2012年8月4日
今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、石田ゆうすけさんです。
“チャリダー”、そして旅グルメ作家として活躍されている石田ゆうすけさんは、7年半かけて自転車で世界九万五千キロを放浪した経験があり、その旅の模様を本にまとめて発表。この番組には、これまでに三回ご出演いただいています。そんな石田さんが、先頃「洗面器でヤギごはん」の文庫本を出されました。以前出された本をリニューアルした今回の新刊は、タイトル通り、“食”を切り口にした旅のエッセイ集です。今回は石田ゆうすけさんに、世界をめぐる自転車旅で食べた忘れられないご飯のお話などうかがいます。
※石田さんの新刊「洗面器でヤギごはん」は、“食”を切り口にした旅のエッセイ集なんですが、なぜ“食”にこだわったのでしょうか?
「“旅”と“食”って、すごく密接じゃないですか。この本にも書いてますが、世界中の前哨戦として、ニュージーランドを自転車で走ったんですね。それが初めての海外旅行だったので、ものすごくテンションが上がるかと思ったら、空港で自転車を組み立てて、走り出しても、なんかぼんやりしてるんですよね。」
●ぼんやりとですか!? 実感が沸かなかったんですか?
「そうですね。どことなく夢を見ているような感じで、ぼんやりとした感じがずっと続いてたんですね。そんな中で、最初の食事として現地のハンバーガーを食べたんですが、向こうのハンバーガーって、日本とは全然違うんですよ。まず大きいし、肉の味も肉々しいですし、匂いが羊っぽいんですよね。それに千切りキャベツがドッサリと入っているんですよ。日本だと、カツバーガーなどには入ってますけど、普通のハンバーガーだとレタスじゃないですか。なので、一口目で『僕は今、海外に来ているんだ』っていうことをリアルに感じることができたんですね。そのときに初めて、目の前の景色に色が付きましたね。
視覚って、すごく脆弱で、リアルさを感じきれてないんですよね。嗅覚や味覚、触角といった五感をフルに活用して吸収することで、初めて感じることができるんですよ。観光行って、写真を撮って楽しむっていう旅行も楽しいですが、僕がしたかった旅は“世界を感じることができる旅”だったので、感じるという意味では“食べること”ってすごく分かりやすいので、“食”という面で深く書いていくことに意味があるかなと思って、一冊にまとめました。」
●特に石田さんの場合は、自転車で旅をしているので、普通の旅より体力を使いますし、“食べること”ってすごく大事なことですよね。
「そうなんですよね。よく『自転車で走っているとき、何を考えてますか?』って聞かれるんですが、実際は疲れてるんで、何も考えてないんですよね(笑)。その中で唯一考えてることといえば、『次は何を食べようかな?』ってことだけですね。
自転車での旅って、汗を流しながら目的地に向かって一生懸命漕ぐだけなので、シンプルなんですよ。日本で仕事しながら生活していると、色々な情報や雑音が自分の中に積みあがって、どんどんとややこしくなっていくんですけど、自転車で旅をしていると、そういうものがどんどん削がれていって、“生きている”という核の部分だけが残るんですよね。そういう状態で腹を減らせて、食事をしたときって、獣になったような気分ですよね。何も考えずにがむしゃらに食べて、食物が喉を通っていくときの感覚がすごく分かって、『今生きているんだな』って思いますね。」
●すごくシンプルですね。食べ物って、持って移動するんですか? その場その場で食べるんですか?
