今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、ウォン・ウィンツァンさんです。
ピアニストのウォン・ウィンツァンさんが奏でる音色はピュアで透明、そして聴く人を癒すと評判。また、演奏会ではまず目をつぶり、呼吸を整え、瞑想してから弾き始めるということで“瞑想のピアニスト”とも呼ばれています。そんなウォンさんを都内にあるご自宅のスタジオに訪ねて、即興演奏を収録した最新作『月の音階』について、色々お話をうかがってきました。
●今回のゲストは、ピアニストのウォン・ウィンツァンさんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●ウォンさんは瞑想のピアニスト”とも呼ばれ、透明でピュアな音色で多くの方を魅了していますが、そんなウォンさんは、最新作『月の音階』をリリースしました。今回のアルバムには12曲収録されていますが、その全てが即興演奏なんですよね!?
「そうなんですよ。僕は20代からジャズ・ミュージシャンとして演奏活動を始めているので、即興演奏が最も大事な部分なんです。僕の今の演奏活動は決してジャズとはいえませんが、僕の中のジャズ・スピリッツが、僕の音楽の核になっているんですね。」
●即興演奏を、ライブでやるのとCDにするのとでは、意味合いが違ってくるんじゃないですか?
「即興なので、1回限りの音楽なんですね。なので、録音していなければ、二度と聴くことができないんですね。でも、僕はエゴが強い人で、『あの逃した魚は大きかった!』と思うみたいに、その音がどうしても忘れられないんですよ。なので、コンサートでは毎回録音しているんですね。実は、今回のアルバムは、CD化するつもりはなかったんです。これは、コンサートのためのリハーサルをスタジオでしているときに録音したもので、録音をしては聴きなおして、自分の中で修正したり反省したりしているんですが、その中で『いいじゃん!』って思ったものだけを集めて、CDにしたくなったので、CD化したんですね。」
●では早速、そのアルバムの中から、1曲リスナーの皆さんに聴いていただきたいと思いますが、どの曲がいいでしょうか?
「タイトルにもなっている“月の音階”がいいですね。実は僕、かぐや姫を探しに月から降りてきたんですけど(笑)、既に見つけて一緒になって40年ぐらいは経っていますが(笑)、月には縁があるんですよ。つい先日も、中秋の名月が満月で、素晴らしい光を放っていましたが、そんな月の光が音階のように聴こえてほしいという想いをこめて、このタイトルにしました。」
※ここで、放送では“月の音階”を聴いていただきました。
●美しいメロディーで、心が落ち着くような曲ですね。
「ありがとうございます。」
●今回のアルバムのタイトルが“月の音階”というタイトルですが、ウォンさんがこれまでリリースしたCDの中に“MOON TALK”というライブCDがあって、それも月をテーマにしているかと思いますが、通じるものってあるんですか?
「“MOON TALK”というライブCDは、僕がピアノ演奏活動を始めた1990年の4月8日に行なった初のコンサートを収録したものなんですね。今回のアルバムは自分の新しい世界ではあるけれど、自分の原点にも繋がる感じがしています。なので、“MOON TALK”と“月の音階”は兄弟関係になったんじゃないかと思っています。」
●“MOON TALK”は今から20年以上前ですけど、今回の“月の音階”で原点に戻ったのには、何かキッカケがあったんですか?
「演奏というのは、自分の意図やテクニック、音楽性を越えていくものってあるんですね。“MOON TALK”は、僕が40歳のときの演奏なんですけど、そのときも自分を越えた何かがあったんですね。それもあってか、よくある“処女作を越えられない”というジンクスに長い間陥って、『あのときの演奏を、もう一度手にすることができないか』という葛藤があったんですね。でも今回、そういったものをようやく越えられたような気がしていて、音楽に対する一種の揺るぎないビジョンの見え方ができあがったような気がしています。なので、“MOON TALK”と“月の音階”は繋がっていると思っています。」
●両方聴くと、新たな発見があるかもしれないですね。
「同じ部分もあれば、全く違う部分もあるので、コントラストが面白いと思います。」
●以前、ウォンさんのコンサートに行かせていただいたことがあるんですけど、演奏の前にウォンさんが目を閉じて、静かな時間が流れていたのが印象に残っているんですが、あれは瞑想をされているんですか?
