2012年3月24日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、高尾正樹さんです。
日本環境設計の高尾正樹さんは、古着からバイオエタノールを精製する技術を開発し、現在、ウエアメーカー他と一緒に、古着をリサイクルする“FUKU-FUKUプロジェクト”という活動も行なってらっしゃいます。今回はそんな高尾さんに、開発の秘話や今後の展開などうかがいます。
※バイオエタノールといえば、トウモロコシやサトウキビなどから作るものだと思っていましたが、高尾さんはどうして古着から作ろうと思ったのでしょうか?
「食べ物からエネルギーを作り出すという例はたくさんあって、ブラジルやアメリカでは行なわれてきましたけど、食べ物をエネルギーに変えるというのは、食糧難や食べ物の価格が高騰している現状の中では、あまりよろしくないんじゃないかなと思っていたんです。エタノールは、食べ物だけじゃなく、植物から作りだすことはできるので、そこに注目して、今の技術を開発しました。」
●その綿繊維からバイオエタノールには、どうやって変えるのでしょうか?
「綿繊維って、食べ物と一緒で、植物が作り出したものなので、実は成分はブドウ糖なんですよ。ブドウ糖がたくさん繋がると、綿繊維になるんですよ。なので、綿繊維を切っていくと、ブドウ糖ができるんですよね。」
●ということは、私たちは普段ブドウ糖を着ているようなものなんですね!
「そうなんですよ。そこで綿繊維の入った水が切られていくと、砂糖水に変わるんですよ。その砂糖水に、お酒を作るように酵母を入れて発酵させると、バイオエタノールができるんです。」
●古着からバイオエタノールに変えようと思ったのはいつ頃だったんですか?
「2006年の夏ごろだったと思います。」
●そこから研究をし始めたんですね。
「そうですね。共同研究を始めました。この件は、僕の力だけではできないので、酵素の専門家や酵母の専門家、バイオリアクターの専門家など、色々な人の協力が必要だったんです。そういう人たち一人一人に、共同研究をしてもらうように話をしてきました。化学者の方なら、すぐ話を理解してくれるんですが、『それをやる理由がない』とか『今進めている研究の方が大事だ』とか言われて、なかなか協力してくれなかったんですけど、幸いにも、その中から二人ほど『面白そうだからやってみよう』と言ってくださって、その方々との共同研究が始まりました。」
●そういった研究がどのように行なわれるのか、詳しく教えていただけますか?
「やっていることはすごく単純です。Tシャツを買ってきて、綿繊維を2グラム切ります。綿繊維を分解して糖に変えてくれるセルラーゼという酵素があるんですけど、それが入った入れ物に入れて振ってみて、できるかどうかを見ます。最初はずっと失敗ばかりでした。」
●すごく地道な作業なんですね。
「ほとんどそんな作業ですね。」
●その失敗が続いてから、できたときって、すごく感動したんじゃないですか?
「ある日の前日の夜に入れ物に入れて、次の朝にフタを開けたんです。すると、溶けてなくなってるものがあって、『おお! 無くなってる!』という感じでしたね。」
※原料となる古着は、どのような方法で集めているのでしょうか?
「実は、一般の方からの直接的な古着の回収はできていないんですね。我々の工場に一着一着送っていただいても、処理しきれないので、協力してくださっている小売店さんやメーカーさんに持ってきていただくようにお願いしています。」
●それは、その小売店さんで買ったものじゃない古着でもいいんですか?
「それは小売店さんで異なります。『不要なものなら何でもいい』という小売店さんもあれば、『うちで買ったものだけ』というところもありますので、それぞれのお店で決めていただいています。」
●そういった場所は結構あるんですか?
「“古着回収キャンペーン”といったキャンペーンを年に数回行なって、回収しているところが多いですね。」
●そういったことをプロジェクトといった形で行なっていたりするんですか?
「我々は『FUKU-FUKUプロジェクト』という名前で“あなたの服を地球の福に”というコンセプトのプロジェクトを行なっていて、現在このプロジェクトに賛同していただいている8社の店頭で古着の回収をしています。」
●その8社の店頭では、その店で販売されていない古着でも持っていっていいんですか?
「その8社の中で、『不要なものなら何でもいい』という小売店さんもあれば、『うちで買ったものだけ』というところもありますので、お店毎で違いますね。」
●今、どのぐらいの量の古着が集まっているんですか?
「年間で30トンぐらいは集まります。ダンボールでいうと2,000箱ぐらいですね。」
●結構な量ですね!
「でも、我々の工場は小さいので、これだけでも結構な量になってしまうんです。」
●それから、どのぐらいの量のバイオエタノールが作れるんですか?
「ここでまず一つ問題があって、綿繊維からバイオエタノールに変えるのはできるんですが、ポリエステルやナイロンといった化学繊維からはバイオエタノールを作り出すのはできないんです。服って綿100パーセントのものがあれば、綿50パーセント・ポリエステル50パーセントのものがあったりしますし、それらがバラバラな割合で一気にくるので、化学繊維のものがどのぐらい入っているのか分からないんですよ。」
●そうなんですか!? Tシャツの裏によく品質表示とか書かれていますよね?
