今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、守村大さんです。
「新白河原人」という作品で知られる漫画家の守村大(しん)さんは、福島の里山を開墾し、自力でログハウスを建て、自給自足に近い暮らしを目指してらっしゃいます。その暮らしぶりは週刊モーニングに「新白河原人」として連載されていますが、先日、そんな守村さんを福島のご自宅に訪ね、色々とお話をうかがってきました。今回はそのときの模様をお送りします。
※まず、自分でログハウスを作ろうと思ったキッカケをうかがいました。
「まず、“面白そうだな”って思ったからですね。あと、僕は漫画家じゃないですか。アウトドアを扱う漫画をやりたいなと思ったんですけど、それをやるには丸太小屋の一つぐらい作れないと説得力ないんじゃないかと思ったのがキッカケですね。丸太小屋が作れるような漫画家が描いたアウトドアものなら、他の漫画より説得力あるじゃないですか。それで始めました。でも、今では、作ることの方が楽しくなったんで、そんなの関係ないですね。」
●誰かに習ったり勉強してから作り始めたんですか?
「新潟に丸太小屋スクールがあるのをネットで見つけたんですね。ちょうど連載と連載の間だったんで、『何か面白いことないかな?』と思っていたので、そこに何にも持っていかずにそのスクールに入学したんですね。そこで面白くて、ハマってしまったんですね。」
●そこで技術を習得されたんですね。
「技術というほどのものじゃないですよ。ほんのちょっとの技術を手に入れれば、大工さんみたいに家一軒を建てるのは無理だけれど、丸太小屋ぐらいは作れるんですよね。むしろ、素人がプロと同じぐらいなものを作ることができるのは丸太小屋ぐらいだと思いますよ。面倒だし、体力も必要ですが、丸太の組み方や重たい丸太を扱う根性があれば、積み木みたいなものなので、技術はほんの少しでいいんですよね。」
●この新白河に住もうと思ったキッカケは何だったんですか?
「別に白河を選んだわけじゃないんですよね。25年間、週刊の連載をずっとやってきたんですけど、疲れちゃったんですよね。なので、『いつか、ゆっくりできるところでのんびり暮らしたい』と思っていたんです。そこで、時間があるときに、北海道から九州まで色々と見てきたんですが、そうしているうちに、今住んでるところに“たどり着いた”感じですね。
週刊連載をやっているときの話なんですけど、忙しい時期のあるとき、トイレに行きたくなったんですね。そういうときって、慌ててるから、仕事をしている机からトイレまで、大して広くない自分の家を走っていくんですよ。そこで、ドアを開ける前に入ろうとしちゃって、ドアに頭をぶつけて、おでこに青タンを作っちゃったんですよ(笑)。
そのときに『もう、時間に追われた生活は止めよう。いつか田舎暮らしをしよう』と思って、時間があるときに、あちこち行ったんですよね。北海道行ったり、九州に行ったりしているうちに、ここにたどり着いたって感じですね。」
●ここは最初、どういう状態だったんですか?
「ここはただの放置林でした。」
●それを切り開いていったんですね。
「そうですね。山には住めないので、ここを切り開いていきました。」
●その間、仕事は大丈夫だったんですか?
「そのときは仕事が嫌になっていたんで『漫画なんて金輪際描くもんか!』って思ってましたね(笑)」
●(笑)。仕事を捨てる覚悟で来たんですね。
「とはいえ、生活をしないといけないので、仕事はしないといけないんですが、そういう覚悟で来ましたね。」
●でも、ここは最初、人が住める状態じゃなかったんですよね?
「そうですね。地元の人が『あんなところに人が住むとは思わなかった』って言ってましたからね。」
●切り開く作業もご自身でやられたんですよね?
「そうですね。ユンボを使って、伐採から全て一人でやりました。」
●大変だったんじゃないですか?
「そこが自分のおかしなところで、普通なら“どうしよう”って思うはずなんですが、僕の場合は、半分が困っている意味での“どうしよう”で、もう半分がワクワクした気持ちの“どうしよう”なんですよね(笑)」
●(笑)。そういう気持ちって、どこから沸いてくるんですか?
「多分、性格だと思います。ドラえもんのどこでもドアみたいな感じで、とりあえず開けて、行ってから困るんですよね。それを悩みつつも、楽しんでいるところがありますね。
踏み込んでから悩むんですよ。丸太小屋も作れるかどうかじゃないんです。“作ってみよう”って思うんですよね。そうなると、当然できないことが多いので、困るんですよ。でも、そのときの“どうしよう”が、半分は楽しんでるんですよね。」
●逆に、そういうことを楽しめないと、難しいんですかね?
「好きだったらできるんじゃないですか。好きなら、基本的には嫌と思うようなことはしないですからね。楽しいことしかやらないです。僕はそう決めたんです。子供も一人前になりました。バブル崩壊のときに作ってしまった借金も全部返しました。そうしたら、肩の荷が全部落ちたんですよ。だから、残りの人生は自分の好きなことだけをやって暮らそうって決めたんですよね。それで、この暮らしを始めました。」
●今、その生活をしていて、どうですか?
