今週のベイエフエム/NEC presents ザ・フリントストーンのゲストは、池田宏さんです。
写真家の池田宏さんは、1967年にアルゼンチン海軍の船で初めて南極半島に上陸して以来、すっかり南極の美しさの虜になり、“もっと極地のことを知りたい”という探究心も手伝って、南極に24回! 北極には14回も通ってらっしゃる極地写真のスペシャリストです。今回はそんな池田さんに、南極の氷の美しさやペンギンの興味深い生態などうかがいます。
●今回のゲストは、南極に24回も行っていらっしゃる写真家の池田宏さんです。よろしくお願いします。
「よろしくお願いします。」
●池田さんはいつ頃、どんなキッカケで南極と出会ったんですか?
「私が中学生のとき、先生がノルウェーのアムンセンとイギリスのスコットが探検旅行をして、無事成功したという話をしてくれたんですよ。その話を聞いたとき、観測をしながら氷の上を歩いて南極点まで行って戻ってくるということに男らしさを感じて惹かれて、南極探検家になろうと思いました。」
●池田さんは南極そのものに惹かれたというよりも、南極探検家に惹かれたんですね。
「そうですね。なにせ、当時の日本は終戦直後だったので、南極に関する情報はありませんでした。大学生のとき、第一次観測隊に入りたかったんですが、まだ無理だと言われて入れなかったので、『なんとかして行きたい!』と思っていたんですよね。東京オリンピックが終わって2年ぐらい経ったとき、アメリカの旅行会社が初めて民間人だけを南極に連れていくツアーを募集していると新聞に掲載していたんですよ。」
●それまでは、一般の人は行けなかったんですね。そのツアーに参加したのは何歳のときだったんですか?
「32歳ぐらいでしたね。」
●そのツアーで初めて南極に行ったということですが、どうでしたか?
「初めて行ったところはパラダイスベイという、氷河が三方から海に落ちるようなところなんですね。その様子は、“自然が作った氷の宮殿”みたいな美しさがありましたね。見ていて、息ができなくなるぐらいの感動がありましたね。そのときに、南極の氷に恋をして、『もっと知りたい』と思うようになって、気がついたら24回通っちゃったんですよね。まさに初恋ですね(笑)」
※南極のツアーでは、上陸する前に専門家の方から様々なレクチャーを受けるそうですが、その中で池田さんが印象的だった話をうかがいました。
「40年前にイギリスの動物学者の先生に出会って話をうかがったんですけど、その先生の話によると、『ペンギンの生態がまだ分からない』というんですね。まず最初に、ペンギンに目隠しをして、小型飛行機に乗せて200キロ飛んで、飛んだ先に穴を掘ってそこにペンギンを入れてから目隠しを外す実験をしたんですね。そのペンギンの腕には認識できるものを付けて放して、次のシーズンにチェックをしたら、最初にいた巣に戻っていたんですよね。目印になるようなものは何もないんですよ。それなのに、200キロ離れた巣に帰っていたんですよ。それは恐らく、動物の本能だと思います。」
●動物園や水族館で見る、あの愛くるしい姿からは想像できないですね。
「動物園や水族館にいるペンギンは飼い慣らされているから、そういうところは見られないと思います。」
●池田さんがペンギンと出会ってから印象的だった出来事ってありますか?
「私たち人間は、ペンギンから15メートル以上離れないといけないという申し合わせがあるんですね。でも、向こうから近寄ってくるのは大丈夫なんですね。例えば、私たちが砂浜や岩の上に座っていると、好奇心旺盛な独身のペンギンが近寄ってきたりするんですよ。まず、その集団から1羽が顔を覗きにくるんですよ。そこで安心できる人間だと思ったら、後ろ向いて手を振るんですよ。それを見て、他のペンギンがこっちに来るんですよね。そうなると、撮影しやすいところまで来てくれるし、『はい、ポーズ!』っていうと、ポーズを取ってくれるんですよね(笑)」
●それは可愛いですね(笑)。池田さんの写真の中にある、お父さんとお母さんがクチバシを合わせていて、その間に赤ちゃんペンギンがいて体を寄せ合っている感じの写真が大好きで、見ていてほのぼのします。
「これは皇帝ペンギンの親子なんですけど、皇帝ペンギンは海岸にはいなくて、大陸の中にいて、氷の上で卵を産んで育てます。なので、なるべくアザラシとかがいないところに自分たちの巣を作るんですよね。巣に近づくことができないので、巣から2キロメートル離れたところで彼らを見るんですけど、長澤さんが好きな写真ってペンギン同士がキスしているような写真じゃないですか。これは“確認と挨拶”をしているんですね。例えば、おでかけするとき、必ずキスをするんですね。帰ってきたときも、相手を確認するためにキスをします。このシーンを撮影するまでに40年かかりましたね。」
●それっていいですね!
