2012年6月2日

すばらしい自然と懐かしさを感じる“ラダック”

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、山本高樹さんです。

山本高樹さん

 ライター、そして写真家の山本高樹さんは、インド北部の山岳地帯・ラダックに魅せられ、観光では満足せず、一年半ほど住んだ経験もあります。そんな山本さんが先頃、「ラダック・ザンスカール トラベルガイド~インドの中の小さなチベット~」という、ラダックのガイドブックを出されました。
 今回は、日本ではあまり馴染みのないラダックの基本情報やスケールの大きな自然景観、そしてそこに暮らす人々のお話をうかがいます。

ラダックに一目惚れ

※まずはラダックの基礎知識として、どこにあって、どんな場所なのか、話していただきました。

「インドの最北部にあって、地域で言えば、ジャンル・カシミール州になるんですが、チベットに近いエリアで、インドとパキスタンと中国の間にあるようなところで、地形で言えば、ヒマラヤの西の外れになります。なので、標高も3,500メートルぐらいと、すごく高いので、高山病になりやすいところなんですが、そこに“ラダック人”と呼ばれている、チベット系の民族が古くから暮らしています。そこがラダックですね。」

●ということは、そこの人たちの文化とかも、色々な要素が入ってくるんですか?

「そうですね。チベットに近い文化が残りつつも、インドに属しているので、カレー味の食べ物といった、インド独特の文化も入ってきているんですよ。それに今、インド人観光客がたくさん訪れるようになっているんですね。その一方で、パキスタンに近いところでは、パキスタン系の民族が暮らしていたりいるので、“国際関係のエアポケット”みたいな感じがするところです。たまたま、その場所が残ったということが、ラダックの魅力の一つになってるんですよね。」

●“たまたま残った”というのは、標高が高かったり、自然環境が厳しいところだから、そこだけ手付かずのままだったんですか?

「そうですね。チベットって、すごく山の中にあるので、一番近い街から行っても二日間ぐらいかかりますし、夏は陸路が使えるんですが、冬になると雪で陸路が使えなくなってしまうので、食料が入ってこなくなって、『野菜が食べたい!』って言いながら過ごしていたりするんですよね。」

●完全に孤立した場所になってしまうんですね。

「そうですね。陸の孤島になってしまいますね。」

●日本から行く場合は、どのぐらいかかって、どうやって行けばいいんですか?

「これが意外と近いんですよ。成田国際空港や関西国際空港からデリーまでの飛行機が毎日のように出ているので、デリーまで行ってから乗り換えて、翌日の早朝ぐらいにラダックの中心街であるレー行きの飛行機が何便か飛んでいるので、それに乗れば、出発から二日目の朝には着いてしまうんですよ。」

●そうなんですね! 先ほど、辺境の地とうかがっていただけに、そんなに早く行けることに驚きです。そもそも、山本さんがラダックに行こうと思ったキッカケって何だったんですか?

「僕が初めてラダックに行ったのは10年ぐらい前なんですけど、仕事を辞めて半年ぐらいアジア旅行をしていたときに、たまたま立ち寄ったんですね。あのときの感情を人に説明するのが難しいんですが、まさに一目惚れみたいな感じになって、『ここにいつか絶対に戻ってくる!』って思うほど、惚れ込んだんですね。僕はライターという仕事をしているので、2007年ぐらいから一年半ぐらいラダックに住みました。」

●実際に現地に住んだことがあったんですね。

「ビザの更新のために、ときどき戻っていたんですが、ほぼ現地に滞在して、各地を取材して、それをまとめた“ラダックの風息”という本を2009年に出しました。その経験がすごく大きかったですね。」

●改めて、そのラダックの魅力を伝えるために、ガイドブックを出版されたんですね?

「そうですね(笑)。ラダックって、ヘレナ・ノーバーグ・ホッジという方が“ラダック-懐かしい未来-”という本や映画、昨年公開された“幸せの経済学”という映画を製作されているんですが、その中でラダックが描かれているので、エコロジーに関心を持っている人の中では知名度があるんですが、映画の理念を伝えようとするあまり、ラダックのありのままの姿がちゃんと伝わっていないと感じていたんですね。
 分かりやすく言うと、『昔は伝統的なライフスタイルで、いいところだったけど、今は近代化が進んでいて、その良さが無くなったよね』という捉え方をしている人が、ネット上でかなりいるんですよね。『その姿は、僕が知っている今のラダックの本当の姿とはかなり違う』と思っていて、『ありのままの姿のラダックをちゃんと伝えたい』ということで、“その手がかりとなる本にしたい”と思って、ラダックのガイドブックを作ることにしたんです。」

ゴールデンワード“ジュレー”

※山本さんがすっかり魅せられてしまったラダックで、一番魅力を感じているのはどこなんでしょうか?

