2012年2月25日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、白石康次郎さんです。
海洋冒険家の白石康次郎さんは、93年にヨットによる世界単独無寄港世界一周を達成、当時の最年少記録を樹立。その後も数々の海洋冒険やレースに参戦し、2007年には、世界で最も過酷なヨットレースといわれている「5オーシャンズ」に出場し、2位という快挙を成し遂げました。そんな白石さんは、子供たちとの自然体験活動にも力をいれてらっしゃいます。
※まずは、白石さんが参加している“世界自然遺産プロジェクト”について話していただきました。
「僕は今、“世界自然遺産プロジェクト”というプロジェクトのリーダーをやっています。これは、読売新聞主催で行なっているもので、パリのユネスコが決定した世界自然遺産に子供たちを連れていって、自然の大切さを知ってもらって、もっと愛してもらおうという企画です。
日本には今、世界遺産が四つあります。北海道の知床・青森の白神山地・鹿児島の屋久島・東京の小笠原。こう見ると、日本はまだまだ自然が豊かなところですよ。流氷からサンゴまである国ですから、みんなもっと自然に行ってほしいなって思いますね。」
●子供たちと一緒に自然に行って、どんなことを教えているんですか?
「まずは“行くこと”ですね。僕は子供たちには、なるべく自然の中に入ってもらって、理屈を抜きにして色々なことを感じてほしいですね。何でもいいんですよ。例えば、知床に行ったときは、クマが冬眠に使っている洞穴に入ってもらったことがありましたね(笑)。あれ、意外と気持ちがいいんですよ(笑)。その他にもたくさんありますけど、現場に行って、触って、五感で感じてほしいですね。それが第一です。こういうのって、実体験が重要なので、親は自然の中に連れていってほしいですね。」
●やっぱり、自然の中に行くと、全然違いますか?
「そうですね。やっぱり体験すると、いつまでも覚えているんですよね。細かいところまでは覚えていないと思いますけど、『暑かった』や『寒かった』、『あの風景はキレイだったな』といったことはずっと覚えていると思うんですよね。理屈なんて、子供たちが大きくなってから考えればいいんですよ。
知床は、シカが増えすぎてしまったことが今問題になっているんですね。冬に、シカの食べ物がなくなってくると、木を食べるんですよ。木って、皮で生きているので、中が死んでも皮が生きていれば大丈夫なんですけど、それが全部食べられてしまうと、水を上に運べなくなるんですね。それによって、木が枯れていくんですよね。そのときに子供たちに『どうすればいい? シカを銃で殺す? 殺さないなら、木が枯れていいの?』と質問するんですね。そこで、僕たちが答えを出すんじゃなくて、これをどうすればいいのかを議論して考えてもらうんです。
このときには、保護者も一緒なので“これぐらいの自然を残せないでどうする!?”ということに気づき、大人たちも考えるキッカケになればいいなと思いますね。確かに利便性や生活が豊かになることも大切ですけど、“先祖から受け継いだこの自然を、未来に残せないでどうする!?”といったことが、僕たちの課題かもしれないですね。」
●逆に、子供たちから教えられることってありますか?
「僕が一番子供っぽいですね(笑)。先日、沖縄に行ったんですけど、みんな大人しいんですよ。沖縄にガジュマルの木という、ジャングルジムみたいな木があるんですけど、僕は考えないですね! すごくはしゃぎながら、上に登ってますね(笑)。そこで、登ってこない子供たちに『何をやっているんだ!? なんで付いてこないんだ!?』って言ったら、『登っていいんですか?』って聞いてくるんで、『登っていいかどうかの問題じゃない! こういうのは登るもんなんだ!』って言っちゃうんですよね(笑)。その後には付いてきますけど、今の子供たちは大人しいんですよね。なので、僕が先導してあげたりするんですけど、そんな面白い木があったり、カヌーやったりと楽しいところがあるのに、ゲームをやる子供はいないですよ。
『ゲームばっかりやって!』って大人たちは言うけれど、させてるのは大人だし、楽しい自然を奪ったのも大人なんですよ。それで『ゲームばっかりやっちゃいけない』っていうのはダメですよね。それは子供たちにとって可愛そうだから、世界自然遺産プロジェクトみたいな感じで、大人がもっと積極的に、子供たちを自然へ連れ出さないといけないと思いますね。
そもそも、自然って、人間が作り出したものじゃないんですよ。なので、自然の中にいると、自分を見つめる時間が長くなるんですよね。それが今一番の問題だと思います。今の都会の人は、自分を見失っている時間が長いですね。インターネットやメールって、全て外的要因じゃないですか。自然の中では、そういうものを一切なくして、自分の中にあるものと会話する時間が長くなるので、そういう意味でも、自然の中に行くのはいいと思いますね。」
※ヨットについて、こんな話をしてくださいました
「僕は、飛行機や電車やバスを使わないで、ニューヨークに行ったことがあるんですよ!」
●それはもしかして、ヨットでですか!?
