と途上国の深い対立に加えて、相手への不信感があるんですね。お互い、相手だけに『やれ』と言っているけれど、『自分がやっても相手はやらないんじゃないか?』という、人間の根源的なところにある不信感があって、それが原因でずっと決まってきませんでした。」

●今回も、その溝がなかなか埋められなかったんですか?

「そうなんです。ただ、今回は今までと違うのは、もう後がないんですよ。今回、もし合意できなければ、穴が開いてしまうんです。京都議定書というのは、“世界が合意して排出削減を決めた強い議定書”ですので、その後に何も続かないというのは、地球のためにも許されないことです。なので、それを決めなければいけなかったんですが、これで決まらなければ、残り一年間では無理なんです。今決まったとしても、空白期間は開いてしまっているんですが、『これが最後だ』という不退転の決意でみんな臨みました。」


※そんな中、開催されたCOP17。予想以上に難航し、会期の最終日を過ぎてもなかなか決着が見られない状況でしたが、最終的に大きく分けて四つの合意が得られました。

 一つ目は“京都議定書の第二約束期間の設立”。つまり、京都議定書の延長が決まりました。これが決まったことで、開催前から、延長が決まったら京都議定書から離脱すると表明していた日本を始め、ロシア、カナダが外れました。

 二つ目は“すべての国を対象にした、法的な新しい枠組みを作るための準備を始める”という約束。これはCOP17の開催場所の名前を取り“ダーバン・プラットフォームの設立”といわれています。

 三つ目は“途上国の温暖化対策を支援するための“グリーン気候基金”の本格的な設立と運用の開始”

 四つ目は“2010年にメキシコのカンクンで合意された“カンクン合意”をさらに進めていく”。

以上、四つの合意がなされました。今回のCOP17は、ギリギリの交渉の末、大きな成果を得られた国際会議だったとメディアでは評価されていますが、小西さんが所属するWWFとしてはどう受け止めているのか、話していただきました。

小西雅子さん

「WWFとしても、次の枠組みの合意がされる事が決まったというのは、すごく大きな事だと思うんですね。しかも、対立を乗り越えての合意ですから、とても感動するような場面だったんですが、ここで一つ非常に大きな懸念があります。それは、2015年に、新しい枠組みが法的な形を持つ、いわば“強い議定書”のような物が決まるという形に話が集中したあまり、CO2の排出削減がどれくらい必要かというのは決まりませんでした。
 地球温暖化を防ぐには、大々的なCO2の排出削減が必要で、その排出削減がどれくらい必要かというのは、IPCCの科学が提示しているんですが、今回の会議では、排出削減の量というのは、議題になることもできなかったんですね。
 なので、地球温暖化の悪影響と共存してくためには、世界の平均気温の上昇を、産業革命前に比べて、2度未満に抑えなければならないのが世界のコンセンサスなんですが、今回の合意の内容で、今、少なくともテーブルの上に乗っている“先進国と途上国の排出削減の約束”というものを全部積み合わせても、大体4度くらい上昇してしまうんです。」

●かなりのギャップがありますね。

「そうなんです。UNEPの発表では、CO2換算にして、大体90億トンから110億トンも足りないんですね。なので、合意されたのはいいんですが、その合意内容が不十分なんです。」

●そこはこれから見直していくんですよね?

「そうですね。その法的枠組みが立ち上がった後に、何回も見直しをしなければなりませんが、見直しをかける度に、本当に必要な分の削減量を確保できるように国際交渉のプロセスの中に組み込んでいかなければいけないんです。一応、かなりのギャップがあることは認識されまして、“その見直しのプロセスも行なっていかなければならない”という言葉も入ったんですが、それがどれだけ大変な量で、どうやっていくかというのは、これからなんですね。そこが、これからの課題になります。 ●先は長いという感じですか?

「そうですね。非常に長く、しかも困難な道のりですが、画期的な一歩です。」

途上国それぞれの強い想い

※会議の動向をつぶさに見てこられた小西さんに、今回の大きな成果に結びついた決め手になるような出来事があったのか、お聞きしました。

「正直な所、決裂するかと思いました。COPは、大体二週間行なわれるんですが、大体、その第二週の中日になると、各国の閣僚級の大臣が入ってきて、それまでの交渉間レベルでは決まらなかった事を決めるんですね。でも今回は、会期中の最後の金曜日を過ぎても決まらず、徹夜になり、土曜日を迎え、その日の夕方になったところで、やっと、最後の総会が開かれることが決まったんですね。それを受けて、私たちも『これでなんとかなるかな』と思って、その総会に行ったんですが、そこでもまたすごくもめたんですね。

