今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、瀧澤美奈子さんです。
科学ジャーナリストの瀧澤美奈子さんは、科学はもちろん、宇宙や天文学にも関心を持ってらっしゃるジャーナリストで、最近、注目が集まっている深海にも興味を持ってらっしゃいます。そんな滝澤さんの新刊が、講談社のブルーバックス・シリーズの一冊として出た「日本の深海~資源と生物のフロンティア~」なんです。今回は、意外に知られていない日本の深海について、瀧澤さんにじっくりお話をうかがいます。
●今回のゲストは、科学ジャーナリストの瀧澤美奈子さんです。瀧澤さんは先日、新刊“日本の深海~資源と生物のフロンティア~”を出版されました。今回は本のタイトルにもある“日本の深海”について、色々とお話をうかがっていきたいと思います。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●深海って、どのぐらいの深さから深海なんですか?
「学術的に厳密に決まっているわけではないんですが、海洋生物学では一般的に光合成に必要な量の太陽光が届かなくなる水深200メートル以上で、地質学では水深2,000メートル以上を深海と呼んでいます。」
●海洋生物学と地質学でかなり差がありますね。
「そうですね。高い山のことを“高山”といいますが、厳密に“何メートル以上が高山”っていう定義がないのと同じような感じですね。」
●そんな深海ですが、日本列島の周りにはどのぐらいあるんですか?
「みなさんご存知のように、日本は小さな島国でありながら、世界屈指の海洋国です。領土面積は世界第61位ですが、領海と排他的経済水域を合わせると、世界第6位なので、それだけ広い海を持っているんですね。その海は“深い”という点が特徴なんですね。
日本の海で最も深いのは、伊豆・小笠原海溝の最深部で、9,780メートルありまして、これはエベレストを海に沈めてもまだ届かないぐらいの深さです。その他に目を向けてみると、水深5,000メートルよりも深い海域の海水保有体積が世界第1位なんですね。なので、日本は“深海大国”といっていいと思います。その理由の一つとして、たくさんのプレートがひしめき合っているからなんですね。北から千島海溝、日本海溝、伊豆・小笠原海溝、南西諸島海溝といったものがたくさんあるからなんです。」
●プレートとプレートが押し合って、引きずりこまれて、そのときにできる溝が深くて、そこから深い海が広がっているということなんですね。そんな深海があることによって、私たちがいる日本列島にどんな影響を与えているんですか?
「まず、日本列島そのものが、今から1000万年ごろに海の地質活動によって生まれたので、深海が“日本列島のゆりかご”なんですね。そして、そのときの地質活動が盛んに行なわれたことによって、複数の鉱物資源が眠っています。それと、海洋生物の種類も豊富なんですね。」
●よく「日本の海は豊かだ」といわれますが、それは深海があるから、それだけ多様性に富んだ海洋生物がいるということなんですね。これらって、日本特有なんですか?
「これほど多くのプレートが一つの国の中にあるというのは、ほとんどないですね。」
●瀧澤さんは、有人潜水調査船“しんかい6500”に乗って、相模湾に潜ったそうですが、そのときはどういった感じだったんですか?
「この番組が放送している時間のことを“トワイライト”といいます。太陽と月が薄暗い空を照らしている時間なのですが、海にも“トワイライトゾーン”と呼ばれるところがあるんですね。水深200メートルから数百メートルのところなのですが、このトワイライトの時間の空と同じように、水深が増すと共に、空の色が深い色に変わっていくんです。水深400メートルを過ぎると、私たちの目にはほとんど何も見えない暗闇になります。数分間じっと目をこらしてその世界を見ていると、わずかに青く白い光が花火のように無数の光の飛沫となって降り注いでいったんですね。まるで花火のようでした。
これはどういったことかというと、しんかい6500が上昇していくにつれて、その周りにいるプランクトンやクラゲがいるんですが、それが船にぶつかって弾けて、光の飛沫になって海の底に降り注いでいくんですよね。それを見たとき、すごく感動しましたね。すごく美しかったですが、あまりにも淡い光だったので、映像に残すことができませんでした。でも、それはたくさんの生物がうごめいている“生きている深海”を、淡い光を通して体感した瞬間でした。パッと見た感じでは暗闇ですが、その暗闇の中で多くの生物が発光して生きている、光に満ちた世界なんです。あれを是非、みなさんに体験してもらえたら嬉しいなと思っています。」
●私も話を聴いて「体験したい!」と思いました!
「今NHKで深海の番組が放送されて、話題になっているじゃないですか。その中に出てくる丸いガラス張りの船があるんですが、それは“トライトン”というアメリカの民間企業の3人乗りの有人船なのですが、あの船を日本で作ることは技術的に可能なので、もしこの放送を船舶会社が聴いていたら、是非ともいいビジネスモデルを考えて、より多くの人がトワイライトゾーンを体験してもらえたらと思っています。」
●私もお願いしたいです! きっと、子供たちがそんな世界を見たら、すごく喜びますよね!
