今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、齋藤海仁さんです。
博物館というと、学生時代の社会科見学のイメージがあって、お勉強的な場所と思っている方が多いと思いますが、 “おもしろがリスト”を名乗るライター・齋藤海仁さんが先日出された新刊「なんて面白すぎる博物館」で取り上げている博物館は、どれも個性的で怪しくて面白さに満ちています。そこで齋藤さんに、そんな博物館のお話をたっぷりうかがいます。
●今週のゲストは、現在、「ナショナル・ジオグラフィック日本版」公式サイトのウェブ編集を担当されていて、先ごろ、新刊「なんて面白すぎる博物館」を出された齋藤海仁さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●今回出された本、タイトルからすごく気になるのですが、これはどのような本ですか?
「これは、僕自身が“面白い!”と思った博物館に行って、それをレポートするという本なのですが、この本のタイトルには、僕なりにこだわりがあるんですね。僕はずっと出版の世界にいて感じていることなんですが、ノンフィクションの本って、役に立つ本ばかりなんですね。その中で、“ノンフィクションだけど、面白い”っていう本があっていいんじゃないかと思って、“面白すぎる”っていう言葉を入れたのと、ポリシーといえば大げさかもしれないですが、僕はこれまで面白いことをやってきただけなんですよね。大学院のときに『ウニやホヤやヒトデといった物の研究をしていて、何の役に立つんだ?』って人からよく言われたりしてたんですね。その後は、出版という畑違いのところに行ったりしたんですが、僕としては、“面白い!”と思ったことを一番大事にしてきたので、その想いを込めたかったので、このタイトルになりました。
僕がこれまでライターをやってきて、博物館を取材したことが何回かあったんですね。そういうときには、質問に答えてくれる学芸員さんがいるんですけど、そういう話を聞いていると、ただ見るのよりも何倍も面白いんですよ。僕自身、そのときをすごく楽しんだんで、それをみんなに伝えればいいなと思っています。」
●私のイメージなんですが、“博物館”っていうと、学校の自由研究をやるために、一生懸命メモを取るといった感じだったんですが、見方を変えれば、博物館ってすごく楽しめる場所なんですね。
「確かに博物館は“社会教育施設”という位置づけなんですが、僕の周りにも博物館好きはたくさんいるものの、行く人と行かない人が分かれるんですよ。この本には10個の博物館を掲載しているんですが、その中でも、佐渡金山や網走監獄などの観光地っぽいところだと、あまり行かない人でも観光などで行ったことがあったりするんですね。そういう人の感想を聞いてみると、『面白かった』って言うんですよ。なので、基本的は“キッカケがない”だけで、行ったら、自分から面白がる気持ちさえあれば、面白い場所だと思いますね。」
●10個の博物館を独断と偏見で選んだということですが、トータルすると、どのぐらいの博物館に行ったんですか?
「記録をしていないところもあるので、正確には分からないですが、100個ぐらいは行ってると思いますね。日本の都道府県はほとんど行っていて、行く度に、メジャーなところからマイナーなところまで行っているので、大雑把な計算ですが、各都道府県を50として、それぞれで2ヶ所ずつ行ったとしたら、100個になりますよね。」
●博物館って、結構あるんですね!
「ありますよ! 今回の本にも書きましたが、最新の統計では、5,752個ありますね。」
●5,752ですか!?
「これは、博物館に準ずる施設だったり、動物園や水族館も入ってます。」
●その中から、齋藤さんが「行こう」と思うポイントってありますか?
「まず“個人的に興味がある”っていうところがあるんですが、もう一つ大事なのは“やっている側である博物館側が面白がっている”というところですね。この場合の“面白がっている”というのは、僕みたいな野次馬的な感じで面白がっているのではなくて、研究として面白いことをしているということです。博物館の学芸員というのは、展示をするだけじゃなく、研究者でもあるんですよ。その博物館ですごく面白い研究をしている人がいるとか、コレクションにすごく愛情が深いといった要素も大事ですね。」
※新刊「なんて面白すぎる博物館」には、齋藤さんが厳選した10ヶ所の個性的な博物館が紹介されていますが、その中から、牛の博物館について説明していただきました。
「岩手県奥州市にある、世界で唯一の牛専門博物館です。ただ、“世界で唯一”というのは、僕が調べたわけではなく、博物館がそう言ってたからなんですけどね(笑)」
●自称ってやつですね(笑)。
「とはいえ、本当に世界で唯一だと思います。その博物館はバランスがいいんですよ。牛って、牛肉しかり牛乳しかり、僕たちの生活にとって身近なものじゃないですか。それに加えて、牛は人類の文明の発展に寄与したところがあって、人類史的にも欠かせない生き物なんですね。また、牛肉を食べる文化の変遷など、色々な興味が持てるような博物館となっています。
これはその博物館に行くまで知らなかったことなんですが、“もし、牛がいなかったら、人間の文明は500年遅れていた”という展示があったんですね。じゃあ、今から500年前ってどんな感じだったのかと考えてみると、世界史的にはアメリカ大陸が発見されたばかりで、日本史的には室町時代なんですよ。もし、牛がいなかったら、僕たちの生活は室町時代の生活レベルだということになるんですよね。」
●本当、お牛様様! って感じですよね!