「あの間に、僕自身もそうですけど、聴いてくださる方も日常とは違う空間の中に身を置いてもらいたいんですね。今こうして会話しているときや仕事をしている時間が日常だと思いますが、音楽を聴く時間って違う空間にあるから、その空間にシフトさせる必要があるんですよね。なので、演奏する前に、自分の中で次元のシフトをさせているんです。そういう時間なんです。今回のアルバムもそうですが、そういった次元の中で演奏した音楽を聴くことで、聴いた人も同じような次元を体感してもらいたいですね。」
●日常から離れて、新しい世界が開けるようなアルバムになっているんですね。
「演奏者の時間間隔がそのまま音に乗って、聴く人に伝わっていけばいいなという想いが、僕の音楽の一番大事なところですね。」
●今回のアルバムは、ジャケットのデザインも素晴らしいんですね!
「これは大手を振って自慢したいものですね。今までもそうですが、僕のレーベルのサトワミュージックは、CDジャケットの製作にも力を入れています。前回のアルバムから、そのジャケットは違う段階に入ったと思っているんですね。今回のジャケット、いいですよね?」
●曲のイメージにも合ってますし、“和”がイメージできて、すごくステキでした!
「このジャケットは、僕の妻がデザインしたんです。」
●ウォンさんにとっての“かぐや姫”ですね!(笑)
「そうです(笑)。屋久島に山下大明さんという写真家がいるんですが、その方は、満月のときか新月のときにカメラを持って森の中に入っていって写真を撮ってくるんですね。そうやって撮った写真を使わせていただいて、今回のジャケットを作成しました。」
●屋久島の森の中で月明かりが入ってきて、深いグリーンと深い青が混じったような色になっている写真で、すごくステキです。この写真のイメージと曲のイメージがリンクするんですが、それも意識されたんですか?
「これは本当にたまたまなんです。今回のアルバムの製作が終わって、ジャケットを作るとなったときに、山下さんの写真展があったんです。そのときに『この会場で流すBGMが欲しいんだけど、何か提供してくれないか?』と頼まれたんですよ。そこで『新しいアルバムができたから、これ使っていいよ』って渡したのが“月の音階”だったんですね。それで会場でかけてくれたんですけど、あまりにもピッタリで、作家も喜んでくれたので『見に行かないといけないね!』ということで、会場に行ったんですけど、本当に素晴らしかったんですね。
それを見て、デザイナーがシンクロニシティを感じたようで、『是非、写真を使わせてください!』ということで、山下さんの写真を使うことになったんですね。色々な偶然が重なり合って、1つのものが作り上げられていく感じがしたジャケットデザインの製作現場でした。」
●そのお話を聞くと、“運命”を感じました。それでは、もう1曲リスナーの皆さんに聴いていただきたいと思いますが、曲紹介をお願いします。
「“さわだつみず”という曲を聴いていただきたいと思います。このタイトルには“水がさわだってくる”のと“静かになっていく”という2つイメージを込められています。そういうことに気づいたのは最近なんですけどね(笑)」
●(笑)。
※ここで、放送では“さわだつみず”を聴いていただきました。
●“水がさわだってくる”のと“静かになっていく”という2つのイメージが、曲から伝わってきます。
「今静かになっていくような感じと、音の粒子が躍動していく様子が共存していくのが僕の理想です。」
●そんな穏やかな気持ちになる音楽を演奏しているウォンさんですが、今、セラピー活動をされているそうですね。
「そうですね。僕はセラピストではないと思っていますが、2005年ぐらいからセラピーの勉強をしているんですね。今年の4月に僕の師匠になる方が亡くなってしまったんですよね。その方のメソッドが廃れていくのはすごく寂しいので、門下生3人ぐらいが集まって、ワークショップを始めたんです。実際に、そのワークショップを8月31日と9月1日に行なったんですけど、すごく盛り上がりました。」
●具体的には、どんなことをしたんですか?
