今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、上田恵介さんです。
立教大学・理学部教授・上田恵介さんは、鳥の行動生態学の研究者で、先頃発売された『小学館の図鑑・ネオぽけっとシリーズ「鳥」』の監修もされています。また、子供の頃から野鳥が大好きで、バードウォッチング少年だった上田先生は、小学校六年生のときに、日本野鳥の会の会員になったそうです。そんな上田先生を、立教大学の研究室に訪ね、野鳥の面白い生態のお話をいろいろうかがってきましたので、今回はそのときの模様をお届けします。
※上田先生はどんな野鳥を研究対象にしているのでしょうか?
「大学院生のころはセッカという、ウグイスで、草原に住んでいる小鳥を研究対象にしていました。その鳥って実は、一夫多妻な鳥なんですね。鳥って、スズメやカラス、ツバメでもそうですが、大体、一夫一妻ですよね。でも、セッカは一夫多妻なんですよ。一夫多妻の鳥って、実は少ないんですよね。当時の研究結果で、世界の鳥の五パーセント未満だろうと言われています。」
●確かに、“番い”っていうイメージがありますね。
「だから、なぜこの小鳥が一夫多妻なのかを研究テーマにしました。」
●なぜ一夫多妻なんですか?
「まず一つは、“お母さんが一生懸命働けば、雛を育てることが可能”だということですね。スズメやツバメって、両親が虫を一生懸命運ばないと雛が完全に育たないんですね。でも、セッカは草原に住んでいて、主食はバッタなんです。バッタは5~6月ぐらいに一気に生まれる時期なので、お母さんがあまり巣を離れなくても、どんどん運んでくることができるんですよね。だから、お父さんの働きが不要なんですね。そうなると、お父さんは暇だから、次の結婚に進めるというわけですね(笑)」
●そうなんですか(笑)。人間界に置き換えたら、興味深い生態ですね(笑)。今は、どういった鳥を研究対象にしているんですか?
「院生たちが色々なことをしているので、院生たちとフィールドに行っているんですが、主に研究しているのは、まずヒバリ。ヒバリって、ユーラシア大陸からヨーロッパまで、全て同じ種類だと思われていたんですが、最近のDNA研究の結果から、日本のヒバリと大陸のヒバリを比べてみると、五パーセントぐらい違うので、別種なんですね。そこで、北海道でヒバリを調べている教授がいるので、その人と共同研究をしているんですが、そこで分かったのが、種子島にいるヒバリって、本州にいるヒバリとは違う種類なんですね。」
●同じ日本でも違うんですね。
「そのルーツはどこにあるのかを今調べています。ちなみに、沖縄にはヒバリは生息していませんが、台湾にはいるんですね。そこで台湾のヒバリと九州のヒバリを調べてみると、どうやら同じヒバリのようなんですね。なので、大きな違いではないですが、本州と九州は違うヒバリで、九州と台湾は同じヒバリだということなんですね。DNAを調べることによって、本州にヒバリが生息していたところに、南から別のヒバリの集団が九州に進出してきたんじゃないかという歴史が分かるんですね。
あと、最近分かったことで面白いことがあるんですが、大陸のヒバリはさえずっているとき、尾を開いているんですが、日本のヒバリは、さえずっているとき、尾を開いていないんです。最近までヒバリは全部同じだと思っていたので、尾の開閉なんて大した差じゃないって思われてたんですが、よく調べていくと、どこで見ても尾を閉じていて、ヨーロッパのヒバリは開いているんですね。なので、種が違うということは、たとえ体の色や形が似ていても、行動に違いが出てくるんですね。だから、たとえ大陸のヒバリと日本のヒバリが出会っても、交雑が起こらないんだと思います。
そもそも、なぜヒバリを研究しているかというと、僕は山が好きなので、登山をするんですが、院生が富士山の五合目で調査をしていたら、木のない駐車場にヒバリがいるんですね。普通ヒバリって、平地にいるものだと思われていたので、標高二千メートルのその場所にいることが不思議だったので、詳しく調べていくと、草津白根山や蔵王山など、標高が高い火山の山頂付近には、必ずといっていいほどヒバリがいることが分かったんですね。火山なので、植物がほとんど生えてないところに、なぜ生息しているのか、生態学的に面白いので調べ始めたのがキッカケですね。 そこから、地のヒバリと山のヒバリは違うのか、DNA解析をやってみたら、一緒だったことが分かりました。じゃあ、何を食べているのか調べていったら、富士山の場合、ハンミョウという虫とクモがものすごい密度で生息しているんですが、どちらも肉食性なんですね。その肉食性の虫が何を食べているのかを調べていくと、そういった山って風の吹き上げがものすごく強いので、小さな虫がどんどん吹き上げられ、山に上がってくるので、クモやハンミョウはそれを食べているんですが、ヒバリはそのクモやハンミョウを食べてるんですね。流動的な環境で安定はしていないものの、ヒバリはそういうところを見つけて住み着いて、雛を育てているんですね。そういうことが最近分かって、面白いなと思いました。」
※上田先生は、先頃発売された『小学館の図鑑・ネオぽけっとシリーズ「鳥」』の監修をされていますが、この図鑑は野鳥のイラストをメインにしているんです。イラストのほうが鳥の特徴を伝えやすいのでしょうか?
