2012年8月11日

長野県・聖山音楽祭取材リポート
“ブナの木にまつわる不思議なストーリー”

記念写真
ブナの木大王の前で記念写真。
左から林晶彦さん、草彅順子さん、長澤ゆき。

 今週のNEC プレゼンツ ザ・フリントストーンは、7月28日と29日に、長野県長野市大岡で開催された「聖山音楽祭」の取材リポートをお送りします。この音楽祭は地元で「イーハトーブの森」というレストランを営んでらっしゃる「草彅順子」さんと、国内外で活躍され、阪神淡路大震災の復興支援コンサートでも知られる作曲家の「林晶彦」さんが、10年ほど前に出会ったことから始まりました。そのきっかけになっているのが、標高1,447メートルの聖山の山頂近くに奇跡的に残された、草彅さんが「ブナの木大王」、そして「大王夫人」と名付けた二本のブナの木なんです。今回は、そんな草彅さんと林さんのインタビューの他、聖山音楽祭の実行委員長「中村光夫」さんにもお話をうかがってきました。
 その時の模様をお送りします。

神秘的な「お種池」

樋知(ひじり)大神社
オープニング・セレモニーが行なわれた樋知(ひじり)大神社。
境内の奥にお種池がある。

※音楽祭は、樋知大神社の本殿横にある湧き水“お種池”でのオープニング・セレモニーからスタート。インドの楽器スワルマンドゥールの演奏とせせらぎの音に乗せて、創作舞踊が披露されました。そして場所を聖山のブナの木前に移し、ドイツの楽器へルマンハーブの演奏や合唱などが行なわれました。そんな今回の聖山音楽祭のオープニングが“お種池”で行なわれたのは、実行委員長の「中村光夫」さんのこんな思いがあったからなんです。

中村光夫さん
聖山音楽祭の実行委員長、中村光夫さん

中村さん「今回は、“お種池”という泉を舞台にしたんですけど、あそこが入ったことがすごくよかったですね。」

●お種池にこだわったのはなぜですか?

中村さん「聖山がこの辺り一帯の水源の役割を果たしている山で、田畑や生活に大切な水を届けてくれているんですが、その中で一番大事なところですので、どうしてもあそこでやりたかったですね。」

●水源の泉というのは、大事なんですよね?

中村さん「そうですね。これは私だけではなく、訪れた人みんなが感じることなんですけど、あそは何かしら不思議なものを神秘的な場所なので、あそこでセレモニーをやることは初めからの夢でしたね。その夢が叶って、嬉しいです!(笑)」

●ホッとしている感じですね(笑)。水って私たちの生活には欠かせないし、生き物にとって必要不可欠なものだと思うんですね。そういった意味でも、池やブナの木はすごく重要なものだと思いますが、どうですか?

中村さん「水って、雨が降って、森に染みこんで、泉に湧き出して、川に流れて海に行って、空に行くといった感じに循環していますよね。その循環の始まりを泉と考えたとき、あの池がその始まりの場所だと思いますし、私たちに何かを感じさせてくれる場所だと思いますね。」

お種池でのパフォーマンス
お種池でのパフォーマンス。舞踊は青柳ひづるさん、
インドの楽器スワルマンドゥールの演奏はチャーリー宮本さん。

夢の中に現れた二本の木

※聖山音楽祭は、地元で「イーハトーブの森」というレストランを営む「草彅順子」さんと、作曲家の「林晶彦」さんが、友人や知人を通して出会ったことがキッカケなんです。10年ほど前、林さんが草彅さんのお店でピアノ・コンサートを開くことになったのですが、林さんは、草彅さんのお店に来る前に何度も不思議な夢を見たそうです。

草彅さんのお店「イーハトーブの森」。
草彅さんのお店「イーハトーブの森」。木々に囲まれた素敵なレストラン。

林さん「自分の家の前に大きな二本の木が立ってたんですね。そこには、人は誰もいなくて、その木は天まで昇るような大きくて、緑がかっていて、ドクドクと脈を打っているような感じがしていたんです。その木がこっちをずっと見ていて、何か語りかけているんですよ。『何を話しているのかな?』と思って、そこにずっと立っていたら、木と木の間から音楽が流れてきたんですね。でも、聴こえてこないんです。“沈黙の音楽”なんです。」

●でも、何か感じるものがあったんですね。それは気になりますね。

林さん「朝起きたら、涙が出てきてたんですよ。魂の一番深いところに触れてくるような夢だったんですよね。そのときのことを日記に書いてたんですね。ある日、長野に来ることになって、草彅さんにそのことを話したら、『よく似た木が聖山の上にありますよ』と教えてくださったんです。」

●草彅さん、そのことを詳しく教えてくれますか?

