今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、松原始さんです。
カラス研究の第一人者、東京大学総合研究博物館・特任助教の松原始さんは先頃、雷鳥社から「カラスの教科書」という本を出され、大変注目されています。今回はそんな松原さんに、意外に知られていないカラスの習性や行動についてお話をうかがいます。
●今回のゲストは、東京大学総合研究博物館・特任助教の松原始さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●松原さんは先頃、雷鳥社から「カラスの教科書」という本を出版されましたが、この本を読んで、私の中にあったカラスに対するマイナスイメージが、かなり変わりました。
「それはすごくありがたいお話で、ありがとうございます。」
●そもそも、松原さんがカラスに興味を持ったキッカケって何だったんですか?
「実家の近くにカラスのねぐらがありまして、毎日夕方になると、家の上を何百羽が通っていくんですね。それぞれカアカアと鳴いているんですが、『あれだけ鳴いているんだから、こっちからも鳴いてやろう』と思って、下から鳴いてやったら、鳴き返してきたカラスがいたんですよ。実際は、勝手に鳴いただけかもしれないですけどね(笑)。その辺りから『面白い鳥だな』と思い始めたのがキッカケですね。」
●確かに、カラスについて、意外と知らないことが多い気がします。カラスの研究って、主にどういったことをしているんですか?
「大学院にいたころは、カラスを追い掛け回して、どこで何をしているのかというデータを集めたり、特定の行動に絞って、ビデオ録画したりして、ひたすら観察したりしていました。最近では、山に行って、探したりしましたね。」
●以前、この番組に出演してくださったゲストの方から、「カラスには、“ハシブトガラス”と“ハシボソガラス”の2種類が主なもので、他にも色々な種類のカラスがいる」と教えていただいたんですが、松原さんはその中で、どのカラスを主に研究しているんですか?
「メインで研究しているのは、ハシブトガラスとハシボソガラスですね。最初はその2種類を比較を研究していました。最近は山の中で観察しているので、ハシブトガラスばかりですね。」
●山の中にはハシブトガラスがいるんですね。他にはどんなカラスがいるんですか?
「日本産だと、ミヤマガラスやコクマルガラス、あと、北海道にしか来ないワタリガラスなどがいます。それほど種類は多くないですね。」
●世界中には、たくさんの種類のカラスがいるんですか?
「そうですね。一目で分かる種類は30~40ぐらいですね。」
●そんなにいるんですか!? ということは、私たちがよく見る、黒くて大きいカラスとは違ったカラスがいるんですか?
「中にはちょっと小柄なカラスや、真っ黒じゃないカラスがいますね。」
●真っ黒じゃないカラスですか!?
「白黒や、黒とグレーのツートンカラーのカラスがいますね。」
●白黒ですか!?
「頭から胸の辺りまでが黒くて、お腹の辺りと翼の一部が白くて、後は黒いという感じで、オシャレな塗り分けのカラスがいますよ。」
●それはどこにいるんですか?
「日本にも来ます。それは“コクマルガラス”といって、冬の間、日本に渡ってきます。」
●どの辺りに来るんですか?
「畑が好きなので、日本中にいます。」
●カラスって、都会にいるイメージが強いので、カラスを森の中で観察するというのも、面白そうですね。
「面白いけど、非常に数が少ないので、多分なかなか見ることができないと思います。古い研究では、ハシブトガラスの縄張りが50ヘクタール近くあると書かれているんですが、都心だと10ヘクタール以下だと書かれているんですね。なぜそうなっているのかというと、おそらくエサの量が違うからだといわれているんですね。街中であれだけの量のカラスを見かけるのは、街にはゴミがあって、カラスにとってのエサがあるから、あれだけいるというのは間違いないと思います。」
●松原さんが先日出版した「カラスの教科書」には、カラスの興味深い特徴がたくさん紹介されているんですが、その中でも私が気になったのが、“カラスの一生”なんですが、カラスの寿命はどのぐらいなんですか?
「結構長いですね。飼育下にあったワタリガラスで、60年以上生きた例がありますね。」
●60年ですか!? 人間と同じぐらい生きるんですね!
「そうですね。ハシボソガラスでも40年ぐらい生きたという記録がありますので、寿命としては、大体そのぐらいですね。」
●野生のカラスはどのぐらい生きるんですか?
「はっきりとは分かりませんが、鳥全体の平均でいうと、飼育下にいる鳥の半分ぐらいだといわれているので、20~30年ぐらいですね。10年生きているカラスはたくさんいると思いますよ。」
●結構長生きなんですね。カラスの子育ては、つがいなんですよね?
