2012年4月14日

NACS-Jが行なっている「自然しらべ」。
2011年のテーマ「チョウ」の調査結果から見えてきたもの

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、萩原正朗さんです。

萩原正朗さん

 今回は、日本自然保護協会NACS-Jが毎年行なっている「自然しらべ」にフォーカス!去年、全国で実施したチョウの調査について、NACS-Jの萩原正朗(はぎわらまさあき)さんにお話をうかがいます。

非常に貴重な“6,000”ものデータ

※「自然しらべ」は、身近な場所の自然観察を通して、地域の自然を大切に思う気持ちを育むために行なっている環境教育プログラム。カマキリやバッタといった、誰もが知っている生き物を調べる対象とするので、子供から大人まで参加できるのが特徴です。また、全国の参加者が「参加マニュアル」を見ながら、同じ内容と方法で調査し、そのデータを分析するので“日本の自然の定期健康診断”という側面も持っています。そんな自然しらべの昨年度のテーマが「チョウ」。どんな調査だったのか、NACS-Jの萩原正朗さんにうかがいました。

「昨年度は、6月1日から9月30日までの約四ヶ月間で実施して、全国各地から、のべ一万人の方が参加していただき、約6,000件のチョウのデータを日本自然保護協会に送っていただきました。」

●結構な数ですね。

「そうですね。送られてきたデータをファイルで管理しているんですが、6,000件もあると、何十冊ものファイルができあがるので、やっている方としては、すごく楽しい企画になりました。」

●集まったデータは、非常に貴重なものですよね。

「そうですね。今回は、大人から子供まで、誰もが参加できる調査だったので、データの精度が問題だったりしたんですが、それを解決するために、記録毎にチョウの写真を必ず撮影してもらって、見つけた場所と日付も記録して、協会に送っていただくという形にしています。それによって、全国から集まった6,000もの情報は、確実な情報として大切なデータとなっています。」

●ということは、ちゃんとした調査機関で調査したデータと同じぐらいのものになっているということですか?

「そうですね。データの信頼性でいえば、他の機関が調査したものより確実じゃないかと思っています。」

●そのデータから見えてきたものについてうかがいたいのですが、全国で何種類ぐらいのチョウが見つかったんですか?

「今回の自然しらべでは、北海道から沖縄まで、日本全国に生息しているチョウ250種類のうち、半数以上の140種類ものチョウの情報を集めることができました。」

●それは多い方ですか?

「そうですね。こういう調査は、普通より多い方だと思います。」

●それによって、どういったことが見えてきたんですか?

「今回では、様々な種類が見られたというのもあるんですが、地球温暖化やヒートアイランド現象などの気候変動によって、分布が変化してきているのではないかと思われる13種類のチョウに注目して、マニュアルを作りました。そのマニュアルに掲載されているチョウの中で、ツマグロヒョウモンやナガサキアゲハといった、興味深いチョウの情報が出てきましたね。」

●すみませんが、私はチョウに詳しくないので教えていただきたいのですが、ツマグロヒョウモンって、どんなチョウなんですか?

「ツマグロヒョウモンというのは、黄色をベースにした、黒い網目模様が付いているチョウで、1970年代頃までは沖縄~近畿地方ぐらいまでにしか分布されていなかったんですが、1980年代頃から、彼らの分布を北の方へ拡大しているんですね。今回の調査では、東京や神奈川で最も発見され、山形などでも発見された種類になります。」

●それほど分布が変化してるというのは、気候変動が原因なんですか?

「気候変動の影響もあると思いますし、チョウって、彼らが食べられる植物がないと生きていけないので、その食べる植物の分布を人間が北の方まで広げていってしまっているというところも、要因の一つになっているのではないかと思っています。」

●人間がいつでもどこでも同じものを食べられるようにすることによって、チョウの分布も変わっていってしまっているということですか?

「そうですね。ツマグロヒョウモンに関しては、そういう形になっていると思います。」

チョウの分布拡大は人間が原因!?

萩原正朗さん

●今、私の手元に、去年のチョウの分布の結果レポートがあるんですけど、この中に「アカボシゴマダラの分布が拡大傾向にある」と書かれていますが、この“アカボシゴマダラ”というのは、どういったチョウなんですか?

「アカボシゴマダラは、日本では奄美大島周辺に分布しているチョウで、それ以外では中国などのアジアに分布しています。このチョウは、アゲハチョウぐらいの大きさで、シッポに赤い斑点がある鮮やかなチョウなんですけど、このチョウを誰かが関東に持ってきてしまい、そのチョウが外来種となって、分布が広がっているという状態です。」

●写真で見ると、白と黒がベースの模様で、一見したらキレイなチョウですけど、このチョウは増えてはいけない種類なんですね?

「関東に南洋のチョウが増えたりして、その場所にふさわしくない種類が増えてしまうと、生物多様性のバランスが壊れてしまったりするので、他のところからチョウなどを持ってこないようにしてほしいですね。」

●チョウって、気候や生息地の環境の変化の影響を受けやすいんですか?

