今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、三田村敏正さんです。
福島県農業総合センターの研究員で、自称・繭ハンターの三田村敏正さんは、トンボやゲンゴロウなどの水生昆虫の生態も調べていらっしゃいますが、ライフワークともいえる活動が“どんな虫がどんな繭を作るのかを調べ、繭を採取すること”なんです。今回そんな三田村さんに、色や形も個性的な繭について、色々お話をうかがいます。
●今回のゲストは、昆虫の繭だけの図鑑を出された、農学博士の“自称・繭ハンター”、三田村敏正さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●三田村さんは繭の研究をし始めて、どのぐらいになるんですか?
「大学生のときから研究をしていたので、30年以上になります。」
●初めて見たとき、どう思ったんですか?
「大学には、色のついたものや形が微妙に違うものなど、色々な繭があるんですね。それも、蚕だけじゃなく、蛾やチョウ、アリやハチなどの繭があるんですよ。」
●そうなんですか!?
「私も、今回出版した“繭ハンドブック”のために、繭を日本全国から集めていたんですけど、『こんなにも繭を作る虫がいるんだ』と思いましたね。」
●アリやハチの繭って、どういったものなんですか?
「中にサナギが入っていて、その周りを糸で作った繭で覆うという形状は蚕と一緒なんですけど、大きさは小さいです。アリをよく見ると、行列を作っているときに、白いものを持っているときがあるんですね。大体は幼虫を運んでいるんですが、繭を作るアリだと繭を運んでいるときがあります。」
●見たことがあります! あれって繭だったんですね! そもそも、繭って、なんのために作られるんですか?
「繭の中にはサナギが入っているんですが、じっとしていて動けないので、外敵から襲われやすいですよね。なので、自分たちの身を守るためのものなんです。それに、繭は敵以外にも、太陽からの紫外線を防止する役目もあるんですね。」
●私たちが紫外線を防ぐために日傘を差したり防止を被ったりしているように、サナギも繭で防いでいるんですね。そういう風に守るためには、中で大切なことが行なわれているんですよね?
「そうですね。最初は幼虫が入っていて、その幼虫が繭を作るんですが、その繭の中で脱皮をするとサナギになるんですね。そのサナギの中で何が行なわれているかというと、最初に幼虫の体が全て溶けてドロドロになってしまうんですよ。なので、サナギになったばかりのものを潰したり切ったりすると、白っぽいドロドロしたものしか入っていないんですよ。そこから、成虫のパーツができていくんですよね。それが“成虫分化”といいます。」
●それはすごい世界ですね! 外からだと、静かにじっとしているように見えるじゃないですか。
「中では劇的な変化が起きているんですよね。」
●人間では考えられないことですよね!
「例えば、幼虫って葉っぱを食べるじゃないですか。それに対して、チョウってストローみたいな口で花の蜜などを吸っているじゃないですか。ということは、食べ物の摂り方が全然違うんですよね。だから、同じ器官じゃいけないんですよ。なので、幼虫の体の中身を一度変えて、新しいものを作らないといけなくなるんですよね。」
●繭の中で生まれ変わっているんですね?
「そうなんです。その過程がサナギなんです。」
※今回、三田村さんに、生きている繭を持ってきてくださいました。
「これは“ウスタビガ”という虫の繭で、私が一番好きな繭です。今年繭になったばかりなんですが、開けてみますね。」
●いいんですか!? 繭の中がどうなっているのか気になっていたんですよ!
※繭を開いて、中を見せてくれました。
●うあ! 動いてる! 初めて見る物体なので、なんと表現すればいいのか分からないです!(笑) 色は茶色で、すごく元気ですね。
「サナギも動くんですよ。あと、繭の中に、サナギの他に何かくっついてますよね?」
●木の破片のようなものが付いてますね。
「これは、幼虫の抜け殻です。」
●脱皮したものも、一緒に中に入っているんですね。サナギって、幼虫と同じように伸縮するんですね。
「そうですね。お腹のところに節がありますけど、そこが今動いてますね。これ、よく見てもらえれば分かるんですが、既に触覚のあとがあるんですね。それに、羽になる部分もできてるんですよ。ここから、成虫になるにつれて、形作られます。」
●確かに、頭の部分は、成虫の形が見られますね。でも、後ろはまだ幼虫なんですね。まさに変体をしている最中なんですね。これって、触っても大丈夫ですか?