「それは国によりますね。アジアとか、物価が安いところだと、現地で食べていきますけど、物価が高いところとか、人がいないところだと、買い込んでいきますね。そういう判断って、地図を見れば、次の街まで何日かかるか分かるので、それに対して必要な食事の量を買い込みますね。例えば、南米のパタゴニアは人が少なかったので、五日分の食料と水20リットル分を持っていきましたね。」
●20リットルですか。東京に住んでいると、蛇口をひねれば水が出てくるじゃないですか。だから、水を確保する大変さって、私は希薄だったかもしれないですが、旅において、“水”って大事なものなんですよね。
「そうですね。あるとき、アフリカの砂漠にいたんですけど、そのときの気温が45度ぐらいあって、喉が渇いて仕方ないんだけど、次の村が何キロ先にあるのか分からないから、少しずつ飲んでいたんですよ。そのときに、現地の人が向こうから歩いてきたんですけど、喉が渇ききっている様子で『水をくれ』って言われたんですね。そのときには、旅の途中でできた仲間三人と走っていたんですけど、その中の一人に“コーネル”っていうルーマニア人がいて、本当にワガママだったんで、そいつと喧嘩ばっかりしてたんですよ(笑)。あと、“シンジ”っていう日本人がいたんですけど、僕とシンジは現地の人に水をあげることができなかったんですよ。なるべく現地の人に目を合わせないようにしてたら、コーネルが現地の人に水をあげたときに、『負けた』って思いましたね。
こういう旅って、実際は大変な旅じゃないんですけど、時々そういう状況に出くわすときがあるんですけど、“優しくすること”って、努力すれば誰でもできるじゃないですか。でも、自分の本当の人間性が試されるのって、自分に余裕が全くなくなったときなんですよね。そういったギリギリの状況に陥るときがあって、そこで初めて自分を知ることがたくさんありましたね。」
※世界をめぐる自転車旅で出会った、忘れられない“食”にまつわるエピソードを話していただきました。
「ヨーロッパって、キャンプ場以外でキャンプをすることが禁止されているんですよ。なので、いつも人の家の庭に、お願いして張らせてもらっていたんですけど、こっちも勝手なもので、『どうせテントを張るなら、景色がキレイなところに張りたい』と思って、そういったところを探すんですね(笑)。最初の頃にお願いした家のときなんですが、家主の方も怪訝な目で見てきたんで、『ダメかな?』って思ってたら許可してくれて、テントを張ってたら『家に入っておいで』といって、家に招いてくれたんですね。
その家は、おばあさんとおじいさんの二人暮らしにベラルーシ人の小さな子供がいたんですけど、その子供はベラルーシでは経済的に学校に通わせることができないから、おじいさんたちが預かって学校に通わせているということだったんですね。その家のおばあさんがすごく料理好きで、最初にポモドーロっていうパスタが出てきたんですよ。ポモドーロって、シンプルなトマトソースがかかっているイメージがありますけど、いいオリーブオイルとトマトを使っているのか、シンプルながら、すごく深い味わいがあって、すごく美味しくてビックリしたんですけど、量が少なかったんで、物足りなかったんですよね。『これじゃあ腹いっぱいにならないな。テントに戻ったらパンを食べようかな』と思っていたら、次々にメインディッシュが出てきて、どれも本当に美味しいんですよ。
これも勝手な話ですけど、フランスとかだと、家に招かれても、『え!?』って思うぐらいマクドナルドが出てきたりしたので、ヨーロッパからグルメというイメージが出てこなかったんですが、イタリアだけは別格で、家庭料理でも深い味わいがして、ちゃんと作っているぐらい、食文化が充実している感じがしましたね。日本も、家庭によりますけど、料理ってちゃんとしているイメージがありますけど、他の国ってそうでもない感じがしますね。でも、ヨーロッパの中では、イタリアは別で、すごく丁寧にしていて、美味しいものを食べる情熱が、他の国より強いなって思いましたね。」
●ちゃんとした料理を出すということは、他とは他人に対するおもてなしの心といったところで、違ったりするんでしょうか?
「そうだと思いますね。そのイタリアのおばあさんもそうですが、料理好きの人って、おもてなしの心がすごくあって、いい人が多いなと思っているんですね。実は、その夫婦は慈善活動もしていたりするんですよね。それに、預かっているベラルーシの子供も、親と離れて寂しそうにしているかと思ったら、ものすごく元気なんですよ。イタリアの、身も知らない人の家にきたとは思えない明るさがありましたね。でも、考えてみたら、こんな美味しい料理を食べてたら、明るくないわけないですよね! 僕にも『食べられるだけ食べて』っていって、美味しい料理をどんどん出してくれたんですよ。結局、イタリアの人はすごく食べるんで、僕は食べ切れなかったんですけど、『これは明日の分よ』って、残った料理を包んでくれて渡してくれたんですよ。そのときの表情がお母さんのような感じがしましたね。なので、料理って、人が生きていく上での根幹部分で、そこを大事にしていて、おもてなしの心で食べさせてくれるというのは、温かくて優しいなって思いましたね。」
※石田さんは、つい最近結婚され、ハネムーンでアフリカに行ってきたばかりなんです。そこで、ハネムーンの旅先がなぜアフリカだったのか、お聞きしました。
「僕が行きたかったっていうのもありますが、彼女にアフリカを見せてあげたかったですね。」
●どんなところを見せてあげたかったんですか?
「彼女は動物が好きなんで、動物園じゃなくて、だだっ広いサバンナにいる野生の動物の姿を見せたかったのと、アフリカ人の明るさ、そして、僕が以前出版した『いちばん危険なトイレといちばんの星空』という本があるんですけど、その本には僕の独断で決めた色々な世界一があるんですけど、その中に“世界一の海”として、アフリカにある“ザンジバル”という島の海を挙げていて、それを見せたかったんですよね。それを順を追って見せていったら、彼女もすごく興味をもってくれましたね。」
●どんな反応だったんですか?
「行ったら、僕以上にハマりましたね。旅とかする子じゃないので、こういったタフな旅は初めてだったんですよ。それがアフリカだったんで『大丈夫かな?』って思ったんですが、三日目ぐらいには『次いつ来る?』っていう話をし始めてましたね(笑)。夜な夜な一人でスワヒリ語の勉強を始めてましたからね(笑)。アフリカ貯金を始めようとしてますからね(笑)」
●かなりハマってますね(笑)。よかったじゃないですか!
