今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、橋谷晃さんです。
今回のゲスト、橋谷晃さんはネイチャー・スクール「木風舎」の代表で、ネイチャー・ガイドとしても活躍中。最近では某テレビ局の山ガール番組に講師として出演されていました。今回はそんな橋谷さんに、三十周年を迎えた木風舎と山歩きの変遷、そして、この秋オススメのトレッキング・スポットのお話などうかがいます。
※橋谷さんが立ち上げた木風舎は今年三十周年を迎えましたが、この三十年という歳月を振り返って、どんな思いがあるのか、うかがいました。
「長いようで、あっという間でした。つい昨日始めたような気がします。毎日を過ごしていたら『あ、三十周年か!』というような感じですね。」
●木風舎を立ち上げたときのことは、今でも鮮明に覚えていますか?
「これがスタートだというときのことはおぼろげなんですが、やろうと思って始めたころの日々は、よく思い出しますね。」
●どんな思いで、その日々を過ごしていたんですか?
「僕は十五歳のころから山登りを始めたんですが、山が自分の心の中心になるにつれ、山に教えてもらった色々な素晴らしいことや大切なことを、周りの人にも伝えられたら、それを教えてくれた山に対する恩返しができるかなと思って、スクールを始めました。」
●“山に教えてもらった素晴らしいこと”って、どんなことですか?
「山に行くと、とてもシンプルじゃないですか。“歩く・食べる・寝る”ぐらいしかやってないじゃないですか。それだけ色々なものを削ぎ落として、シンプルな環境の中にいると、すごく大事なものが出てくるんですよね。都会にいると、飾りが多くて、なかなか物事の本質が見えてこなかったりしますが、でも、山の中にいれば、一枚の葉っぱを見て『キレイだな』って思うだけでも、その日一日がすごく幸せだったりするんですよね。でも、こういうことって、すごく大事なことなんじゃないかって思うんですよね。
だけど、それって、人に話しても『えらいね!』って言われないじゃないですか。数字で表されたり、結果で表されることって、褒められたりすることがあるじゃないですか。同じ山登りでも、高い山に登ることや困難な山に登ることも素晴らしいことですけど、“百名山のうち、○○山登りました!”とか“六時間のコースを四時間で歩きました!”といったようなことって、その人が満足すればそれでいいんでしょうけど、僕にとっては違うような気がしたんですよね。
本当に大切なことって、数字や結果では表さられないと思うんですよね。自分がすごく穏やかで、いい気持ちになったり、『これキレイだな!』って思うことを共感してくれる人の存在がいる・いないということといったような、何でもないようなことが、僕にとって一番大事だということを、改めて気付かせてくれるのが山なんじゃないかと思うんですよね。」
●その穏やかで、いい気持ちになれるようなツアーが、木風舎にはたくさんあるんですね!
「そうですね。実は僕、山登りをしていながら、どんどんと頂上へのこだわりがなくなっていったんですよね。もちろん、山頂って多くの場所では、眺めがよかったり、色々な意味でターニングポイントになったりする素敵な場所なので、よく行くんですが、それだけにこだわらずに、歩いている途中に『この花キレイだな』とか『この葉っぱのそよぐ感じがいいな!』といったことを楽しみながら、いつの間にか山頂に着いていて、その山頂もよくて、下山するときも楽しみがいっぱいあるっていうことの方が、僕にとっては理想なんですよね。そういった楽しみ方を、どんどん提案していきたいと思っているんですよね。
今って“山ガールブーム”じゃないですか。これまでは山登りというと、中高年の方々が趣味としてやっていることが多かったんですが、今では若い人たちが山に登ってくれるんですよ! これはすごく嬉しいことなんですが、“高尾山がいい”となるとみんな高尾山を、“富士山がいい”となるとみんな富士山を登るんですよね。もちろん、目標を持つことは素敵なことだし、それはそれで素晴らしいことなんですが、“富士山に登りました!”っていうことだけだと、山って色々なことを感じさせてくれるのに、もったいないなって気がするんですよね。」
●確かに、登ったことを言いたいがために、登っているところもあるかもしれないですよね!