「そうですね。カラスは一度大人になってしまうと、ずっとつがいで過ごしているんですよ。鳥の種類によっては、繁殖期だけつがいで過ごすというものもいますが、カラスは一年中ベッタリくっついています。」
●同じパートナーなんですか?
「大体はそうだろうといわれています。でも、中には『こいつら離婚したな』っていうのも見たことがあります(笑)」
●実は、今回出版した「カラスの教科書」の中でも触れられていて、すごく面白かったです(笑)。
「ちゃんと標識して追跡しているわけではないので、論文に書けるほどの精度ではないんですが、おそらくそうだろうなっていうことがありました。」
●子育ての方法もすごく面白かったんですけど、基本的にはメスが卵を温めて、オスがエサを取ってくるといった感じなんですよね?
「そうですね。その間、見張りもしていますし、メスは巣を離れることができないので、メスが食べる分も、オスが取ってきます。そう聞くと、すごく献身的だと思うかと思いますが、実際はオスも腹が減っているので、『できることなら、自分が先に食べたい』と思っていたりするんですよね(笑)」
●(笑)。そういう行動が見受けられることってあるんですか?
「ありますね。メスが思いっきりねだるまで与えなかったり、中には美味しそうなものを独占して食べさせなかったりしたこともありましたね。それとは逆に、メスにものすごくねだられて、頑張っちゃったオスとかいたりしますね。」
●ということは、かなり個体差があるんですね。
「ものすごくありますね。怒りっぽいものもいれば大人しいものもいますし、人懐っこいのもいますね。カラスって、賢い鳥と思われているんですけど、意外とマヌケだなって思うところがよくありますよ(笑)。子育てをしている時期って、基本的にヒナを見ると、エサをやりそうになるんですよ。親はヒナが口を開けると、そこにエサをあげないといけないって思っちゃうんですけど、そのヒナが自分の子供なのか考えずにエサをやりそうになったっていうことがありましたね(笑)」
●カラスって賢くて、記憶力もいいっていうイメージがあったんですけど、意外とおっちょこちょいで、愛すべきキャラですね。
「そこまで抜け目のない生き物じゃないですね。」
●あと、すごく面白いと思ったのが、巣立ちの時期のことなんですけど、それぞれ単独で行動するのかと思いきや、そうじゃないんですよね?
「まず、巣立ちをしてもヒナはまだ無力なので、親元で暮らしているんですが、小鳥の場合は一ヶ月もかからずに独立できるんですが、カラスの場合は非常に長いんですよ。短くても数ヶ月、長ければ半年以上いますね。今年見たものは、正月を過ぎても一緒にいて、未だにエサをねだってましたね(笑)」
●それを聞くと、私も耳が痛いですね(笑)。あと、子ガラス同士、集団で行動するんですよね?
「ずっと一緒にいると、さすがに親に出されてしまうので、親元を離れた後、若いカラス同士が集まって、集団で暮らしていることが多いですね。」
●公園とかに集団でいるカラスを見て、怖いと思うことが多かったんですが、あのカラスは子供なんですね?
「若くてふらついているカラスということですね。結婚もしてないし、子育ては絶対にしてないですね。」
●あの集団は、ほとんど人を襲ってこないんですね?
「絶対にないですね。少なくとも子供がいないので、命をかけるほどのものがないんですよ。エサがあれば寄ってくると思いますが、襲ってこないです。」
※続いて、こんな話をうかがいました
●私たちは、カラスとどうやって共生していくのがいいのかということが気になるところなんですが、松原さんの本を読んでいたら、“知る”ことがすごく大事なことだと思いました。
「そうですね。カラスって真っ黒で大きいので、それだけで威圧感がある上に、黒い目をしているので、『どこを見ているのか分からない』とよく言われるんですが、ある程度分かってくると、カラスが何かしようとしているのが分かるんですよね。仕草にすごく出るので、鳥の中でも読みやすい方ですね。」
●例えば、どんなものがありますか?
「明日からでもできることなんですが、電線にカラスが止まっていて、その下を歩いていたとしますよね? カラスは見てないフリして見ているので、真下で立ち止まって、ふとカラスの方を見ると、ものすごく驚きます(笑)。いきなりキョロキョロし始めて、ときには片足を踏み外したりしますよ(笑)」
●コントみたいな驚き方をするんですか!?(笑) じゃあ、私たちがカラスの傍を通るとき、そんなにビクビクしなくてもいいんですね?
