2012年6月16日

「アファンの森」取材レポート第一弾!
~C.W.ニコルさんに、アファンの森のことをうかがう~

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、C.W.ニコルさんです。

C.W.ニコルさん

 今回から二週にわたって、「アファンの森」取材リポートをお届けします。アファンの森は、長野県の北部、上水内郡信濃町にある里山。作家のC.W.ニコルさんが私財を投じ、荒れた森を手に入れ、地元の林業家・松木信義さんと一緒に、森の再生に取り組んでらっしゃいます。現在、そんなアファンの森は「C.W.ニコル・アファンの森財団」の管理の下、森の再生のみならず、環境教育や癒しの場として、色々なプログラムも行なわれています。
 そんなアファンの森に、長澤ゆきが初めて取材に行ってきました。そこで今回は、「アファンの森・取材リポート・第一弾」として、森の中で行なったC.W.ニコルさんのインタビューをお届けします。

あっという間の26年

アファンの森の入り口にある立派なプレート。
アファンの森の入り口にある立派なプレート。

※まずは、森の中で録音したC.W.ニコルさんのインタビューです。

●私は今回、一般財団法人・C.W.ニコル・アファンの森財団が管理しているアファンの森に来ています。私は現在、アファンの森の池の前にある竪穴式住居のような形をしたサウンドシェルターというところにいます。隣にC.W.ニコルさんがいらっしゃいます。今回はよろしくお願いします

「“黒姫の赤鬼”です。よろしくお願いします。」

サウンドシェルター。ここに座って静かにしていると森の音がよく聴こえる。
サウンドシェルター。
ここに座って静かにしていると森の音がよく聴こえる。

●やっと、アファンの森に来ることができました!

「そうですか。この番組はもう20年になったんですね。」

●そうなんです。この番組とニコルさんは、すごく長い付き合いだということをうかがっているんですが、この20年はどうでしたか?

「早いです! すごく早いですね。実は、僕が日本に来て、今年で50年になるんですよ。そして、この森は26年になります。」

●あっという間の50年であり、26年だったんですね。

「本当すぐでしたね。あと何年ぐらいあるかなぁ? 今年72歳ですよ(笑)」

●そんなこと言わずに、ニコルさんには、この森をずっと守ってもらいたいです(笑)。アファンの森の26年の間で、財団を設立したというのは大きな出来事だったんじゃないですか?

「そうですね。財団になったのは十年前なんですけど、もし、僕の森のままだったら、僕が死んだとき、その後どうなるか分からないじゃないですか。親戚がゴルフ場にするかもしれないですしね(笑)。なので、自分で刈って育てたこの森を絶対に残したかったから、財団を作って、お金と一緒に寄付したんです。その後は、色々なスポンサーが付いたり、たくさんの人からの理解があったので、森の土地の面積が、今では9万坪になって、最初に比べると、倍になりました。
  隣に国有林があるんですけど、見る度に『つまんない森だなぁ』って思うんですよね。スギとカラマツばっかりだし、暗いし、手入れも全然しないんですよ。だから、林野庁と話し合って、今年の秋から僕たちと林野庁が協力して、間伐することになりました。数年かけて、色々な木がある混合林にして、森の質を高めていきます。」

●実は、このアファンの森も、最初は隣の国有林と一緒で、あまり手入れがされていない状態だったんですよね?

「国有林とは違って、色々な木がありました。でも、何十年も放置されていたので、藪になっていたんです。だから、今みたいに、数十メートル先に鳥が飛んでいる様子とかが分からなかったんですよ。なので、藪刈りをしながら、歩いていたんですよね。あの頃はすごく大変でした。木は全部弱くて、成長が止まっていました。 健康的な森にするには、空からくる光が地面までいかないとダメなんです。その光は、木々の揺れによって動くので、この森のように、全体的に緑色になります。それがないと、森が健康じゃないんです。光が地面までいかないと、茶色くなって、暗くなって、侵食を起こしやすくなります。それと、森は見えるところだけじゃなく、見えないところもすごく大事なんですよ。この森の土の中には、色々な菌や微生物がいるんですよね。」

木を助けるか、つるを助けるか

※続いて、どんな方法で森を手入れするのか、うかがいました。

●今までどういう手入れをしてきたんですか?