「ちょっとしたゲームをやってもらって、それによって、日常での人との関わりではなかなか現れてこないような自分自身の本当の姿に出会ってもらいます。日常では、職業があって自分がありますよね。それを子供っぽいゲームをたくさんやることで、薄皮のような“外側のもの”を全て取り払って、自分自身を解放していって、自分自身に直面してもらうというワークショップです。」
●すごく興味深いんですが、ありのままの自分をさらけ出すって、ちょっと恥ずかしいですね(笑)。
「そうですよね(笑)。普段は常に色々な人の目を気にしていると思いますが、そこは大丈夫です。『自分って、こんな人間だったんだ!』って気がつくと、日常の生活が自信に満ちてきて、地に足をつけて生きていけるようになっていくんですよね。」
●機会があれば、参加させていただきたいです! 音楽活動はもちろんのこと、そういったセラピー活動も含めて、ますます活躍していきますね。
「その他にも、新しいグループを2つ作りました。1つ目は民族音楽をベースにした“Manul Cats”というグループです。もう1つは“コンテキスト”というフュージョンのグループです。このグループは息子とやっているんですが、ベーシストが27歳で、ギタリストが息子で29歳、ドラマーが33歳、そして僕が64歳という構成で、ワガママにやらせてもらっています(笑)」
●(笑)。今後もますます活動されるかと思いますが、直近では、10月20日(日)に浜離宮朝日ホールでピアノソロコンサートを行なうんですよね?
「そうですね。これは毎年やっている、サトワミュージック主催のコンサートです。」
●私が見させていただいたときには、お客さんをステージに上げて演奏していましたよね? 今回もそういったことをする予定ですか?
「そうですね。クラシックのコンサートだと、お客さんはご自身の席で聴くという1つの不文律がありますけど、僕はそういったものを越えたいと思ったんですよね。演奏者とお客さんが同じ次元に立ってほしいんですよ。そういう気持ちから、そういったことを始めたんです。普段はステージに上がるってないじゃないですか。なので、ステージ上でピアノの波動や響きの粒子を直接受けてほしくて、お客さんをステージに上げるんですけど、みんな感動するんですよね。是非、ステージに上がってきてほしいですね。」
●そういった演出もあり、もちろん即興演奏もされるんですよね?
「そうですね。“月の音階”というタイトルで、今回のアルバムがベースとなったコンサートになっています。」
●同じタイトルですが、即興演奏だと、CDとは違った演奏になるんですよね?
「そこが難しいところなんですよね(笑)。お客さんから『先ほど演奏された曲は、どのCDに入っているんですか?』ってよく聞かれるんですけど、『さっきの曲は、もう永遠にあなたの心の中にしか残っていません』って思うんですよね。」
●またそれがいいですよね!
「そうですよね。」
(この他のウォン・ウィンツァンさんのインタビューもご覧下さい)
今回ウォンさんと初めてゆっくりお話をさせていただきましたが、演奏中のウォンさんからは想像できないユーモラスなトークが次々と飛び出して、本当に楽しい時間でした。そんなギャップも魅力のウォンさんですが、実は現在、シンセサイザーにハマっているそうです。クラッシックピアノとはまた違った、今までのイメージとは違う音色、今度ぜひ聴かせていただきたいですね。
サトワミュージック/STW-7027
/定価2,600円
ウォンさんの最新作となるこのアルバムは、全て即興で演奏された素晴らしい楽曲が全部で12曲収録されています。奥様が手がけたジャケットのアート・ワーク、そしてインナーの屋久島の写真にもご注目ください。
ウォンさんのピアノ・ソロ・コンサートが決定しています!
◎日時:10月20日(日)の午後5時開演
◎会場:浜離宮朝日ホール(中央区・築地)
◎料金:前売り・5,000円、当日5,500円(チケットぴあで販売中)
いずれも詳しくは、サトワミュージックのホームページをご覧ください