2012年7月7日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、加藤庸ニさんです。
日本の島に精通されているフォトグラファー・加藤庸二さんは、6,000以上ある日本の島のうち、人が住んでいる有人島430あまりをすべて訪れている“島のスペシャリスト”! そんな加藤さんは2010年に『原色 日本島図鑑』を出され、その時にこの番組にご出演いただき、日本の島の魅力を語っていただきました。『原色 日本島図鑑』はロングセラーを記録している一冊なんですが、読者の“南の島だけを紹介した本を作ってほしい”という要望に応え、先頃、『原色 ニッポン<南の島>大図鑑』を出されました。今回はそんな島のスペシャリスト・加藤庸二さんに、奄美や沖縄、八重山など南の島の食文化や自然信仰のお話などうかがいます。
※一言で“南の島”といっても、食文化は大きく違うようです。
「食べ物は全然違いますね。南の地域って、まず植生が違うので、採れる植物系の食材が北の地域とは違いますよね。あと、魚や動物たちも全然違ってきます。」
●南って、トロピカルな色をした魚とか、サトウキビが採れるイメージがあるんですけど、そういったものが食材のメインになっていたりするんですか?
「そうですね。特に奄美諸島や沖縄にかけては、豚を使う料理って多いですよね。」
●南の島の中も、島ごとで違っていたりするんですか?
「確かに違っていたりしますね。例えば、同じ豚を使った料理でも、奄美群島と沖縄とでは、微妙に味付けや使い方が違っていたりしますね。あと、面白いのが、沖縄にもある料理が、奄美では呼び方が違うんですよね。」
●例えば、どんなものがあるんですか?
「沖縄では“ソーミンチャンプルー”という、そうめんを使ったチャンプルーがあるんですが、奄美では“油ぞうめん”と呼ぶんですよね。」
●全然違いますね!
「呼び方は全然違うんですが、料理は同じなんですよね。」
●それは不思議ですね!
「そういう風にして、沖縄と差別化をしているんでしょうね。」
●それぞれの文化で、呼び方が違っていながらも、同じものが根付いているんですね。他にも、漁の仕方も違うそうですね。
「色々な漁の仕方がありまして、特に面白いのが“追い込み漁”ですね。潜って魚を追い込んで、船に一気に引き揚げるというやり方なんですが、この漁の仕方は、元々は奄美で行なわれていた方法で、奄美から沖縄に渡った人が伝えたのがキッカケとなったと言われているのが、沖縄の追い込み漁なんですね。」
●他の地域では行なわれていないんですか?
「そうですね。」
●他の地域ではなくなってしまった漁の仕方が、なぜ沖縄には残っているんでしょうか? やっぱり、本土や他の島とは距離があったからなんですか?
「そうでしょうね。あと、沖縄にはサンゴ礁があるので、20センチぐらいのお魚を大量に獲るなら、サンゴ礁に追い込んだ方が早いということで、沖縄の海の特性を生かしてのことなんだと思います。」
●そこの自然条件にマッチしたものが、残っていったということですね。
「そうですね。今でもその方法で行なわれているんですよね。」
●そう考えると、島国では、自然と人々の生活って密接に関係しているんですね。
「そうですね。まさにそれが島独特のものじゃないですかね。」
●あと、島独特の文化といえば、神様の存在がすごく大きいイメージがあるんですが、実際はどうなんですか?
「神様って、私たちのような都市部で生活している人たちよりも、南の人たちの方が近い存在じゃないかなと思いますね。今でも“ユタ”みたいな、民間信仰で占いをしてくれるような人たちがたくさんいますし、そういう人たちの言葉を聞いて、生活や生き様に反映させている人たちも多いんですよね。」
●それはなぜなんですか?
「神に対する畏敬の念もありますし、自分たちにとって神様は近い存在で、そのお話をしてくれるユタさんたちの言葉を聞いて、自分たちの生活に生かしているというのは、自然に近いからじゃないでしょうか。
神様は“自然降臨”といって、海の向こうからやってくるとか、空から森へ降りてくるという風に、南の方に住んでいる人たちは考えられているんですよね。そういうところが色濃く反映されているんじゃないでしょうか。」
●それは北の島に住んでいる人たちより、南の島に住んでいる人たちの方が強いんですか?