 なぜなら、京都議定書の第二約束期間の合意の話があって、そこから、ダーバン・プラットフォームの話になっていくんですが、その中で『京都議定書に残る代わりに、次の枠組みが法的拘束力を持つものになることを約束してくれなければEUは残りたくない』ということをEUの大臣が言ったのに対して、ベネズエラなどが『何を言っているんだ!? EUは自分だけがまるでヒーローのような気分で京都議定書に残ると言っているが、実際には、目標は低いままじゃないか。』と言ったんですね。EUは『20パーセントから、他の国が参加するなら30パーセントを目標にする』と言っていたんですね。それで20パーセントのままで京都議定書に残るんですが、『EUはそういう風に、いい格好をして言っているけれど、目標レベルは低いじゃないか。このままでは途上国全体、温暖化の被害に晒すようなものじゃないか!』と、すごく激しい口調で攻めたんですね。それに対して、今まで途上国は、国連の会議では一枚岩で意見が割れることなく、ずっと交渉してきたんですね。それは途上国の力をなるべく高めるためなんですけど、今回は、途上国側からEUをサポートする声が上がったんです。

 また、小さな島国は、海面上昇で国土が水没する危機に晒されているんですね。そういった島国の連合があるんですが、そこの代表国のグレナダが『EUは京都議定書に残らないという選択をする先進国がある中で、唯一残って、世界の合意をまとめようとしている。もちろん足りないことは分かる。でも、今ここで決裂するよりも、何が温暖化対策に最もいいのかを考えれば、今取るべき行動は明らかじゃないか』と言ったんですね。グレナダの代表ってすごく冷静に、落ち着いた口調で諭したんですね。その後、バングラデシュなど、いわゆる“一番開発が遅れている途上国グループ”というのがあるんですが、そういった国から次々と『私たちもEUに賛同する』という声が上がって、多くの途上国からEUのサポートが得られて、全体合意という形になったんですね。

小西雅子さん

 でも、最後まで難色を示したのが、インドだったんです。インドの主張している内容も一貫していたんですね。あくまで、全ての国が対象なんですが、『途上国は、まだ貧困と飢餓に苦しんでいる。インドも10億人という単位で、貧困と飢餓に苦しんでいるんだ。だから、温暖化対策は大事だけれども、これから開発する権利のある途上国の公平さというのを入れてくれない限り、この法的な枠組みに対しては、まだ合意の用意はない』とまくし立てたんですね。それに対しても、島国の連合の代表のグレナダが立ち上がって、『今、感情的にまくし立てる事は私にも出来る。ただ、今ここで決裂するよりも、ここまで世界各国が頑張ってきた内容に対して、今、私たちが何を求めるのかを考えたら、なんとかこの合意をまとめようじゃないか』と言ったんです。

 非常に感動的なシーンなんですが、今回の議長の南アフリカが、議長国として、なんとか世界の合意をまとめようと一生懸命、頑張っていて、今までの会議ではなかった二日間の延長までした中で、『お互いに協力をして、なんとかまとめたいと思いませんか? ここで、会議を中断します。EUとインド、そこで直接話し合ってください。10分後に再開します。10分後に世界が求める答えを私は期待します』と言って、会議を中断させ、EUとインド、その他の国も集まって、話し合ったんです。20分経って、みんなが席に戻って、再開したときにはインドの大臣は『インドは合意する』といって、ニコニコしていたんですね。

 そのときに、言葉を少し変えたんです。でも、国際法の世界なので、その言葉が法的拘束力が強いか否かというのは、正直な所、弁護士の世界になってしまうんですが、言葉でなんとか妥協して、EU、インドともににこやかに発言をして合意がなされたんですね。その結果に、全員総立ちで拍手ですよ。それが、2日間、徹夜の交渉の後、日曜日の朝5時のことですね。」

京都議定書に戻ってみてはどうだろうか?

※今回のCOP17では、先進国に温室効果ガスの削減を義務づけた、京都議定書の延長が決まったことで、日本は当初の予定通り、京都議定書から離脱しました。このことについて、どう考えてらっしゃるのか、お聞きしました。

「日本の場合、5月1日に目標を提出して、その目標を京都議定書の目標に換算してから、今年末に行なわれるCOP18で最終的な目標が決まりますので、京都議定書に戻ろうと思ったらまだ戻れるんですね。でも、日本は国際的に“京都議定書の目標に書き入れない”と表明していますので、その言葉通りでいくと、2010年にメキシコ・カンクンで決まった合意の中で、お互いに国際的なルールを決めて、その国際ルールに従って、CO2の排出量の算定をして、それを国連に報告して、お互いに監視するという仕組みが、カンクン合意の中にありますので、それを進めていくことになります。このカンクン合意は、まだ全部じゃないですけど、細かくルール等が決まっています。そして、今回決まったダーバン・パッケージの四つ目に“カンクン合意の実施”というのがあって、それが着実に行なわれていますので、これに従ってやっていくんですね。ただ、問題なのは“自主的”なんです。なので、国際的な削減の義務から、自主的に行なっていく形になります。」

●私としては、“自主的”という部分が、どうしても引っかかってしまうんですが、自主的なルールで果たして、“25パーセントの削減”は達成できるんですか?

