今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、石田ゆうすけさんです。
チャリダーの石田ゆうすけさんは、7年半かけて自転車で世界9万5千キロを旅して、現在は旅のエッセイストとして、本の出版、雑誌の連載他、夢や食などをテーマにした講演活動も行なってらっしゃいます。そんな石田さんは先日、「地図を破って行ってやれ!~自転車で、食って笑って、涙する旅~」を出版されました。そこで、石田さんに日本全国を巡った自転車旅から、屋久島や北海道・礼文島、そして岩手県久慈で体験した心温まるエピソードなどお話いただきます。
●今回のゲストは、チャリダーで旅のエッセイストの石田ゆうすけさんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●石田さんは先日、新刊「地図を破って行ってやれ!~自転車で、食って笑って、涙する旅~」を出されました。この本の中に出てくる旅の話の中で、私が気になったお話を具体的にうかがっていきたいと思っていますが、まずは“屋久島”のお話をうかがっていきたいと思います。実は私も屋久島に行ったことがあって、今でもいい思い出になっているんですが、石田さんは屋久島に行ったのは今回で2回目なんですよね?
「そうですね。前回行ったのは世界遺産になる前だったこともあって、前より人が増えたっていうのが率直な感想でしたね。あと、僕が年を取ったせいか、スピリチュアルといったようなモノが好きじゃなったのに、木が生きている感じとかが全て入ってくる感じがしたんですよね。それと、長澤さんは“苔むす森”に行きましたか?」
●行きました!
「あそこすごくないですか!? これは今回の本にも書いているんですが、僕のデビュー作でもある“行かずに死ねるか!~世界9万5000km自転車ひとり旅~”の中で『実際に見て凄かったところ』として紹介している“モニュメントバレー”とグアテマラの“ティカル”に行ったときと同じような、離れられない感覚を受けたんですよね。 僕は雪が積もっている真冬に行ったので、人が一人もいなかったんですよ。一人でずっと見て、『満足した!』と思って帰ろうとするんですけど、振り返って戻っちゃうんですよ。それを4、5回繰り返しましたね。なので、屋久島は冬に行くことをオススメしますね。そこって、陶酔できる空間じゃないですか。そこを一人で楽しむ方がすごく入ってくる感じがするんですよね。」
●何回も戻っているときに、どんなことを考えていましたか?
「『屋久島の強烈な魅力って何かな?』って考えていたんですけど、そのときに“命に溢れている”と感じましたね。頭で考えるというよりも『ここ生きてるんだ!』っていう感じで、生命感がむき出しになっている感じがしたんですよね。妖精みたいなものが飛んでいそうな雰囲気がありましたね。多分、昔の人なら見えてたんじゃないかと思いますね。 昔は妖怪もいっぱいいたと思いますし、霊感を持っている人もたくさんいたと思うんですよ。そういうのを感じる部分って、日本人のDNAの中にあると思うんですね。でも、科学が発達してきた今では、そういうのは認められなくなってきていますけど、昔は普通にいて、人々は普通に見えていたんだろうなって思いましたね。そう思いませんでした?」
●そう思いました! 私もあそこに行ったときに、歌声が聞こえたような気がしたんですよね。
「それ分かります! なんかいますよね!」
●そして、私が感動したのは、倒木に小さな芽がたくさん出ているじゃないですか。それを見て、石田さんもおっしゃっていた“生きている”という感覚を感じました。
「新しい命が生まれていっているのが目に見えるんですよね。世界の中ではアフリカが一番好きなんですけど、アフリカが好きな理由って、そういうところなんですよね。それと同じ空気を感じられたので、屋久島はすごいところですね。」
●続いて、北海道の礼文島での旅のお話をうかがいたいと思います。私、一度行ってみたい場所なんですよね!