「そうですね。むしろ、北にはそういう考え方がないですね。北の方になってくると、アイヌ文化とかがあるので、また別なものになってきますが、そういう神に対する考え方は、南の方に限定されてきますね。なので、南の方は、そういう面でも全然違うところがありますね。」
※南の島々にはあまり知られていない、とても珍しいお祭りがあることを知った加藤さんは、南の島の本を作るにあたって、特にお祭りに着目し、原稿を書いたそうです。一体、どんなお祭りがあるのでしょうか?
「お祭にも色々あります。例えば、今回の本の表紙カバーにも入っているんですが、沖縄では“ミルク”と呼ばれている弥勒菩薩さんに関する祭の写真があるんですね。菩薩さんは海から来て、幸福を呼んでくるといわれているんですが、その菩薩さんの面を被って歩き回るというお祭があるんですよ。そういった仮面を被った神様も色々なものがいまして、弥勒菩薩よりも恐い神様もいるんですよね。
八重山諸島の中に“新城島”という島があるんですが、ここは石原慎太郎さんの“秘祭”という小説の舞台になった島なんですが、普通の人には見ることができないお祭があるんですね。このお祭は、島の人たちだけでやるもので、このときに出てくる神様は恐ろしい顔をしている伝説があるんですね。私たちは入って見たことがないので、実際は分からないんですが、一説によると、神様が島に現れるときには仮面を被って出てきて、お祭が終わると、その仮面を他の人に見られないように、海辺で仮面を全部壊して土に埋めると言われています。」
●それは、相当恐ろしいんでしょうね。
「そういう、島の人たちだけが参加できるお祭もあるんですよね。そういうお祭は、私たちはそれを見ることができず、話だけで想像するしかないんですよね。そこから少し北に行くと、トカラ列島というところがあるんですが、その中の“悪石島”という島があり、そこに“ボゼ”という仮面神がいるんですね。この神様は私たちも見ることができるんですが、この神様も海からやってきて、幸福をもたらしてくれる“来訪神”の一種なんですが、この神様も、爬虫類のような顔をした恐ろしい神様なんですよね。体中にクバの葉を身につけ、腕にシュロを巻いて、全身草だらけの状態で、真っ赤な口を開けて、女性や子供たちを追い掛け回すんですよ。それによって、幸福をもたらすんですね。そういうお祭もあります。」
●ということは、私たちがよく見る、お神輿を担ぐようなお祭とは全然違うんですね。
「全然違いますね。今そのことを言われるまで忘れていましたが、神輿を担ぐことはないですね。南の方の祭では、神輿を担ぐことは有り得ないですね。」
●そうなんですか! ということは、南の島だけの祭なんですね。
「そうですね。それと、南の方のお祭では、島の人たちが踊るんですね。」
●なぜ仮面を被るのか分かっているんですか?
「それは、神様を形として表に出す表れですよね。例えば、神輿って、その中に神様が入っていて、それを担いで歩き回るんですね。でも、南の方では、神様が体に宿して現れてくるというのが特徴ですね。」
●その仮面というのは、南の島の人たちがイメージする神様の顔ということなんですね。あと、お祭のときに振舞われる料理ってあるんですか?
「それもありますね。しかも、かなりのご馳走ですよ。煮しめとか色々なものを作って、みなさんに振舞っていますね。それは豪華でおいしいものばかりですね。どの島のお祭でも大体そうですね。そこに、泡盛とかが付いて、お祝いするんですね。」
●それは最高ですね! それは、私たち観光客が行っても食べることができるんですか?
「できます。ただ、その際に、私は『心づけだけはしてあげてください』とよく言っています。確かにすごくよく振舞ってくれるんですよ。そこに気持ち程度に心づけを置いてあげると、島の人たちは恩義を感じてくれて、名前を聞いてくれたり、翌年にはお祭への誘いのハガキが来たりするんですよね。だから、島の人たちは歓迎してくれていますよね。」
●そういった祭を楽しむ島旅っていうのも楽しそうですね!
