今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、坂田明さんです。
ミュージシャンの坂田明さんは、72年にサックスプレイヤーとして、“山下洋輔トリオ”に参加し、海外のジャズフェスを席巻。80年代以降は自身のプロジェクトやソロで幅広い音楽活動をされています。一方で、広島大学・水産学科の卒業、そして現在は東京薬科大学・生命科学部の客員教授という肩書きも持ってらっしゃいます。そんな坂田さんは、ミジンコの観察・研究で世界的にも有名で、先頃、晶文社から「私説 ミジンコ大全」という本も出してらっしゃいます。今回はそんな坂田さんに、プランクトンの一種ミジンコの生態や魅力をたくさんお話いただきます。
※まずは、ミジンコとはどんな生き物なのか、お話いただきました。
「簡単にいうと、エビやカニと同じ甲殻類で、なおかつプランクトンなんです。ただ、みなさんは、プランクトンという言葉は知っていても、どういうものなのかをよくご存知じゃない方が多いんですね。では、プランクトンとはどういうものなのかというと、“浮遊生物”なんですね。実は、クラゲもプランクトンの一種なんです。」
●あんなに大きくてもプランクトンなんですか?
「大きさは関係ないです。“浮遊生物”というのは、“泳ぐ力が全くない生き物”のことか、“泳ぐ力はあっても、大きな水の流れがきたときに、その流れに持っていかれてしまう生き物”のことを指します。
例えば、ヘリコプターが空でずっと止まっているようなことができない生き物のことを総称して、プランクトンと呼ばれています。そして、そのプランクトンの代表的な生き物が、ミジンコなんです。ミジンコの大きさは平均1~2ミリぐらいですね。」
●大きいものだと、大体どのぐらいあるんですか?
「10ミリですね。」
●10ミリですか。そう聞くと、あまり大きくない感じがしますが、ミジンコの中では大きいんですね。
「そうですね。中には20ミリぐらいあるものもいますよ。でも、それは“シーモンキー”という商品名で一時流行ったカブトエビといったものになりますね。日本にも同じ種類でホウネンエビというものがいますが、それも10~20ミリぐらいありますね。」
●逆に、小さいものはどのぐらいなんですか?
「0.4~0.5ミリぐらいですね。」
●ミジンコと一言で言っても、かなり種類がたくさんあるんですね。どのぐらいの種類があるんですか?
「大きく分けると、みなさんがよく知っている“ミジンコ”と、“ケンミジンコ”と、ウミホタルなどの“カイミジンコ”の3種類に分かれます。その中で一番有名な“ミジンコ”の種類には、ホウネンエビやカブトエビが含まれています。海で生息している“ケンミジンコ”は1万種以上いるといわれているんですが、深海にはどういう生物がいるのかまだ分かってないので、分かっていないものの方が多いですね。むしろ、分かっているものは氷山の一角に過ぎないんですよね。」
●エビやカニは硬い殻に体が守られていますけど、ミジンコも同じように硬い殻に守られているんですか?
「そうですね。しかも、何度も脱皮を繰り返して大きくなっていくんです。」
●種類にもよるかと思いますが、大体どのぐらい生きるんですか?
「種類のほかに、水温や水の量も影響してきますが、平均2~3週間ですね。」
●私たちから考えると、短いんですね。
「彼らの時間ではそのぐらいが普通なので、何の問題もないんですが、僕らにとっては、あっという間ですね。」
※続いて、水中で生活しているミジンコの意外に知られていない生態について解説していただきました。
「昼間は下に沈んでいるんですが、夜になると表面に上がってくるんですね。なぜ夜になると上がってくるかというと、昼間は魚に見つかりやすいから、できる限り下の方にいるんですね。昼間、水の表面に太陽の光をたくさん浴びると、植物プランクトンがいっぱい生まれるんですよ。その植物プランクトンを夜になったら、上に上がってきて食べるんですね。そういうことをしているので、ミジンコはバタフライみたいな泳ぎ方で泳ぎます。」
●それを想像すると可愛いですね!