「これには、二つの要因があると思うんですね。まず一つは、昨年の暮れから“25%の見直しの検討”を閣僚が発言したりしていますけど、もし条約の中に決められていると、目標の取り下げとかができないんですが、自主的だと、それができてしまうんですよ。だから、“目標”と言っても、拘束力としては、弱いんです。『見直ししましょう』と話すこと自体で、それを示していますよね。

 あともう一つが、国際的なルールで決められている京都議定書のルールだと、そのルールしか使えないんですが、自主的なものだったら、例えば『省エネ製品を輸出して、省エネ製品を輸出したから、その分の排出削減をできました。だから、日本の排出削減の目標を達成できた事にします』と言えるんですね。いわば、自分で作ったルールで“目標が達成できた”と言えてしまうところがあるんですね。つまり、自分のルールで行なうことができるようになりますよね。
 そうした目標そのものと、目標達成の方法の二つについて、本当に世界が必要とする排出削減ができるのかが今後の課題になります。」

●WWFジャパンとしては、どういった方法が一番いいと思いますか?

「“京都議定書に戻る”ことを検討してみてはどうかと思います。そもそも、全ての国を対象とした法的枠組みが望ましいから“京都議定書NO”と言っていたわけですよね。でも、全ての国を対象とした法的枠組みができましたよね。ということは、それができるまでの空白期間は、京都議定書で繋いでも全然問題ないわけですよね。だから、日本の言っていた前提条件というのは満たされたので、満たされたなら、『戻ってもいいんじゃないのかな』と思うのがまず一つ。
 あともう一つは、京都議定書って排出削減の目標ばかりが取り上げられていますけど、これって、どうやってカウントして、どうやって途上国で排出削減した分を自分の目標達成したものとするルール(オフセット・ルール)に従って、排出量取引制度の設定や、企業が排出クレジットなどを買うといった、世界の温暖化対策のルールを作った条約が京都議定書なんですね。なので、それに抜けてしまうと、今のところ、今後日本がそのルールが適用されるかどうかが分からないんですね。ということは、携帯の世界でもそうでしたが、日本が世界標準のルールから逃れてしまって、自分独自の発達をしてしまうと、国際競争力を失ってしまいますよね。だから、温暖化対策も、世界標準のルールに従ってやっていくというのが、日本のためにも望ましいんじゃないかと思うんですね。
 21世紀って、低炭素社会になってしまうので、この流れは変えられないですよね。私は、そこにビジネス・チャンスがあると思います。」

※COP17は大きな成果が得られたとはいっても、まだまだ問題は山積みです! 待ったなしの温暖化対策は国レベルでの取り組みはもちろんですが、私たちひとりひとりの心構えや行動も大事だと思います。
 最後に、WWFジャパンの小西雅子さんからのメッセージです。

「温暖化対策って痛いんですよ。どうしたって、今までの生活習慣を変えなきゃいけないですし、ある程度の出費を覚悟しなくちゃいけないですからね。その痛い思いをしてでも、次の世代のためにそれをやっていかないと、もっとすごい大変なことになってしまうんですよ。だから、今の自分が出来ることをお金も払って、努力もして、今までの習慣も変えて、『それでもやる』という気持ちにならない限り、この問題は解決出来ないので、その覚悟を是非多くの方が持ってくださったらなぁと思います。」

小西雅子さん


(この他の小西雅子さんのインタビューもご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE ~ゆきちゃんのひと言~

 実は昨年、小西さんが書かれている本「地球温暖化の目撃者」の出版記念シンポジウムにも参加させて頂いたんですが、そこで実際に地球温暖化の影響を直接受けてしまっている方たちのお話を聴かせて頂き、地球の温度が上昇するということは、本当に人が生活できなくなり、大変な事になってしまうんだという事を実感しました。地球の未来の為にも、温暖化対策について今後も注目していきましょう!

INFORMATION

WWFジャパン・小西雅子さん情報

「地球温暖化の目撃者」

新刊『地球温暖化の目撃者

 毎日新聞社/定価1,680円
 小西さんは昨年2011年に毎日新聞社から「地球温暖化の目撃者」という本を出されています。
 温暖化による深刻な影響を受けているアジアやアフリカ、北極など、世界8地域、26人の目撃者の証言が写真とともに掲載されている他、温暖化の科学やエネルギー政策などもわかりやすく解説されています。

WWFジャパン情報

 WWFジャパンのオフィシャル・サイトには、今回のCOP17の成果や問題点の他、地球温暖化に関する記事などが詳しく掲載されています。
気になる方は是非ご覧ください。
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◎詳しい情報:WWFジャパンのオフィシャル・サイト

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. EMERGENCY ON PLANET EARTH / JAMIROQUAI

M2. HEY YOU(SINGLE VERSION) / MADONNA

M3. LAND OF CONFUSION / GENESIS

M4. DRIVEN TO TEARS / THE POLICE

M5. WAITING ON THE WORLD TO CHANGE / JOHN MAYER

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」