「すごいハマり方をしてましたね。僕はこのアフリカハネムーンをオススメしますよ。」
●石田さんがこれまでやってきた自転車一人旅と、今回の旅、比較してどうでしたか?
「さすがに、これは比較にならないと思ったんですよ。一人旅って、一人だから出会いだらけだし、現地の人と触れ合いながら、ときには現地の人の家に泊まったりしていたので、『そこには勝てないだろう』と思ってたんですね。でも、今回行ってみたら、プラスアルファの要素として、愛する妻と一緒だったというところもあったかもしれないですけど、メチャクチャ楽しかったんですよ!
アフリカの人って、すごく明るいんですよね。僕たち二人で歩いていてもガンガン近寄ってきてくれたりして、出会いだらけでしたね。カップルって、男以上に親近感がある面もあるのかなと思いましたね。中には、市場のおばさんとのすごくいい出会いがあったんですけど、最後には抱き合って、泣きながら別れるっていうシーンがあったんですよ。
十六日間の旅で、いつもとは違う二人旅だったんですが、『また会いにいきたい』と思える出会いもありましたし、彼女がすごく喜んでくれたのを見ていたら、感動を共有できたという喜びもあったりしたので、一人旅と遜色なく、すごく楽しかったですね。それもアフリカの魅力でもあると思いますね。」
●今まではアフリカでハネムーンというイメージはなかった人もいたかと思いますが、石田さん的にはオススメということですね。
「そうですね。僕らが周りから『どこに行くの?』って聞かれて、答えたら、『なんでアフリカなの!?』って、みんな驚くんですよね。彼女も、実際にアフリカに行ってみて、『ハネムーンにアフリカって最高だよね!』って言ってくれましたね。
今だから思うんですけど、これはハネムーンに限らないことですけど、例えばハワイやヨーロッパなどの観光地巡りもすごく楽しいんですけど、アフリカから日本に帰るとき、飛行機が離陸すると、アフリカが素晴らしすぎて、泣けてくるんですよね。そういう旅とは違っただろうなとは思いますね。アフリカの村にいくと、そこの子供たちが遊んでほしくて、すごく近寄ってくるんですよ。そのときに見られる子供たちの笑顔って、キレイなところを見たときの感動とは違った感動があったんですよね。
そう考えると、アフリカにある魅力って、“人の魅力”じゃないでしょうか。僕の書く本って、全部人が関わってくるんですよ。それはなぜかというと、キレイな景色をどれだけ素晴らしい描写で書いたとしても、人と人が織り成すドラマには勝てないんですよね。それは旅でも一緒で、単に見るだけの旅より、人と関わる旅の方が絶対に面白いですし、特にアフリカは強いと思いますよ。なので、ハネムーンでアフリカに行って、二人で震えるような感動をするというのはアリだと思いますね。
アフリカでハネムーンって、遠くて危険だから、日本にいたら、発想すら起きないと思うんですよね。でも、コーディネートをちゃんと付ければ、絶対に安全な旅ができますし、見るものとして、野生の動物は本当に素晴らしいですよ! それに、サバンナの広さにはビックリしますし、朝日を見るだけでも、あまりの美しさに、涙を流すぐらい感動しますよ! ザンジバルに三日間いたんですが、あそこの海は、彼女も『三日じゃ足りない』っていうぐらいキレイなんですよね。」
(この他の石田ゆうすけさんのインタビューもご覧下さい)
石田さんは、自動車の旅を七年半やってこられましたが、特に長い旅だったという感覚はなかったそうです。ところがトルクメニスタンという国に入った時に、日本を出て6年食べていなかった、餃子(マンドゥ)のようなものを食べた瞬間に、これまでの旅の道のりを体中で感じられたそうです。まさに、食べることで、世界を感じ、旅の様々な思いを感じてこられた、今回の新刊「洗面器でヤギごはん」らしいお話ですよね。他にも興味深いエピソードが満載なので、ぜひ新刊もチェックしてみて下さい。
幻冬舎文庫 / 定価670円
チャリダーで旅グルメ作家の石田ゆうすけさんの新刊となるこの文庫本は、7年半かけて自転車で世界9万5千キロを放浪したときの“食”を切り口にした旅のエッセイ集。
以前出版された本をリニューアルしたもので、面白い食のエピソードが満載です!
石田さんの新刊発売記念トークショーが8月30日(木)の午後7時半から西荻窪の「旅の本屋・のまど」で行なわれます(参加費・800円)。
また、9月15日の午後7時半に、池袋・ジュンク堂書店で行なわれます。
トークショーの詳細や、その他の石田さんに関する情報などは、石田さんのブログ「石田ゆうすけのエッセイ蔵」をご覧ください。石田さんの日常も垣間見ることができますよ。