2012年3月17日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、白石絢子さんです。
NPO法人・熱帯森林保護団体の事務局長・白石絢子さんは、代表の南研子さんとブラジル・アマゾンシングー先住民保護区で先住民の支援活動を行なってらっしゃいます。そして、白石さんは先頃「アマゾン、シングーへ続く森の道」という本を出されました。
今回はそんな白石さんに先住民の暮らしぶりや、彼らと一緒に生活をして感じたことなどお話しいただきます。
※ブラジルにあるシングー地区は、どの辺りにあって、どんなところなのでしょうか
「ブラジルという国だけでいうと、日本の23倍はあるんですね。私たちが行っているところは“シングー先住民国立公園”というところです。」
●国立公園なんですね。
「同時に、先住民の居住区になっているところなんですけど、その公園の広さだけでも、本州ぐらいはあるんですね。そう聞くと広大なイメージがあると思いますが、あのアマゾンのジャングルの中ではほんの一部なんですよね。場所は、ブラジルの地図で見ると、赤道のちょっと下ぐらいの、ど真ん中に近いぐらいのところにあります。なので、雨季と乾季が分かれています。アマゾンは、ブラジルからペルーの方まで広がっていて、昔は先住民があちこちに広がって暮らしていたんですけど、今は、シングー先住民国立公園の中で暮らしています。他にも、居住区はあるんですが、そこには18部族ぐらいが住んでいます。」
●国立公園ということは、国から保護されているんですか?
「そうですね。そこでは森林を伐採してはいけないことになっていますが、実際はそれだけ広大な土地に柵を全部取り付けることはできないので、不法伐採といった問題が後を絶たないですし、森林伐採が進んでいる状況なので、今のアマゾンを衛星写真で見ると、境界線が浮き上がるぐらい、アマゾンの周りに森がなくなっているんです。」
●ということは、アマゾンまで行く道の途中には森がないということなんですか?
「そうなんです。初めて行くことになったときには、“アマゾンのジャングルって鬱蒼としていて、川が蛇行している”イメージがあって、アマゾンの中に入ったらイメージ通りなんですけど、首都のブラジリアからアマゾンまでは1500キロぐらい移動するんですが、その間何もないんですね。代わりに牧場とか、大豆畑やサトウキビ畑があるぐらいで、他は何もないんです。なので、『ジャングルに行ける!』っていうワクワク感の前に、『私たちって、こんなことをしていたんだ』っていうことに気づかされましたね。私は東京で生まれ育ったんですけど、都会にはいつもモノがあった生活をしていたので、『こういうところで森をこれだけ切っているから、東京にはあれだけモノがあるんだよな。それはそれで豊かな感じがするけど、これで何か物足りない気がしていたことのつじつまが合ったなぁ』というのが、初めて現地に行って思ったことでしたね。」
●実際にジャングルの中に入ってみて、どうでしたか?
「電気・ガス・水道がないところなので、トイレは茂みの中で、お風呂は川で済まさないといけないんですね。普段だとリラックスできるところは、向こうではリラックスできないんですね。あと、ワニやヒョウとかヘビといった、気をつけないといけない生き物はいっぱいるんですけど、アリやダニといった小さい生き物の方が怖かったですね。一回だけ、知らずに茂みでトイレをしようと思ったときに、そこにアリがいて、足から上がってきたんですよ! アマゾンのアリは噛むんですけど、それがすごく痛いので、人目を構わずに服を全部脱いだことがありましたね。
先住民は、私たちと同じモンゴロイドで、蒙古斑がある人たちなので、文化とか環境とか全然違うのに、一緒にいてもすごく居心地がよく、懐かしい感じがして不思議でしたね。」
●電気・ガス・水道がないんですよね。大変だったんじゃないですか?