「あそこはいいですよ! 礼文島は“花の島”と呼ばれているぐらい、花に覆われているんですね。特に初夏は花が一面に広がっていて、空気感も独特なんですよね。実は今年も行ってきたんですけど、『やっぱりいいところだな』って思いましたね。丘がずっと続いてて、そこに花が咲き乱れていて、さらに先を見ると海が広がっているんですよ。本に書いてある表現をそのまま使えば、『繊細で緻密なガラス細工みたいで、少しでも触れたら崩れそうな繊細さと美しさが凝縮された島』という感じですね。
礼文島は昔から人気がある島で、旅人が集まるところだったんですね。1970年ごろに流行ったカニ族の風景がそこにはあるんですよね。礼文島には“桃岩荘”という、歌って踊る有名なユースホステルがあるんですけど、今回行ったらすごく泣いちゃいました!」
●それは、懐かしさを感じて泣いたんですか?
「『なんでこんなに泣いてるんだろう?』と思ったときに、ふと頭をよぎったのが“レ・ミゼラブル”なんですよ。アン・ハサウェイが命の限り歌うシーンがあるじゃないですか。あの感じなんですよ。“ヘルパー”と呼ばれる人たちがギター演奏に合わせて、声を張り上げながら歌うんですけど、それは旅人たちに楽しんでもらうために一生懸命やっているんですね。その姿を見ていたら涙が出てきたんですよね。
そこで泊まって楽しい夜を過ごした後、帰りはフェリーで帰るんですが、ヘルパーたちが大きな声で歌いながら見送ってくれるんですよ。自分たちのために必死で歌ってくれるんですよ。その様子を見て、僕だけじゃなく、周りの人たちもみんな泣いてるんですよね。」
●その桃岩荘でのエピソードの中で、すごく印象的だったのが、36年前に桃岩荘で出会った人たちが、36年ぶりに再会したという話なんですけど、この話について詳しく教えていただけますか?
「礼文島には“愛とロマンの8時間コース”という名物トレッキングルートがあるんですね。それは『そこを8時間歩けば、愛とロマンが生まれる』という売れこみがあるんですけど、36年前にそこを歩いた人たちが36年ぶりにそこに集まって、そこを歩いた人たちが来ていたんですね。そういうことって、なかなかないじゃないですか。 今回の本の裏テーマは“再会”で、僕も再会を繰り返してきてますけど、再会した瞬間が旅の中で一番盛り上がる瞬間だと思うんですね。彼らもそれを大切にしているんだなって感じましたね。それとビックリしたことがあったんですけど、今回の本で書いた旅から5年ぶりに礼文島に行ったんですけど、その1週間前に彼らが来てたらしいんですよ。桃岩荘の方に聞いたら、そのメンバーの中の一人が亡くなったので、集まることにしたみたいなんですね。そして、そのときに亡くなった人の奥さんも『あの人が素敵な時間を過ごした礼文島を見せてほしい』ということで、一緒に来てたらしいんですね。 彼が死ぬ間際に“エーデルワイスは、まだ先にある”という一文を書いたそうなんですね。礼文島にはエーデルワイスがたくさん咲くんですよ。そのエーデルワイスへの想いから、そういう言葉を残して彼は旅立っていってしまったので、彼の奥さんと昔の仲間が集まって礼文島に行って、エーデルワイスを見にいったそうなんですね。」
●もし、旅に出なかったら出会わなかった縁じゃないですか。それがずっと続いているのって、すごいですね。
「それを聞いて、“カッコいいな”というのと“羨ましいな”と思いましたね。そして、彼らの姿を見て、『旅がある人生って面白いな』って素直に思いましたね。」
●最後に、岩手県の三陸地方を巡る旅についてうかがっていきたいと思います。今では、テレビの影響で有名になった久慈市に行ったそうですが、どのような旅だったんですか?
