今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、金子裕昭さんです。
アフリカ大陸の東部、タンザニアにあるセレンゲティ国立公園。その面積は東京、千葉、神奈川、埼玉を合わせても少し足りないほどの広さ。そこに約300万頭を超える野生動物が生息しているといわれています。金子裕昭さんは、そんなセレンゲティでテント生活を送りながら、撮影活動を続けるというスタイルをとっている新進気鋭の動物写真家なんです。そんな金子さんを写真展の会場に訪ねて、色々お話をうかがってきました。今回はそのときの模様をお送りします。
●今回のゲストは、動物写真家の金子裕昭さんです。今回、金子さんの写真展『タンザニア セレンゲティ「生命の足音」』が開催されている、新宿のコニカミノルタにお邪魔しています。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●写真展を拝見させていただきましたが、ライオンやチーター、ヌーと、色々な野生動物の写真がたくさん展示されているんですよね。どの写真もすごく近くてビックリしたんですが、撮影するとき、あれだけ近くまで行って撮影されているんですか?
「決められた道路以外を走行してはいけないので、動物が私たちの近くに来るまでひたすら待ちました。そして、“写真が撮りたい”と思うような表情をするまで待ちました。」
●近寄っていったのではなく、来るのを待ったんですね!
「暑い車の中でひたすら待ちました(笑)」
●(笑)。待った甲斐があったのか、動物たちの表情まで分かるような、すごくいい写真ばかりですよね。セレンゲティにハマってから、どのぐらい行っているんですか?
「毎年、年に一度、時期を変えつつ行ってます。」
●今まで何回ぐらい行っているんですか?
「今年の2月ぐらいに行きましたが、そのときで13回目でしたね。」
●毎回許可を取って撮影しているんですか?
「セレンゲティ国立公園の場合、入場料さえ払えば誰でも入れます。ただ、取材するときなどは、特別な許可が必要ですね。」
●宿泊施設などはあるんですか?
「私の場合は、キャンプ泊です。なので、結構自由が利くんですよね。」
●それは、国立公園の管理事務所のようなところに許可を取ってやっているんですよね?
「そうですね。許可さえ取れば誰でも可能です。」
●そうすると、野生動物が近寄ってきたりするんじゃないですか?
「それは毎回のことですね。ライオンやハイエナ、ゾウなどいっぱいいますね。」
●そうなんですか!? でも、野生動物じゃないですか。危険だったり恐かったりしないんですか?
「危険や恐さはあるんですが、私はそれも含めてすごく楽しいんですね。元々、子供のころから自然が大好きだったので、夜中、テントの中で缶ビールを飲みながら、ライオンやハイエナが鳴いたりしている音とかを聴いてるのがすごく好きですね。恐いとかよりも好きなんですよね。」
※金子さんがこれまで撮影をしてきて、一番思い出に残っていることはどんなことなのでしょうか?
「私は動物が好きで撮影をしているんですが、今でも忘れられない、すごく残念なことがあったんですね。雨が降らなくて、動物が全くいなかった年があったんですけど、その年の撮影最終日に、セレンゲティ国立公園のレンジャーが『仕方ない。最後だから、いい情報を教えてやる。○○というところにライオンがキリンを捕まえようとしているんだ』って、教えてくれたんですよ。それで私は早速そこに向かって、やっとライオンを探し当てることができました。
ライオンって、ボスがうなり声を上げたら、一頭一頭そのボスに対して、顔をすり寄せて挨拶をするんですよ。そのときは全部で13頭集まって、キリンもいたんですよ。キリンも前足を地面に叩きつけて『来るなら来い!』という感じなんですよね。そこからライオンが向かっていったんですが、それを見た観光客たちが、映画のクライマックスさながらの歓声を上げたんですね。そのとき、観光客を乗せた車が10台ぐらいいたんですが、そのせいでライオンが狩りを止めちゃったんですよ。ライオンの群れの中には、1歳ぐらいの子供のライオンがいて、お腹が空いてたのも分かったんですけど、人間が騒いだせいで狩りを止めてしまったんですよね。それが本当に残念でした。」
●だから、金子さんは撮影するとき、物音や気配などを極力消しているんですね。
「黙って見ているしかないですね。撮影を始める瞬間に集中するようにしています。」
●写真を撮るチャンスを待っているときって、どんなことをして、どんなことを考えているんですか?
「とにかく気を落ち着かせて、自分のスイッチをオフにします。それが待っているときの基本ですね。」
●どんなところを見ているんですか?
「今見ている状況に何か変化がないか、その変化を見逃さないということを考えてますね。」
●どんな変化があるんですか?
