今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、西畠清順さんです。
プラントハンター。この職業はその名の通り、植物をハントする、つまり採取し持ち帰る仕事で、18世紀の英国で最も盛んだったと言われています。当時は、貴族や王族の命を受け、海を超えて、世界を巡る大冒険! まさに命をかけた大仕事だったんです。今回のゲストの西畠清順さんは、そのプラントハンターとして、世界をまたにかけて活躍されています。時代は変わったとはいえ、世界を旅し、過酷な自然環境の中で珍しい植物を探すプラントハンターは“探検”に近い活動なのかも知れません。そんな西畠さんは先頃、「そらみみ植物園」という本を出版されました。今回は、その本から世界の珍しい植物のことや、人の心に植物を植える活動のお話などうかがいます。
●今回のゲストは、プラントハンターの西畠清順さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●“プラントハンター”という職業ですが、あまり馴染みのないものだと思いますが、どんな職業なんですか?
「この職業は、200~300年前にヨーロッパで生まれたんですね。ヨーロッパの王族や貴族は自分の生活を豊かにしたくて、立派な家に住んだり、料理人を呼んで美味しい料理を作らせたり、音楽家を呼んでステキな音楽を演奏させたりしたんですね。そういう風に自分の生活を豊かにしていくうちに、彼らが最後に欲しくなったのが“誰も見たことがないような美しい花があるような庭”だったんですね。そうなったときに、料理なら料理人、家具なら家具職人にお願いすればいいですけど、誰も見たことのない花はどうすればいいのかと考えたときに作られたのが“プラントハンター”という職業なんですね。」
●確かに、昔の王族や貴族なら分かりますが、時代はかなり変わっているじゃないですか。今の時代にそういうニーズはあるんですか?
「僕の場合は、もちろん王族や貴族からの依頼もありますが、その他にも商業施設や公園、寺院など色々な場所からの依頼があるんですよね。それに応えるべく、世界中で依頼された植物を探して届けます。」
●色々なところにニーズがあるんですね。実際に依頼された植物を取りにいくのは、どういった方法があるんですか?
「それは千差万別なんです。例えば、日本で『ここに木がほしい』という依頼があったら、90パーセント以上が流通されている植物で、メールやファックスで注文できるんですけど、僕の仕事の場合、ヨーロッパにある大きなオリーブだったり、熱帯にしかないようなシダの植物だったり、日本の山地で手に入るものだったりと、そういう形では手に入らないものを依頼されることが多いんですね。そういった植物を取ってきたり買ってきたりして、色々なパターンに合わせて取ってきます。」
●全世界がフィールドなんですね!
「かっこよく言うと、そんな感じですね(笑)」
※西畠さんがプラントハンターになったキッカケは何だったのでしょうか?
「キッカケはプラントハンターの家系に生まれたことなんですよね。僕はプラントハンターって“植物の収集家であり卸業者”だと思っているんですね。僕が生まれた家は150年前からプラントハンターをやっていたんですよね。」
●そういう環境で育った西畠さんは、小さい頃から植物のことが好きだったんですか?
「僕が植物に対してあまりにも興味がないから、親が悩んでたらしんですね(笑)」
●そうなんですか!?(笑) ということは、人生観が変わるようなことがあったんですか?
「21歳までは学生をしていたり、海外へ留学をしたり、放浪したりしていましたし、他の男子と同じように格闘技や野球に興味があったんですけど、あるとき、放浪中にボルネオの山に行ったんですね。そのボルネオに一ヶ月ぐらいいたんですけど、『たまには親に電話してみよう』と思って電話したら『お前、今ボルネオにおるんか? なら、“キナバル山”という赤道直下にある4000メートルを超える山に行ってみろ。面白いぞ』って言ってきたんですよ。『何で?』って聞いたら、『そこに世界最大の食虫植物がある』って教えてくれたんですね。 先ほど話したとおり、僕は植物にそれほど興味がなかったんですが、“秘境”と呼ばれている山に行くことに興奮したんですよ。目的も“世界最大の食虫植物を見てみたい”ってハッキリしているじゃないですか。なので、行く前に、本屋などでどんな植物なのかを調べてから行ったんですよ。
登っているときは、赤道直下で熱帯雨林なので暑いんですよ。でも、山って登れば登るほど涼しくなっていくじゃないですか。なので、徐々に熱帯気候から亜熱帯気候になり、温帯気候になって、亜寒帯気候、寒帯気候になっていったんですよ。そうなると、頂上付近は気温がマイナスになるぐらい寒かったんですね。僕はこの山を8時間ぐらいで登ったんですけど、この山一つで地球の気候が凝縮されていたんですよね。頂上に着いて喜んだあと、帰りに世界最大の食虫植物である“ネペンテス・ラジャ”を探していったら、見つかったんですね。それを見つけたのって、言わば、雲の上で出会ったっていうことじゃないですか。そのシチュエーションがあまりにもロマンチックでしたし、ネペンテス・ラジャがあまりにもインパクトが強かったんですよね。」
●どんな植物だったんですか?
