今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、宮澤正明さんです。
写真家の宮澤正明さんは、ファッションや広告など、様々な分野で活躍されていますが、去年出された奇跡の写真“レッドドラゴン”が大好評。今年のカレンダーとして再発売され、こちらも大変話題になっています。「レッドドラゴン(赤い龍)」とはどんな写真なのか、後ほど、その写真の説明と撮影エピソード、そして、伊勢神宮の奉納写真家としての顔も持つ宮澤さんに、今年、式年遷宮という20年に一度の歴史的な行事を迎える伊勢神宮のお話もたっぷりうかがいます。
※まず、お届けするのは、レッドドラゴンについてのインタビューですが、その“レッドドラゴン”とは、“赤富士”と呼ばれる、夜が完全に明ける前に撮った富士山の中腹にたなびく雲に光が当たり、それがまるで龍のように見える現象のことなんです。それでは、そんな奇跡の一枚を撮るに至った経緯についてお話いただきました。
「写真家である以上、多くの方が目指しているテーマの一つとして、“富士山”ってすごくいいテーマなんですよ。僕も富士山は昔からすごく好きで、事ある毎に撮っていたんですが、2006年ぐらいに急にすごく撮りたくなったんですよね。そう思う気持ちになったのは、僕がそういう年齢や時期になっていたからだと思うんですよね。若いうちでも撮ることはできるんですが、年齢も重ねて、写真家としてもいい時期になってきたときに、改めて“自分なら富士山をどういう風に撮るか”を考えたら、2005年末から2006年にかけて、よく富士山の夢を見たんですよ。それは、行きたいという気持ちがあるから、そういう夢をよく見るようになったと思うんですが、そこから頻繁に通ってたんですね。
ある日、いつも以上に『行きたい』と思っていたときに、富士山の不思議でキレイな夢を見たんですね。そこで助手に急遽、『明日の早朝に行くぞ!』っていう電話をして、午前3時ころに出発して、精進湖に着きました。ここは、向かって左側から逆光気味に光が入ることで、富士山が鋭角に写ってキレイだということを聞いてたので、そこにしたんですが、その日は2月6日だったので、湖自体が凍ってたんですよ。『ここで、明け方の富士山を撮りたい』と思って行ったら、風のない穏やかな朝だったんですが、明るくなっていくうちに、雲が裾野から湧き上がってきたんですけど、その雲の姿が龍に見えたんですよね。差し込んでくる光が強くなっていくにつれ、ますます龍の形になってきて、その姿を写真撮ったんですけど、その龍が自分の想像だけだったら嫌だと思っていたので、助手に『あれ、龍に見えない?』って質問したら、二人の助手が『見えますね!』って答えてくれるんですよ。そこから『撮らないと!』と思って、我を忘れるように写真を撮ってましたね。
時間にすると5~6分だったと思いますが、風がなかったので、長時間撮ることができたんですよ。雲を撮っていると、普通は1~2分ぐらいで形がなくなっちゃうんですが、そのときはすごく長い時間撮ることができた記憶がありましたね。それと同時に、たくさんの写真も残せました。家に帰って、その写真を改めて見ると、龍が裾野から現れてきて、踊っているような風景を撮れたことに、驚きと感動がこみ上げてきましたね。」
●その写真がどういったものなのか、実際に見ていただくのが一番いいと思いますが、富士山の裾野で龍が泳いでるように見えるんですよね!
「キレイな富士山を撮れただけでもよかったのに、すごいオマケが付いてきた感じがしてますね。」
●その龍が真っ赤になっている写真もありますよね。
「この写真は、光が斜めから来ているんですよ。太陽が雲の斜め後ろから透過するような感じで入ってきたので、ああいう写真になりました。」
●これも、まさに“自然の奇跡”といった感じですね!
「太陽が上がった5~10分後も、まだ龍の形をしていたんですが、光が完全に差し込んでくると、今回のカレンダーの表紙みたいに、頭が赤くて尻尾が黒くなるといった感じで、全体が膨張しちゃうんですよね。それも含めて、撮った写真の中で一番シャープでキレイだったものをメインにもってきてます。」
●宮澤さんは、それより前にも、そういった奇跡の写真を撮ったことってあったんですか?
「意識はしていませんが、子供のころから絵を描いていたこともあって、空をよく見るんですよね。子供って、空や雲を見るのが好きじゃないですか。その習慣が大人になってからも残っていたのか、過去の作品を見ていると、風景写真の中に雲が入っていることが多いんですよ。なので、意識はしていないけど、空や雲を見たり、その風景を楽しんだり撮ったりする習慣があったので、空や雲に対する親しみが昔からあったんですね。ただ、写真集の前書きか後書きに書いたことなんですが、レッドドラゴンを撮る5年ぐらい前に、京都の天龍寺にある龍の天井画を加山又造画伯が描かれたときに撮影に行ってたんですよ。それまで、加山先生の記録をずっと撮っていたんですが、加山先生がその龍の目を入れた瞬間、ちゃんと固定してあった三脚の脚が一本崩れたんですよ。」
●え!? ちゃんと固定してあったんですよね!?