「だから、みなさんもお出かけと家に帰ってきたときは、夫婦でキスをしてくださいね(笑)。確認しないと酔っ払って、別の家に入っていくかもしれませんからね(笑)」
※南極の氷を掘ると、100万年前のことが分かるそうです。そんな南極に美しい氷やペンギンがいるので、どこかファンタジーのようなものを感じますが、池田さんも南極からファンタジーを感じたことがあるのでしょうか?
「南極海はファンタジーの世界なんですよ。南極から押し出された氷河が海に浮かんで、そこに風や波などの力が加わります。そうやって、自然の神様が色々な芸術作品を作り出して海に浮かべているんですよね。なので、南極海は“大きな氷のギャラリー”なんですね。」
●“大きな氷のギャラリー”ですか。今、目の前に池田さんが撮影した氷の写真を見せてもらっているんですが、まさに“ギャラリー”です! これを人間じゃなく、自然が作り出したんですよね。
「そうです。なので、同じものはありません。そして、それが何年か経つと、溶けて無くなってしまいます。そしてまた新しい氷が押し出されて、氷のギャラリーに並べられていきます。私はその作品の間を船で回って、その芸術作品たちを見ていきます。」
●その作品は何万年というスパンで作られているんですよね。そのスケールを考えただけでも鳥肌が立ちますね!
「人間が作ったものじゃなく、神様が作り出したものだから、世界で一番美しいのは南極だと思っています。」
●南極に行くと、そう思わざるを得ないんですね。
「そこを皆さんに感じてほしいんです。ただ、ペンギンと一緒に写真を撮ったりするだけじゃなくて、もっと惚れこんで色々なところも見て、知ってほしいですね。恋をすると、好きな人のことを知りたくなるじゃないですか。同じように南極に何度も行って、色々知ってほしいですね。毎回違う氷山と出会いますので、そこで新たな恋が生まれます。」
●24回行っても、どんどん恋に落ちていく感じなんですね。
「それだけ美人が多いということです(笑)」
●是非一度行ってみたいと思いますね。その前に、まずは勉強ですね。
「そうです。まずは今回の展示会を見て、しっかりと勉強していただきたいと思います。」
●最後にうかがいたいんですが、池田さんにとって“南極の一番の魅力”はどこですか?
「“自然の美しさ”ですね。氷だって、最近できた氷じゃなくて、何十万年もかかってできた氷ですよね。南極に積もった雪が押されて氷になって、何百・何千年とかけて南極の海に流れていきます。その氷を材料に、素晴らしい芸術作品が生まれるんですよね。これだけのプロジェクトチームは他にありません。」
●そこに太陽の光とか色々な自然環境が合わさって、さらに美しくなりますよね。
「夏の南極は太陽が沈まないんですね。水平線から10~15度のところで止まって、そのときの気象状況によって、太陽の光がピンクや赤、ゴールドや黄色に光ったりするんですよ。なので、南極の全てがファンタジーなんですよ。」
池田さんは「南極ツアーに参加されたお客さんの中には、ペンギンを追いかけてしまったり、歩いては行けない場所に入って、貴重なコケなどにダメージを与えてしまう方もいるので、ぜひルールやマナーは守って南極の自然を体感して欲しい」ともおっしゃっていました。以前より身近になった南極ですが、まずは正しい知識を得て南極の事を知る事が大切なのかもしれないですね。
新宿のコニカミノルタプラザで開催され、池田さんの写真も展示されるこの特別企画展。この企画展では、極地で生活する人や動植物の、映像や写真、標本などの展示ほか、12月15日の午後2時からは植物学者・田邊優貴子さんを迎えた公開授業や、12月21日の午後2時から国立極地研究所の渡辺佑基さんによる公開授業など、国立極地研究所の協力の下、子供たちにも分かるように、科学的で分かりやすい展示を心掛けているそうです。
◎開催期間:12月10日から26日まで
◎詳しい情報:コニカミノルタプラザのホームページ