「今回の本を読まれた方なら分かることなんですが、なぜ牛がいるだけで、それだけ文明が進んだと思いますか?」
●今回の本によると、「牛は家畜として飼いやすく、色々な面で人間の生活に欠かせないように変わっていってくれたから」という認識なんですが、合ってますか?
「大体は合ってると思います(笑)。牛は役牛として農作業に使えるということなんですね。人類は1万年ぐらい前に農耕を始めたんですが、ただ、手作業だけで人間の人口が増え、文明が発展するぐらいの蓄えを生産するのは難しいということで、牛が鍬を引いて畑を耕したりしたことで、生産性が高またから、文明が進んだらしいです。」
●それ以外にも、食べることもできますし、牛乳も飲むことができますからね。牛って、すごいんだと、改めて思いますね。また、この博物館の中には“目玉”と呼ぶべき場所があるんですよね?
「“牛の胃袋”ですね。聞いただけでは、どうってことない感じがしますけど、展示を見て、色々なことを理解した上で見ると、すごいなと思いますね。これも本に書いたことなんですけど、国立科学博物館のスタッフがそれを見て『こんなにすごいものがあるんだ!』って衝撃を受けて、真似して作ったらしいですからね。」
●かなり大きいんですよね?
「そうですね。大きいもので200リットルぐらいだといわれていて、分かりやすく言えば、家のお風呂の大きさなので、人が入れますね(笑)」
●(笑)。それが、牛の体の中に入っているんですよね!?
「ある本によれば、『牛は、胃袋そのものだ。胃なのか牛なのか分からない。牛は胃のために生きているんじゃないか』って書いてあったりするんですよね。」
●他にも、博物館のことを色々と聞いていきたいんですが、“駿河湾深海生物館”という博物館は、やはり深海の生物に関する展示がされているんですか?
「そうですね。これは水族館じゃなく、生物の剥製だけなんですよ。最近では水族館でも展示されてたりしますけど、やっぱり限界があるんですよね。でも、剥製なら、展示できる種類も多いし、奇妙なものがたくさんいますね。
たとえば、チョウチンアンコウがいるんですね。これは魚といえば魚なんですが、“寄生雄”という生態があるんですよ。どういうことかというと、オスはメスの100分の1以下の大きさぐらいしかないぐらい小さいんですよ。それが、メスに寄生している様子が分かる標本が、その博物館にあるんですよ。それを見ると、最終的には、オスがメスの体の一部になってしまうんですよね。それが幸せかどうかは、人によると思いますよね(笑)。僕はどちらかというと、『いいなぁ』って思う方ですね(笑)」
●(笑)。さて、今年2013年はヘビ年ということで、群馬県太田市にある“ジャパンスネークセンター”という博物館も気になるんですが、やはりヘビがたくさんいるんですか?
「いますね。毒ヘビだけで20~30匹はいましたね。ヘビ好きな人にはもちろんのこと、ヘビが好きじゃない人も、行ってみると楽しめると思うので、オススメですね。」
●今回の本で紹介されているんですが、その博物館では、毒ヘビとそうじゃないヘビの獲物の獲り方の違いが展示されているんですよね?
