今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、龍村仁さんです。
ドキュメンタリー映画「地球交響曲/ガイアシンフォニー」。この映画は、イギリスの生物物理学者ジェームズ・ラブロック博士が唱える“地球はそれ自体がひとつの生命体である”というガイア理論に基づいて製作されているオムニバス形式のドキュメンタリー映画です。これまでに92年の「第一番」から2010年の「第七番」まで、7本の作品が公開され、延べ240万人以上を動員するロングランヒットとなっています。そして、いよいよ「第八番」の撮影が始まったということで、先日、都内にある龍村仁監督のオフィスにお邪魔して、テーマや出演者のお話をうかがってきました。
※いよいよ撮影が始まった「第八番」はキーワードとして“畏れと美と智恵と勇気と”という言葉があります。そこにはどんな意味が込められているのか、龍村監督にお聞きしました。
「“畏れ”という言葉は、今までの『ガイアシンフォニー』の中で誰かが使った言葉なんですが、それは誰か分かりますか?」
●誰でしょう!? これまで全部の『ガイアシンフォニー』を見たんですが、思い出せないです。
「それは、星野道夫なんです。『今の時代、人間が畏れを失ったときに絶滅するんじゃないか』という意味で、彼は使ったんですね。身近な自然もそうだし、宇宙的な時間軸の中で起こっていることなど全て含めて、“大いなるものに生かしてもらっている”という畏怖の念を表したのが“畏れ”という言葉なんです。」
●それに加えて、“美”と“智恵”と“勇気”がありますが,これにはどのような想いがこめられているんでしょうか?
「今回、“樹の精霊”が軸となって、“樹の精霊の声を聞く”とか、“樹の精霊に出会う”とか“心に樹を植える”といったキャッチフレーズを使っているんですね。大きな宇宙に意志があるとすると、絶滅したり、悲劇的なことがあって、それが繰り返されていくんだけど、その中から新たな命の調和が生まれていく様子がとても美しいから、『宇宙の摂理の根本は“美”である』という言い方になるんですね。
面白い例え話があるんですよ。第三番でフリーマン・ダイソンっていう宇宙物理学者が出てるんですね。彼は『自分は宇宙や命の成り立ちを理解するのに、全て“数式”によって理解する』ということで、科学的に理解しているんですね。逆に、彼の息子は16歳で彼の元を離れて、(カナダ)ブリティッシュコロンビアの森の中に入っていったんだけど、そこで北極の先住民たちのカヤックに魅せられて、計算とか全く考えずに、作り方を学んで作ったら、すごく美しいカヤックが出来上がったんですよ。
人間の営みとして科学的に分析してから、新しいものを作り出す美しさもあるけれど、音楽を一瞬にして生み出したように、作ったらそれがすごく美しく、後で科学的に分析したら流体力学的に完璧に近い船になっているという美しさもあるんですよ。この2つの回路が人間にはあるんですよね。もちろん、努力もあるけれど、流体力学的に計算して、『これが正しい!』という結果から作るんじゃなくて、『美しいものを作りたい!』と思って作ったものの方が、逆に流体力学的に完璧に近かったという回路もあることを忘れてはいけないんですよね!」
※「第八番」は、“樹”も大事なキーワードになっていますが、実は今回、あるものが撮影のきっかけになっているんです。
「一番最初に動き出したのは“能面”なんです。これが主人公になりました。」
●どうしてそうなったんですか?