「今では、写真の図鑑がいっぱいあります。その写真ってすごくキレイで、いい図鑑だと思いますが、人間が鳥を見るとき、平面的ではなく、動く様子などを立体的に見ているじゃないですか。色々な角度から見ることによって、その鳥はこういうイメージだというものがあるので、それが人間にとっての“鳥”だと思うんですね。そこで、イラストで描いた方が、写真より鳥の特徴を正確に表せますし、人のイメージに近い状態で表現できるんですよね。
よく鳥の絵を描く方で、写真を見ながら描く人がいるんですが、そうしてしまうと、僕らが普段見ている鳥には見えないんですよね。だから、人間の目で見るのと写真で見るのとでは、全く違うプロセスだと思います。なので、イラストで作られた図鑑は、人間が理解しやすいメッセージを送ってくれると思います。」
●私もこの図鑑を読んで、すごく分かりやすかったんですが、その中で面白い鳥の生態がいくつか紹介されていました。その中からいくつか紹介していただきたいのですが、まずは“ディスプレイ”という行動の紹介をお願いします。
「“ディスプレイ”って、何かを示すという意味がありますよね? 鳥が番いを作るとき、相手選びの主導権はメスにあります。だから、メスがオスを選ぶんですね。そうなると、オスは一生懸命アピールをしないと、子供が作れないじゃないですか。なので、オスは手を変え品を変え、メスにアピールしようとします。実は、美しい鳥が多い理由の一つに、それがあるんですね。進化の過程で、より美しい色彩を持ったオスが選ばれたから、今の美しい鳥の世界を作ってきたんです。それともう一つは、他のオスがやらず、メスの気を引くような派手な行動をするんです。それが“ディスプレイ”です。」
●クジャクのオスがメスの気を引くために、羽を広げるっていうのは有名な話ですが、他の鳥にも、そういった行動で面白いものってありますか?
「羽を広げるというのは便利ですよね。羽って空を飛ぶためのものなので、普段は閉じておけばいいんですが、それを地上や木の枝の上などで広げることで、メスにとってはオスの違った姿を目の当たりにするんですね。それが、メスの気を引くことに繋がりますね。
羽だけじゃなく、僕が大学院生のころに研究していたセッカも、ディスプレイとして、尾を開きます。セッカの尾って、表は茶色なんですが、裏は白で黒の筋が入っているんで、白黒のキレイな扇子みたいに見えるんですね。それをメスに見せたり、翼を震わせたり上に上げたりして、メスの気を引こうとします。」
●視覚だけじゃなく、聴覚的にアピールしたりするんですか?
「はい。鳥のさえずりって、人間が聞いたら美しいって感じると思いますが、鳥がなぜあんなに美しい声を持っているかというと、オスがメスに聞かせるために、声を進化させたからなんですね。姿に加えて声も美しければ一番いいんですが、声が美しい鳥って大抵、姿ってそれほど美しくないんですよね。だから、姿を美しくするか、声を美しくしていくかのどちらかなんですよね。オオヨシキリなんて、すごく特徴的な声を持っていますよね。あの声は、姿の美しさとは別次元のもので、どちらもメスに対してアピールするためのディスプレイの形だと思います。」
※これからはバードウォッチングに向いている季節ですが、どんな野鳥が見られるのでしょうか?