「そうですね。日本は島国ですが、その周りには深い海が広がっているんですよね。そんな海に、私たちは色々なものを生活排水として出して生活しているので、海は“私たちの文明を映す鏡”でもありますよね。その海の中に入ってみると、私たちが生きる意味を考え直すキッカケになると思うんですね。なので、より多くの方に深海の世界を体験していただきたいと思っています。私が潜った相模湾って、世界的にも素晴らしい海なんですよ。明治以降、世界中の海洋学者、特にヨーロッパの海洋学者から非常に注目されて、今でも化石的な生物が住んでいるんですよね。」
●そもそも、科学ジャーナリストとして深海の調査をしようと思ったんですか?
「私は大学で宇宙物理学を研究していました。そのころに、宇宙の彼方で惑星が見つかってきたんです。私たちは惑星というと、太陽系の中にある惑星を想像しますけど、そうではなくて、遠くで光っている星の周りに惑星が見つかってきたんですね。そうすると『もしかしたら、その惑星の中に生命がいるかもしれない』と考えるんですよ。そう考えたときに、深海との共通性を感じたんですね。なぜなら、深海点には、太陽光が全く届かないのに、生息している生物がいるんですよね。それはもしかしたら、宇宙の彼方に光が届かないような、ものすごく過酷な環境にも耐えて生きている生物の世界があるかもしれないと思ったんですね。そこで、生命の幅の大きさを広げるヒントの一つとして、深海に興味を持っていたんですね。そうしたら、しんかい6500に乗せてもらう機会があって、相模湾を潜ったんですね。」
●日本の深海には、どんな資源が眠っているんですか?
「最近注目されているものでは“メタンハイドレート”、“熱水鉱床”、“コバルト・リッチ・クラスト”、“レアアース泥”といったものがあります。」
●“メタンハイドレート”は、新しいエネルギーとして注目されているので聞いたことはありますが、“熱水鉱床”ってなんですか?
「プレートとプレートが接触しているところで熱が発生して、熱水が上がってくるところがあるんですが、その際に煙突のような構造ができるんですね。そこに生物がたくさん集まってくるんですが、同時に金、銀、銅はもちろん、産業的に有用な資源も含んでいた鉱物がそこに集まっているんですね。それが“熱水鉱床”なんです。」
●そして、“コバルト・リッチ・クラスト”はどんなものなんですか?
「これは日本の太平洋沖の排他的経済水域の中で見つかっているんですが、産業的に有用な資源である“白金”、“コバルト”、“モリブデン”、“マンガン”などがピザクラストのように、厚さが10~20センチぐらいにコーティングされている部分が見つかっているんですね。そういうものを効率よく回収すれば、資源として使えるんじゃないかといわれています。」
●それは日本の深海のどの辺りに発見されているんですか?
「水深が浅いところにあって、具体的には“南鳥島”という、日本の排他的経済水域の最も東側の海底にある海山が資源で覆われているといわれています。」
●そして、“レアアース泥”とはどんなものなんですか?
「これは太平洋上の広い範囲で見つかっているんですが、海底は泥に覆われているんですが、その泥の成分を分析していくと、“レアアース”が見つかったんですね。これの主な用途として、ハイブリットカーのモーターなどを作るのに欠かせないものなのですが、それと“スカンジウム”や“イットリウム”といった元素があるんですが、そういったものがたくさん見つかったんです。ただ、それらは従来、日本では取れないものなので、他の国から輸入してきていたのですが、これらの発見により、自前で手に入れることができるようになるということで、期待されています。」
●まさに“宝の山”ですね!
「ただ、これらは深海にあるということもありますし、今まで誰も海底の泥を大量に採取して資源として使うということをしたことがないんですね。それに、大量の泥を採取した後、有用な資源だけを取り出して、また深海に戻さないといけないんですね。その工程をいかに環境に影響を与えずに行なうかということが、日本の技術力を発揮する部分だと思いますので、これからそれを研究していただいて、無理のない開発をしてもらえればと思います。」
●瀧澤さんが深海の研究をしてきて、一番感じることって、どんなことですか?
「資源や生物の話をしてきましたが、日本がこれからも生きていく上で、深海はなくてはならない存在ですね。日本列島そのものが深海から生まれていて、様々な海洋生物の幸を与えてくれています。この豊かで変化に富んだ海の物語を理解して、語り継いでいくことが、私たちが生きていく上でとても大事なことだと思います。」
実は今回、残念ながら番組ではお伝えできなかったのですが、“海が地球環境を支えている”というとても興味深いお話も滝澤さんにしていただきました。ぜひ興味のある方は、滝澤さんの著書「日本の深海~資源と生物のフロンティア~」をチェックしてみてくださいね。
講談社/定価840円
瀧澤さんの新刊となるこの本には、深海の成り立ちから地形的かつ地理的な分析、深海の資源や生物のことなど、あまり知られていない日本の深海について、多方面から科学的に紹介。さらに、海が地球環境を支えているリポートなど、興味深いお話が満載です。深海についてもっと知りたい方は、是非ご覧ください。