「僕も若いころは、そういうところがあったので、その部分はすごく分かります。僕はこれまで色々なところに登ってきたから、そう言えるのかもしれないですが、それだけではなく、“自分にとって、何が楽しいの? 何に感動した?”っていうことを心に聞いて、山登りをしてもらいたいなと思いますね。」
※十五歳から山に登っている橋谷さんに、山登りのスタイルがどんな風に変わってきたのか、お話いただきました。
「山に登る方の思考も少しずつ変わってきたなと感じるところがありますね。」
●どういう風に変わっていったんですか?
「昔は、ピークハント的な登山方法で、『この山を登ったら、次はあの山を登ろう!』という人が多かったですね。それはそれでもちろん素晴らしいことだと思いますが、最近では、もう少し自由は発想で、“自然を楽しもう”として、その一つとして山があるから行くという感じの方が多くなった気がします。例えば、今だと“森を歩く”と聞いても、違和感がないじゃないですか。ところが、“森”をテーマにしたカレンダーが一般的になったのって、実はそこまで古いことじゃないらしいんですよね。」
●そうなんですか!? 今ではたくさん見ますよ!?
「そうですよね。でも昔は、“森”というテーマのものはなかったそうなんですよ。」
●それは、森を楽しむ文化が生まれたから、それらが生まれたんですか?
「そうですね。“登山”という言葉で表されるものよりも、“トレッキング”という言葉で表されるように、歩くプロセスで何かを感じたり、自分がリフレッシュしたいという気持ちが強くなった気がしますね。」
●確かに、森に行くとリフレッシュできますよね! そういった時代の変化もある中で、木風舎さんのツアーに参加されている方というのも、変化してきたんですか?
「そうですね。その変化の影響も多少あると思いますが、最初から自然を楽しむスタンスでやってきたので、かっこよく言えば、僕の思考がブレてないので、来てくださる方もそういう思考の方々が来てくださるんですよね。僕自身、自然体でやっている感じですね。そのお客さんなんですが、『なんでこんなにいい人ばかりが来てくれるんだろう?』って思うんですよ。これは本当に不思議ですね(笑)」
●それはきっと、橋谷さんが呼んでるんですよ! (笑)
「(笑)。多分、自然の中に入ると、みんないい顔になる気がするんですよね。」
●それは私もなんとなく分かります。イライラしてても、自然の中に行くと、心が柔らかくなるような感じがしますよね。
「僕の息子が『満員電車に乗ると、隣の人を愛するのは難しいね』って言ったんですよね。なるほどと思いましたね(笑)」
●(笑)。でも、山の中なら、それができるということなんですね。
「そうですね。一つには、“人間ってこんなにもちっぽけなんだ”と感じることがあると思うんですよ。『自然のスケールに比べたら、能力の差とか、すごく小さいことなんだな』って思わせてくれるんですよね。その人間のちっぽけさを感じられると、人にすごく優しくなれるような気がするんですよね。」
●自然の力って、すごいですね!
「都会にいると、どうしても人だけで生きていけるような錯覚を持ってしまうけど、水や空気って、人間が一から作るのってできないので、やっぱり色々なものに生かされているんだなって、考えるよりも先に感じますね!」
※日本の山を知り尽くしている橋谷さんに、この秋オススメの国内のトレッキング・スポットを教えていただきました。
「まず、みなさんに一つ認識していただきたいのは、日本列島、特に東日本って、世界でも稀の紅葉の美しさなんですよ。日本の紅葉は、間違いなく世界一だと思いますね。なぜなら、落葉広葉樹の葉っぱが紅葉となりますが、これだけたくさんの種類の落葉広葉樹が集まっているというのは、他にそうはないんですよね。 これって、日本の気候の特殊性からきているんですが、緯度でいえば日本は中緯度地域で、東京は北緯三十六度で、僕らがよく行くような山だと三十七度といった感じですが、それって、地中海あたりの緯度なんですよね。なので、雪が降るなんてまず考えられないんですよ。そういうところに、たまたまヒマラヤから偏西風が吹いてきて、アジア大陸を渡ったときには乾いていますが、日本海で水気を吸って、日本の陸地に当たるわけですが、それによって、中緯度地域に考えられないほどの雪が降るという奇跡的な条件が生まれたんですね。
日本の広葉樹って、本来だと落葉しない広葉樹が多く発達するエリアなんですよ。日本を代表する広葉樹に“ブナ”ってありますよね? あのブナって、世界的に見ると、実は常緑樹なんですよね。僕らからしてみたら、イメージが全然違うと思いますが、日本のブナたちは、この緯度なのに積雪が多い環境に適応するために、落葉樹として進化を遂げたんですね。そういう木々たちが、まだまだたくさんあるので、山一つ全てが赤・黄・朱色・オレンジに染まるという状況は、他ではなかなか見られないんですよ。大体、全てカラマツの黄色だったり、緑の中に赤や黄色があったりすることが多いんですが、全てが燃えるような紅葉っていうのは、すごく珍しい現象なので、是非とも見てください!」
●それは見に行かないともったいないですね!