「大丈夫ですよ。」
※ここで、ウスタビガのサナギを触りました。
●成虫になりつつあるのか、幼虫よりも硬いですね。こうやって見ると、可愛いですね! 中はこうなってたんですね。
「このウスタビガはすごく面白い特徴がいくつかあるんですよ。その中の一つとして“幼虫が鳴く”んですよ。」
●鳴くんですか!?
「繭になっても、中がまだ幼虫だったら、繭を触ると鳴くんですよね。」
●どんな鳴き声なんですか?
「そこで今回、繭を作ったばかりで、中に幼虫が入っている繭を持ってきました。ちょっと鳴かしてみましょうか。」
●ありがとうございます!
※放送ではここで、ウスタビガの鳴き声を聴いてもらいました。
実際の鳴き声はこちらをお聴き下さい(mp3ファイル)
●可愛い鳴き声ですね! 子供のサンダルで歩いたときに鳴る音みたいな感じですね。これは、外敵から刺激を受けると鳴くんですか?
「おそらくそうだと思いますが、明確な理由は分かっていないんですね。このウスタビガを飼っていた時期があったんですけど、幼虫を飼っていてエサがなくなると、『エサ早くちょうだいー!』って言っているかのように鳴き始めるんですよ(笑)」
●まさに赤ちゃんのようですね(笑)。
※他にどんな繭がいるのか、うかがいました。
「色々な繭があります。例えば、コマユバチの繭は結構小さいんですよね。」
●本当ですね。1センチメートル強ぐらいの大きさですね。ラズベリーみたいな形ですね。
「これは、小さい繭がたくさん集まって、こういう形になっているんですね。そして、アフリカに生息している“アナフェ”という昆虫がいるんですが、この繭は“世界一大きい繭”といわれていて、30センチ以上あるんですね。今回、実物を持ってこれなかったので写真を持ってきました。」
●先生が両手で繭を持っている写真なんですが、両手におさまってないですね(笑)。
「この繭を開けてみると、中に繭がぎっしり入っているんですね。」
●まさに、ハチの巣のような感じになってますね。
「こういう繭が虫のいる場所に行くと、木の間といったところにくっついているんですよね。」
●迫力ありますね! 今までは、繭というと、蚕のような白いものというイメージしかなかったんですが、色々な色やバリエーションがあって、色々な戦略を立てて、作っているんですね。三田村さんが今まで繭を観察してきて、一番感じたことって、どんなことですか?
「“繭の美しさと巧妙さ”ですかね。『こんな仕掛けがあるのか!』と驚かされますね。それはもちろん身を守るためなんですが、そのための構造などがすごいなと思いますね。繭って防護室のようなもので頑丈なんですが、自分が出てくる場所の繭の層が薄かったり、すぐ開くようになっていたりするんですね。そういった工夫もあるし、ある寄生バチの繭は、お尻に穴が開いてるんですよ。これは、最後にフンをするんですが、その穴からフンを出すんですね。」
●合理的に作られてるんですね。
「繭って形や機能も不思議なんですが、人間が利用することもできるんですね。もちろん、シルクとして衣料品に使用することもできるんですが、それ以外にも活用できるんですよ。先ほど、繭は紫外線をカットすると話しましたが、シルクも同じようにカットしたり吸収したりするので、強力な紫外線カットの製品を作ったり、抗菌の力もあるので、抗菌性のものを作ったりと、色々な可能性が秘められているんですよね。そういった方面の研究も、これからもっと進んでいくと思います。」
●私も、繭のことをもっと知りたくなりました! 繭の楽しいお話をたくさんしていただき、ありがとうございました!
繭と言えば、今まで絹糸を作る蚕の繭のイメージが強かったのですが、本当に多種多様な繭がたくさんいることに驚かされました。さらに驚くことに、三田村さんか今回出版された“繭ハンドブック”に載っている114種以外にもまだまだ繭はいて、実は日本だけでも、何種類の繭がいるのか、正確には分かっていないんだそうです。ということは、もしかしたら、今まで誰も見たことがない繭を発見する可能性もあるかも!? この夏、繭さがしの旅に出てみるものも面白いかもしれませんね。
文一総合出版/定価1,470円
三田村さんの新刊となるこの本は、繭だけを集めて紹介した初めての繭専門図鑑です。日本だけで見られる「繭」114種を掲載。初めて世の中に紹介される繭がたくさん載っています。ぜひ多種多様な繭ワールドにぜひ浸ってください。
◎詳しい情報:文一総合出版のホームページ