2012年6月30日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、瀬木貴将さんです。
南米の民族楽器サンポーニャ、そしてケーナの奏者・瀬木貴将さんは、日本より先に南米ボリビアでプロ・デビュー。その後、ご自分のアルバム制作やライヴほか、日本の有名シンガーやアーティストと共演されているサンポーニャ奏者の第一人者です。今日はそんな瀬木さんにボリビアやアマゾン、そしてマチュピチュ遺跡のお話をうかがいます。
※まずは、サンポーニャとケーナがどんな楽器なのか聞いてみました。
「説明するために、今日持ってきました。サンポーニャは、南米の民族楽器の笛です。材料は、ボリビア産の竹でできていて、33本の竹を三列に束ねています。その竹に息を吹きかけるだけで音が出ます。」
※ここでサンポーニャを軽く吹いていただきました。
●すばらしい音ですね! 今、色々な音階を出していましたが、それはどのようにして出しているんですか?
「これは三列になっていて、手前の二列が交互でドレミファソラシドになっているんです。三列目がピアノの黒鍵で、半音を出します。なので、ピアノと同じように、十二音階が出るようになっているんです。でも、こういう状態になったのは、ここ30年ぐらいの話で、以前は、もっとシンプルで、半音が出ませんでした。そこから改良した結果、今のような形になりました。」
●ということは、かなり昔からある楽器なんですね?
「そうですね。これは、向こうの楽器製作者仲間から聞いた話なんですけど、サンポーニャって、折れた竹に風が当たったときの音が始まりだと言われているんですね。」
●偶然聞いた自然の音をキッカケに、楽器を作ったということなんですね。
「そうなんです。それが今から4000年も前の話だそうです。」
●4000年ですか!
「中国に負けてない年数ですよね!(笑) 4000年って、中国やアンデス、アマゾンやメソポタミアなど、色々なところで文明が生まれた頃ですよね。その頃からあった楽器なので、多分管楽器の中で一番古い楽器じゃないでしょうか。」
●人ってその頃から音楽を楽しんでいたというのは、すごく面白いことですよね。
「なので、今でも演奏するときに、アンデスやアマゾンの曲を演奏するときは特になんですが、『4000年前の人たちって、どんなメロディを奏でていたんだろう?』って思ったりしますね。」
●そういった歴史のあるサンポーニャですが、今回、もう一つお持ちいただいているんですが、それがケーナですか?
「そうですね。」
●縦笛のような形をしていますが、ケーナはどういった楽器なんですか?
「これは南米・アンデスの民族楽器である笛ですね。これも竹でできています。ケーナといえば、“コンドルが飛んでいく”が一番有名ですよね。」
※ここで“コンドルが飛んでいく”の一節を吹いていただきました。
●私も聴いたことがあります!
「これのオリジナルで使われていた楽器ですね。ちなみに、この曲は、今からちょうど100年前の1912年にできた曲なんです。」
●ケーナもかなりの歴史がある楽器なんですね。
「そうですね。実は、ケーナって、元々竹じゃなくて、動物の骨で作られていたんですよ。それには、面白い神話があるんです。その昔、アンデス地方に“ケーナ”という女性がいたんですが、若くして亡くなってしまったんですね。その彼氏がとても寂しがって、毎日ケーナのお墓に行っていたんですよ。すると、ある日、地面からケーナの骨が出てきていて、その骨に風が当たって、音が鳴ったのがキッカケなんじゃないかと言われているんですね。すごくロマンティックな楽器なんですよね。」
●まるで、その人には、愛おしい人の歌声のように聴こえたんでしょうね。
「そうでしょうね。そこから、ケーナの彼氏が骨を持ち帰って、吹いたことで楽器になったと言われています。こういう神話があるぐらい、素敵な楽器なんですよね。」
●好きな人に吹いてほしいですね! せっかくなので、今回、サンポーニャで一曲演奏していただけますか?
「喜んで! それでは、アマゾンを旅したときに作った曲です。“SELVA-密林-”です。」
※ここで、放送では「SELVA-密林-」を演奏していただきました。
●いやぁ、すばらしいです! 私、今、鳥肌が立っています! すばらしい演奏ありがとうございました。演奏中、目を閉じて聴いていたんですが、アマゾンの大自然が浮かんできました!
「そう言っていただけると、とっても嬉しいです。」
●そもそも、瀬木さんがサンポーニャとケーナに出会ったキッカケは何だったんですか?