「大体は見ますけど、30トンもの量が集まってきた服を一つ一つ見て、重さを量るというのは、難しいんですよね。なので、『大体このぐらいは集まっているな』といった感じで計算をしています。その中で、綿100パーセントは半分ぐらいですね。」
●ということは、それらは全てバイオエタノールに変えているということですね。ということは、私たちが古着を持っていくときは、なるべく綿100パーセントのものがいいんですか?
「綿繊維の部分だけバイオエタノールにしますが、残りのポリエステルの部分はリサイクルできないとなると、もったいない気がしますので、やるからには全部リサイクルできるようにしたいと思っています。そこで我々は、ポリエステルやナイロンといった繊維に関しては、別の技術でリサイクルしています。なので、繊維全てリサイクルしています。」
●“別の技術”というのは、どういったものなんですか?
「“熱分解”という技術で、加熱することでガスを取ったり、他の化学繊維の原料にしたりしています。そういう風に、様々な技術を組み合わせて、全てリサイクルにできるようにしていきます。」
●作り出したバイオエタノールは、どのように利用されているんですか?
「一般的には、蒸留して精製して、ガソリンの代わりとして使いますが、我々はそれに重油などに混ぜています。我々がエタノールを製造している工場って、染色工場の中にあるんです。その工場では、重油でボイラーを焚いて、お湯や蒸気を作っているんですね。我々は、そのボイラーの燃料として使っていただいています。なので、作ったその場で使っています。」
●ということは、どこかに運ぶコストやエネルギーを使わないで済むんですね! さらに、古着から作られたバイオエタノールを服の染色に使うというのは面白いですね!
「ぐるっと回るイメージですね。小さいですけど、そういうところからスタートかなと思っています。」
●将来的には、バイオエタノールがもっと作れるようになったら、どういう風に活用されますか?
「たくさん作れるようになると、車のガソリンにすることも考えられますが、それだけじゃなく、プラスチック製品を作りたいと思っています。」
●どのような製品を作ろうと思っていますか?
「例えば、ペットボトルの原料だったり、様々なプラスチック製品を作りたいと思っています。“ゴミからプラスチック製品を作る”ということをやっていきたいと思っています。」
※高尾さんはリサイクルの現状を、どう捉えているのでしょうか? 携帯電話を例にとりながら話していただきました。
「携帯電話というのは“都市鉱山”といわれるほど、レアメタルなどの貴重な金属類がたくさん入っているんですね。ただ、それがなかなか回収されないんですよ。各家庭に溜まっているのならまだいいんですが、一般のゴミ焼却場に行ってしまって、リサイクルできない状態になってしまうということもあります。色々なものがリサイクルできる可能性がたくさんあるにも関わらず、それらがリサイクルされない状況があるので、どうやったら燃やしたりゴミで捨ててしまわずに、リサイクルするようにするかというのが、今の課題ですね。」
●特に日本は、モノがたくさんあるし、リサイクルできるものってたくさんありますよね!
「いっぱいあると思います。」
●今後、リサイクルしていきたいと思っているものってありますか?
「先ほど話した携帯電話とか、都市鉱山と呼ばれているものをリサイクルしていきたいと思っていますし、プラスチックや繊維製品ももっとリサイクルしていきたいと思っています。将来的には“ゴミをなくせる”と思っています。」
●大きく出ましたね! でも、それが可能だと思っているんですよね?
「そうですね。結局、僕たちの周りにあるものって、石油や植物といった原料を加工して作ってきたものなんですよね。それを我々の技術で資源に戻せるんじゃないかと思っているんです。やれそうな感じがします(笑)」
●手ごたえアリですか!?(笑)
「そうですね(笑)でも、まだまだ課題がたくさんあるので、難しいところはあるんですが、少なくても、僕たちが生きている間にはゴミがほとんどなくなって、全て資源に戻せるんじゃないかと思っています。」
●それはすごく楽しみですね! 考えてみえば、日本は昔から色々なものを再利用して暮らしてきたと思うんですよね。
「よく江戸時代の生活と比較されたりしますけど、そういうDNAが日本人の中に入っていると思うんですね。それって、世界を見てもなかなかいないと思います。なので、捨てられてしまっているゴミを資源に戻していくことを、世界に先駆けてやっていくのは、日本が適任だと思っています。日本人だからやれそうな気がするんですよね。」
●ゴミって、私たちの生活とは切り離せないものだと思うので、是非“ゴミゼロ”を実現してほしいですね! そのためには、私たちも頑張らないといけないですよね!
「そうですね。一人一人がゴミの出し方や、使えるものは使い続けて、ゴミを出さないような工夫をするというのが、すごく大事なところだと思います。そういうことをしていくと、いずれそういう社会が作れるんじゃないかと思いますね。」
日本では年間200万トンもの繊維製品がゴミとして出されるそうです。その中でリサイクルされているのは、たったの二割。これらが、もっともっとリサイクルされれば、高尾さんの目指す「ゴミゼロの社会人」に大きく近づきますよね。
私も“もったいない”の気持ちで、できるだけゴミを減らすように心掛けたいと思います!
古着からバイオエタノールを精製する技術を開発した、「高尾正樹」さんが所属する日本環境設計株式会社では現在、ウエアメーカー他と一緒に、古着をリサイクルする「FUKU-FUKUプロジェクト」という活動をはじめ、多くのリサイクルに関するプロジェクトを行なっています。
どれも興味深いプロジェクトです。詳しくは、ホームページをご覧ください。