「そうですよ! 同じように、飛行機や電車やバスを使わないで、フランスやスペイン、アフリカにも行ったことがありますよ。だから、日本の海って、世界に繋がっているし、飛行機を使わなくても、風だけの力でそこまで行けるんですよ。これってすごいことじゃないですか? 超エコですよ! この前も、サンフランシスコから自分の家がある横浜まで、飛行機や電車やバスを使わないで、11日で帰りましたよ! 普通の船より早く帰れたんですよ。」
●今、すごく簡単なことのように話してますけど、本当すごいことですよね!(笑)
「ヨットってそれほどの物なんですよ! 今って、原発問題で自然エネルギーが注目され始めてるじゃないですか。これはいいことだと思うし、ヨットってまさに自然エネルギーを使う乗り物ですからね。でも、僕のヨットって新艇で3億円ぐらいするんですよ。そのぐらいお金がかかったヨットでも、風が吹かないと動かないんですよ。不便な乗り物ですよね! いくらお金を掛けても、風が吹かないと走らないんですよ。
でも、今のテクノロジーだと、風の倍のスピードで走るんですよ。例えば、10ノットの風が吹けば、20ノット(約40キロ)ぐらいのスピードで走れるんです。だから、ヨットって、人間の知恵と自然の恵みの融合なんですよね。風車もそうですし、水力発電もそうですよね。だから、自然だけではダメですし、人間だけでもダメなんです。その調和をもって初めて、人間と自然のいい距離が保てるんですよね。それがヨットなんですよ。ヨットから学ぶというのはいいことですね。」
●ヨットってすごいですね! 白石さんは、世界で最も過酷な、単独で世界一周をするヨットレース“5オーシャンズ”に出場し、総合2位という輝かしい成績を収められました。この番組でも、特集させていただきましたが、それが2007年のことだったんですね。私たちも「そろそろ次のレースに出たいんじゃないかな?」って話していたんですが、どうですか?
「僕はいつでも出たいです! いつでも戦えます! 『明日出ろ!』と言われれば出ますよ。ただ、僕がいくら『出たい』といったところで、船がないと出られないし、チームがないと出られないし、予算もないと出られないんですよね。予算は、新艇だと3億円ぐらい掛かりますし、合計で6億円ぐらいないと、優勝が狙えないんです。
僕が次に出たいと思っているヴァンデグローブは、フランスからフランスまでどこにも寄らずに、ノンストップで争います。これは、ヨットレース界の中では、世界で今一番盛り上がっている大会です。2008年に行なわれたんですけど、出られませんでした。この大会は四年に一度に開催されますので、今年2012年の11月にスタートします! 今回はいいペースで準備ができていたんですけど、震災の影響で、スポンサーを探すのが厳しくなってしまったので、今回も参加するのは難しくなってしまいました。でも、今は出ないということだけで、いずれは出ます!
こういうことって、うまくタイミングが合わないと、出られないんですよ。お金があれば出られるものでもないし、腕があれば出られるというものでもないんです。なので、時がくるのを待つといった感じですね。風が吹かないと、船も動かないんです。そういうことです。」
●ヴァンデグローブもそうですが、単独での世界一周レースもすごくハードルが高いように感じるんでうすが、こういったレースの魅力はどういったところですか?
「一人の場合は“自分が尽くせる”ところですかね。周りには自分しかいないから、いかに自分を尽くすかなんですよ。世界最小単位で、大自然に挑むんですから、全てを使わないとダメですよね。そこが一番の魅力かもしれないですね。あと、“自分と向き合う時間がとても長い”ということです。これは寂しいことではなく、気持ちがいいことです。これが単独のレースの一番の魅力ですね。」
●白石さんは、3月の上旬に、新刊が出るそうですが、その新刊はどういった本ですか?