「最初が一番大変でした。僕が森にいるときは、この森の番人だった松木信義さんと一緒に藪刈りをしました。それと、日本の森はつるが多いんですよ。木がたくさんある状態だと、そのつるが化け物となって、木から木へと移っていきます。そうすると、雪が降ると積もって重くなってきたりするので、貧弱な木が折れてしまうんですよ。すると、そこからさらにつるが伸びるんですよね。
 でも、つるを全部切ってしまえばいいというものではないんです。場所によっては、すごくキレイなフジがあったり、クマが大好きな山ブドウがあったりするので、“木を助けるか、つるを助けるか”を常に考えながら切っています。そして、光が地面までいけば、花が咲くので、そうなると、虫がたくさん来ます。すると、それを狙って、小鳥がたくさん来ます。その小鳥たちが種を落としていってくれるんですよね。あと、光が地面にいくということは、木と木の間に隙間があるので、風が通れるんですよね。実は、この森は暑くなってくると、自分の力で風を作るんです。暑くなると、葉っぱが蒸発して、涼しくなります。すると、暑いところと涼しいところが出てくるので、その差で小さな風が生まれるんです。」

●だから、すごく心地いい気分でいられるんですね。

「ただし、この森は原生林じゃなかったんです。原生林は木を切ったり植えたりする必要はありません。自然は何万年も考えてますからね。ただ、日本の森林面積は67パーセントですが、その中で原生林は3パーセント以下なんです。特に、東京オリンピックから伐採が頻繁に行なわれるようになりました。あまり森を大事にしないで、お金を追いかける国になってしまったんですよね。
 本当は、こういう森はどこにでもあるはずなんです。昔はどこにでもあったから、年配の方がこの森を見ると懐かしむんですよね。20年前の話ですけど、森の入り口に湧き水があるんですが、僕が湧き水の周りを掃除していたら、着物姿のおじいさんが来て、『懐かしい風景だなぁ』って言ったんですね。そこで、僕が湧き水のおいしい水をあげたら『ありがとう。あなたはどこから来たんですか?』って質問してきたんですよ。僕のことを、この森の主だと知らないんですよね。言わなかったから、当然だと思いますけどね(笑)」

●(笑)。ということは、この森に来ると、どこか懐かしい感じがするんでしょうね。

「僕は今、国籍は日本です。考えてみたら、長澤さんより長く日本にいるんですよね(笑)」

●そうですよね!(笑) 日本人としても私より先輩ですよね!

「でも、街を歩くと、外国人と見られます。でも、この森の中では、外国人じゃないです。僕はこの森の一部です。だから、木も鳥も動物は、僕のニオイと音を知っているので、怖がらないんですよね。」

アファンの春の風物詩、湿地に生えるリュウキンカの群落。
アファンの春の風物詩、湿地に生えるリュウキンカの群落。

長澤、アファンの森を歩く

※ニコルさんの故郷ウェールズには、「アファン・アルゴード森林公園」という大きな森林公園があって、ニコルさんのアファンの森とは姉妹森という関係なんです。そこでこんな質問をしてみました。

●ニコルさんの中で、この森のお手本にしているのは「アファン・アルゴード森林公園」ということですが、あの森を目標にしているんですか?

「いやいや、僕たちの方がいいですね! だけど、向こうの方が大きいですよね。向こうは10ヘクタールからスタートして、今では3万ヘクタールです。それなのに、こっちの方がいいかというと、向こうの木の種類は50種類なのに対して、こっちは80種類以上あります。そして、こっちにはクマがいます。」

●あっちにはクマがいないんですか?