「これには災害が関係しています。東日本大震災のこともそうですが、2011年の9月にあった紀伊半島に起きた大水害など、このところ色々な自然災害があるじゃないですか。それって、たまたま起きた天気の巡りあわせじゃなくて、宇宙的なタイムスケールで見ると、地球の46億年以上の歴史の中では何度もそういうことが起きているんですよ。なぜこういうことが次々起きるのかと思われていたときに、『南北朝時代から天河神社の宝物庫の中に眠っている阿古父尉(あこぶじょう)というお面を使って舞いを作りたい』という提案があったのが、その大水害の直後だったんです。
実は、社務所だったところとか全部、水に浸かってしまったんだけど、神殿と宝物庫だけは水に浸かっていなかったんですね。なので、そのお面を使って、舞いを作りたいとなったんですね。そのときに宮司さんが『ただ建物を戻すとか、堤防を高くするとか、川を元に戻すといったことをしただけでは、越えられないんだよ。そこで、阿古父尉の持つ魂を新たなる能面として復活させよう!』と言ったんですね。なので、“能面の復活”は、そのシンボルだと思って、能面を主人公として撮影しようと思ったんですね。」
※お話に出てきた、天河神社に納められている能面“阿古父尉”は、なんと600年前の能面だそうです。その能面の復活に関して、龍村監督はこんなお話もしてくださいました。
「大きな樹ってみんな好きじゃないですか。なぜ大きな樹を敬ったり、樹の傍にいたら心が和むのかというと、日本で御神木があるように、樹の中には精霊が住んでいると考えられているからなんですね。でも、それって、感じるのであって、姿を見ようと思っても見えないじゃないですか。その大樹の中に宿っている精霊たちを目に見えるようにするためには、その樹の一部をいただいて、そこから掘り出していくんです。そうすると、能面という目に見える形となって現れてくるんですね。
そして、その能面を能役者に被らせて、能の舞台で舞うと、それを見ている人たちが自分の中に樹の精霊を感じていくんです。そういったプロセスが撮れると思ったので、撮影を開始しました。そして、現段階で能面が出来上がりました。
能面は、ただの仮面じゃないんですよ。ただの仮面だったら、一つの表情しかないから、怒っているときの面や悲しいときの面など、それぞれの面を用意して使い分けないといけないけど、能面は一つの面の中に喜怒哀楽、全てが入っているんですよ。そんな能面を日本人はどういう風にして作ってきたのかを、彫っていく過程で見ていくと分かってくるんですよね。それを描けるかは分からないですよ(笑)」
※今回の「第八番」には、気仙沼でカキの養殖業を営み、山に木を植える「森は海の恋人」運動で知られる「畠山重篤」さんも出演することになっています。どうして畠山さんを撮ろうと思ったのでしょうか?
「彼に興味を持ったのは、“彼が幼いときから海の汚れが川の汚れから来ていて、その川の汚れが森の汚れから来ているということを直感的に分かっていた”というところなんですね。室根山(岩手県一関市室根町)に室根神社という神社があるんですけど、そこには、瀬織津姫という川の女神が祭られているんですけど、人間の営みとして必然的に生み出される罪などの“汚れ”が川の水で浄化されて、すごくいい真水が海に注ぐんですね。それによって、“汽水域”という海の水と川の水が一緒になったようなものができると、そこに植物プランクトンが大量に発生して、それを食べる動物プランクトンが増えるんですよね。そうなると、カキやホタテが生まれ、マグロやカツオが来るようになって、すごく豊かな海になるんですよね。
そういう“海と川と山が繋がっている”ということを、彼は幼いころから瀬織津姫のことを知っていたから、常識として分かっていたんですね。同時に、父親が漕ぐ櫓漕ぎ舟に小さいころから乗って体験していたし、最終的に“なぜ森が汚れたら川が汚れ、そして海が汚れていくのか”ということを科学的に理解されたんですね。なので、未来のことを考えるとき、“直感的に美しい”と思うところと“なぜ美しいか”を考えて理解し、説明できることが大事なんですね。
彼は“森が元気だったら川が元気になって、それによって海が元気になる。人間はそこから恩恵を受けている”という繋がりについて自信を持っていますが、これが人知をはるかに超えた力によってもたらされる災難などを克服していくために、人類にとって必要となるキーワードになるんじゃないかと思います。」
※“樹の精霊”がひとつのテーマとなっている「第八番」は、先ほどご紹介した“能面”の他に、ヴァイオリンの名器“ストラディヴァリウス”も撮影のきっかけになっています。なぜ取りあげることにしたのでしょうか?