「そうなんですよ。すると、カメラが螺旋状に崩れていくんですよ。その瞬間、一応シャッターを押しているんですが、『すごい失敗をしちゃったなぁ』って思いましたね。当時はフィルムで撮影をしていたので、帰って現像するまで分からなかったんですが、現像してみると、その龍の絵がまるで踊ってるみたいに写ってるんですよ。その写真も、写真集の中に小さく入れているんですが、それがあってから、空を意識して見るようにしたら、夕方の黒い空の中に雲があって、その黒い雲の中に隙間があって、その隙間に光が差し込んできたところに、稲妻のような龍が踊ってたりするんですよね。」
※宮澤さんは、伊勢神宮の奉納写真家としてのお仕事もされています。三重県伊勢市にある伊勢神宮は、今年20年に一度の“式年遷宮”を迎えますが、この遷宮というのは、本殿などを新築したり直したりする行事のこと。式年とは“定められた年”のことで、伊勢神宮の場合は20年ごと。今年62回目を迎えるこの式年遷宮は、1300年以上続いています。今回の式年遷宮は、今年10月にクライマックスを迎えますが、実は材木などを切り出す行事は2005年から始まっていて、宮澤さんは8年前から、トータルで100回以上は伊勢神宮に通ってらっしゃいます。そんな宮澤さんに、伊勢神宮の中で一番好きな場所がどこか、お聞きしました。
「たくさんあるんですけど、五十鈴川を渡るための宇治橋があるんですが、橋を渡ってすぐ左に行くと、内側に入っていけるところがあるんですが、そこでは宇治橋の全貌が見えるんですよ。橋って、普通では渡った感覚しかないから、平面的にしか見えないじゃないですか。でも実は、あの橋は船大工の方が作ったので、船の形をしているんですよ。僕はその橋の仕組みや木の枠組みなどがすごく好きなんですよね。もちろん、御正宮も美しいですけど、その宇治橋と五十鈴川のバランスがすごくキレイなので、僕は参道を歩く前に、そこでしばらく心を整えるんですね。
川を渡るということは、“俗界から聖界に行く”という意味があるんですよ。橋を渡ることにおいて、川で手を洗って清めるというのもありますが、僕は川を見ながら橋を渡ったり、橋を渡った後に感慨深い想いで川を見たりすることで、自分の心を一度リセットして、参道を歩くようにしています。だから、そこは聖域に入った一番最初のところなので、僕は一番大切にしていて、伊勢神宮に来たら、都会などから持ってきたストレスなどを、そこから川に流して、気持ちを落ち着かせてから、参道をゆっくり歩くようにしています。特に、色々な人に“早朝参拝”をオススメしています。今の時期は午前6時ころから、夏場だと午前5時ころからといった感じで、時期によって時間帯は違いますので、事前に調べていただくといいんですが、早朝参拝は人が少なくて、伊勢の森を五感全てで感じることができますので、場所は限定せずに、その時間帯に行って、見て、感じてほしいですね。」
●私も伊勢神宮に2回ほど行ったことがあるんですが、橋を渡って、神宮に入った瞬間に、心が穏やかな気持ちになりますし、木々が本当にすばらしいですよね!
「参道を少し歩いたら、急に森の風景に変わるじゃないですか。伊勢神宮は森と共存してきているので、森の素晴らしさ・ありがたさを感じますよね。伊勢神宮は、後ろに世田谷区ぐらいの大きさの山を抱えているんですが、2000年前と変わらずに同じ風景を私たちに見せてくれていますけど、その2000年間、何を守ってきたのかといえば、“稲作”がその中の一つにあると思うんですね。
日本人が新しい文明を確立したものの一つとして、“米作り”があると思うんですね。その米作りから伊勢神宮の歴史が始まっていると思うんですが、お米を作るということは、清らかで美味しい水が必要になってくるんですよ。美味しい水を運んでくるために必要になってくるのは “山”ですよね。その山で清らかな水を作るには“森”が必要になってきますよね。森で作られた清らかな水を山が運んできて、田畑に与え、お米や果物を育てた後、海に流れていくんですよ。上質な水と海水が混ざることで、ものすごく栄養が含んだ水になるんですよ。それを摂取して、海産物がたくさん育つんですよね。その後に、その水が水蒸気となって、空に上がっていき、雨に変わって山に降るんですよ。その雨を森が九州して、水を作り、川となるわけですよ。その繰り返しが米作りには必要になってくるんですね。
ということは、どこの自然と共存していかないといけないのかと考えたら、今の伊勢神宮の土地があったんですよね。そこで2000年続けていることが、全国に広まったことで、日本人の文化である“お米を食べる”という文化が定着したんですね。その原点の一つとして、あの森が存在しているんですよ。だから、『あの森に入ると落ち着く』と思うのは、美しいエコロジーの森があって、日本人の原風景がそこにあるからだと思いますね。」
※伊勢神宮に行くと感謝の気持ちを感じるという宮澤さんが、こんなエピソードを話してくださいました。