「僕が“植物だからこの程度だろうな”と思っていた枠を余裕で超えてましたね。」
●大きさはラグビーボールぐらいですか?
「少なくとも僕にはそう映りましたね。すごく興奮しました。」
●食虫植物というと、壺のような形をしていて、虫を落として食べるタイプと挟んで取るタイプなど、色々あるかと思いますが、ネペンテス・ラジャはどんなタイプなんですか?
「壺みたいな形をしていて、中に水を貯めて誘い込むタイプですね。」
●それでラグビーボールぐらいの大きさなんですか!? インパクトありますね!
「ハンパじゃないですよ!」
●それを秘境の山の上で見たんですね。そこから、植物の虜になってしまったんですね。
「正直な話、僕じゃなくても、あれを経験したら誰でも絶対に好きになれますよ! それぐらい、僕にとって強烈な一撃で、“植物”ということを自分の心の中に痛烈に刻まれましたね。」
●ご両親してやったりですね(笑)。
「そうですね(笑)。そのあと『そろそろ帰ってこい』と言われたので、帰ってから家業を継ぎました。そこから、毎日植物を集めてくる仕事をしています。そうしている間に、魔法にかかったように植物が好きになっていきました。」
※今回の本にもご紹介されている植物の中で、長澤が気になった植物“ライオン殺シ”とはどういった植物なのでしょうか?
「ライオン殺シはすごくユニークな種の撒き方をしているんですよ。種を覆っている殻がイカリみたいに鋭いトゲになっているんですね。それがフックみたいになっているので、動物たちが踏むと足に突き刺さったり、毛に引っかかるんですよ。それでなぜ“ライオン殺シ”という名前が付いたかというと、ライオンが突き刺さったそれを抜こうとしても手が使えないから、空中で取ろうとするんですよ。すると、釣り針のように口に刺さるんですよね。さらに必死になって取ろうとしてもがくんですが、もがけばもがくほど、球体のようにトゲが出てるので取れないんですよ、結局、ライオンはそれを取ることができず、獲物を食べることができなくなって、飢えて死んでしまうんです。そして、その種はその場に落ちて、そのライオンの死骸を肥料にして育っていくんですね。それが“ライオン殺シ”なんです。」
●今回の本でライオン殺シのエピソードを読んで驚きました。だって、ライオンって他の動物も恐れる百獣の王じゃないですか。そのライオンを植物が殺してしまうのってすごいですよね。しかも、積極的に攻撃をするわけでもなく、ただ待っているだけなんですよね。それだけでライオンを殺して、その死骸を養分に育つってすごいですよね。
「弱肉強食の世界で、人間やライオンが一番強いと思っているかもしれませんが、植物のことを知ってみると、実はそうじゃなかったりするところは、面白いなと思いますね。」
●本当にその通りだと思いました。他にも興味深い植物があって、“レインボーユーカリ”が気になったんですが、これはどんな植物なんですか?