「13歳のときに出会った一枚のレコードがキッカケだったんですけど、その頃、『ギターを弾きたい』と思って、お父さんに買ってもらって、練習して、学校に持っていったんですよ。教室で弾いていたら、僕より上手な人が何人もいたんですよね。そこで早くも挫折をしました(笑)。 だけど、音楽が好きだし、楽器が好きなんで、『自分に合った楽器があるんじゃないか』と思って、家にあったレコードを片っ端から聴いていったんですよ。その中に一枚だけ、サンポーニャとケーナのレコードがあって、その音色にハマってしまいましたね。」
●そうだったんですね。確かに、ギターはたくさんの人がやっていたと思いますが、サンポーニャとケーナって、なかなかいないですよね。
「サンポーニャとケーナだったら、やっている人が周りにはいないんで、ライバルがいないから、次の日からは無敵ですよね(笑)。挫折することがないので、マイペースな自分の性格に合ってましたね。しばらくは、色々な輸入盤をたくさん聴いたり、年に一度、海外アーティストのコンサートがあるんですけど、そのコンサートの最前列を取って、演奏を見たりして、独学で学んでいきましたね。
今でもそうですが、当時はプロの人がいなかったし、優秀な先生もいなかったんですよね。十代の頃の僕の目標って“本場であるボリビアに行って、向こうのアーティストと一緒に演奏する”ことだったんですね。18歳のときに、初めてボリビアに行きました。実は、それが初めての海外だったんですよ(笑)。初めての海外がボリビアなんて、なかなかいないですよ(笑)」
●最初にボリビアに行くっていう人は、なかなかいないですねぇ(笑)。サンポーニャとケーナのどういったところに惹かれたんですか?
「音色ですね。サンポーニャとケーナに出会ったのが1979年で、色々な音楽が流行ってましたね。日本では、ニュー・ミュージックが全盛期だったし、海外ではロックや、サタデー・ナイト・フィーバーの影響でディスコなどが流行ってました。そんな中で、僕はメロディックな音楽が好きだったんですよね。ポール・モーリアやレイモン・ルフェーブルなど、当時では“イージー・リスニング”と言われていた、インストゥルメンタルがすごく好きだったんですね。
そこで、サンポーニャとケーナって、インストゥルメンタルをやるには最適な楽器で、吹いたときから『これは色々な音楽ができるんじゃないか』と思ったんですね。本場のフォルクローレはもちろんのこと、インストゥルメンタルもできるし、ロックバンドやオーケストラの中で演奏しても面白いんじゃないかと思ったんですよね。その発想を、プロになった今でも、一つ一つ実現していっているのが、今でも続けている理由の一つでもありますね。」
※日本より先にボリビアでデビューを果たした瀬木さんは、ボリビアでどんなことを学んだんでしょうか?
「ボリビアで音楽的なことはもちろんのこと、人や文化、スペイン語など、たくさん学んだんですが、それ以上に学んだことは“南米の大自然”なんですよね。ボリビアのトリニダードという街からカヌーでブラジルのベレンという街までの、アマゾン川の上流から河口までの5,000キロを下ったことがあるんですよ。そのときに僕が訪ねた村や見てきた大自然、野生動物たちへの想いを、今回のアルバムに込めました。」
●旅の途中で、サンポーニャを吹くことってあったんですか?
「ありましたね。旅を始めて三日目のことだったんですけど、アマゾン川には、カワイルカというピンク色のイルカがいるんですね。そのイルカの前で演奏したことがあるんですよ。それは感動的でしたね。最初はカヌーの周りに五匹ぐらいいたんですけど、十分ぐらい目を閉じて陶酔していたら、百匹ぐらい集まってきたんですよ(笑)。イルカの前で初ライヴですよ(笑)」
●すごいですね(笑)。イルカも何かを感じたんですかね。
「後から知ったことなんですけど、イルカって、自然でできた音にはすごく敏感らしく、反応するらしいですね。とってもいい経験になりました。アマゾンって色々な動物がいて、中にはワニもいるんですよ。川幅100メートルぐらいのアマゾン川を夜下っているときに、懐中電灯を岸に当てると、50センチぐらいの間隔で、赤い光が見えるんですよ。実はそれ、ワニの目なんですね。
それを見て、普通なら『怖い』と思うじゃないですか。でも、『ワニを見たい』と思って近づいてみたら、大人しいんですよ。僕らの知ってるワニって、口を開けて待っている感じじゃないですか。僕って、人間の中では、おいしそうな部類に入ると思うんですね(笑)。ワニからしてみれば、大物だと思うんですが、すごく大人しくて、僕らがイメージしていたワニと違ったので、棒でワニを叩いてみたんですよ。そうしたら、襲われましたね(笑)。間一髪避けましたけど(笑)」
●危ないですよ!(笑)
「そのときに『野生動物は、人間が危害を加えたり脅かしたりしない限り、人を襲うことはないんだな』っていうことが分かったんですよね。それから、野生動物といえば、アフリカじゃないですか。2001年に、ナミビアのエトーシャ国立公園に初めて行ったんですが、そこにはゾウやライオン、キリンやシマウマ、サイなどがいる野生動物の宝庫なんですけど、ここ数年はナミビアに行って曲を書くようにしているので、最近の僕のアルバムは、野生動物を見ながら作ったものが、とても多いですね。なので、大自然から学ぶことがたくさんありましたね。」
●さて、瀬木さんは、最新作「マチュピチュの夜明け」をリリースされました。これは、先日まで上野の国立科学博物館で開催されていた“インカ帝国展”のテーマ曲“INKA”も収録されたアルバムですが、マチュピチュに行ったことはあるんですか?