「ある日、伊勢神宮の御神官の方に『宮澤さん、あなたは今も息をしているじゃないですか。この空気さえ、神様は誰に与えるか与えないかといった差別は一切なく、平等に与えているじゃないですか。そういうことを、ここでは感じることができるんですよ』って言われたときに『なるほどな』って思いましたね。ある意味で、僕たちは生かされているんだなって思いましたね。僕は、信仰心とかそういったものはあまりないんですが、自然や宇宙といったものを伊勢神宮では“神”と呼んでいるのかもしれないですが、そういう大きな力を感じたときに、『人って、そういうことを感じないと、“生かされている”とか“共存している”ということが分からないんだな。』って思いましたね。魂の尊さや人々の美しさって、なかなか出ないじゃないですか。でも、伊勢神宮に行くと、そういうことが少しでも感じられると思うんですよね。
今の若い子たちで伊勢神宮に行く人がすごく多いんですよ。特に女性が多いんですよ。それは、今の日本にある閉塞感の中で何かを求めているからだと思うんですね。もしかしたら、自分の“DNA”を探しているのかもしれないですね。“DNA”って、ある意味で日本の方々の解釈が間違っていると思っていて、僕は日本語でいうと“魂”だと感じているんですね。そういうものが皆さんの中に行き渡っているんですが、その断片を再発見したいと思ったときに、伊勢神宮に行けば、そのヒントを得られるのかなって思いますね。日本人としてのアイデンティティをすごく感じるし、『自分はこんなにも素晴らしい国に生まれたんだ! 日本人の民度って、こんなにも高かったんだ!』っていうことを再認識できて、きっとこれから生きていく上で自信になると思うんですよね。
先ほど僕が言った“伊勢神宮に行って、見て、感じてほしい”という言葉は、伊勢神宮の前の大宮司さんがおっしゃった言葉なんですけど、本当に行って感じることは必要で、むしろ、それ以外はないと思いますね。僕はあそこで何かをお願いするという気にはあまりなれなくて、あそこに行って、何かを感じることができれば、それだけで自分に対する褒美だと思いますし、何度も行くことができないのであれば、その思いを心に閉まっておけばいいし、行きたいと思えば行けばいいんですよ。」
●特に、今年は式年遷宮がありますから、行ったことがない方は是非とも行ってみた方がいいんですね。
「そうですね。参拝者が1000万人を越えるんじゃないかと言われているぐらいの大ブームで、月曜日の午前中に行ってもすごい人の数なので、大変だと思いますが、今年行っておいた方がいいのかどうかは分かりません。行きたいときに行けばいいんじゃないかと思っています。なぜなら、伊勢神宮はどこにも行かないですし、20年後にはまた同じことを繰り返します。ただ、一つだけ違うとすれば、最新で20年ですからね。ピラミッドやパルテノン神殿、万里の長城といった石の文化だと、一回で永遠を求めようとしますが、伊勢神宮は世界のどこにもない、20年に1回、新しくすることで歴史を繰り返してきているんですよね。伊勢神宮ができたのは2000年前なので、2000年前に作られた形を、現代にもってきているというところを考えれば、いつ行っても待っていてくれるし、いつ行っても姿は変わらないんですよね。
僕は、伊勢神宮に100回以上行っているというところもあると思いますが、日本中どこにいても伊勢神宮に戻ることができるんですよね。『いつかあの森に戻るんだ』という感じで伊勢神宮のことを思えば、どこかの山や森に行ったときに、伊勢神宮の森に行ったことがない人は『一度行ってみたいな』と思えばいいし、行ったことがある人は『伊勢神宮の空気を感じられる』と思ってくれればいいので、そういった感じで、心のどこかで伊勢神宮を想っていれば、それでいいのかなって思いますね。」
お話に出てきた“レッドドラゴン”の写真を私も見せていただいたのですが、真っ赤な富士山の前を泳ぐ雲の龍の姿が、本当に神々しくて、まるで神話の一部が抜けだしてきているかのようでした。ぜひ、興味がある方はカレンダーや宮澤さんのオフィシャルサイトなどでチェックして下さい。ちなみに、この写真を部屋や会社に置くと、運気が上がるかもしれないそうですよ! そして、そんな奇跡の瞬間を収めている宮澤さんが、今年20年に一度の式年遷宮を迎える伊勢神宮をどんな風に撮られるのか、今から本当に楽しみです!!
小学館/定価1,800円
宮澤さんが撮影した富士山をバックに出現した赤い龍の写真「RED DRAGON」。その写真を使用した2013年のカレンダー「レッドドラゴン」が発売されています。このカレンダーには、レッドドラゴンの他に、龍に見える雲や 雲海の上を飛んでいる「フェニックス(不死鳥)」のような形をした雲の写真など、どれも奇跡のような写真が載っています。
宮澤さんの作品や近況などは、オフィシャルサイトをご覧ください。これまでの作品を見ることはもちろんのこと、宮澤さんのブログへも行くことができます。