「日本一周の旅の中で特に思い出深い場所なんですね。橋の下に泊まろうとしていたらおじさんが『うちに泊まっていけ』って話しかけてきたんですね。行ってみたら“千草”という東北を代表するラーメン屋さんだったんですよ。あのおじさんの声のかけ方がすごく自然で、海の幸とかいっぱいご馳走してくれましたし、そのご夫婦の僕への接し方がすごくさわやかだったし、ラーメンがものすごく美味しかったんですよ。『またあのご夫婦に会いたいし、あのラーメン食べたいな』って思って、24年ぶりの2010年の夏に会いにいったんですよ。
今思えば後付けになると思いますが、あのとき『この夏に行かないと!』って、何かに押されるように行ったんですね。24年ぶりに行ったら、向こうは覚えてたんですよ! しかも細かいところまで覚えていたんですよ! でも、取材で行っているんで、ラーメン食べてお礼を言ったらすぐに出発する予定だったんですけど、『泊まっていけ』って言われたんで、泊めていただいたんですね。僕にとって“お父さん・お母さん”って呼ぶぐらい、家族みたいな存在なんですね。そうしたら、東日本大震災が起きたんですね。もちろん無事だったんですけど、それからはボランティアに行ったりして、色々と関わらせていただいているので、今ではすごく大切な人たちですね。
今回の本の裏テーマを“再会”にしたのは、それがあったからなんですよ。旅の最後は三陸地方で、三陸海岸沿いを走ったんですけど、先ほど話したおじさんたち以外にも、その旅で色々な人と出会っていたので、地震が起きたときに、そこで出会った色々な人の顔が浮かんだんですね。そこで今回、今年の4月に、彼らに“再会しに”行ったんですね。中にはまだ無事かどうか分からない人たちがいたので、その人たちを訪ねる旅でもあったんですね。なので、“再会”という裏テーマを持って書きました。その旅も、胸が締め付けられるような旅になりましたね。
僕はフリーで活動しているので、時間は自分でコントロールできるので、空き時間を作ろうと思えば作れるので、時間を作ってボランティアに何度か行ったんですね。地震が起きてからすぐに行ったので、混沌とした状況も見てきたし、更地になって復興に向けて動き出している状況も見てきたんですけど、それを見て“これから新しい街ができあがっていくんだ”っていうエネルギーをすごく感じたんですよ。街中に工事車両が走っていて、ユンボが動いていて、工事の音が鳴っているんですよ。夜、飲み屋に行ったら、一仕事終えた人たちが飲んでいたりしていますし、プレハブの屋台村とかがいっぱいあって、そこで店が津波で流されてしまった人たちが営業していて、そこでもたくさんの人が飲んでいたりするんですよね。それを見て、復興に向けてのエネルギーをすごく感じたんですよね。『これから頑張らないと!』っていう明るい顔をしていたので、彼らの元気に頭が下がる思いでした。僕も日常を過ごしていて落ち込むこともあったりするんですけど、そういうときに彼らの笑顔を思い出して『僕が抱えてる苦労なんて、彼らに比べると、なんてことないな。僕も頑張らないと!』って思うんですよね。そういうことを、読んでくれた人が元気になってくれればと思いますね。
震災後の三陸地方のことを書くかどうかって、すごく悩んだんですよ。でも、僕自身、元気になれたので、それを僕が感じたように読んだ人が感じて、自分の中から熱が出るようになってもらいたいという想いと、被災した三陸地方のことを忘れないように、僕なりの視点で切り取ったものを読んでもらうことで、三陸地方のことを覚えていってほしいなと思って、書きました。」
●旅人・石田ゆうすけさんだからこそ見える三陸地方なんだと感じたので、是非たくさんの人に読んでいただきたいと思います。
(この他の石田ゆうすけさんのインタビューもご覧下さい)
「旅のある人生は面白い!」という石田さんの言葉が本当に印象的でしたね。旅に出たいという気持ちが強くなった方も多いのではないでしょうか? 実は私もその一人です。石田さんは著書の中では「旅は時間の長さじゃない。一瞬一瞬の光る断片をどれだけ拾っていけるかだ」と書かれていたので、この秋は時間や距離ではなく、中身重視の旅に出られたらいいなぁと思っています。
幻冬舎/本体価格1,300円
石田さんの新刊となるこの本には、日本全国を旅した中から、懐かしい人やその土地ならではの食、そして絶景との出会いがたくさん盛り込まれています。そして、今回の裏テーマでもある“再会”のエピソードには心が温まります。是非読んでみてください。
石田さんのブログ「石田ゆうすけのエッセイ蔵」は、旅や食、そして日々の出来事などを綴ったこちらも面白いブログです。是非チェックしてみてください。