「三回行ったことがありますね。ペルーには二回行って、三度目は上野のマチュピチュに行きましたね(笑)」
●なるほど!(笑) うまい!
「上野もペルーに負けないぐらい素晴らしかったですよ!」
●上野の“インカ帝国展”は終わってしまったんですが、今後は仙台・山梨・静岡でも開催されることになっています。
「マチュピチュが全国ツアーをするんですよね(笑)」
●(笑)。そのテーマ曲の“INKA”ですが、この曲にはどんな想いが込められているんですか?
「インカ帝国って、南米で500~1000年ぐらいの歴史があって、皇帝が15代ぐらいいたんですが、最後は征服されてしまうという、とても激動な文明だったんですね。そんなインカ帝国の激動を曲で表現できたらと思って、作りました。」
※ここで、放送では「INKA」を聴いていただきました。
※瀬木さんは、以前からインカに興味があったのでしょうか?
「子供の頃から、インカの謎に迫ったテレビ番組とかうよく見てましたね。『ナスカの地上絵は宇宙人が作ったんじゃないか』とか『なぜマチュピチュができたのか』といったような興味はたくさんありましたね。」
●私もそういうものを見て、「一度は行ってみたい!」って思っているんですが、行ってみてどうでしたか?
「実際に南米に行ってみても、インカの面影ってほとんど残っていないんですよね。日本でもそうじゃないですか。侍や忍者って見ないじゃないですか。それと同じような感じなんですけど、マチュピチュに行ったりすると、もちろんインカの人は住んでいないんですが、インカの人が生活をしているようなエネルギーが未だに出ている感じがするんですよね。『ここで、アルパカなどを飼いながら、ジャガイモ畑などがある生活をしていたんだな』って思えてきて、タイムマシーンに乗ったような感じがする場所でしたね。」
●もしかしたら、サンポーニャとケーナって昔から親しまれてきた楽器だから、マチュピチュでも、そういった楽器を演奏していた人がいたかもしれないですよね。
「当然いたと思いますね。もしかしたら、僕より上手だったかもしれないですよね(笑)」
●(笑)。私も、以前あったイベントのときに、少しだけ触らせていただいたんですが、これが結構難しいんですよね。
「そうなんですよね。僕もケーナの音が出せるようになるまでに三日かかりました。最初は音が全然でなくて、『不良品じゃないか』と思って、楽器屋さんに返しにいこうと思ったぐらいだったんですよ(笑)」
●そうだったんですか(笑)。でも、三日目には音が出たんですね。
「はい。音が出てからは面白くなってきましたね。楽器ってそんなもんですよね。」
●私もいつか、サンポーニャかケーナを演奏できるようになったら、大自然の中で演奏してみたいですね。
「それはもう最高ですよ! 人間って、自然の中にいるだけで、意図的なものがなくなりますし、自分が自然体でいられるじゃないですか。そういうところで音楽を奏でたり、自己表現をしたり、自分を見つめなおしたりすることって大事だと思うので、そういう機会があるといいですね。」
●はい、頑張ります!
南米ボリビアは、私にとって今まであまり馴染みのない場所だったんですが、瀬木さんの演奏を聴かせていただいたことで、その音色のむこう側に、南米の自然や歴史のようなものを感じることができました。
そういった意味で、音楽は、その土地の自然や文化が深く反映されていて、例えその場所や時代にいなくても、色々なことを感じとれる、素晴らしいものなのだと、改めて感じました。
徳間ジャパン/TKCA-73758/定価1,800円
サンポーニャとケーナの奏者・瀬木貴将さんの最新作『マチュピチュの夜明け』は、インカ帝国展のイメージ・アルバム。瀬木さん曰く、「文明が滅びても大自然や生き方は継承されています。そんなインカ帝国の素晴らしさを少しでも表現できたらという気持ちで制作しました」とのこと。そんなアルバムをぜひ聴いて、その気持ちを感じてください。
瀬木さんは現在、最新アルバムの発売を記念して、全国ライヴ・ツアー中です。関東では7月15日(日)に栃木・大田原市の「クラノカフェ」でライヴを行なうことになっています。
その他、瀬木さんの詳しい情報は、オフィシャルサイトをご覧ください。