「僕がラダックに一番魅力を感じているのは、“人”ですね。“人がいい”って言ってしまうと、すごくありきたりな表現なんですが、そういう風にしか言いようのないぐらい、接していて気持ちがいい人たちが暮らしているんですよ。それは、チベット仏教を信仰している者の考え方で、人に対する慈しみといったところを、日頃から当たり前のように持っている人たちなんですね。 そういう人たちが暮らしている雰囲気などを、人の笑顔の写真や村の風景の写真などをガイドブックに散りばめて、言葉にはうまく表現できないんですけど、ガイドブックから感じられるように構成しました。写真に関しては、小さい写真まで、手抜きをしないように、そういうことが伝わるように写真を選びました。」

●それで、こういう構成になっているんですね。私も読ませていただきましたが、笑顔がすごく印象的でした。写真を撮るときって、現地の言葉で話しかけて写真を撮るんですか?

「そうですね。やっぱり、現地の言葉で話しかけると、リアクションが全然違うので、一生懸命覚えましたね。」

●ラダックはラダック語なんですか?

「そうですね。ラダック語はチベット語の方言なんですけど、チベット文字に近い言葉なので、発音がかなり違いますね。」

●例えば、どんなものがあるんですか?

「“ジュレー”という言葉があるんですけど、これは“こんにちは”、“ありがとう”、“さようなら”っていう、全部の挨拶に使えるゴールデンワードなんですよ。あまり連発していると、ありがたみがなくなってくるのでよくないですが(笑)、この言葉は便利ですね。『ジュレー!』っていうと、『こんにちは』ってなりますし、『オ、ジュレー』って言えば『どうもありがとう』っていう感じになりますね。」

山本高樹さん

●言ってみよう。これはいい言葉を教えていただけました(笑)。他に、現地の方と仲良くなる方法ってありますか?

「いきなりカメラを向けたりするといったマナー違反はよくないですが、挨拶をちゃんとして、自然に接していたら、当たり前のように心を開いてくれる人たちだと思いますね。『僕は観光客だ!』といったような振る舞いをしていたら嫌がられますけど、『こんにちは。元気ですか? 僕は日本から来たんですよ』といったような会話を、たどたどしくても現地の言葉で話せば、ちゃんと心を開いてもらえますね。」

●そういう話を聞くと、「昔の日本もそうだったんじゃないかな?」って思ったんですよね。

「それはありますね。『日本の田舎ってこうだったんじゃないかな』って感じますね。だから、すごく近い部分があるんだと思います。確かに、僕たちが初めて行くのに、どこか懐かしい感じがするんですよね。」

ラダックにゆっくりと滞在してみてください。

※インド北部の山岳地帯・ラダックに精通されている山本さんに、オススメの観光スポットを教えていただきました。

「特に、旅行会社のツアーなどがそうですが、これまで観光でラダックに行った人って、ゴンパというお寺巡りをする人が多くて、みんな一生懸命ゴンパに行っているんですけど、それだけがラダックの魅力じゃないんですよね。もちろん、お寺も魅力的なんですけど、あまり欲張った日程であちこち動き回らずに、どこかの村に何泊か滞在してみるとか、一泊二日でトレッキングに行ってみるといったような楽しみをするだけでも、それまでとは全然違うラダックが見られると思います。」

●大体、どのぐらいの日数をかけて行くのが理想なんですか?

「日本人は、すごい弾丸ツアーで行くんですよね(笑)。やっぱり『一週間しか休みがない』っていう人がいたりするんですが、確かに一週間で行くことも可能です。ただ、それだけ過密だと、高山病になる可能性があるので、あまり体によろしくないですよね。」

●元々、標高が高い場所だから、そうなることもあるんですね。

「なので、二日目の朝に飛行機で到着したら、その日は散歩する程度で体を休めて、体を慣らすことが大事だと思います。万全になったら、動き回ってもいいんですが、熱いお風呂に入ったり、お酒を呑んだりすると、高山病になる可能性があるので、それは控えた方がいいですね。ただ、一週間から十日ぐらいあると、基本的なスポットは回れると思います。」

●今回の本に、色々な楽しみ方が載っていたんですが、その中でも気になる楽しみ方があったんですね。まずは、ラダックには湖があるんですね!

「それは、標高4,500メートルぐらいのところにある、長さ100キロぐらいで、チベットまで跨る“パンゴンツォ”という湖なんですね。その湖は、日本ではあまり知られていないんですが、インド人にとっては、すごく有名な観光スポットなんですよ。数年前にインドで大ヒットした、アーミルカーン主演の“スリー・イディオッツ”という映画があるんですが、そのラストシーンに映る湖がパンゴンツォで、『“スリー・イディオッツ・レイク”に行きたい!』ということで、すごく人気になったんですよね。本当にキレイな湖で、ターコイズブルーのような、すばらしい色に輝くんですよ。」

●写真を見たんですけど、真っ青で「こんなキレイな湖があるんだ!」って驚きましたね。それに、ラダックって、他の場所と比べると標高が高いから、全体的にグレーっぽい感じがするじゃないですか。そこにあの青があると、ものすごく映えますよね!

