2013年3月16日

音色はモンゴルの草原を吹く風

 今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、美炎さんです。

美炎さん

 馬頭琴。モンゴルの伝統楽器であるこの楽器で、ここ日本ではまだまだ珍しい楽器です。そこで、その楽器を演奏する美炎(みほ)さんに、馬頭琴という楽器のことや、モンゴルを馬で旅をしたときのお話をうかがいます。

馬の頭の彫刻が入った楽器“馬頭琴”

●今週のゲストは、モンゴルの伝統楽器「馬頭琴」の奏者、美炎さんです。よろしくお願いします。

「よろしくお願いします。」

●今日は、その馬頭琴を実際に持ってきていただきました。大きさは日本の三味線と同じぐらいですね。

馬頭琴

「そうですね。三味線よりも少し大きめですね。」

●この馬頭琴、印象的なのが、棹の先に馬の彫刻があるんですよね。

「私の馬頭琴は、馬の顔の下に、龍の顔も付いています。」

馬頭琴

●こういう楽器で、馬の彫刻が付いているのって初めて見るんですが、これは馬頭琴ならではなんですか?

「そうですね。馬頭琴だけじゃなく、もっと色々な楽器にも、馬の顔やライオンの顔とか付いていてもいい気がしますけど、動物の顔の彫刻が付いている楽器は馬頭琴ぐらいしか見たことがないですね。」

●そういったところも、この楽器の面白いところじゃないかと思いますが、ボディは台形で、ここにも素敵な彫刻が施されていますよね。

「これはモンゴルの雲をイメージされています。」

馬頭琴

●アンティーク調で、素敵な模様ですよね。馬頭琴は弦楽器ですが、二弦なんですね。

「二弦ですが、実際は200本以上の細い弦を束ねています。」

●この弦は何でできているんですか?

「元々は、馬の尻尾の毛ですが、今はナイロンを使っています。」

●私、小学生のときに“スーホの白い馬”という絵本を読んだことがあるんですが、それに出てくる楽器ですよね?

「そうですね。私も小学2年生のときに授業で習ったんですが、そのときは伝説のお話だと思っていたので、この楽器が実在するとは思っていませんでした。」

●少年と馬のストーリーが繰り広げられていく絵本ですが、馬頭琴は彫刻や弦に馬が関係しているということで、馬との関係が深い楽器なんですね。

「“スーホの白い馬”のお話の中では、馬の筋や毛や皮を使って楽器を作りましたが、その中で実際に使用しているのは、馬の尻尾の毛だけです。なぜなら、モンゴルの方にとって、馬は家畜の存在を越えた、友達ぐらいの存在なので、殺して皮を剥いで使ったりはしないですね。」

●モンゴルの方にとってはポピュラーな楽器なんですか?

「誰もが弾くという楽器ではありませんが、田舎に行くと、馬頭琴を持っていて、演奏ができるおじいさんがいたりしますね。」

●伝統行事で弾かれたりされているんですか?

「そうですね。お祭りのときには、よく演奏されています。」

美炎さん

●美炎さんは、いつごろ馬頭琴に出会ったんですか?

「馬頭琴に出会ったのは18歳のときだったんですね。昔からモンゴルに憧れていて、絶対に行きたい場所だったんですね。なぜなら、小さいときから馬が大好きで、毎日通る場所にあった小さなお稲荷さんのほこらに、『私に馬をください』ってお祈りをするぐらい夢中だったんですよ(笑)。あと、小さいときからバイオリンを勉強していたので、同じ弦楽器の馬頭琴を始めて見たときに『これは絶対に私の楽器だ!』と思い込みましたね(笑)」

●(笑)。どこで初めて見たんですか?

「初めて見たのは千葉県ですね。」

●日本だったんですか!? 何かキッカケがあったんですか?

「私の叔父が、ひょんなことから、日本に留学にきていたモンゴルの馬頭琴奏者と仲良くなって、彼が始めて内モンゴルに里帰りするときに『そういえば、美炎ちゃんは『モンゴルにずっと行きたい』って言ってたよね? 付いてくる?』って聞かれたんで『行きます!』って答えましたね。そんな話をしているときに馬頭琴弾いているところを見たのがキッカケでした。
 馬頭琴というのは、演奏法がすごく独特なんですよ。普通の弦楽器って、弦の上から押さえて弾きますよね? でも馬頭琴の場合は、爪の付け根の上のところを弦の横から当てて弾くんですね。爪の付け根の上のところって、普段の生活でどこにも触らないですよね? なので、すごく柔らかい場所なので、何時間も練習していると、破けて血が出てくるんですよね。だから、いつの間にか弦が真っ赤になっているんですよ。そういうときを経て、馬頭琴に夢中になっていって、人前で少しずつ演奏するようになっていったという感じですね。」

●では、是非、その音色を聴かせていただきたいと思いますが、今回、生演奏を披露していただけるんですよね?

