2012年2月4日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、中村裕子さんです。
ジュエリー作家の中村裕子さんは、昆虫や花など里山の生き物をモチーフに素敵なアクセサリーを作ってらっしゃいます。
今回はそんな中村さんに、アクセサリー作りを通して見つめる里山の自然や生き物についてお話していただきます。
※中村さんは、歯科衛生士からジュエリー製作の学校に通って、今の仕事をされているんですが、最初から自然をテーマにアクセサリーを作っていたのでしょうか?
「独立したときから、自然をテーマにしていました。」
●何かキッカケがあったんですか?
「雨やドナウ川など、自分が旅したことや自然と関わったことからしかデザインが思い浮かばなかったので、自然をテーマにしました。あと、“野菜たちの宴”というタイトルで、野菜をテーマにしていました。」
●ご自身の経験から、自然がテーマになったということですが、中村さんは小さいころ、自然と触れ合う体験が多かったんですか?
「私は、“東京のチベット”と呼ばれている東京都あきる野市というところで生まれ育ったんですけど、すぐ近くに田んぼがあったり、山や畑がありましたね。」
●では、小さいころから身近に自然があったんですね。
「はい。あと、私の家族は共働きだったので、よく母方のおじいちゃんの家に行っていたんですけど、その家の庭がかなり広かったので、そこで毎日のように遊んでいました。」
●そういった体験が、今のアクセサリー作りに活きているんですね。先ほど話していた雨などって、抽象的で、ある程度イメージの中で作られていくものがあると思うんですが、今では、植物や昆虫など、具体的な形になっているものを多く製作されていますよね。どうして変わっていったんですか?
「今でも、雨や風といったものをテーマにしています。夕立の前にすごく強い風が吹いてきたり、辺りが湿っぽくなってきたりすることを自分なりに察知して、そこから湧き出てくることをデザイン化しています。なので、抽象的なものも少なからずありますね。」
●それに加えて、植物や昆虫をモチーフにしたものも作られているんですよね。それは実際に物を撮影などをして、見ながら再現しているんですか?
「そうですね。ほとんど写真を撮ります。でも、昆虫採集を一緒に行く仲間と歩いているときは、スケッチをしている時間がないので、とにかく写真を撮ります。一回の観察で500枚ぐらい撮りますね。」
●すごい量ですね!(笑)
「(笑)。でも、ピンボケがあったりしますし、昆虫がその場に留まっている時間が短いので、競争のように撮影しています。そのとき、自分が持っていない標本がいた場合は、必ず捕まえて、持ち帰ります。家に帰った後、それを見ながらスケッチをします。」
●アクセサリーを作る準備として、昆虫採集をするのは意外でした。どういったキッカケで始めたんですか?
「十年ぐらい前に、玉川大学の夏の生涯学習で昆虫に関する講座があったんですね。二日間、箱根の演習林に行って、昆虫採集をしながらスケッチをして、昆虫のことを学ぶという講座に参加したんですけど、昆虫をモチーフにしたものを作るときに、形がどうなっているのかが全然分からないんですよね。 花でも、細かいところを見ていかないと分からないし、ミツバチでも、ミツバチのフォルムってどんな感じだったか分からないんですよ。なので、実物を見てスケッチをするという作業をするには、昆虫採集が必要になってくるんですよね。昆虫採集をする仲間がいるので、網を持って、一緒にでかけます(笑)」
●アクセサリーのデザインとは少し離れているような気がしますが、そういった繋がりがあるんですね。
「あと、昆虫採集をすると、植物や里山の風景、季節などが感じられるので、私はそれを“里山探検”と言っています。」
※中村さんはアクセサリーを作るときに、どんなことを心がけて作っているんでしょうか?
「昆虫ってすごく細密で、再現はできないんですけど、ギンヤンマというトンボの特徴を残しながら、何が元になっているのかが分かるようなデザインをするように心がけています。花でも、チューリップが元になっているのか、コスモスが元になっているのかが分かるようにしますし、抽象的なものを作るときも、何が元になっているかが分かるように気をつけています。」
●それには理由があるんですか?
「以前、『これは何?』って聞かれたときに、答えられなかったことがあったんですね。一時期、自分が好きなようにデザインをしていたことがあったんですけど、そのときに『これは何?』って聞かれたときに、○○って言えない自分に対して『自然のことを全然知らないんだな』と思ったんです。そこから自然のことを知りたいと思う欲求がでてきたんです。
自然というのはすごくよくできていて、○○という植物には○○という蝶といったような、明確な法則があるんですね。昆虫も、出てくる時期があるので、友達のアドバイスもあるんですが、それを知っていてデザインをするのと、全く知らないでデザインをするのとでは、全然違うんですよね。そういうことから、デザインする物の生活史みたいなことを気にしながらデザインしています。」
●自然ってよくできているよなぁって思う瞬間って、たくさんありますよね!
「自然のものって、誰も崩しようのないものなので、私たちはそこから少しエッセンスをいただいて、デザインしています。」
●実際のトンボを捕まえてブローチとして胸に付けることはできないですけど、同じようなものを自分の胸元に置いておけるというのはすごく素敵ですよね!
「そうですよね! あと、その人のトンボに対する思い出みたいなものもあると思うんですよね。ギンヤンマって、数が少なくなっていて、一年に一度か二度ぐらいしか見られない種類になってきていますし、都内だと生息地が限られているので、それが付ける人の思い出と重なったときに喜びが沸くんじゃないかなと思います。また、付けてくれた人がそこからさらに思い出を重ねていってくれると思うんですよね。」
●過去と未来を、このアクセサリーが繋げてくれるんですね! 今、中村さんが作られたアクセサリーを拝見させていただいているんですが、羽とかが本当にキレイなんですよね!