「そうですね。なので、一日がすごく忙しいですね。お米を炊けるようにライターを持ってきているので、朝起きたら、ライターで火を焚いて、お湯を沸かしてお茶を飲むところから一日が始まって、私たちは支援事業もしているので、その打ち合わせをしたりします。また、川に洗濯にいったり水浴びにいったりするんですけど、一日の寒暖差がものすごくて、日中は50度以上あって、夜は10度ぐらいまで下がるんですね。なので、水浴びとかは暖かいうちに済ませます。
今回の本にも書いたんですけど、『生きるってこんなに忙しいんだ』って感じましたね。友達から『アマゾンで毎日何してたの?』って聞かれたりしたんですけど、色々考えた結果、『生きてた』ってことに尽きるなと、今でも思います。」
※続いて、先住民の暮らしぶりについて話していただきました。
「彼らは昔から森で暮らしてきたので、貨幣経済は存在しません。自給自足と狩猟採取で今まで暮らしてきています。30品目も食べていないですけど、ものすごく体格もいいし、女の人もたくましくてキレイですね。」
●どういったときにキレイだと思うんですか?
「本人たちは何も考えてないと思うんですけど、彼らは森の中で暮らして、毎日生きるためのことをし、その日々に疑問がなく、内なる自信のようなものが自然に培われていって、さらに結婚して子供を産んで育てていく。そういう風に、生きる目的が明確だからだと思いますね。」
●白石さんが現地にいたときって、現地の方と一緒に生活しているんですか?
「そうですね。」
●どんな風に生活をしていたんですか?
「まず、先住民の人たちの家って、日本でいうと、茅葺き屋根のような家に、中は土間だけがあるような感じで、寝るところはハンモックなんですよ。だから、旅行に行くときは、ハンモックさえあればどこでも寝られるという状態なんですけどね(笑)なので、家にハンモックを吊って、そこで寝るんですけど、先住民の人たちは慣れてるんですが、私たちはそれだと寒くて寝られないので、毛布や寝袋をハンモックの中に押し込んで、寝ます。あと、いつもより気温が下がる場合は、火を焚いたりしていますね。
私たちは、日本食が恋しくなったりしますので、お米やちょっとしたものを持参していったりしますけど、先住民の人たちの主食は、芋から作ったクレープの分厚いものみたいな、50センチぐらいある大きくて丸い粉状のものを焼いて、それに色々な動物の肉や魚を巻いて食べるんです。朝になると女性はそれを大量に焼き始めるので、それをおすそ分けしてもらって食べています。知人からは『大したものは食べてないんでしょ?』って聞かれたりするんですけど、全てはその場で獲ったものだから、新鮮なんですよね。特にお魚は、醤油をちょっと付けたりすると、すごくおいしいんですよね(笑)」
●(笑)色々なものがたくさんあるんですね。
「時期によっては彼らも狩りで獲物が取れなかったりすると思うんですが、色々なお魚とかも、日本に比べたら少ないですが、ありますね。」
●コミュニケーションはどのようにしていたんですか?
「子供たちとは言葉がなくても、遊びでコミュニケーションは取れますね。私は子供と遊ぶのは大好きなので、じゃれあってばっかりいます(笑)大人は、私たちが識字教育をある程度していたりするので、各部族にポルトガル語が話せる人がいるんですね。なぜなら、ポルトガル語を知らないことで、何かの権利書を書かされたり騙されたりしてほしくないですし、彼らも『学びたい』ということなので、ポルトガル語を教えました。でも、重要な会議は、うちのブラジル支部にいる日系人の女性スタッフがいて、彼女が彼らの言葉を日本語に訳してくれます。あと、私たちは何度も現地に行っているので、ポルトガル語の他にも、片言の彼らの母国語を織り交ぜながら話しています。」
●最初に行ったときは、すぐに馴染めましたか?
「私の場合は、うちの代表が既に道を作っていて、『あの人たちね』と現地の人たちが分かっている状態で行ったので、現地の人たちも受け入れてくれましたけど、代表が初めて行ったときは、ブラジル人を含めて、色々な人たちに騙され続けられたり、約束を破られたり、ときには仲間の命が奪われたりされてきたと思うので、ものすごく心が閉鎖的になったときもあったということを聞いてます。今はもう素性が分かっている人たちになっているので、現地の人たちからは受け入れてもらっています。」
※熱帯森林保護団体設立後のアマゾンの状況はどうなんでしょうか?