「僕はいつも柔軟な目で植物のことを見ているんですけど、植物はそれ以上に柔軟で、僕の想像を超えてくるんですね。このレインボーユーカリもそうで、僕たちは葉っぱの色や形を決め付けているかと思いますが、あれほど幹が虹色に染まっている木があるんだと知ったときは、すごくときめきましたね。」
●人間の常識では考えられない色合いや形態が、植物にはたくさんあるじゃないですか。そういうところも植物の魅力だと思うんですよね。
「人間も顔が一人一人違うし、性格も違いますよね。それと一緒で、美しいと思うものもあれば、ブサイクと思うものもあったり、好きと思うものもあれば、腹が立つと思うものもありますよね。だから、植物って人間みたいなもので、非常に多様なんですよ。そういうことをもっとみんなに知ってほしいなと思っています。」
※西畠さんの一番好きな植物は何でしょうか?
「僕は面白い植物が好きなので、“海外植物かぶれ”によく思われるんですけど、『一番好きな植物はなんですか?』と聞かれると、“桜”と即答しますね。日本ってすごく多様な植物を持った国なんですよ。理由は“島国である”のと“四季がある”ということです。さらに、雨の多い季節と少ない季節もあることもそうで、こういう条件を持った国って世界的に見ても少ないんですよ。僕らはそれが当たり前だと思っていますけど、他の国からしてみれば考えられないんですよね。
四季があるからこそ、美しい花を咲かせることができるんですよね。四季があるからこそキレイな紅葉を見ることができるんです。桜って、花はもちろんキレイですけど、紅葉もすごくキレイで、山に行ったときに一番キレイな紅葉は、山桜の紅葉なんですね。そういったところも考えると、『今年もありがとう』と思ってしまいますよね。」
●普段見逃してしまいがちですけど、奇跡の場所にいるのかなって思いますね。
「本当にその通りですね!」
●そういうことを植物たちが教えてくれるんですね。西畠さんは、心の中に植物を植える“そら植物園”という活動をされていますよね?
「そうですね。今って植林活動をしている人ってたくさんいると思うんですね。でも、僕が先ほど話したように、ボルネオでたった一つの植物を見て、僕の人生にその植物が強烈に植え付けられたような経験をしてもらいたいんですよ。僕が植物に物心がついたのはその食虫植物でしたが、もしかしたら、僕が“どこよりも早く満開の桜を見たい”という依頼を誰かから受けて、実際に見せたときに『すごい! ステキ! まだ咲いてないはずなのに、何で?』って感動してくれたら、それで心の中に植物が植えつけられると思うんですね。
そうじゃなくても、自分の結婚式だったり行ったイベントだったり、テレビ番組で見たりして感動すれば、心の中に植物が植えられたり花が咲いたりするんですよ。僕はそれを“植物園ができた”ってj表現をしているんですが、僕は色々な人の心の中に植物園を作っていきたいんですよね。」
●それってすごくステキですね!
「そうでしょ!? 例えば、イベントで大きな木を見て、それが心の中に入ってきたり、今回の本を読んで、その中に出てくる植物が心の中に残ったとしますよね。そうやっていくと、心の中の植物園にコレクションが増えていくんですよ。“そら植物園”という活動は、そういうコンセプトでやっています。」
●日本だけじゃなく、世界中の人たちの心の中に植物園ができたら、地球が変わるような気がしますね。
西畠さんは新刊「そらみみ植物園」のあとがきで「植物がいかに多様でそれにまつわる物語がいちいちおもしろいかという事に気づき、ひいては自然や環境、植物文化への敬意と理解、興味と理解を深めるきっかけになれば」と書かれています。私も、今回西畠さんにお話をうかがって、改めて植物たちの多様性に驚かされ、世界にはどんな植物達がいるのか、もっと知りたいなと思いました。
東京書籍/定価1,400円
西畠さんの新刊となるこの本には、これまでに出会った珍しい植物のエピソードを、いくつかの章に分けて紹介。例えば「イラッとする植物」「ムラムラくる植物」「愛を語る植物」というようなジャンル分けになっています。また、この本のために選抜された武蔵野美術大学の4人の学生さんが描いたイラストも素敵です。
西畠さんが手がけたイベント「世界一周!旅する!ウルトラ五大陸庭園!」が、長崎のハウステンボスで開催中です。数十カ国・数百種に及ぶ珍しい花や植物が展示されています。
◎開催:11月17日まで
西畠さんのオフィシャルサイトでは、これまでやってきた仕事の記録や集めた植物の写真、そしてブログなども載っています。