「1000年ぐらい前に絶滅したので、いないです。あと、向こうにはシカがいますが、こっちにはシカとイノシシがいます。色々な池や川といった水路があります。だから、多様性という面でいえば、こっちの方が豊かです。それも、向こうの公園長に言われました。『僕たちは小さいから』って言ったら、『大きい・小さいの問題じゃなく、森の質の問題です』と言ってくれて、嬉しかったですね。」

※そんな多様性豊かなアファンの森をニコルさんに案内していただきながら、散策しました。

●この池も作ったんですよね?

「そうですね。ここは、元々は沼で、リュウキンカが上にあるんですね。」

弥生池。畔にはヤマザクラの並木。
弥生池。畔にはヤマザクラの並木。

●元は沼だったんですか!?

「でも、ここは渇いてしまったんです。春になるとちょっとした水溜りになるぐらいのところで、そこにたくさんのオタマジャクシが入っていたんですけど、そこに入れなかったオタマジャクシは、渇いて死んでしまっていたんです。でも、地面はグチャグチャだったんで、『ここに池を掘ったら、周りの木が元気になるし、水が好きな生物も住む場所ができる』と思ったんで、掘ったんです。すると、土器が出てきたんですよ! “ドキ”っとしましたね(笑)。その出来事を教育委員会に報告したんですね。教育委員会がその土器を調べたら、弥生時代の土器だったんです。なので、この池は“弥生池”という名前なんです。」

●ということは、弥生時代の人たちが、ここで生活をしていたということなんですね。森の中を歩いていると、本当に色々な種類の木があって、楽しいですね!

アファンの森を歩く

(さらに森を散策していると、ブナの木がありました)

「このブナは、この森の中で一番大きいブナです。28歳ぐらいですね。」

●ということは、この森ができたのと同じぐらいの年齢ということですね。28年でも、あのぐらいの大きさなんですね。

「木の成長は遅いですよ。この地面を掘ったら、ブナの跡が出てきました。だから、昔はもっとブナがあったんです。なので、『ブナを戻そう』と思って、今頑張っています。実は、トチもそうなんです。」

※さらに散策をしていると、森の奥まで来ました。

●というわけで、私たちは今、森の奥まで来たんですけど、私の目の前に国有林がありまして、用水路を挟んでこちら側がアファンの森なんですが、全然違いますね!

「少し間伐しましたが、地面はまだ茶色じゃないですか。それに、貧弱なスギもあるんですよ。あと、光に少し当たってる太い木があるんじゃないですか。実は、あの貧弱な木と太い木の歳は同じなんです。」

用水路をはさんで奥が国有林。もやしのような木ばかり。
用水路をはさんで奥が国有林。もやしのような木ばかり。

●その日当たりによって、太さが変わってくるんですね。

「なので、もっと間伐すれば、木も育ちます。」

●確かに、全部同じような木ですね。ニコルさんに言わせたら、“木の畑”なんですよね。

「そうですね。でも、それも大事なんですよ。だけど、畑は放置していたら、いい野菜を作ることができません。」

●ちゃんとした森にするには手入れが必要なんですね。

「手入れしなさい!」

森を考えると、馬が一番

アファンの森を歩く

※冒頭でも話していましたが、「C.W.ニコル・アファンの森財団」では今年から、アファンの森に隣接する国有林の再生事業を行なうことになりました。どんな事業になるのでしょうか?

●具体的なビジョンはありますか?

「まず、木がすごく多いので、秋になったら、馬を使って、余計なスギを間伐します。木と木の間に光が通るようになってから、この森には昔何の木があったのかを調べて、それを植えます。または、光が通ると、地面の中で種が目覚めて、芽が出てきます。それを残すとしたら、出たばかりの若木の横に棒を差します。それをやることで、草刈りをやるときに、それを目印に、切らないように気をつけます。すると、スギとスギの間に他の木が出てきます。そうなると、スギがものすごく元気になって、20年経たないうちに、すばらしい木になります。」

●馬を使うというのは、森へのダメージをできるだけ少なくするためなんですか?