「はい」

※ここで、放送では美炎さんの生演奏による「風と空のうた」を聴いていただきました。

●いやぁ~、素晴らしい演奏でした! ピンっと張り詰めた音色で、聴いているだけで胸が熱くなりました。お話の通り、奏法が独特で、見方によっては、弦に触っていないように見えました。

「そうですね。先ほど説明した通り、爪の付け根の上のところで演奏するので、かなりユニークな楽器だと思います。」

●演奏していただいた曲は「風と空のうた」という曲でしたが、この曲にはどのような想いがこめられているんですか?

「私は千葉県の八街市に住んでいるんですが、引っ越したばかりのころ、ベランダからススキ野原が一面に見渡せたんですよ。どうやら、そこは野生の馬を追い込むための場所だったらしいんですね。もちろん、住み始めのころは、そんなことは知らなかったんですが、いつもベランダからその風景を眺めていると、林からススキ野原を通って、竹林に風が抜けていくというのが見れるんですね。
 それを見ていて、自然と湧き上がってきたものを曲にしたんですが、この曲をモンゴルで弾く機会が多くて、何度か演奏してきたんですが、向こうの人が聴くと『モンゴルの草原を思い出させてくれる曲はすごくいい曲だね』って言ってくれるんですよ。でも、実際は八街市で作った曲なんですけどね(笑)。でも、この曲を演奏するときはいつも、その場所にいる人や、その場所に吹いてくる風がどういうものなのかを想像しながら、弾くようにしています。」

馬頭琴を弾くと、馬に乗っている気持ちになる

美炎さん

●美炎さんは、このベイエフエムがある千葉出身ということですが、小さいころはどのように過ごしていたんですか?

「小さいころは空想ばっかりしてましたね(笑)。あと、家に庭があったんですけど、父親は庭弄りが好きで、すごく大きな岩を庭に置いたり、井戸を掘ったり池を掘ったりしていたんですけど、その池に“タロー”と“ジロー”というすごく大きな鯉がいて、よく一緒に泳いでましたね(笑)」

●え!? 鯉と一緒に泳いでたんですか!?(笑)

「はい(笑)。それが日課でした。」

●結構ワイルドな幼少時代を過ごしていたんですね(笑)。

「ワイルドだったかどうかは分かりませんが、昔から動物が好きだったので、動物と触れ合っていれば満足でしたね。」

●動物好きというのは、大人になった今でも変わりませんか?

「そうですね。高校は山形県の山奥にある学校に通っていたんですが、そこには山や川があって、冬になると3メートルぐらい雪が積もるところだったんですね。小さいころから“自然の中で暮らしたい”という夢を持っていたこともあって、勉強は一切しませんでしたね(笑)。そもそも、その学校は結構変わっている学校で、“受験勉強はしない”っていう方針だったんですよ。それを私は“勉強をしなくていい”と勝手な解釈で受け取って、ずっと山や川で遊んでましたね(笑)」

●(笑)。どんな遊びをしていたんですか?

「アケビや山ブドウを採ったり、木登りも好きだったので、村の子供たちと一緒に登りやすい木を見つけて登ってましたね。でも、たまに登っているとクマに間違えられたりしましたね(笑)。あと、川の上流まで行って、そこからゴーグルを付けて、川を潜りながら下まで下っていったりしていました。」

●そんな美炎さんがモンゴルに行って、モンゴルの自然を見たとき、どんなことを感じましたか?

「日本とは全く違いますよね! 行ったことない人も、360度見渡す限りの草原の風景だと思いますが、モンゴルはなにしろ広いので、砂漠もあるんですよ。“ゴビ砂漠”というんですが、名前に付いている“ゴビ”って、モンゴル語で“砂漠”という意味があるんですよね。なので、砂漠もあるし、大きな山岳地帯もあるので、一口にモンゴルといっても、草原だけじゃない、色々な表情があると思います。」

●そういったところに行って、何を一番感じましたか?

「一番思い出に残っていることといえば、北京オリンピックがあった2008年に、内モンゴルから北京の郊外にある万里の長城まで800キロあるんですが、馬で9日間かけて旅をしたんですね。その旅は、山の上の方から下の草原に降りていって、草原を通ったり、砂漠に近いところも1日中通ったりしましたし、最後の方になると、漢民族の人たちの畑の中を誰もいないときを見計らって、走り抜けていったりしてましたね(笑)。あれ、見つかったらかなりヤバイことになったと思いますが、そういう旅をしてましたね。あのときに、『チンギスハンの時代にあれだけ世界を席巻したのは馬の力だといわれていただけに、“馬力”ってすごいな』ってすごく感じましたね。 あと、馬によって性格が全然違うので、“馬が合う”っていう言葉がありますけど、その言葉通りだと思いました。馬が合う馬は、乗っているときに『ここで走ってほしいな』と思ったときに、走る合図を出さなくても、思った瞬間に馬に伝わって、走ってくれるんですよ。そういうときは、すごく気持ちがいいですね。」

●馬好きの美炎さんにとっては、たまらない瞬間だったんじゃないですか?