「地球の果てから、百万も二百万もかけて見にくる価値があるほどの景色なので、是非とも見てほしいですね。その中でも、オススメなのが、ブナの森ですね。ブナの森の特徴ってブナだけではなく、トチノキやホオノキがあったり、カエデ類がたくさんあったりと、すごく多様性があるんですね。それで、山全てが燃える紅葉を見せてくれるんですよ。『色って、こんなにもあるんだ!』って思わせてくれますね! 『一枚の葉っぱの中ですら、これだけの色があるじゃないか!』といった紅葉が見られます。」
●その紅葉が山全部に広がっているんですね!
「どこまでもどこまでも、見渡す限り広がっています。」
●それはどこにありますか?
「一つ例を挙げますと、群馬県の沼田市に“玉原高原”というところがあるんですが、ここのブナの森は関東一といっていいぐらいの森ですね。」
●それは大きさですか?
「いや、木の見事さですね。樹齢百年を越えるような、素晴らしいブナが辺り一面にあるんですよ。しかも、誰もが気軽にトレッキングができるような、アップダウンの少ない遊歩道がありますし、下の方には玉原湿原があったりと、バリエーションにも富んでますので、是非とも行ってみてください。また、紅葉と同時に、木の実がなってきます。この木の実は、紅葉と同じぐらい色が美しいです。」
●木の実の色の美しさって、あまり意識したことがないです!
「行ったら、意識して見てみてください。」
●何色なんですか?
「例えば、ブナの木の中で、比較的背が低い木で“マユミ”っていう木があるんですが、見事な紅葉の下で、真っ赤になった実が、かわいく吊り下がるように付いているんですよ。その対比がすごくキレイなんですよね。そういう風に木の実を見てみると、とても美しいですし、中には食べられる木の実もあります。それに、キノコも出てくるので、キノコのことを知っていると、それも食べられるので、紅葉の秋と同時に、味覚の秋も楽しめますよね。」
●なるほど! 初心者の方は難しいかと思いますが、山小屋とか行ったら、食べられるところがあったりしますよね。それは楽しいですね!
「山小屋とか、麓のペンションや宿で秋の味覚を楽しみつつ、外で紅葉を楽しむ。そして、秋は空が澄んでくるんですよ。夏って、どうしても水蒸気がたくさんあるので、晴れてもちょっと白く霞んだ状態になるんですが、秋になってくるとその水蒸気が少なくなってきます。“天高く馬肥ゆる秋”っていうことわざがありますが、青く澄んだ空が見えるんです。それも魅力だと思います。」
(この他の橋谷晃さんのインタビューもご覧下さい)
橋谷さんは、山を楽しむアドバイスとして「本当に楽しい事をすれば危ない事は少なくなる。心に聴いて楽しい事をしてほしい」とおっしゃっていました。つまり、無理をしないということなんですね。私も次に山に行く時にはこのアドバイスを守って、山を楽しみたいと思います。
ネイチャー・スクール「木風舎」では、年間100回ほどの質の高いツアーを実施しています。紅葉を愛でるハイキング・ツアーなど、魅力的な企画をたくさん行なっていますので、気になる方は是非、オフィシャル・サイトをご覧ください。
木風舎の代表・橋谷晃さんは、10月よりテレビ朝日系列でスタートする「大人の山歩き」という番組に、アドバイザーとして関わります!
初回の10月6日放送と、2回目の10月13日放送では、女優の市毛良枝さんと一緒に出演されます。是非ご覧ください!