「本当はもっと繊細です。」
●そうなんですか!? これでも多少は違うんですか?
「比べ物にならないぐらい違います! 実物の方が繊細です。」
●アクセサリーを見ると、網目がキレイに入っていて、「実際のトンボみたいだ」と思ったんですけど、実際はもっとキレイなんですか?
「もっとすばらしいです!」
●自然が美しいなと思う瞬間って、どんなときですか?
「都会にいて、ふと『こんなところにミカンの木があったんだ』と気づいたり、ちょっと空を見上げたら、すごい雲があったり、電車に乗っていると、夕陽がすごくキレイなときがありますよね。そういうときに『すごいなぁ』って思いますね。だから、特別なときじゃなくて、その日の空気の冷たさに感動したり、季節毎に匂いってありますよね? 都会にいても花の匂いがしたりして、いつも自分の傍にあるものだと思います。」
●季節毎で自然が違っていて、それもこのアクセサリーに込められているということですが、具体的には、どういう風に込められているんですか?
「私の作品展では、いつも物語を作るんですね。昨年秋に倉敷で行なった作品展では“カマキリ”でした。例えば、秋が近くなると、カマキリが卵を産むんですけど、そのときに敵を威嚇するんですけど、それを表現することで、季節感を出しています。」
●それはすごく勉強になりますよね!
「そうなんですよ! 私が参考にしているのは、子供の本なんですけど、写真集とかを図書館で借りたりしています。」
●そういった作品展に行けば、子供も勉強になるし、楽しめるということですね。
「勉強になるかどうかは分からないですけど、楽しんでいただけると思います。」
※中村さんはアクセサリーを作るとき、どのぐらいの時間をかけているのでしょうか?
「作業になると、数時間から数十時間でできるんですけど、その前のデザインの段階で膨大な時間がかかるんですね。写真を撮って、スケッチをして、デザインしていくまでには、すぐにはできないんですね。『カマキリをテーマに製作しよう』と思って、写真を撮ったりスケッチをしたりしていくことで、自分の中で熟成させることが大切なんです。なので、日々思いついた言葉とか絵などは、デザインノートというものを作って、そこに忘れないうちに全部書き込んだり、貼ったりしています。」
●普段の生活も、デザインのために過ごしているということですか?
「そうですね。普段道を歩くときもカメラを持ち歩いて、いい雲が空に浮かんでいたら写真を撮ったり、街中で面白い人がいたら観察したりして、楽しんでいます。」
●そういう行動って、デザインをし始めてから行なっているんですか?
「何かを作ることは、小さいころから好きだったんですけど、歯科衛生士のときは、それほど注目していなかったと思います。」
●ということは、ライフスタイルが変わったことで、気持ちも変わったということですね。
「そうですね。また、自然のことを知れば知るほど、自然って巧みで、面白くて、奥が深いということが分かるんですよね。むしろ、知らないことの方が多いので、毎回驚きや感動があるんですよね。」
●そんな思いを込められて作られたアクセサリーを付けていただいた方には、どんなことを感じてほしいですか?
「そのアクセサリーが、その人の一部になればいいなと思っています。あと、その人が楽しくなったり、元気になったり、勝負事に勝つために付けたり、気合を入れるためにといった感じで、その人がパワーをもらえるように付けてもらえればいいなと思います。
また、誰にでも、どんなに小さな庭でも思い出があると思うんですね。そこから、その人が普通に歩いていても『こんなところで虫の声がする』といったことに気づいてほしいんですね。都会にいても、たくさんの自然があるんですよね。そこに目を向けると、蝶が飛んでいたり、トンボが来ていたりするんですよ。ビルに住んでいても、ベランダに草花を置けば、虫が来たりするので、身近なところにある自然に目を向けてくれたらいいなと思います。」
●付けている人もそうだし、それを見た周りの人が自然を思い出すキッカケになるんじゃないかなと思いますね!
「それと、私の作品展では、作品の下にちょっとした文章を書いて、お客さんに読んでもらっているんですね。以前、80歳ぐらいのおばあさんが作品展に来てくれて、トンボを見たんですよ。すると『今まで忘れていた、子供のころに湖の傍に座っていたら、赤トンボの大群が一気に飛んでいく姿を、一瞬にして思い出したよ』と言ってくださって、『これかもしれない!』と思ったんです。
そういう風に、忘れてしまっていた記憶が一瞬にして蘇ってくれたりすると、『それって一番ステキなことなんじゃないか』と思うので、すごく嬉しいです。このアクセサリーがキッカケで『最近、ギンヤンマ見ないよね?』とか『どこに行ったらいるのかな?』といった話題になれば一番だと思います。」
今回収録の際に、中村さんが作られたアクセサリーの実物を見せて頂いたんですが、トンボやカマキリが今にも動き出しそうで本当に驚きました! やはりこれは里山探検をして、実際にその昆虫がどんな環境でどんな風に暮らしているかまで観察している中村さんだからこそ、自然をそのまま持ち帰ったような作品が出来るんだと思います。
そして、都会にいるとどうしても人間の他にもたくさんの生き物が暮らしている事を忘れてしまいがちですが、中村さんのアクセサリーは、そんな大切な事を思い出させてくれる素敵なアイテムでもあると思います。まだ、作品展は少し先のようですが、みなさん機会があればぜひ中村さんの作品をご覧になって下さい。
ジュエリー作家の中村裕子さんは「ひろこの庭」という作品展を年に数回開催されています。少し先の話ですが、5月25日から30日に「ギャラリー日比谷」での開催が予定されています。また、オーダーメイドも受け付けているそうです。
◎お問い合わせ/HIROKOのジュエリークラフト
TEL:042-550-2413(留守電にメッセージを残してください)