「例えば、チーターだと何百メートル先に獲物がいた場合、走り出してその獲物のところに追いつくまで、十数秒なんですね。これだと、走り出してからカメラを構えていたら遅れてしまうんですよ。なので、チーターが走り出す前の行動を見逃さないようにしています。」
●その“走り出す前の行動”って、どんな感じなんですか?
「様々なんですけど、私が見ている中でよくあるのは、軽く欠伸をするんですよね。そこからゆっくり立ったりするので、そういうところを見逃さないようにしています。」
●本当に些細な行動なんですね。
「それもまた、個体によって違うんですけどね。」
●そういうところを見続けて、チャンスをうかがうんですね。
「そうですね。これは、自分の経験で培ってきたものですね。」
※金子さんは、セレンゲティのどんなところが好きなのでしょうか?
「セレンゲティは全てが素晴らしいんですよ。動物層も豊かですし、たとえ動物がいなくて草原だけでも、すごく静かな草原なんですね。風と鳥の音しか聞こえなくても、すごく美しいですし、夜になって、雲っていなければ、星が降ってくるような感じなんですよね。」
●それだけ空が近いんですね。そんなセレンゲティに、今後も行きますよね?
「もちろんです! むしろ住みたいぐらいです(笑)」
●(笑)。今後、どんな写真を撮っていきたいと思っていますか?
「一年間の季節の移ろいや動物の生死の狭間、その周辺で生活をする人々との関わりあいといったところを撮影できばと思っています。」
●金子さんが一番好きな動物って何ですか?
「セレンゲティといえば、ヌーしかないですね。」
●ヌーなんですか!? 写真展を見てると、ライオンやチーターが多い気がしたので、そういった動物が好きなのかなって思っていたので、意外です。
「ヌーが地味で垢抜けないからなんですよね。実は、私がこれまでセレンゲティに行って追いかけてるのって、ヌーなんですよ。ヌーの群れを追いかけていると、それを追いかけている捕食者たちがやってくるんですよね。なので、ライオンやチーターを探しにいくより、ヌーを探した方が早いんですよね。」
●何でヌーに惹かれるんですか?
「ヌーってよく観察していると、面白いんですよ。ヌーはかなりの数を生むので、迷子とかすごく出ちゃうんですよね。そのせいで、夜にハイエナの群れやライオンの群れに襲われたり、朝行くと、ヌーの子供たち20頭ぐらいがお母さんを待ってたりするんですよ。そのときに、一匹ずつ探して、出会えればいいんですが、出会えなければ捕食者のエサになってしまったということになるんですよね。」
●そこは厳しい世界なんですね。金子さんが今回の写真展で、どんなところを見てほしいですか?
「今回の写真展を見ていただくと、狩りや食事をしている写真が多いことに気がつくと思います。美しい風景ばかりでなく、そういう残酷なシーンもあるんですよね。でも、それがあるからこそ、美しいセレンゲティ国立公園が成り立っているんだということを見ていただきたいですね。」
●タイトルに“生命の足音”という言葉が入っていますが、これにはどんな意味が込められているんですか?
「“足音”というのは、向こうでテント泊をしているときに、走り去っていく動物の足音や鳴き声のことを表しているんですが、このタイトルに関しては『展示している35点の作品を全て見たときに、この生命の足音が耳に届けばいいな』という想いから付けました。」
●確かに聞こえてきました。
「聞こえてきました? 私があまり聞こえてこないんですけどね(笑)」
●(笑)。走っている姿やこちらを向いている姿、息吹や足音などを感じることができました。最後に、金子さんがセレンゲティで野生動物を撮影していて、一番感じることって何ですか?
「“命の美しさ”ですかね。かけがえのない命たちがずっと残り続いていくことを願うばかりですね。」
写真展を拝見させていただいて、まず驚いたのが、トラやチーターが狩りをしたり獲物を食べているシーンがとても多かったことです。一見、生々しいその写真ですが、生きるために食べるその姿は、野生動物のシンプルかつ力強い生き様を感じました。お時間ある方は是非、写真展会場でそんなタンザニア セレンゲティの野生動物達の生きる様と“生命の足音”を感じてみてはいかがでしょうか。
新宿のコニカミノルタプラザで8月13日まで開催している金子さんの写真展。チーターの親子やライオン、ヌーの大群、朝日に映えるキリン等、35点の力作が展示されています。非常に素晴らしい写真ばかりなので、是非お出かけください。
◎開館時間:午前10時から午後7時まで
◎入場:無料
◎詳しい情報:コニカミノルタプラザのオフィシャルサイト