草彅さん「林さんの夢の中にいつも出てくる木があって、スケッチブックに書かれていたんですが、それを見せてもらったときに、『これは、私の家族みんなが好きで、よく見にいくブナの木に違いない!』と思ったんですね。そこで、林さんに『この山の上にありますよ!』と教えたら、『是非、連れていってください!』といったので、お連れしたんです。私も『似ているな』と思ったんですが、林さんが『夢の中の木だ!』と言ったので、驚きましたね」

林さん「思わず、子供みたいに木に登って、抱きつきましたね(笑)。その後に、詞が生まれて、曲が生まれるようになったんですよね」

草彅さん「木に会ってから、楽譜は見えないけれど、流れている音楽が曲となったんですよね。」

ブナの木大王
ブナの木大王。樹齢は推定200〜300年。
枝が四方に伸びる、いわゆる暴れ木。この木から伝説が生まれた。

※林さんは、のちに“母なる木のうた”という曲を創りますが、それはブナの木と出会ったときに、言葉とメロディーが一緒に聴こえてきたそうです。

林さん「木が歌っているのが聴こえてきたような感じがしたんですね。それをたまたま始めに聴かせてもらったっていう感じですね。」

●それは素敵ですね! 林さんとしては、自分が作ったというよりも、その音楽を代弁しているような感じですか?

林さん「そうですね。木がプレゼントしてくれた幹事ですね。それと、木がお母さんみたいに温かかったんですよ。」

●まさに、お母さんの胸に飛び込むような感じだったんですね。。」

“子供たちに伝えたい”

女性合唱団「ルミエール・ドゥ・ソレイユ」。
女性合唱団「ルミエール・ドゥ・ソレイユ」。
東京の北区滝野川で結成。

※聖山音楽祭の開催のキッカケであり、音楽祭のテーマとなっている“母なる木のうた”を私たちにプレゼントしてくれたブナの大木。樹齢はどれくらいなのでしょうか。そしてなぜそのブナの木が残ったのか、引き続き、草彅順子さんと林晶彦さんにお聞きしました。

草彅さん「10年ぐらい前に、ブナの木を専門家に見てもらったことがあったんですが、その方によると、樹齢200〜300年ぐらいじゃないかと言っていました。この聖山一帯は、元々はブナの木がたくさんあったそうなんです。」

●でも、私が先ほど見た限りでは、あの二本のブナの木しか残っていなかったですね。

草彅さん「今は数えるぐらいしか残っていないんです。なぜなら、ブナを漢字で書くと“橅(木でないという意味)”と書くぐらい、存在自体が軽んじられていたんですね。それに、カラマツやスギなど、経済性のある木を増やそうとする国策で、ブナの木が伐採された時代があったんですね。今残っているブナの木の周りの木もブナだったんですが、大岡村が村の分教場を建てるために、ブナの木を伐採して、お金に換えたといわれているんです。
 なので、ここでは、あの二本のブナの木だけが残っているんですが、なぜ残っているかというと、材木として使えないぐらいに幹が分かれていて、木も道に寄りかかるように斜めになっているんですね。まっすぐに伸びているなら、まだ材木として使えたかもしれないですが、そんな状態なので、『材木として使えないし、切っても邪魔になるだけ』と判断されて、かろうじて残ったんじゃないかと思います。」

●たまたま残ったということなんですね。

林さん「でも、この道も舗装することになっていたんですよね」

草彅さん「10年前、私のお店で林さんのコンサートが行なわれたころだったんですけど、山の下から徐々に舗装が始まってきていたんですね。『もしかして、この舗装はブナの木のところまで続くんじゃないか』と心配になって、調べたんです。すると、既に予算が組まれていて、ブナの木の下を通り抜けて舗装されることが分かったんですね。
 根の下が道路になっているので、そこを舗装してしまうと、根をコンクリートで覆ってしまって、根を痛めるし、木が呼吸できなくなってしまうし、車が根の上を頻繁に通るようになってしまったら、根を踏みつけていくことになるので、ブナが枯れて死んでしまうんじゃないかと思って、『これは大変なことだ!』と思ったんですね。『大事な林さんの木が、今危ない状況になっています』と教えました。」

林さん「そこで、草彅さんが村役場など、色々なところに対して運動を起こしてくださったんですよね。」

草彅さん「運動じゃなくて、村長さんにお手紙を書いたんですよ。大岡の隣に麻績村があるんですけど、隣村の大岡の住民が派手に活動するのはよろしくないと思って、控えめにしないとと思ったんですが、『じゃあ、どういう方法があるかな?』と考えたときに、手紙しかないと思って、村長さんに手紙を書いたんです。ちょうどそのころ、私の親友の、ベジタリアン料理研究家でエッセイストの鶴田静さんが、私のお店でやっていたコンサートを見にきてくれていたんですが、彼女に事情を話したら、鶴田さんも手紙を書いてくださったんですね。」