「実は、あそこは日帰りでも行けるんですよ。」

●そうなんですか!?

「車をチャーターして、中心街のレーから頑張れば行けますよ。ただ、一人で車をチャーターすると、金額的に高いので、一緒に行く人を見つけて、複数人に行く人が多いですね。できれば、一泊すると、湖の上に満点の星空が見えたり、チベット側から上ってくる朝日が見られたりできるので、時間があった方がいいんですが、頑張れば日帰りで行けますね。」

●それに、標高が高いから、空が近いですよね。

「なので、『空の黒い部分より、星の方が多いんじゃないか?』と思えるぐらい、星がすごくたくさん見られるんですよね(笑)」

●想像しただけで、鳥肌が立ちました(笑)。

「そんな状態で月が上ってくると、湖全体が月明かりに照らされるので、すごく幻想な風景が見られますね。」

●その風景を見たとき、どういった気持ちになりましたか?

「自然の中にいると、『自分って小さいなぁ』ってすごく感じますね。山の中を歩き回って、写真を撮っているんですけど、ときどき悪天候に見舞われたりして、辛い思いをしたりするんですが、そういうときに『僕って小さいなぁ。ラダックの自然がその気になったら、僕なんて簡単に殺せるんだろうな』と感じて、畏敬の念を抱くんですね。だからこそ、これほどの美しい自然なんだということをすごく感じます。」

山本高樹さん

※長年、ラダックを見てきた山本さんは、今、こんな思いを持っていらっしゃいます。

「ラダックは今、近代化がすごく進んでいて、人々の生活が急速に変化しているんですね。『昔のライフスタイルの方がいいよ』と、ノルタルジックな気持ちで言うのは簡単なんですけど、現地の人にしてみたら、テレビは見たいし、コーラを飲みたいって思うのは普通だと思うんですね。伝統的な暮らしのいい部分と近代化によって改善される部分とのバランスを、ラダックの人たちはこれから見極めていく必要があると思うんですね。
 ただ、僕たちが色々指示を出すのではなくて、ラダックの人たちのいい部分を、僕たちがfacebookの“イイネ!”みたいに言ってあげることで、ラダックの人たちがバランスに気づいてくれるんじゃないかなと思っているんですね。僕がラダックのことを伝えたいと思っていることって、『あなたたちのいい部分はこういうところですよ』と、ラダックの人たちに対しても伝えていく役割があるんじゃないかなと思っています。」

●確かに、そこで生活をしていると、そこの良さってなかなか気づけなかったりしますよね。

「そうなんですよ。やっぱり、新しいものが良く見えたりするんですよね。ただ、『この部分って、すごくいいところだよ』と言ってあげることで、気付く部分ってたくさんあると思いますし、実際に気付いてくれた部分もあるので、そういったことを通じて、現地の人たちの力に少しでもなれたらいいなと思っています。」

●そこから私たちが学ぶこともたくさんあるんですね。

「そうですね。ライフスタイルだけじゃなくて、心の部分でも学べるところはたくさんありますし、そういうことって、ガイドブックを読んだだけでは分からないので、もし可能であれば、行ってみていただけると、一番分かるんじゃないかなと思います。」

(この他の山本高樹さんのインタビューもご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE ~ゆきちゃんのひと言~

 ラダックって、今まであまり馴染みがなかったんですが、山本さんのお話をうかがって、非常に興味がわきました。特に、遠く離れた場所にあるにもかかわらず、昔の日本を感じられるというのは面白いですよね。そして、標高4,000メートルの場所にある湖に行って、幻想的な風景や星空をいつか見てみたいと思います。

INFORMATION

山本高樹さん情報

「ラダック・ザンスカール トラベルガイド~インドの中の小さなチベット~」

新刊『ラダック・ザンスカール トラベルガイド~インドの中の小さなチベット~』

 ダイヤモンド社/定価1,785円
ライター・写真家の山本高樹さんの新刊となるこの本は、地球の歩き方シリーズの一冊で、ラダックの基本情報はもちろん、観光案内、人々の暮らしぶり、ラダック語会話など、ラダック旅行には欠かせない情報が満載です。
素晴らしい写真もふんだんに使われていて、山本さんのラダックへの思いがいっぱい詰まった、ありのままのラダックを感じることのできるガイドブックです。


オフィシャルブログ

 山本さんの近況や本のことなど、詳しくは山本さんのオフィシャルブログをご覧ください。 こまめに詳しく掲載されていますので、分かりやすい内容になっています。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. 初花凛々 / SINGER SONGER

M2. TASTE OF INDIA / AEROSMITH

M3. OLD DAYS / CHICAGO

M4. IN YOUR ARMS / KINA GRANNIS

M5. STAY GOLD / STEVIE WONDER

M6. LET’S GO / THE CARS

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」