「すごく可愛いですよ(笑)」
●(笑)。ミジンコは、主に植物プランクトンを食べているんですか?
「そうですね。あと、バクテリアや、パンの酵母みたいなものも食べてますね。」
●色々なものを食べているんですね。
「そうですね。ちなみに、ケンミンジンコは肉食です。」
●種類によっても違うんですね。生息しているところも様々ですか?
「そうですね。海・河川・湖沼はもちろん、道路の脇にあるような水溜りなど、世界中のありとあらゆる水域にいます。それに、氷河の氷の中にもミジンコがいるんですね。昔、ヒマラヤ山脈の5,100メートルぐらいのところに行ったことがあるんですが、そこで分かったのが、氷河の上にも水が流れてるんですよね。なので、その水の中にミジンコがいるんですよ。」
●そのミジンコは、どこから来ているんですか?
「氷河期のころから、そこにずっといるんですよ。そこに子孫を残しつつ、何億年もずっといたんですよ。」
●先ほど「道路の水溜りにもいる」と話していましたが、その水溜りができる前からいるんだったら分かりますが、雨が降ったことによってたまたまできた水溜りにもいるじゃないですか。小さいころから「このミジンコは、どこから来たんだろう?」って、すごく不思議に思ってたんですよね。
「確かに、謎な部分ではあるんですね。最初からそこに卵があったり、鳥の羽や足にくっついて飛んできたり、風に乗ってきたりと、色々な方法で来るので、現地に行って、周囲の状況を見てみないと分からないので、一概に決め付けることができないんですよね。」
●坂田さんの新刊に“ミジンコの子孫の残し方”が書かれているんですが、それを読んだことで、謎が少し解けたんですよね。ここで、その“ミジンコの子孫の残し方”について話していただけますか?
「ミジンコって、基本的にはメスだけで増えるんですね。ミジンコのメスは、“育房”と呼ばれる、人間の子宮のようなところに卵が生み出され、その卵はその中で孵化をして、変体・脱皮を繰り返し、親と同じ形になってから生まれてくるんですね。このことを “処女生殖”と呼んだりするんですが、卵が生まれてから3日目ぐらいには子供が生まれてくるといった感じで増えるので、魚に食われたりしなければ、2週間ぐらいで150匹ぐらい産むんですよね。そういう風に爆発的に増えるんですよ。
ところが、環境が悪化してくると、母親がオスとメスの両方を産むんですよ。そうなってくると、オスはメスに飛びついて、交尾をするんですね。交尾をすると、受精卵が出てくるんです。受精卵は、さやえんどうのような感じに、袋の中に卵が入った状態で産まれ、母親が脱皮したときに一緒になって卵が出てきて、水の底に沈んでいったり、水の上に浮いたり、何かにくっついて飛んでいったりして生き残っているんですね。」
●本当、ミジンコってすごいですね!
「そういう風にしていくと、卵の上に土が覆いかぶさったりするじゃないですか。その土を“コア”という筒状のようなもので取ってみると、中が色々な層になっていて、色々な時代の卵があるんですよね。その研究をしている人も結構いますね。」
※坂田さんの新刊「私説 ミジンコ大全」の付録、“海”というCDには、ミジンコのために作った曲が8曲収録されています。どんな思いで曲を作ったのか、お聞きしました。
「ミジンコって何も言わずに黙っているんですよ。何が起きても黙っているんですよ。そこにすごく感動して、曲を作る動機になったと思います。」
※付録のCDには15分以上もある“Silent Plankton-2”という曲が収録されています。この曲はどんなイメージで作ったのでしょうか?