●そのお二人の手紙と想いが通じて、今でもブナが残っているんですね。

草彅さん「そうかもしれないですね。」

林さん「あと、歌ができたことも大きかったかもしれないですね。この地域の合唱団が歌ってくれたりするようになりましたからね。」

大王夫人
大王夫人。写真では大きく見えるが、
大王よりは幹周りは細い。

●歌詞にも“子供たちに伝えたい”というフレーズがありますが、今では、地元の小学生が歌っているんですよね。

林さん「最近まで知らなかったんですよね。」

草彅さん「私のところに、大岡小学校の校長先生が来て『音楽会で、大岡小学校の子供たちが“母なる木のうた”を合唱するので、是非、音楽会に見にきてください!』ってお誘いをしてくれたんですよ。そのときは、お店があったので、見にいけなかったんですが、後日、大岡小学校の先生方が音楽会テープを持ってきてくださったんですね。子供たちが歌っている様子を聴かせていただきました。」

●どんな気持ちになりましたか?

草彅さん「嬉しくて、涙が出てきました。こんな形で大岡の子供たちに歌われるようになっていたことが嬉しかったですね。」

林さん「どうやら、卒業式にも歌ってくださっているみたいですね」

草彅さん「今では、卒業式でも歌っているし、緑の少年団の春と秋の活動のときにも、必ずこの歌を歌っているそうです。」

●既に、この辺りでは定番になっているんですね。

草彅さん「大岡小学校には、根付いていますね。」

●そのことを聞いたとき、林さんはどう思いましたか?

林さん「何年も歌われ続けていて、ビックリしました! あと、この歌の最後の歌詞の“子供たちに伝えたい”というところが、現実になっているのが、すごく嬉しかったです!」

生きているもの全てとの繋がりを大切に

※今回の取材リポートの最後に、ご登場いただいた三人からそれぞれメッセージをいただきました。まずは、林晶彦さんに“母なる木のうた”からどんなことを感じ取ってほしいか、お聴きしました。

林さん「命の大切さや“命は繋がっている”という宮沢賢治の言葉が背景にあると思います。人間だけじゃなく、生きているもの全ての命は繋がっていると思います。」

※続いては、草彅順子さんのコメントです。

草彅さん「ブナの木の周りを見ていると、色々な植物や蝶や鳥など、この自然界のあらゆるものを受け入れてくれるような森だと思うんですよね。それって、黙っているけど、私たちに教えてくれていることだと思うんですね。このブナの木の前に立つと、『顔や形、言葉など色々違うけれど、みんな“地球”という大地に暮らしているから、仲良くしなさい』ということを、教えてくれているような気がします。」

※最後に今回の音楽祭の実行委員長・中村光夫さんのメッセージです

中村さん「私の挨拶でも言わせていただいた通り、自然と人との関わりが、今では疎かになってきているような気がするんですよね。今までは“人間は何でもできる”と思っていたのが、去年の原発事故で破綻したと思います。あれは、人間の力でコントロールできない何か恐ろしいものがあるということが分かりましたし、その前に起きた震災も、人間の力ではコントロールできませんでしたよね。でも、自然って、私たちに恵みを与えてくれるじゃないですか。私たちはそれがないと生きていけない。そういうことを、ここで感じていきたいですね。」

YUKI'S MONOLOGUE 〜ゆきちゃんのひと言〜

 今回の音楽祭のキッカケとなった二本のブナの大木。偶然にも残ったこの大木ですが、そこで繋がった不思議な縁は、どこか必然だった気がします。長い期間に渡って様々なことを見てきたブナの木が、私たちにメッセージを伝える為に、草彅さんや林さんを導いたのではないでしょうか。神秘的な佇まいの大木の前に立った時、思わず私もそんなことを考えてしまいました。

INFORMATION

『聖山音楽祭』

 7月28日(土)と29日(日)に、長野県長野市大岡で開催されたこの音楽祭は、インドの楽器スワルマンドゥールやドイツの楽器へルマンハーブの演奏、合唱やギター演奏、子供ミュージカルなど、盛りだくさんの内容となっていました。
来年も開催予定なので、気になる方は「聖山音楽祭」のホームページをご覧ください。

林智子とアンサンブルりんのね
林智子とアンサンブルりんのね。ドイツの珍しい楽器へルマンハーブを演奏。
ブナの木大王の前でも演奏し、聖山に素敵な音色が響いた。


林晶彦さんオフィシャルサイト

 聖山音楽祭のテーマソングを作曲した林晶彦さんのコンサート情報などは、 林さんのオフィシャルサイトをご覧ください。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. JAMAICA SONG / BOOKER T.

M2. IN A TREE / PRISCILLA AHN

M3. 母なる木のうた / ルミエール・ドゥ・ソレイユ

M4. SONGBIRD / OASIS

M5. EARTH IS MY HOME(UNIVERSAL ANTHEM) / SUSAN OSBORN

M6. HOME AGAIN / MICHAEL KIWANUKA

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」