「“ストラディヴァリウス”って知ってますか? 300年ぐらい前にイタリアの(アントニオ)ストラディヴァリが作ったヴァイオリンがあるんですが、これはヴァイオリンを弾く人にとって憧れの的なんですよ。300年前に出来たヴァイオリンが、今も現役ですごくいい音で弾かれるというのは、普通では考えられないことなんですよ。ヴァイオリンは樹で出来ているし、樹は当然のようにその音を300年も保つわけないじゃいないですか。そこで、“なぜストラディヴァリウスは300年も生き続けたのか”ということを撮影したかったんですよね。
それでも、色々な形でいたんでいくじゃないですか。そこで、いたんでいったときに、いたむ前よりもいい音になるように修復する名人が、この21世紀の日本にいるんですよ。今、ストラディヴァリウスを使っているヴァイオリニストのほとんどは、彼のところに預けて、彼はそれを生き返らすんですね。その方は本を出版しているんですが、その中で知ったことは、ストラディヴァリはストラディヴァリウスの秘密を知ってたり、特殊なテクニックを使ったということじゃなく、樹の精霊の声を聞ける人で、樹が望むようにストラディヴァリウスを作ったんですよ。なので、テクニックの一部を真似すれば、どんな樹からでもストラディヴァリウスのような音にできるかというとそうではなくて、樹の中に潜む精霊の声に従ってストラディヴァリウスを作ったとしか言いようがないんです!
そういう人がいることが分かって、僕はその人に会いに生きました。彼の話によると、古民家の心柱や梁になっている樹って、実は樹齢100年以上のものが使われて、その後も何十年もその家で使われているから、たくさんの想いが詰まっているんですが、東日本大震災のときに発生した津波によって流されてしまったので、ガレキとして扱わそうになっていたんですね。
そこで、ヴァイオリニストである彼の奥さんが『このガレキとして処分されそうになっている樹を使って、新たなヴァイオリンが生み出せるんじゃないか』と言ったらしいんですね。ガレキとして捨てられようとしている、色々な経験をしてきた、精霊が宿っている樹を使ってヴァイオリンを作れば、その音が人を癒してくれるんじゃないかということなんですよね。
それと、“奇跡の一本松”ってあるじゃないですか。あれも、一本だけ生き残って、みんな感謝していたけど、その樹からもヴァイオリンを作ることができるんですよね。そこから、“震災ヴァイオリン”が生まれたんですよ。
ストラディヴァリウスについて語られた言葉の中に、『自分は森にいるとき、木陰や葉の音とかで人々を癒してきた。それを今度はヴァイオリンとなって、音で人を癒してきた』という言葉があるんですが、同じように考えると、樹は最初、森で人を癒してきて、そこから家の柱となって、子供たちがそこに背を測ったりしてきたけど、津波によって流されてしまって、ガレキとなって処分されようとしているんですよね。でも、本当はそんなはずじゃないんですよ。この樹の中には、色々な経験が詰まった精霊がいて、その精霊が宿った樹でヴァイオリンを作ることを始めた夫婦がいるんですね。それを“ストラディヴァリウスと津波ヴァイオリン”として、両方を主人公にした作品を、これから撮影していきます。」
※最後に、龍村監督からのメッセージです。
「日本人はエリートだということではなくて、自分たちの無意識の中にあるものと自分たちが得てきた色々な科学的な知識も全て含めた調和というところでいうと、地球的規模の危機について、どういう風に次の世代に受け継いでいけばいいのかというメッセージを発せられる可能性を日本人は秘めているんです。先ほども話した樹の精霊の存在を素直に受け入れられる感性と、この危機的状況を技術や科学的な進歩によって対処していく方法の2つを調和させられる道を、日本人は持っているんです。だから、そういう意味では、この『第八番』こそ、日本から世界へ発信していくという重要なものになるだろうと思いますし、そうあってほしいと願っています。」
(この他の龍村仁さんのインタビューもご覧下さい)
今回監督にお話をうかがってまず驚いたのが、ガイアシンフォニー史上初めて人物以外の主役が登場するということ! さらに、私たちの番組でも何度もクローズアップさせていただいている、畠山さんも登場されるということで、今から第八番の仕上がりが楽しみでなりません。気になる公開は来年秋頃という事なので、それまでこの番組でも情報などを随時お伝えできればと思っています。
今回の「第八番」も“共に奏でるガイアシンフォニー”ということで、個人や企業、団体からの寄付や協賛を募集しています。ご協力いただくと名前やメッセージが「第八番」のサイトに掲載。また、一口5万円以上の場合は、DVDシリーズ「龍村仁・出演者を語る」全4巻のうち、ご希望の1巻がプレゼント。50万円以上のご協賛の場合は映画本編のエンドロールにスペシャル・サンクスとして名前が載る上、DVDシリーズ全4巻が贈られます。その他にもスポンサーになってくださる企業も募集しています。詳しくは、「地球交響曲/ガイアシンフォニー」のサイトをご覧ください。