「こんな言い方をするのは恥ずかしいですが、幸せです。申し訳ないぐらい楽しいですね。」
※守村さんのご自宅には、ログハウスの他に、鳥小屋・炭窯・ピザ釜・畑・燻製ボックスなど色々あり、まさに“大人の秘密基地”といった感じでしたが、そこで守村さんは、どのような生活をしているのでしょうか?
「ガスや電気は業者に頼みましたけど、水は自分で井戸を掘りましたね。」
●食材はどのように調達されているんですか?
「裏にある畑のことですか? 畑もやってみたかったことですね。自給自足をやってみたかったですし。」
●先ほど、色々と見させていただきましたけど、鳥小屋には立派な鶏がいましたけど、鶏も自分で飼育されているんですか?
「そうですね。今いる鶏は、ペットショップで二百円ぐらいで売ってたんですよ。そのヒヨコを買ってきて、鳥小屋の中で自分で育てたのが、今いる鶏ですね。その鶏の卵を食べてみて分かったことがあったんですけど、スーパーで売ってる卵とは、味が全く違うんですね。スーパーで売ってる卵って、水っぽいんですよね。」
●それは実際に自分で飼育して、そこで生まれた卵を取ってみて食べたからこそ分かったことだったんですね。あと、もう一つ気になったのが“炭窯”なんですけど、これも守村さんが作ったんですよね?
「そうですね。」
●どうして炭窯を作ろうと思ったんですか?
「うちのエネルギーはほぼ全部薪なんですけど、ホームセンターで売ってる炭を使うよりも、自分で焼いた炭を使った方がカッコいいし、そっちの方が自給自足をやっている感じがするじゃないですか。それで、焼いてみようと思って、始めたんです。 これも、自分で焼いてみた炭を使ってみて分かったんですが、ホームセンターで売ってる炭って、よく見ると、日本の木じゃないんですよね。東南アジアのマングローブだと思います。使ってみると、煙はすごく出るし、日持ちしないんですよね。逆に、山の木を使って自分で焼いた炭の方がどれだけいいのかが、よく分かりましたね。だから、炭も面白くて止められないですね。
あと、これって火遊びじゃないですか。アウトドアをやったことがある人なら、たき火の面白さって分かると思うんですけど、炭を焼くときって、たき火よりも温度が高いんですよ。多分、火遊びの面白さって、温度によると思うんですね。釜の中の温度は千度ぐらいあると思いますけど、だから火遊びは面白いですよ。実は、もっと面白い火遊びを考えていて、それは“焼き物”なんですよね。陶芸をやろうという気は全くないんですが、登り窯を作って、食器を作ってみたいっていう気持ちはありますね。
一つ、面白い話を思い出しました! 家の裏にある山の土を掘り返して、昔ながらのかまどを作ってたんですよ。そのかまど用の土を掘っていたら、変なものが出てきたんですね。それには、なにやら模様が付いてたんですよ。『もしかしたら、これ、土器じゃないか?』って妻に言ったら『そんなの違うわよ』って言うんですよ。でも、どう見ても、学校の授業で習った縄文土器の破片なんですよ。違うって言われたのが悔しくて、近くにある“まほろん”っていう考古学施設があるので、そこに持ち込んで、学芸員さんに見せたら、『これは、縄文中期の土器に間違いない!』って言ってくれたんですよ! 実は、その土器を見つけたときに、焼けた石も出てきたんですよ。4,000年前に、この地域に住んでた縄文人が、そこで炉を作って煮炊きした形跡があるので、その縄文人が煮炊きしたところから五メートルぐらいのところで、僕がかまどを作ってるんですよね。だから、時間的な隔たりは4,000年ぐらいあるけれど、やってることって変わらないじゃないですよね。」
●それってすごいですね!
「人って進歩してないなって思いましたよ(笑)」
●くしくも、同じ場所で同じようなことをしてましたね(笑)。
「五メートル離れてますけどね(笑)。それから調子に乗って、役所に行って縄文土器を見せたら、この辺りが遺跡指定にされました。僕はもうそれが嬉しくなって、どんでもないところに住んでいる気がして、『これって、どうすればいいの!?』って聞いたら、『要らなくなったら、自分の家の山に捨ててください』って言われちゃいました(笑)。どうやら、この辺りは結構あるみたいですよ。
『この辺りで縄文人がどのような暮らしをしていたのかな?』って想像してみたら、恐らく同じ暮らしをしてたと思うんですよね。炭は焼いてなかったと思いますが、山で栗を拾ったり、雑木林の木を切って燃料にして暮らしてたと思うんですよ。そんな暮らしを僕もしているじゃないですか。煮炊きは家の中で電気を使ったりしますけど、基本的に燃料は全て薪なんです。サウナも薪、ピザ釜も薪、仕事場の暖房も薪、母屋も薪。全部薪です。」
●じゃあ、ほとんど電気を使ってないんですね!