「それがストレスになるようであれば、気にしないで大丈夫です。むしろ、カラスの方がビクビクします。カラスの傍を堂々と通っても問題ありませんし、気に食わなかったら『コラー!』って言っちゃってもいいんですよ(笑)」
●(笑)。そうやっても襲わないんですね。
「襲わないですね。逃げるだけです。」
●攻撃してくるのは、子育て中のような、ナイーブな時期のときだけなんですね。
「特に巣立ちの時期で、ヒナが地面に落ちやすい時期ですね。その時期はヒナが無力なので、そういうときに人が近づくと、ものすごく気にします。そのときは音声でも威嚇してくるんですけど、それに気づかないと、頭を掠めて飛んでいきます。それでも気づかなかったら、頭を蹴ってくることがあります。」
●そういう風に攻撃してくるのは最後の最後なんですね?
「そうですね。でも、そこも個体それぞれの性格によります。中には、そこまでエキサイトしないものもいます。童謡に“カラスなぜ鳴くの?”っていう歌詞があるじゃないですか。その理由が“子供がいるから”だと分かると、ちょっと許せますよね?」
●そうですね! カラスも私たちと同じように、一生懸命生きているということですね。私たちが出したゴミを荒らすのは、彼らは生きるためにやっているんですよね?
「そうですね。カラス科の鳥って、他の動物が食べた食べ残しを片付ける修正を持っているので、彼らは都会にいても、山の中にいるときと変わらない生活をしているといえますね。」
●私たちが環境を変えてしまっただけで、彼らは全然変わってないんですね。
「私たちは一生懸命片付けているんですけど、食べられない部分を捨てていきますので、『なんで捨てたのに散らかすんだ?』って思っているかと思いますが、カラスにとっては『なんで食べ物があるのに食べちゃいけないんだ?』って思っているんですよね。」
●確かに、カラス側から見ればそうですよね!
「『毎朝なんでこんなに食べ残しがあるのに、何で食べちゃいけないんだろう?』って思っていると思いますよ。」
●松原さんがカラスの行動を観察していて、一番感じることって何ですか?
「本を書くにあたって、若干擬人化した書き方をしているんですが、本当は勝手に擬人化しちゃいけないんですね。でも、したくなるぐらいに行動が分かりやすい鳥だと思います。仲良くなれるわけではないと思いますが、近くにいたら声をかけるぐらいの存在ですね。でも、実際に声をかけても、驚いて逃げるだけだと思いますけどね(笑)。あくまで一方的ですが、そのぐらい親しい感じですね。」
●ずっと観察していると、向こうも慣れてくるんじゃないですか?
「はい、慣れてきますね。一年ぐらい毎日傍に行っていたら、『こいつはいつも来るけど、とりあえず悪いことはしない』って覚えられたらしく、翌年から観察できるようになりました。」
●そうなってくると、愛着が沸いてきますよね。
「沸いてきますね。一番仲がよかった子とかいましたからね。」
●私も、カラスは今まで苦手な存在でしたが、これからは友達として見ていきたいと思います。だって、私たちにとって、一番身近にいる野生動物なんですからね!
「そうなんですよ。野生動物っていうことを忘れがちなんですが、東京みたいな世界有数の大都市に、体重が1キロに近い大型鳥類が、何万という数でいるというのは、ある意味ですごいことなんですよね。なので、遠くに行かなくても、“野生の世界は頭の上にある”と思って見ると、見方がちょっと変わると思いますね。」
●そうですね! 一番近くで感じることができる動物かもしれないですよね。これからは、カラスに注目していきたいと思います。
私の家から駅に行く途中の道にも、よくカラスがいるんですが、今までは何かを考えているのか分からず、なんだか不気味で少し怖かったのでなるべく目を合わせないようにしていました。でも今回、松原さんにお話をうかがって、カラスに対するイメージが大きく変わったので、今度カラスに会った時は声でもかけてみようかなと思います。
雷鳥社/定価1,680円
松原さんの新刊となるこの本は、今回出てきたお話の他、ハシブトガラスとハシボソガラスの図鑑には出ていない見分け方や習性の違い、雑食性のカラスは研究者よりグルメだというお話や、カラスとうまく付き合う方法など、研究者だからこそ書ける面白いお話が満載です! なにより、松原さんのカラスに対する愛情「カラス愛」を感じる一冊です。詳しくは、雷鳥社のホームページをご覧ください。