「『精神筋力~困難を突破し、たくましさを育てる~』という本なんですが、僕らしいタイトルじゃないですか?」
●そうですね。先ほどのお話がぎゅっと詰まっている一冊なのかなと思いました。
「最近では、幼稚園の先生や親御さんに話すんですけど、見た目の筋力は分かるじゃないですか。『この人丈夫そうだな!』ってビジュアルで分かるんですよ。でも、精神力って目に見えないから、分からないんですよね。じゃあ、どうやったら精神力を鍛えるかというと、体を鍛えるのと一緒なんですよ。どうやったら体が鍛えられるかというと、バーベルみたいな重たいものを持ち上げますよね? 僕だっていきなり100キロのバーベルなんて持ち上げられませんよ。だから50キロぐらいからスタートするんですよ。そうすると、大体筋肉痛になるじゃないですか。それって筋肉の繊維が破壊されているんですよ。
でも人間って、適応能力っていうものがあって、プロテインや納豆といったタンパク質を取ると、筋繊維が繋がるんですよ。しかも、そのときには、以前よりちょっと太くなって繋がるそうなんです。そこからまた重いものを持つと筋繊維が破壊されます。それがしばらくすると、またちょっと太くなって繋がるんです。そうやって、筋肉が太くなって、やがて僕でも100キロのバーベルが持ち上げられるようになるんです。精神力も一緒で、ストレスや試練といった、ちょっとだけ負荷を与えるんです。それを克服したときに、気持ちがちょっと強くなるんです。そして、もっと大きな負荷を与えるんです。そういう風にして、精神を鍛えないといけないんです。
『あんたは男なんだから!』とか『もう大人なんだから!』といいますけど、それで強いわけじゃないんですよね。そういう風に言われるから、最近の男の子はみんな潰されるんですよ。トレーニングをしていないのに、100キロのバーベルを持たされるようなものですよ。確かに今の男の子は草食男子ですよ。優しいことは素晴らしいことだけど、その反面弱い。でも、それは本人が悪いんじゃなくて、トレーニング不足が原因なんですよ。だから、潰さないように、徐々にストレスを与えないといけないんです。優しいことを言っても精神力なんて鍛えられませんよ。僕は、子供たちにも厳しいトレーニングをさせるんですよ。なぜなら、厳しくないと、厳しい環境に対応できないから、そういう風にしているんですよね。優しいことを言って対応できるようになるなら、そういう風にするけれど、それは無理なことなんですよね。でも、勘違いしてほしくないのは、“厳しいからといって、愛情がないわけじゃない”んですよ。逆に“優しいからといって、愛情があるわけでもない”んですよ。そこを勘違いしてほしくないですね。
だから、精神も肉体も鍛えないといけないし、“平時以上のことは有事にはできない”んですよ。それに生きていく上では、必ず辛いこともあるし、苦しいこともあるし、嫌だと思うこともあるし、嫌な人と付き合わないといけないときもあるし、人から悪口を言われることもあるんですよ。僕は、これらから逃れることなんてできないと思っているんですよ。なので、子供たちには逃げ方は教えません。そのときに、どういう態度を取るかが問われているんですよ。運命からは逃れないです。なので、そのときの態度が問題になってくるんです。そこを日頃からトレーニングしていこうという本です。」
(この他の白石康次郎さんのインタビューもご覧下さい)
実は私も学生時代に少しだけヨットに乗ったことがあるんですが、帆に風を受けると凄いスピードで走るヨットの上で「自然の力って凄いんだな。」と感じた覚えがあります。少しヨットに乗っただけの私でもそう感じたので、きっと世界をたった一人で三周もした白石さんは“自然の力”を本当にたくさん肌で感じてこられたんでしょうね。。
そして、今回のインタビューではご紹介出来なかったんですが、白石さんはそういった“自然の力”の前では、ありのままを受け入るそうです。私は、その言葉を聞いて大きな自然の前では抗うのではなく、上手く力を貸していただくことが大切なのだと、改めて思いました。
生産性出版/定価1,470円
海洋冒険家・白石康次郎さんらしいタイトルのこの本は、たったひとりでヨットによる世界一周を3度も成し遂げた白石さんの体験談や生き方など、大変参考になる本です。精神を鍛えられるだけではなく、元気や勇気ももらえる内容となっていますので、是非とも読んでみてください。
3月8日ごろに書店で販売される予定です。
白石さんの輝かしいレースや冒険の記録、近況などを知りたい方は、是非、白石さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。ブログにも飛べるようになっています。