「まぁ、そういうこともないんですけどね(笑)」
●でも、縄文人もビックリですよね! まさか、4,000年経って、また自分たちと同じような暮らしをする人が出てくるなんて、思ってもみなかったんじゃないでしょうか。
「だから、彼らがどんな暮らしをしていたか、想像しますね。妻は『多分、私たちはご先祖様に呼ばれたのよ』って言うんですよね(笑)」
●(笑)。その可能性はありますね! だって、他にもたくさんの候補地があったのに、ここにたどり着いたんですからね。
「『ここでいいや』って思ったら、当たりでした。」
※これから迎える冬に向けて、どのような準備をしているのでしょうか?
「これから落葉したら、来年の燃料作りのために伐採に入ります。伐採だけで二ヶ月かかります。」
●その二ヶ月間はひたすら伐採をするんですね?
「仕事もしないといけないので、仕事の合間にですけど、伐採をして、玉切りにして、山から下ろしてきます。」
●それを乾かすんですね。
「そうですね。みんな、木を切れはすぐ薪になると思ってる人が多いんですけど、ちゃんと乾かさないと薪にならないんです。薪って一年モノ・二年モノと分かれているんで、作る方は大変なんですよ。」
●そうやって準備をして、冬を越すと、春になりますよね。
「春は元気になります。植物や木が萌えだして、活力が増して元気になっていく感じがしますね。これは人間も同じだと思います。春になると、ウキウキワクワクと活力が出てくるんですね。」
●新白河全体も、エネルギーが溢れてくるような感じなんですね。
「そうですね。だから、すごくドキドキします。浮き足立つぐらい元気になりますね。」
●生き物の活動も活発になったりしますよね。そして、夏ですが、夏はどうなんですか?
「これは自慢なんですが、うちはクーラーがないんですが、葉っぱが蒸散する水分があるんで、涼しいんですよ。」
●都会でも“グリーンカーテン”があるので、話ではよく聞くんですよね。
「そんなもんじゃないです。」
●まさに、天然のクーラーですね!
※そして、守村さんは新白河で暮らす中で、感じたことがあるそうです。
「僕も一生懸命働いたんですよ。誰だって、“豊かになりたい・幸せになりたい”って思って、一生懸命働くじゃないですか。すると、気がついたらくたびれてるじゃないですか。これっておかしくないですか?
今話してる丸太小屋をよく見てもらったら分かるんですけど、“56%庵”っていう名前が付いてるじゃないですか。『これ何?』ってみんなから聞かれるんですけど、これまで自分が頑張って働いてきたときは、百二十パーセントの消費量を出してたんですよね。多分、世の中は百二十パーセント以上出していかないとやっていけないと思うんですね。『でも、それっておかしくないか?』って思って、僕は“今までの半分ちょい”でいこうと思ったんですね。五十パーセントだと貧乏くさいから、六パーセントだけ欲張りになって、これからは五十六パーセントでいこうって決めたんですね。欲も半分ちょい、仕事も半分ちょい、何かを頑張るのも半分ちょいの力加減でやっていこうという意味で、その名前を付けました。」
●羨ましいです。
「誰でもやればできます。」
●そうですか。やっぱり、私たちは気張ってるんですかね。
「僕は欲張りなので、何でも頑張りすぎちゃうんですよ。だから、“頑張らない努力”って大変ですよ(笑)。“あれ欲しい・これ欲しい”って思って、手に入れても、結局はゴミになってるんですよね。ただ“欲しい”っていう欲だけですよね。
あと、“無駄をなくそう”って言ってるじゃないですか。あれは間違いですよ。無駄をなくすんじゃなくて、“必要なものをなくさないとダメ”なんですよね。そのせいで余計なものだらけじゃないですか。山暮らしを始めてみて分かったんですが、暮らしの中で本当に必要なものってほんの少しで、その必要だと思ったものも、意外と余計なものだったりするということに、結構気づきますね。」
実は今回、奥様にも都会から新白河に移り住むことに抵抗を感じなかったのかうかがったんですが、「全くなかった」そうです。そして今は、窓を空けると緑が一面に広がる生活にとても幸せを感じると話していました。私も実際に守村さんのご自宅にお邪魔をさせていただき、緑の中に立つログハウスや鳥小屋を見ながら、そこで暮らす守村さんたちの生活を想像すると、欲を“半分ちょい”にしてシンプルに暮らすことの幸福感のようなものを垣間見ることができました。
講談社/定価1,575円
漫画家・守村大さんが週刊「モーニング」に掲載した「新白河原人」を加筆・修正し、単行本化したイラスト&エッセイ集の第2弾。この本には、炭を焼くために、炭焼き窯と小屋を一から造り、炭を焼くまでの奮闘ぶりや、電気を使わない“無電化”の暮らしなどが微笑ましくなるイラストと文章で紹介されています。