「はい。毒ヘビの獲物の獲り方ってなんとなく分かるじゃないですか。じゃあ、そうじゃないヘビはどうやって捕まえるかというと、獲物に巻きついて絞め殺すんですね。巻きついて、獲物を呼吸できないようにして殺すというのが彼らのやり方なんですよ。窒息死というやつですが、『毒で殺されるのと、絞め殺されるのとでは、どっちが嫌かな?』っていうところまで考えちゃいますね(笑)
あと、この博物館は実演が充実していて、ヘビを使って色々なことを見せてくれるんですよ。“毒吹きコブラ”というのがいて、実際に毒を吹くんですよ。透明なガラス越しでコブラの様子を見ていると、まさに顔認識機能の如く、コブラは人の目が分かるんですよ。人の目だと分かったら、こっちに向かって、毒を吹くんですよね。もちろんガラス越しなので、目に入ることはないんですが、そういうコブラを見ることができたり、僕が行ったときには、人に慣れてるアオダイショウと触れ合うことができましたね(笑)。そういう意味では、ヘビもなかなかカワイイですよ(笑)」
※最後に、齋藤さんオススメの博物館の楽しみ方をお話いただきました。
「今では、写真を撮って、ブログやSNSに公開するというのも楽しみの一つだと思います。」
●写真を撮ってもいいんですか!?
「今は撮ってもいいところが多いですね。それから、家族で行くという感じで、複数人で行くと、くだらない話をしながら見ることで、世界や物の見方が変わってくるので、すごく楽しいことだと思います。あと、スタッフを見つけたら、とにかく質問してください。」
●質問するのが恥ずかしかったりするんですが、聞いちゃっていいんですか?
「もちろん。どんどん聞いてください。それか、事前にホームページなどをチェックして、ガイドツアーなどに申し込んでみるっていうのもいいかもしれないですね。やっぱり、見てるだけよりも、話をしたり聞いたりしないと、内容が頭に入ってこないんですよね(笑)。実際、僕がそうで、昔から“質問魔”といわれるぐらい、よく質問するので、大人からは煙たがられてましたね(笑)」
●それだけ好奇心が旺盛だったっていうことじゃないですか(笑)。
「そうなんですかね(笑)。本の表紙にも書いてある“おもしろがリスト”って、簡単にいえば、野次馬っていうことですからね(笑)。なので、野次馬的に楽しんでいただければ、一番いいんじゃないでしょうか。」
●おみやげも、博物館に行ったときの楽しみの一つですよね!
「そうですね。特に、テーマに沿った博物館なら、それに関連したグッズが充実してますしね。今日、牛の話をしたので、それに関するグッズを一つ持ってきたんですよ。これ、なんだか分かりますか?」
●金色の輪っかなんですけど、これってもしかして、牛の鼻に付けるあれですか!?
「そうです! “鼻かん”っていうんですが、こういうものは、博物館に行かないと、なかなか手に入らないですよね。」
●初めて実物を見ました!
「僕も博物館に行って、初めて見ました。」
●結構重いですね。ちょっと持ってみてもいいですか?
「いいですよ。」
※ここで、鼻かんを持ってみました。
●これ、腕輪として付けてみてもいいかもしれないですね(笑)。ところで、齋藤さんが「こんな博物館があったらいいな」と思う博物館って、どんな博物館ですか?
「今、興味があるものでいうと、“怪しい博物館”を見てみたいですね。博物館の原点は“虚実が混ざったもの”だったんですよね。博物館って、そもそも、大航海時代のヨーロッパが発祥なんですよね。元々は、ヨーロッパの人が新大陸を発見したときに、本当か嘘かどうか分からないようなものを貴族が収集して、自分のコレクションとして、集めてきたものを見せていたんですね。ただ、それは、本物もあれば嘘もあるという、すごく怪しい博物館なんですが、当時は驚きに満ちていたんですよ。そういう博物館を見てみたい気がしてますね。」
●私、この番組を通してすごく感じていることなんですが、地球上には、分からないことがまだまだたくさんあるんですね。
「ありますね。身近なことでも分からないことがたくさんあって、そういうものの中に発見がいっぱいあるというのが、今回の本のテーマだったりするんですよね。そういうものを再発見するキッカケになればいいなと思っています。」
本に登場する10ヶ所の博物館は放送でご紹介したもの以外にも、「酢の博物館」や個人で運営している「蝶の博物館」など、面白すぎるところばかりです。興味のある方は、ぜひ齋藤さんの新刊をチェックして下さいね!
講談社/定価1,470円
おもしろがリストの齋藤海仁さんが、独自の視点で選んだ10ヶ所の博物館が紹介されている新刊。今回のお話にも出てきた世界唯一の牛の専門博物館やジャパンスネークセンター、お酢の博物館や個人で運営している蝶々の博物館などの怪しく面白い博物館が、齋藤さんの面白がっているリポートと直筆のイラスト、そしてモノクロの写真で紹介されています。
齋藤さんは現在「ナショナル・ジオグラフィック日本版」公式サイトのウェブ編集をされています。そのサイト内で齋藤さんは「そうだったのか!」というコラムを連載中です。気になる方は是非ともご覧ください。
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