「秋なので、これからどんどん冬鳥が北からやってきます。白鳥や鴨などの水鳥が多いですね。あと、九州には大陸から鶴たちがたくさん来ますね。本州にはツグミやシロハラ、ジョウビタキなどの小鳥たちが、雪に覆われてエサが取れなくなったシベリアからやってきます。なので、家の庭などで見られるようになりますね。だから、10~11月というのは、バードウォッチングにいい時期ですね。しかも、その時期は木の葉が落ち始めますので、鳥が見やすくなります。」
●バードウォッチングをする際に、持っていくものとしては、双眼鏡は欠かせないですよね?
「そうですね。それと図鑑、ノートと鉛筆ですね。とはいえ、別に何も持っていかなくてもいいんですよ。いい天気のときに近くの森を何も持たずに散歩して、『色んな鳥が鳴いてるな』と思って、そのときに一種類でも鳥の種類が分かれば、心が豊かな気持ちになると思いますね。」
●そこで、今回の図鑑のようなもので、あらかじめ勉強しておくと、より楽しめますよね。
「そうですね。図鑑って、僕たちの時代って、いい図鑑がなかなか無かったですし、一冊でも手に入れたら、ページが擦り切れるぐらい毎日見てましたね。特に小学生のころなんて図鑑が高くて買えなかったので、学校の図書館に行って、ノートに鳥の絵を写して描いて、自分のお手製図鑑を作ってましたね(笑)」
●今の子供たちも、そのぐらい鳥に興味をもってくれるといいですね。
「そうですね。別に鳥に限定せずに、虫や魚、植物、なんでも構いません。自然界は人口の世界よりももっと多様ですね。コンピュータゲームって、子供たちの感性に合わせて、面白く感じるように作られてますが、あれが表現している世界って、それほど広くないですよね。自然界の方がもっと広くて多様で面白いものが転がってるので、子供たちがそういうところに気づいてくれて、生き物との接点をもってくれたらいいなと、いつも思いますね。」
●最後に、野鳥を長年研究してきて、鳥から学んだことや教えてもらったことがあれば教えてください。
「そういう質問ってよくされるんですが、その質問に答えるのって、結構難しいんですよね。鳥を通じて、自然界の仕組みが分かってきたら、自然界における人間の立ち位置が見えてきますし、それによって、僕たち人間がどう生きればいいのか、どう生きれば幸せに生きていくことができるのかといったことが、実感として見えてくる感じがしますね。
昔の人って、修行をして悟りを開いたりしたじゃないですか。今の僕は煩悩がたくさんあるので、そういう状態なのかは分かりません。でも、なんとなく『人間として生きるというのは、こういうことなんだろな』っていうのが、鳥を見ていく中で自然と身についてきたんだろうなと思いますね。だから、結果的に鳥からたくさんのことを学ばせてもらってますね。」
実は上田先生には他にも色々と興味深い鳥の生態を教えていただきました。中でも私が気になったのは、カッコウなどが自分で卵を温めず他の鳥に温めさせて、雛まで育てさせる托卵という習性。托卵自体は私も知っていたのですが、意外だったのが、実は卵を預けられた鳥は、その卵を見分けることができて、卵や育った雛を捨ててしまうそうなんです。では、なぜ、カッコウはそんなリスクの高い育児方法をとるようになったのか。その理由はまだ分かっていないんだそうです。きっと何か意味があるんだと思うのですが、実に不思議ですよね。上田先生も生き物はまだまだ分からないことだらけだとおしゃっていました。
小学館/定価998円
立教大学教授の上田恵介さんが監修された小学館の図鑑・ネオぽけっとシリーズ「鳥」は、イラストをメインにした図鑑なので、特徴が分かりやすく、さらに似ている仲間の見分け方や面白い生態などが読みやすい内容で紹介されています。お子さんだけでなく、大人も充分に楽しめるので、気になる方は是非ともチェックしてみてください。
上田先生の講座が立教大学で行なわれます。講座のテーマは「ヒトが動物から学ぶこと~動物行動学入門~」です。
◎日時:12月1日(土)の午後1時半から
◎場所:立教大学12号館・地下会議室
◎参加費:一般1,000円
◎定員:50名
◎お問い合わせ:豊島区のオフィシャル・サイト
その他、上田先生の研究など、もっと知りたい方は、上田先生の研究室のサイトをご覧ください。