「一概にはいえないんですが、例えば、サナギが越冬をするためには、冬の時期の気温が一定以下になってしまうと死んでしまうし、チョウの食料となる植物がどれだけあるかによって、チョウの分布が変わってきてしまうので、影響を受けやすいと思います。」

●私だけが感じていることなのかもしれないですが、私の小さいころに比べて、チョウが少し減っているような気がするんですが、実際はどうなんですか?

「それは多分、長澤さんが気がつかなくなっているだけだと思います(笑)。大人になってくると、そういうところに目がいかなくなってくるんですよね。今回の調査でも、子供はすごくたくさん見つけるんですけど、大人になると、少しずつ見えなくなってきてしまうんだと思います。」

蛾とチョウの違いは、触角にあり!

※チョウは、どのようにして世代交代をしているのでしょうか?

「モンシロチョウやアゲハチョウといった多くのチョウは、春から秋までの間に産卵を何度も繰り返して、何世代も生み出すことがあります。なので、春頃におじいさん世代がいるとすると、秋にな子供世代がいるような感じなので、どんどん世代交代が行なわれているんですね。」

●ということは、一年に一世代じゃないんですね?

「ヒョウモンチョウという種類の多くは一年に一世代だったりするんですけど、その他の多くの種類は、春から秋の間に世代交代を繰り返します。」

●冬を越すことができない種類もいるんですか?

「そうですね。冬までに死んでしまうチョウも多いんですが、中には、羽の外側が銀色で、10円玉ぐらいの大きさの“ウラギンシジミ”というチョウみたいに、成虫のまま越冬するものもいます。」

萩原正朗さん

●素朴な疑問なんですが、チョウと蛾って、どこが違うんですか?

「“チョウは夜には飛ばない”とか“蛾は昼間には飛ばない”といったことが色々と言われていますが、チョウと蛾の違いってそういうものではなくて、チョウは触角が棍棒のようにまっすぐになっていて、蛾はまっすぐになっているところから髭のようなものが出ているんです。そこを見ていただければ、判別できますね。」

●なるほど。そうなんですね。

「海外では他にも色々な種類がいるので、一概にはいえないですけど、日本ではそういう見分け方をしていただければいいと思います。」

●昔、“羽を広げて止まっているのが蛾で、閉じて止まっているのがチョウ”だと教えられたことがあったんですけど、これはどうなんですか?

「それは全然違いますね(笑)。閉じているのが好きなチョウがいたりしますし、朝早い時間だと、暖まるために、羽を広げていたりするので、そういう見分け方はできないですね。」

●そうなんですね! 蛾って嫌なイメージがあって、チョウはキレイなイメージがあるじゃないですか。でも、もしかしたら、今まで蛾だと思っていたものがチョウかもしれないし、その逆もあるっていうことですよね?

「そういうこともありますね。『これはチョウかな?』と思えるような蛾がいたりするので、先ほど言った、触角を見ていただければと思います」 ※日頃の自然観察のコツについても教えていただきました。

「今は徐々に暖かくなってくるシーズンですので、花を見るときも花だけを見るのではなくて、“花の芽がどうやって開いていくのか”といったところに注目して見ていただいたりすると、自然観察になるんじゃないかと思います。そういうところを見ていくと、結構面白いですよ。」

●それって、家の近くでもできるから、毎日見ることも可能ですよね! 『今日は少しだけ蕾が大きくなったな』といった感じで、継続して観察することができますよね!

「そういう見方をしていただくと、とても面白い自然観察ができると思います。この自然しらべも、お友達や親を誘って行なうことを推奨しているので、是非、お友達などと一緒に観察していただいて、楽しんでいただけたらと思います。」

YUKI'S MONOLOGUE ~ゆきちゃんのひと言~

 調査というと、専門的な知識や道具が必要だったりと、少し難しいのかなと思っていましたが、今回お話を伺った“自然調べ”は、誰でも参加出来るような分かりやすいマニュアルがあり、大人から子供まで気軽に参加できるので、身近な自然を知るのに本当にいいキッカケになるなと思いました。今年のテーマは“貝殻”という事なので、興味がある方は是非参加してみて下さい!

INFORMATION

日本自然保護協会(NACS-J)情報

会員募集

 日本自然保護協会(通称:NACS-J)では、自然観察会などを開き、地元の自然を守る仲間をつくるボランティア・リーダー「自然観察指導員」を育てる活動などを行なっています。
 そんなNACS-Jでは随時、会員を募集しています。会員になると、名前を印字した会員証が発行される他、会報誌「自然保護」が年6回、お手元に届くなどの特典もあります。

◎会費:個人会員・一口5,000円、ファミリー会員・8,000円(年間)
◎詳しい情報:日本自然保護協会NACS-Jのホームページ

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. 春先小紅 / 矢野顕子

M2. THE BUTTERFLY COLLECTOR / THE JAM

M3. BEAUTY / JAMES IHA

M4. BUTTERFLY / CORINNE BAILEY RAE

M5. 春の歌 / SPITZ

M6. FOLLOW ME / UNCLE KRACKER

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」