「1989年にうちの代表が設立して、23年ぐらい経つんですが、開発は設立当時よりも進んでいますし、胸を張って改善をしたとはいえないです。森林伐採のスピードはものすごく早いし、先住民の人たちも貨幣経済を受け入れていかないといけない状況になっていってしまうのかなと思いますね。実は今、東京23区内がそのまま入るぐらいの大きさのダム建設の計画があって、それに対して先住民の人たちは戦っているんですけど、そういう風に、先住民の人たちが森の中で暮らしていくことが難しくなってきているんです。
あと、森林伐採が進みすぎて、山火事が頻繁に起きているんですね。熱帯雨林なのに、何で起きるかというと、木を切りすぎたせいで、大気の乾燥が激しくなっているので、山火事が起きるんですね。私たちは去年、州の消防団にジープを一台支援したんですけど、山に一度火が付くと止まらないぐらいなので、それがすごく問題になっていますね。」
●そうなってしまうと、先住民の人たちはどうなってしまうんですか?
「彼らが森での暮らしができなくなると、ブラジル人として文明を受け入れていかないといけなくなりますけど、そうなるとお金がない人たちなので、貧しい人たちと同じ立場になってしまいます。でも、彼らはすごく豊かな文化を持っていて、誇り高き人たちだと思うので、もしそうなってしまったらすごく残念なことだと思いますし、しかも、その理由が、日本も含めた先進国の文明社会が原因だということに、ものすごく胸が痛みます。
私たちは“支援”という言葉を使っていますけど、代表は『これは支援じゃなくて“罪滅ぼし”』だと言っていて、何かできるのなら何でもしてあげたいという気持ちでやっています。あと、私たちは先住民の人たちが好きなんですよね。自分たちが置かれている状況はものすごく大変なのに、祭は絶対にするんですよね(笑)ダムの反対運動で抗議行動をしようとしても、ある村の人たちだけ全員来ていなくて『あの村の人はどうした?』って誰かが聞くと『あそこは今、祭だからね』って言えば済んでしまうんですよ(笑)」
●そっちが優先なんですね(笑)
「そういう強さと明るさを見習いたいなってすごく思いますね。」
●先ほど、彼らの生活を脅かしているのは私たちに原因があると話していましたけど、私たちにできることって何ですか?
「まず、想像してほしいです。私はイメージの力を信じているので、緑あふれるジャングルが地平線まで続く画を、みなさんに想像してほしいですし、全部をストイックにする必要はないですが、モノを買う前に一度考えてほしいですね。『今日は水筒を持っていこう』とか『おにぎりを握っていこう』といった、小さいことの積み重ねしかないかなって思っています。」
※最後に、白石さんから大切な提言をいただきました。
「私たちは現地で支援のプロジェクトを行なっていますけど、本当はそんなことって必要ないんですよね。なぜなら、先住民の人たちはそのまま生きていれば、森は残り続けるんですよ。なので、本当に変わらないといけないのは私たちだと思うんですね。私たちの社会がどういう世界を描いていて、現地をいかに変えられるかといったような、お金よりも、もっと本質的なものを優先できる社会が作れるかどうかが、アマゾンの森が残っていけるかどうかの鍵になると思います。
先住民の人たちは変わる必要が全くなくて、逆に変わらないといけないのは私たちだなと思いますね。その私たちが変わっていくための方向性を、先住民の文化が鍵を握っているんじゃないかと感じるので、開発されている現状や私たちが現地でしていることを日本で伝えていくのも大切ですけど、それ以上に、先住民の文化を日本の人たちに伝えることは、それ以上に大事じゃないかということを、最近すごく思います。」
今回白石さんに伺った、先住民の方のシンプルな暮らしのお話は、とても印象的でした。自分自身の生活を振り返ってみると、普段色々な事に振り回されているので、もっとシンプルに生きてもいいのかなと思います。
そして、先住民の方の暮らしが、私たち先進国の暮らしのせいで、今脅かされているという事も決して忘れてはいけないと思いました。
ほんの木/定価1,700円
白石さんの新刊となるこの本は、熱帯森林保護団体代表・南研子さんとの出会いから、初めてのアマゾン、目の当たりにした森林破壊、そしてインディオたちの暮らしなど、白石さんが見て体験して感じたことが純粋で素直な文章で書かれています。日本から遠いアマゾンで暮らしている先住民のことや、環境破壊を考えるキッカケになる本です。
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