「たまらない瞬間でしたね! 馬頭琴というのは、馬のリズムの曲がすごく多いんですね。モンゴルで勉強したとき『馬頭琴をうまく弾けるようになるには、馬に上手に乗れるようにならないとダメ』だといわれたんですよね(笑)。私は馬がすごく好きだったんですけど、日本で触れ合う機会がなかったので、いきなり草原に行って、遊牧民の人に教えてもらいに行ったんですね。でも、向こうの人は教えてくれないんですよ。勝手に乗って、体で覚える感じでしたね。落ちそうになったりすると、笑ってきたりしてましたね。でも、その方が、あっという間に上達すると思います。」

●旅をする前と後で変わりましたか?

「変わりましたね。馬の曲を演奏するときに、馬に乗っている感覚が蘇ってくるんですよ。なので、日本で『馬に乗りたい!』って思っても、コンサートなどで馬の曲を弾いているだけで、それが満たされます。馬に乗っている感覚と全く同じですね。」

阿蘇山をバックに演奏したい

●今後、演奏してみたい場所や曲ってありますか?

「演奏してみたい場所はかなり具体的なんですが、熊本県の阿蘇山に行ったときに、“アスペクタ”という野外コンサートホールがあるんですが、あそこは雄大な阿蘇山をバックにステージが組まれていて、客席はなくて野原になっているんですが、いつかそこで絶対に演奏したいと思っています。それも、馬に乗って登場してステージに上がって、演奏したいですね(笑)」

●すごく具体的ですね! そのときに演奏したい曲は何ですか?

「震災があった2011年にセドナに行ったんですが、そのときにネイティヴアメリカンに伝わる『ホワイトバッファローの伝説』という物語に出会ったんですね。その物語が伝えたいメッセージが、今の時代に合っている気がして、『これを音楽にしよう』と思ったんですね。最初は1曲だけ作る予定だったんですが、物語が壮大なので、最終的には7曲の音楽物語になりました。なので、是非、その曲たちを演奏したいなと思います。」

●「ホワイトバッファローの伝説」はどんなストーリーなんですか?

「ネイティヴアメリカンであるラコタ族の人たちが飢えていて、調和を大事にしていなかった時代に“ホワイトバッファロー・ウーマン”という神様が現れて、祈りの仕方を彼らに教えるんですね。『あなたが何に対して祈っていても、あなたが祈る祈りというのは、あなたに繋がる全てのものに対して祈っていることになる』というメッセージを伝えて、『世界が再び調和を無くして、危機が迫ったときに、私はこの世に再び現れます』という言葉を残して去っていくんですが、肌の色が違う全人類は繋がっていて、全てのもののために祈るというメッセージがあります。」

美炎さん

YUKI'S MONOLOGUE ~ゆきちゃんのひと言~

 今回初めて馬頭琴の演奏を生で聴かせていただきましたが、その凛とした音色が本当に素敵でした。特に、私は弦を弾くときに聴こえてくる“サー”という音が、まるでモンゴルの草原に吹く風のように感じて、目をつぶると、そこにモンゴルの大自然が浮かんでくるようでした。美炎さんは棚田など、自然の中でもライブをさせるということなので、ぜひ機会があれば美しい自然と馬頭琴の音色のコラボレーションを聴かせていただきにいきたいと思います。

INFORMATION

アルバム『風がくれた物語』『ホワイトバッファローの伝説』

 美炎さんがリリースした2つのアルバムは、馬頭琴の音色を堪能できるアルバムとなっています。『ホワイトバッファローの伝説』は定価2500円で販売されています。また、『風がくれた物語』は、美炎さんのHPにて全曲視聴することができますので、是非チェックしてみてください。


コンサート『馬頭琴の夕べ 「風が渡るところ」』

 美炎さんは、4月27日(土)に、千葉県八街市にある「風のロッジ」で、コンサートを行ないます。是非、馬頭琴の音色を生で堪能してください。

◎日程:4月27日(土)の午後5時開場、午後6時開演
◎チケット:前売り・3,000円、当日・3,500円(ワンドリンク付)
◎問い合わせ:VAICコミュニティケア研究所・八街センター
◎TEL:043-440-0181
◎E-mail:yachimata2@vaic-cci.jp


オフィシャルサイト

 その他、美炎さんの情報を詳しく知りたい方は、美炎さんのオフィシャルサイトをご覧ください。4月に宮地楽器渋谷店で行なわれる馬頭琴教室やライブの情報など、詳しく掲載されています。

今週のオンエア・ソング

オープニング・テーマ曲
「GRACIAS / LARRY CARLTON」

M1. 南風 / レミオロメン

M2.  I'M A CUCKOO / BELLE & SEBASTIAN

M3.  風と空のうた(LIVE) / 美炎

M4. BRING ON THE DANCING HORSES / ECHO & THE BUNNYMEN

M5. WILD HORSES / THE ROLLING STONES

エンディング・テーマ曲
「THE WHALE / ELECTRIC LIGHT ORCHESTRA」