「そうです。馬を使うことで、ブルドーザーを入れる必要がなくなります。ブルドーザー入れると、地面にすごいダメージを与えるんですよね。馬で木を運ぶことを“馬搬”といいます。日本では、今では東北の遠野にいる六人しかやっていないんですが、英国では馬搬の会社が70社ぐらいあります。森はただの材木じゃなく、森の生態を守るためにも、大きな道を作って、お金をかけて森を伐採するんじゃなくて、少しのお金で、森のことを考えながら運び出すには、馬が一番いいですね。」

●遠野から馬を連れてくるそうですが、それは馬搬ができる人も一緒に来るということですか?

「もちろんです。僕は馬に乗れますが、馬搬の経験はないですし、ここには馬搬の経験者がいないですからね。」

●でも、ゆくゆくは、その技術も教えていただいてもらうんですか?

「そうですね。いずれ、アファンの森で馬を飼いたいと思っています。馬搬をするためと、冬には馬にソリを引っ張ってもらって、足が不自由な子供たちと一緒に、森の中を探検したいんですよね。まずは、馬搬をやれるようにします。でも、馬搬のことを忘れてる人が多いし、馬で運び出すことを信じられない人も多いんですよね。」

●昔は、日本でも馬を使って運び出していたんですね。

「そうなんです。僕の二世代ぐらい前までやってましたね。森の番人だった松木さんが子供のときには、馬を色々と使っていたと思いますよ。この森の中で馬のてい鉄を見つけました。」

●それが見つかったということは、昔は場搬が普通に行なわれていたという証明ですね! そういう話を聞くと、昔の人の知恵とかをもっと活用すれば、森がどんどんよくなりますよね。

「森だけじゃなく、自然全体がよくなりますね。だって、日本って、土地が長いじゃないですか。北には流氷があって、南にはサンゴ礁がありますよね。だから、木や花の種類がヨーロッパのどの国より豊富です。それらの付き合い方を知っているのは、松木さんが最後じゃないでしょうか。松木さんは森の番人を引退しましたが、口はまだ引退してないです(笑)。なので、何かあったら松木さんに聞きます。」

アファンの森を歩く


(この他のC.W.ニコルさんのインタビューもご覧下さい)

YUKI'S MONOLOGUE ~ゆきちゃんのひと言~

 ニコルさんがおっしゃっていた、“自分は森の一部”という言葉がとても印象的でした。私もアファンの森に立って、目を閉じて、鳥の声に耳を傾けながら、通り抜けていく風を感じると、なんだか森の一部になれたような気がして、とても心地よかったです。そして、改めて人間は自然の一部なんだと実感しました。

INFORMATION

C.W.ニコルさん情報

イベント情報

 作家のC.W.ニコルさんが出演するイベント情報です。

・「緑の国プロジェクト」スペシャル・トークショー

「緑の国プロジェクト」のメンバーであるニコルさん、成澤由浩シェフ、稲本正さんがそれぞれの立場から、日本の未来について語ってくださるスペシャル・トークショーです。

◎開催日時:6月29日(金)の午後3時から午後4時半
◎会場:渋谷区・こどもの城8階
◎定員:100名
◎入場:無料
◎詳しい情報:ドングリの会のホームページ


・「徳川眞弓ピアノ・リサイタル」

 ニコルさんがピアノ組曲の演奏の合間に、谷川俊太郎さんが書き下ろした詩を朗読します。

◎開演:7月17日(金)の午後7時
◎会場:東京文化会館・小ホール(JR上野駅からすぐ)
◎入場料:4,000円
(このコンサートの収益金は、アファン震災復興プロジェクトに当てられます)


「C.W.ニコル・アファンの森財団」

「C.W.ニコル・アファンの森財団」では随時、サポーターを募集しています。 会員になると、アファンの森の見学会や集いに参加できます。

◎会費:個人会員・一口5,000円から
◎詳しい情報: C.W.ニコル・アファンの森財団のホームページ

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. PEACEFUL EASY FEELING / EAGLES

M2. A THOUSAND TREES / STEREOPHONICS

M3. HERE,THERE AND EVERYWHERE / THE BEATLES

M4. WHISKEY MY MENTOR / C.W.ニコル

M5. THE RIVER / BRUCE SPRINGSTEEN

M6. ONLY TIME / ENYA

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」