「楽しいですね! そういった祭の連続が、今回の本になったといっても過言ではないですね。」
※日本全国の有人島430あまりをすべて訪れている加藤さんは、島に行く度に、その島の素晴らしさに圧倒される一方、島の未来を憂いてらっしゃいます。
「今回の本にも書いてしまったんですが、島って、これからかなり厳しい状況になっていくんですよね。少子高齢化がどんどん進んでいますし、若い人が本土の方に出ていってしまっています。なので、島の過疎化がどんどん進んでいるんですが、そこに無理に歯止めをかけるかどうかは別として、島のいいところを見つけ出す人が多いのも事実なんですよね。
『島で田舎暮らししてみようよ』とか『塩など、島じゃないと作れないものを作ってみたい』と思う人も多いんですよ。そういう人たちが島に行って、色々なことを興してくれれば、人が流出していく島にとっては、そういう人たちに住んでもらいたいし、そういう人たちが増えていくだろうと、私は思っています。なので、人が減っていくことへの歯止めはある程度かけつつ、新しい仕事を持った人たちが増えていってもらいたいと思っています。」
●今回の本を読ませていただいたんですが、どの島も魅力的なんですよね。今回は114ですが、これが一日でも長く今の状態でいてくれれば、それ以上のことはないと思ったんですが、そうなるためには、私たちはこれからどういう風に島に接していけばいいですか?
「その島には何があるのか、何ができそうなのかということを真剣に調査している人が多いんですよね。例えば、島に温泉があるとしたら火山があるので、地熱があるということなので、『亜熱帯系の植物をうまく育てていけば、自然の温室みたいな感じで植物栽培ができる』という発想をしてくれる人がたくさんいるんですよ。そういう人たちが、そこで新しい植物栽培をしてくれて、本土へ出荷してくれるというケースもあるんですよね。
実は、『この島には、こういうものがあるんだ』とか『こういうものが獲れるんだ』といった、何があるのか、何ができそうなのかという発想へのキッカケになりそうなことを、今回の本に散りばめているんですよ。その中から、若い人たちが新しいことを発想してくれればという想いを込めています。」
●たくさんの要素が詰まっているので、絶対に一つは自分のお気に入りの島が見つけられますよね。
「あると思いますね。そういうものを発見してもらいたいですよね。」
●最後に、加藤さんにとって、“南の島”とは何ですか?
「実は、私の島旅って南の島からスタートしているんですよ。具体的に言えば、奄美群島の与論島というところなんですが、そこが私のスタート地点だと思えばこそ、南の島って私にとっての原点ですし、島のルーツって南じゃないかなと思うんですよね。そういう気持ちでいつも旅しているので、南の島に対しては、特別な想いがありますね。それは文化・食べ物・人々の生活・お祭など全てに対してですね。やっぱり、南の島って、日本の島の始まりのような気がします。」
●そして、楽園ですね。
「そうですね。その島にしかないものや、その島に住んでいる一番の理由が、そこにはあると思いますので、その島の人たちにとっては、その島が楽園なんだろうと思うんですよね。それを少しずつ見せてもらいながら、まだまだ歩いていきたいと思っています。」
(この他の加藤庸二さんのインタビューもご覧下さい)
食事、漁、そしてお祭りまで、自然の影響を強く受けた南の島の文化。特にお祭りは、自然を恐れ、感謝してきた、南の島の人々の生活を象徴するものなんですね。そんな祭りも詳しく載っている加藤さんの最新刊、皆さんも是非チェックしてみて下さい!
阪急コミュニケーションズ/定価2,310円
島のスペシャリスト・加藤庸二さんのロングセラー「原色 日本島図鑑」に次いで出版された「原色 ニッポン<南の島>大図鑑」には、トカラ列島、奄美群島、沖縄本島と周辺の島々、八重山諸島ほか、小笠原諸島まで、島の大小、有人無人を問わず、114の島を網羅。島の文化、風土、暮らしなどが、加藤さんの美しい写真と、訪れた人だからこそ書ける的確な文章で解説。写真がふんだんに掲載されているので、見ているだけで楽園気分を味わえます