「僕は音楽をやっていますが、“音楽をやる人間って何だろうか?”ということを考えたときに“命って何だろうか?”って思うんですね。ミジンコに出会って、ミジンコを見ていると、命そのものが見えたんですよね。そのときに『命ってすごいぞ!』っていう衝撃を受けたんですね。
ミジンコは魚やエビ、カニに食べられて、僕たちはそのエビや魚を食べているわけですけど、彼らはそれに対して何も言わずに、何億年も生きていて、その命が僕たちを支えているんですよ。そういう気持ちが、この曲の中に出てきたんですよね。命に対する敬意や畏怖の念といったものが、この曲の中に入っていると思います。」
(放送では、ここで“Silent Plankton-2”を聴いていただきました)
※坂田さんは、家でミジンコを飼ってらっしゃいますが、どんな風に観察しているのか話していただきました。
「植木鉢の下に敷く白い水受けの皿に水槽の水を入れておいて、金魚屋さんで売っているような白い網で、水がめからミジンコをすくってその皿に入れて、不純物を取り除いてからスポイトですくって、顕微鏡で観察します。顕微鏡がないときは、コップの中に入れて、太陽にかざして、虫眼鏡で見ます。そうやって観察していると、ミジンコに焦点が合って、周りがぼやけるじゃないですか。そうなると、奥には無限の世界が広がっているように見えて、まさにミジンコが宇宙船の中にいるように見えるんですよ。あくまで錯覚の世界ですけど、『宇宙ってこんな感じなのかな』って思って感動しますね。ずっと見てても飽きないですね。」
※最後に、長年、ミジンコを観察してこられて、どんなことをいちばん感じるのか、お聞きしました。
「“命の凄さ”を一番感じますね。彼らは、2~3週間の間に子供を産んで、その子供たちもその間に子供を産むといった生き方をしているじゃないですか。そして彼らは、水の中に生きている他の生物の命を支えているじゃないですか。ということは、命というものは命によって支えられてるんですよ。ミジンコは莫大な数いるので、私たちは安心して魚を食べられるんですね。
寿司屋に行って『トロください』って平気で頼んでますけど、280~300キロぐらいある大きなマグロになるためには、最初にミジンコのようなプランクトンを食べてるわけですよ。それがもっと大きな魚を食べるようになって、最後にはカツオのような大きな魚を食べるようになります。そういう風に、水の中の生き物の底辺を支えているのはミジンコなんです。ミジンコの命を生成される過程というものを顕微鏡で観察していると、命というものは荘厳な感じで、周りから教えられたわけじゃないのに、一つの遺伝子情報によって生き延びてきているということに敬意を表しているんですよね。それによって、自分の人生の豊かさを感じるキッカケになりましたね。」
●“生命の原点”というべきミジンコが、もっと注目されるようになるといいですよね!
「そうですね。ミジンコはもちろん、動物プランクトンや植物プランクトンって、僕たちが意識をしないと見ることができないじゃないですか。そういったものに気をもっていくことって大事ですよね。『あそこに夕焼けがあるけど、その下にはミジンコがいるぞ』と思えるかどうかは、その人の想像力の問題になってくるんですが、僕は、夕焼けが美しいのは、海の中にプランクトンがたくさんいるからだと思いますね。」
誰しも一度は耳にした事がある“ミジンコ”ですが、その生態は私も知らないことばかりで、お話をうかがって、本当に面白かったです。私たちの生命を支えてくれていると言っても過言ではない(!?) ミジンコのことをもっと知りたいという方は、ぜひ坂田さんの著書「私説 ミジンコ大全」をチェックして下さいね。
晶文社/定価2,625円
今回のお話でミジンコに興味を持った方は、是非、坂田さんの新刊「私説 ミジンコ大全」を読んでください。「ミジンコの入門」から始まり「ミジンコ図鑑」、そして生態学者や海洋ミジンコ研究者との対談なども掲載されています。坂田さんが苦労して撮ったミジンコの写真は、宇宙に浮いているような美しさがあって素晴らしいです。付録のCDもオススメです。
坂田さんの近況やライヴ情報については、坂田さんのオフィシャル・サイトをご覧ください。ミジンコの美しい写真もたくさん掲載されています。